マイブラ×韓国〜韓国産『ラヴレス』トリビュートが面白い!

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン   2012/04/26掲載
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 5月末にいよいよリリースされるマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)のリマスター再発に向けて“マイブラ熱”が盛り上がっている今、こんなアルバムを聴いてみませんか? それは韓国のシューゲイズ・バンドたちが『Loveless』をカヴァーしたトリビュート盤『LOVELESS -Tribute-』。そこには今、ここ日本でも注目が集まりつつある韓国のインディ・オルタナ・シーンの“旨み”が凝縮されているのです! 本企画ではこのアルバムの聴きどころとともに収録バンド、Vidulgi OoyoO(ヴィドゥルギ・ウユ)のインタビューをお届け。まだまだ知られていない韓国インディ・シーンの今が見えてきます。
『LOVELESS -Tribute-』で知る韓国オルタナ・シーン

『LOVELESS -Tribute-』

[収録曲(バンド)]
01. Only Shallow (Vidulgi OoyoO)
02. Loomer(電子羊)
03. Touched(Sunkyeol)
04. To Here Knows When(Sei & Swann)
05. When You Sleep(Jowall)
06. I Only Said(GhostMutts)
07. Come In Alone(n I n a I a n)
08. Sometimes(KiHap)
09. Blown A Wish(Soil Sugar Poco Largo)
10. What You Want(Big Baby Driver)
11. Soon(LoOm)


註 パステル・ミュージックとエレクトリック・ミューズ
どちらも韓国を代表する人気インディ・レーベル。
パステル・ミュージックはポップなロック系アクトやシンガー・ソングライターを中心にリリースしており、海外バンドのディストリビュートも行なっている。
エレクトリック・ミューズは国内のオルタナ、シュゲイザー、ポスト・ロック・バンドを中心にリリース。


※リンク先からトリビュート参加バンドの曲が視聴ができますので、ぜひチェックしてみてください!


●Pastel Music
[Official Site]
http://pastelmusic.com/
[Youtube Channel]
https://www.youtube.com/user/pastelmusic
●Electric Muse
[MySpace]
http://www.myspace.com/electricmuse
[Soundcloud]
http://soundcloud.com/electric-muse

 昨今、何かとポップ・ミュージック方面が注目されがちな韓国の音楽シーン。しかし、同地では90年代からいわゆる“オルタナティヴ”なロック・バンドがアンダーグラウンドで活動を続けていたという。そして、脈々と受け継がれてきたその流れが今、ここにきて徐々に実を結びつつある。本作は同地のシューゲイズ/オルタナティヴ・アクト11組が、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)の1991年の不朽の名盤『Loveless』(祝リマスター再発決定)全曲を丸ごとカヴァーしたトリビュート・アルバムだ。

 本作の特徴は、新旧世代のバンド(主な所属先はパステル・ミュージックとエレクトリック・ミューズ/註)がバランスよく並んでいる点にある。たとえば“韓国シューゲイズの始祖的な存在”と呼ばれ、90年代に活動していたYellow Kitchenの元メンバーの関連ユニットが本作には多数参加しているし、また2000年代半ばに成功を収めたインスト・ロック・バンド、Sokot Band(ソコット・バンド)のメンバーのユニット、n i n a i a n(ニナイアン)とJowall(ジョーウォル)の中堅2組も秀逸なカヴァーを提供、そして3月に初来日を果たしたVidulgi OoyoO(ヴィドゥルギ・ウユ)をはじめとしてSunkyeol(ソンキョル)、Big Baby Driverら、2000年代後半に浮上してきた新世代組も参加など、黎明期から現在に至る韓国オルタナティヴ・シーンの系譜がこの一枚に総括されているといっても過言ではない。

 内容的には、いずれのアクトも『Loveless』への愛情を下敷きにしながら、あの名作に対して妙に臆することなく自由気儘に調理しているという印象だ。エレクトロニカ風の味付けだったり、レイジーなスロウコア風、アコースティックなフォーク・サウンド、はたまたキテレツなサイケデリアなど、統一感の強い本家とは正反対のバラエティに富んだ作風からは、なかなか日本には伝わりづらい韓国インディ・シーンの豊かな個性の一端が垣間見えてくる。と同時に、20年以上の月日を経てもいまだに色あせない『Loveless』の原曲の良さが、客観的な視点で再確認できるという意味でもまた興味深い作品だといえるだろう。

文/佐藤一道

韓国シューゲイザー・シーンの筆頭格、Vidulgi OoyoO(ヴィドゥルギ・ウユ)インタビュー!
 華やかなK-POPブームを尻目に(?)、韓国ではここ数年マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの洗礼を受けたインディ・バンドが次々と登場し、オルタナティヴ・シーンを賑わせている。中でも骨太なバンド・サウンドと、透明感あふれる女性ヴォーカルのコントラストで人気を集めているのがVidulgi OoyoO(ヴィドゥルギ・ウユ)という4人組だ。韓国のポスト・ロック・シューゲイザー・バンドによる『LOVELESS -Tribute-』にも参加し、先日行なわれた来日公演も好評だった彼らに早速インタビューを試みた。


マイブラへの思い、追究したい音のこと、そして徴兵のこと




――今回、マイブラッディ・ヴァレンタイン(以下、MBV)の『Loveless』のカヴァーを集めた『LOVELESS -Tribute-』への参加オファーが来たときにどう思いましたか?
 イ・ジョンソク(g) 「個人的にも、ヴィドゥルギ・ウユを結成する前からMBVは大好きだったし、今のバンドでもすごく影響を受けています。一度はカヴァーしてみたいと思っていたバンドなので、オファーが来たときにはとても嬉しかったし光栄でした」
――そもそも、MBVとの“出会い”はどのようなものだったのでしょうか。
 ハム・ジヘ(vo、g) 「私は前のバンドでMBVのカヴァーをやったことがあるんですけど、そのときに初めて彼らのことを知ったんです。“こんな音楽があるんだ”ってビックリしましたね。それからすぐにイ(・ジョンソク)と出会って、彼がシューゲイザーのオリジナル曲を作っていたのに感銘を受けました」
 オク・ジフン(b) 「初めて『Loveless』を聴いたときは、あまりにも不思議なサウンドなので“これってプレスミス?”って思ってしまいました(笑)。それから何年か経った後にあらためて聴いて、ようやくその凄さに気づいたんですよ。彼らがやろうとしていたことの凄さに衝撃を受けました」
 イ・ヨンジュン(ds) 「僕も最初は彼らのことを知らなくて、バンド名を聞いたときにはデスメタル・バンドかと思ってしまいました(笑)」
――このバンドのサウンド面でのリーダーは、イ(・ジョンソク)さんなのですか?
 イ・ジョンソク 「そうです。Vidulgi OoyoOを結成する少し前から、韓国でシューゲイザーやポスト・ロック的なサウンドを鳴らすバンドがどんどん出てきていたんですよ。それでよくライヴを観に行っていたのですが、これって自分がずっと好きで聴いてきた60年代サイケデリックの進化形なんだってことに、あるとき突然気がついたんです。それで、“自分もやるしかない!”って思い立ってメンバーを集めました」
――メンバーはどのように集まったのですか?
 イ・ジョンソク 「ハムとは、それぞれ別のバンドで対バンしたときに知り合って。この躍動的な声は、自分がやりたい音楽にピッタリだと思って声をかけたんです。イ(・ヨンジュン)は彼女と同じバンドでドラムを叩いていて、彼にも同じように声をかけました。ベーシストは、以前は違う人だったんですけど、徴兵のため辞めてしまったので、変わりにオクを迎えて今の編成になりました。彼が入って、非常にロックっぽいサウンドになりましたね。最初に自分が思い描いていたサウンドのイメージからはだいぶかけ離れたものになりましたが、結果的には良かったと思います」




――韓国でシューゲイザー・シーンが盛り上がってきたのはいつ頃?
 イ・ジョンソク 「2000年頃からですね。それ以前は、そういうバンドはほとんどいなかったんですけど、Yellow Kitchenという韓国シューゲイザー・シーンの草分け的なバンドが登場して、そこから一気に火がついたという感じです。ちなみにVidulgi OoyoOの結成は2003年。シーンそのものの盛り上がりも、いわゆるK-POPのマーケットと比較したらまだまだ小さいですけど、少しずつコアな音楽ファンが増えている手応えは感じていますね」
――『LOVELESS -Tribute-』に参加しているバンドの中で、実際に交流のある人たちはいますか?
 イ・ジョンソク 「同じレーベルのBig Baby DriverやSunkyeol(ソンキョル)、Jowall(ジョーウォル)とはよく対バンしています。あと、アルバム全体のプロデュースを担当したLoOmは、去年僕らがアメリカ・ツアーをしたときにサポートをしてくれたこともあって仲が良いですね。あと、n i n a i a n(ニナイアン)や Jowallが昔やっていたSokot Band(ソコット・バンド/日本語で“私たちは下着もできたし女も増えたよ”という不思議な名前のバンド)は、非常にドラマティックな構成を持つポストロック・バンドだったんですけど、彼らからの影響はとても大きいですね」
――日本のバンドからの影響はありますか?
 オク・ジフン 「僕ら全員、フィッシュマンズbonobosは大好きですね。あと、toeMONOが韓国でライヴをやるときには必ず観に行きます」




――今回、MBVの「Only Shallow」をカヴァーしていますが、オリジナルは壁のような轟音サウンドが特徴なのに対し、Vidulgi OoyoOのヴァージョンはもっとバンドっぽいアレンジになっていますよね。後半のプログレッシヴな展開など、どこかレディオヘッドを思わせる部分もありました。
 イ・ジョンソク 「それは嬉しいですね。僕はレディオヘッドが大好きで、尊敬してるといってもいいくらいですから。ほかのメンバーはそうでもないみたいですけど(笑)」
――(笑)。メンバーそれぞれの音楽的ルーツは?
 イ・ジョンソク 「僕はピンク・フロイドですね。断然、シド・バレットの在籍していたファースト・アルバム(『夜明けの口笛吹き』)です」
 ハム・ジヘ 「私はレッド・ツェッペリン。セカンド・アルバム(『レッド・ツェッペリンII』)が一番好きです」
 オク・ジフン 「影響を受けたミュージシャンは多すぎて……あえて3人選ぶとしたら、カート・コバーントレント・レズナー、それからビリー・コーガンです」
 イ・ヨンジュン 「自分が音楽を聴くキッカケになったのはニルヴァーナ『イン・ユーテロ』です」
――みなさん、結構クラシックなロックが好きなんですね。
 ハム・ジヘ 「やっぱり古い音楽には色んな要素が含まれていて、聴くたびに色んな発見があるんですよね」

『Bliss.City.East/Vidulgi OoyoO』
(2010年)

「Goodnight Shining(live)」

 イ・ジョンソク 「中でも僕は、サイケデリックなものに惹かれます。先ほども言ったようにシューゲイザーもサイケデリックのひとつの形だと思うし、Vidulgi OoyoOでもサイケデリックというものを追求していきたいな、と。僕らの「Goodnight Shining」という曲(Bliss.City.Eastとのスプリット・アルバムに収録)があるのですが、ここには今言った自分たちのルーツやサイケデリックな要素をギッシリ詰め込むことができたと思っています」
――現在、セカンド・アルバムを制作中だそうですが、どんな内容になりそうですか?
 イ・ジョンソク 「ちょうど今、新しくできた曲はすごくダンサンブルなサウンドになりましたね。ただダンサンブルなだけでは自分は満足できないので、いかにサイケデリックな要素を入れていくかをこれから試行錯誤していきたいと思っています」
――さっき“徴兵”の話が出ましたが、韓国では一定の年齢になると兵役に行かねばならず、バンドを継続させるのも大変だと思うのですが、そのあたりはどのように考えているか、最後に聞かせてくれますか?
 イ・ヨンジュン 「たしかに、徴兵でバンドが中断されてしまうのは残念ですね。兵役に行くことで考えが変わってしまう人も結構いるんですよ。“大人”になっちゃうっていうのかな。でも、それでは生み出せない音楽というのもあったわけで、それが失われてしまうのは残念です」
 ハム・ジヘ 「バンドがすごく盛り上がっているときに、徴兵によって中断されてしまうのも悲しいですよね」
 イ・ジョンソク 「でも、そしたら別のいいメンバーを見つければいいんじゃないかな(笑)。オクとも、それで知り合ったわけだし。僕はそういうふうに前向きに考えていますね」
取材・文/黒田隆憲(2012年3月)
取材協力/オクターヴソウル、残響SHOP
Viludugi OoyoO(ヴィドゥルギ・ウユ) Profile
2003年韓国で結成。リーダーのイ・ジョンソク(g)、紅一点のハム・ジヘ(vo、g)、オク・ジフン(b)、イ・ヨンジュン(ds)による20〜40代の4人組。90年代オルタナティヴ・ロックを通過した正統的シューゲイズ・サウンドが持ち味。これまでモグワイら海外バンドのオープニング・アクトに起用されたり、シカゴのシューゲイザー・バンドBliss.City.Eastとスプリット・アルバムを発表、また自身でアメリカ・ツアーを成功させるなど国内外で精力的に活動中。最新アルバムは2009年にElectric Museから発売された『Aero』
MySpace:http://www.myspace.com/vidulgiooyoo
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