2010年最初のシングルとなる
「RAY OF LIGHT」は
中川翔子にとって、とても大きな意味を持つ楽曲となりそうだ。アニメ『鋼の錬金術師FA』のエンディング・テーマとして制作されたこの曲の歌詞で彼女は、主人公のエドと父親の関係のなかに自分自身の心の葛藤を重ねている。そこから生まれる切実なポジティヴ感、そして、切なくも力強いヴォーカルは“アーティスト・中川翔子”の奥深い世界観をさらに多くの人に伝えることになるだろう。昨年10月に行なわれた初の武道館ライヴでのパフォーマンスがリアルに感じられる「calling location―Live version―」もぜひ、チェックしてほしい。
――まず、いま行なわれているツアー(“Prism Tour 2010”)のことから聞かせてください。手ごたえはどうですか? 中川翔子(以下、同)「3度目のツアーになるってことが信じられない思いでいっぱいなんですけど、“去年も来てくれてた人”だったり“初めましての人”だったり、(ツアーを)重ねてきたからこその楽しさもあって。いままでって、怖い、どうしよう、逃げたいとか、プレッシャーに負けてばっかりだったんですよ。でも今回は“早く見てもらいたい”っていう気持ちのほうが勝ってたんですよね」
――経験を重ねることで、ライヴに対する自信も出てきた?
「それもあるし、あとはスタッフさんもバンドのみなさんもすごいプロフェッショナルだし、みなさんに支えられてる部分は大きいと思います。今回のツアーは、アニソンのカヴァーが中心になってるんですよ」
「そうですね。C.C.Lemonホールでやらせてもらった初めてのライヴ(2007年10月20日に行なわれた初のソロ・ライヴ<貪欲☆まつり>)のときは自分のシングルが3枚しかなかったから、カヴァー中心でやるしかなかったんですけど(笑)、今回はあえてのアニソン祭りで。おいしいところをちりばめようと思ってメドレーをやってるんですけど、急な変更があってもすぐに対応してくれるんですよね。以前から大ファンだった
サイキックラバー(アニメ、特撮ヒーローものの楽曲を数多く手がける音楽ユニット)のIMAJOさんにもギターで参加していただいてて、“ギザオレンジ”っていう名前もつけさせてもらって。すごい嬉しいですね」
――夢の実現ですよね、それも。お客さんの反応はどうですか?
「すごくダイレクトですね。掲示板やmixiもチェックしてるんですけど、“あの曲が良かった”とか“アレを入れてほしかった”とかいろんな意見があって。厳しい意見もすごく大事なんですよね。翌日の会議に“こういうふうに思ってる人もいるみたいで、確かにそうだと思うんですよね”って議題に上げることもできるし、すごく助かってます」
――アニメ『鋼の錬金術師FA』のエンディング・テーマになっている新しいシングル「RAY OF LIGHT」も、大きな反響を呼ぶと思います。中川さんが単独で作詞を手がけるのは、これが初めてですよね?
「はい。作詞家さんと話をしながら言葉を集めていただいたり、共作させてもらったことはあるんですよ。アルバム(『Big☆Bang!!!』)の「starry pink」という曲では、meg rockさん(中川翔子の楽曲の歌詞を数多く手がける作詞家)と半分ずつ歌詞を書いたりもしたし。でも、“誰の力も頼らず、ひとりで”っていうのは初めてですね。柳さん(所属レコード会社の担当者)からも“megちゃんに相談したら、ぶん殴るよ”って言われて、めっちゃオニだなって(笑)。それくらい、みんなが一生懸命だったんですよね。“ハガレン”シリーズのオーラスのエンディング・テーマということもあったし、私が書いた歌詞によって(採用されるかが)決まるっていう感じもあって。もちろん私も最初のシリーズから観てましたし、本編と音楽のつながりがすごく大事な作品だってこともわかっていたので、大プレッシャーでした」
――どんなテーマで書いたんですか?
「主人公のエド君って、お父さんが家にいなかったんですよ。そのことでお母さんが悲しんでいたことも許せなかったし、エド君のなかにもいろんな葛藤があって。でも、誰に教わったわけでもなく、お父さんと同じ錬金術師になるんですよね。そうやって大人になっていくなかで気づくこともあるし、言いたいこともいっぱい出てきて――自分もそうだったんです。父(俳優 / ミュージシャンの故・
中川勝彦氏)に対する葛藤があって、それをなかなか表に出すこともできなくて。でも、初めてのコンサートのときに客席のまぶしい光を見て、“こういう場所で歌って、同じような光景を見ていたのかもしれない”って思えて、初めて許せたんですよね」
――エドと父親の関係が、中川さん自身のことと重なった。
「曲自体も切なくて強くてステキだったし、作詞のチャンスをいただいて、“絶対に乗り越えなくちゃいけない”って思ったんですよね。私にも逃げてる部分があったと思うんです。なるべく考えないようにしていたというか……。でも、どうしても言葉にしないといけないなって。『鋼の錬金術師FA』という作品に対しても、ヘンなものは出せないし」
――乗り越えることはできましたか?
「初めてのオンエアの時間にコンサートの楽屋にいたんですけど、ワンセグが入らなくて観れなかったんですよ。だからまだ実感がないというか(笑)。ただ、いままでの日々だったり、自分がやってきたこと――音楽以外の仕事だったり、ブログなんかも含めて――が一つでも欠けていたら、この歌詞は書けなかったと思うんですよね。立ち向かうっていう気持ちだったり、もっと強くなりたいっていう思いだったり。とにかく、いままで生きてきたなかのフルスロットルを表現しました。歌詞にも書いたんですけど、まだ答えは見つかってないんですよね。このテーマって、ずっと考えていかなきゃいけないと思うんですよ、これからも」
――そうかもしれないですね。でも、今回の“ハガレン”のエンディング・テーマも含め、ここ数年はどんどん夢が叶ってると思うし、すべてがいい方向に向ってるんじゃないですか?
「やりたいことは年々増えてるんですよ。なのに年齢だけはどんどん取っていくので、”どうしよう?”って。最近、暇があればやたら図鑑を読んでるんですよね。地球上のことも宇宙のことも、とにかくあらゆる知識を身につけたい! って思って」
――時間は限られてるから、1秒でもムダにしたくないっていう感覚が強くなってる?
「強くなってますね! だって、絶対いつかは死ぬじゃないですか。それがいつ来るかもわからないし……。焦りますね(笑)」
取材・文/森 朋之(2010年4月)