2006年10月にテレビ放映され、大きな反響を呼んだドラマ
『私が私であるために』がDVD化。性同一性障害と家族愛がテーマのこの感動作にシンガー・ソングライターの
中村 中が出演、ドラマのポイントとなる重要な役柄を演じた。実生活でも同じ障害を持つ彼女は、この物語にどう向き合ったのだろうか――。
シンガー・ソングライター中村 中は昨年、初めてのドラマ出演にトライした。それが今回DVD化される『私が私であるために』。生まれながらにして心と身体の性別が異なっている性同一性障害と診断された主人公・朝比奈ひかる(
相沢咲姫楽)が直面する苦難や葛藤、そして自らとの戦いをリアルに描き出す物語の中で、彼女はヒット曲「友達の詩」を歌い、実世界と同様、歌を通して主人公に希望を与える蓮見凛という役柄を熱演している。
「性同一性障害を扱うドラマだということで私に声をかけてくださったんだろうなということはすぐにわかったんですけど、そこにはやはり不安や迷いがありました。演技をしたこともなかったですからね。ただ、ちゃんと向き合いたい作品であるっていうことはすごく感じていたし、逆に生半可な気持ちでやっちゃいけないお話だなとも思って。だからこそ怖かったのかもしれないです」
主人公と同じ性同一性障害を持つ蓮見凛は、自らとしっかりと向き合い、自ら歩むべき道を選んで力強く前へと進む女性。その姿は、不安を抱きながらも今作への出演を決めた中村 中の姿とだぶって見える。
「凛は、プロデューサーさんが私のことを見つけてくださってから生まれた役柄だそうなんですよ。そういう部分ですごく重なる部分がたくさんあったのかなって思いますね。凛は感情をすごく表に出したりする人なんですけど、それを演じながら私自身そうなれと言われているような気もしましたし、いろんなところに自分自身へのヒントがあったような気がしますね。このドラマに出演するというお話がなければ、今よりもっと自分に対して向き合ってなかったんじゃないかなって思います」
また、性同一性障害をメインに扱いつつも、ドラマ全体を通して描かれているのは普遍的な温かい愛情であるということも今作の大きなポイントであると言えるだろう。
「ドラマに関わっている人たちみんなで“ああでもない”“こうでもない”ってたくさん話を重ねて、脚本もいろいろ変えていったんですよ。でも、その中でみんなが言ってたのは、いろんなテーマが含まれてるドラマだけど、最終的には愛だからっていうことで。向かいたい方向がちゃんと見えていたから現場にもそういう空気が流れていて、すごく温かかったのが嬉しかったですね」
私が私であるためにはどうしたらいいのか。誰しもが様々なシーンで抱くであろう、そんな疑問に向き合うためのきっかけがちりばめられた今作。ぜひたくさんの人に観てもらいたいと思う。
「何も考えずに、さっぱりとした気持ちで観てもらうのが一番いいと思います。きっと観てくださった人それぞれにアンサーがあると思うので、何かを押しつけたくないっていうか。私が歌を歌っていく中で常々思っていることと同じなんですけど、やっぱり先入観みたいなものがあると新鮮な気持ちで観れなかったりすると思うので」
取材・文/もりひでゆき(2007年2月収録)