今年の6月28日にデビュー5周年を迎える
中村 中。5月11日には、これまで他アーティストに提供した楽曲をセルフ・カヴァーした5曲入りのミニ・アルバム
『二番煎じ〜セルフカバー集〜』をリリースする。女優の
戸田恵子に書き下ろした「強がり」や、NHK『みんなのうた』でも放送された
ジェロの「晴れ舞台」など、そのアーティストの生き様を丸ごと捉えたような名曲たちが並ぶ。どの曲にも作り手である中村 中から歌い手への、愛情が感じられると同時に、そのメロディやメッセージ性に自身をも浮かび上がらせる。今回はそれらを、どのような想いでセルフ・カヴァーしたのか。また、同日発売となるベスト盤
『若気の至り』についても語ってもらった。
――セルフ・カヴァー集を出そうと思ったのはどんな経緯からですか?
中村 中(以下同) 「今年でデビュー5周年を迎えるんですが、ここに辿り着いたのはやはり応援してくれている人がいてくれてこそ。感謝の気持ちを込めて5年間を振り返るという意味で、セルフ・カヴァー集とベスト盤をリリースすることを決めました」
――デビュー当時から、いろんなアーティストの方に楽曲提供されていましたが、今作の1曲目に収録されている戸田恵子さんの「強がり」には、どんな思い入れがありますか?
「この曲は恵子さんとお話をしながら作っていったものなんですけど。強気で生きていないと倒れてしまいそうになる、つまずこうと思えばいくらでもつまずけるけれど、悲しみのぶんだけ人は強くならなくてはいけないものだという気持ちを歌にしました。<笑ってないといられない みんなそうでしょ>という歌詞にもある通り、戸田さんに書いた曲ですけど、私もみんなもそうでしょ、って歌いかけられているような気がします」
――戸田さんとは二人でお酒を飲みながらお話をされたということですが。楽曲提供の場合、まずはそうした時間を持つことが多いですか?
「そうですね。ジェロくんに書いた<晴れ舞台>は、アメリカにいるお母様に演歌で成功して晴れ姿を見せたいという気持ちを歌ったものですから、お母様がどういう人なのかということもお訊きしましたし。
由紀さおりさんに書いた<回転木馬>は、由紀さんが“いつでも私は現役なのよ”なんてお話をしてくださったことが歌になっていて。想いは歌ってくださる人の心にあって、私は書記のような気持ちなんですね。でも私から出てくるエッセンスも必要だと思ってご依頼いただいていると思うので、そこも入れながら作っていきます」
――どの曲も、歌い手に対する愛情いっぱいに作られてるなと思いました。
「そう言っていただくことが多いです。自分が歌うものに対して愛情がないわけではないんですけど、人のこととなるとより愛情が出ますね。私、人のためだったらいくらでも頑張れる感じがするんですよね。自分の曲だったら多少荒削りでもいいと思ってるし、荒削りが好きだからそうしてるのかもしれないですけど、楽曲提供の場合は、より丁寧にしようとするのかも」
――人のことだといくらでも頑張れるというのは面白い感覚ですね。特にご自身がシンガー・ソングライターとして表現をされている方なのに。
「『二番煎じ』に入っている歌は私が唄うために生まれてきたものではないので、その時点で私がどうしたいっていう気持ちは必要がないんです。楽曲提供はオートクチュールみたいなもので、私の活動の中でもとても大事なもの。それに私はもともと、普通の会話で人と仲良くすることが苦手だったこともあり歌を作って歌い始めましたけど、デビューから5周年を迎えて今思うのは、やっぱり人が喜んでくれる顔が見たいんです。そういう気持ちも大きくなってきているので、私はあまり自我というものがないのかもしれないと思う時もあります」
――なるほど。でもセルフ・カヴァーをしてご自身が歌っても、すごく統一感があって、しっくりくるものになっていますね。
「そうなんですよね、どの曲も中村 中印(じるし)というか、ハンコのようなものが押されているらしくて。それは歌の中にあるバイタリティみたいなところにあると思うんですけど、反骨心というか、生きていたい、頑張りたいというようなものが全体にうっすらとあるんでしょうね」
――由紀さおりさんに書かれた「回転木馬」は、やはり由紀さんの人生そのもののようなスケール感のようなものを感じさせる曲ですが、ご自身で歌われてみて、どうでした?
「この歌は“由紀さんの曲が書けるなんて嬉しい!”と思って作り始めたんですけど。<夜明けのスキャット>のイメージよりも、私はどうしても、お姉さんの
安田祥子さんと一緒に<トルコ行進曲>を神業とも呼べるハーモニーで歌われているイメージが強くて。結構難しいメロディを書いても歌っていただけるだろうなと思い、特に冒頭には難しい、楽器で弾くようなメロディを書いたんです。でもサラッと歌われていて“さすが!”と思いました。そのぶん、そのメロディに今度は私自身が首を締められるという(笑)、そんなセルフ・カヴァーでした。<急ぐ時こそ回り道>という歌詞もありますが、実際に人生を重ねてこられている由紀さんと私とでは説得力が全然違うので、私もこれからもずっと歌い続けて行きたいなと思っている曲です。こうしてデビュー当時から楽曲提供を続けてきたことで、すごく視野が広がった気がしています」
――同日発売されるベスト盤に関してはどうですか?
「10代の頃に書いた曲が多いので、これまで素直じゃなかったことや迷惑かけてしまったことも許してね、みたいな気持ちです(笑)。『若気の至り』というタイトルを付けられたことで過去の楽曲たちをニュートラルに可愛い思い出にできたような気もします。ここから中村 中を新しく知ってもらう人にも楽しめる作品になっていると思うので、こちらも是非聴いてもらいたいなと思います」
取材・文/上野三樹(2011年4月)