シングル前作「
ならば風と行け」は、雅俊“兄貴”が若い世代に送ったエールとも聞こえたが、ダブルA面でのリリースとなった最新作「
どこへ時が流れても / まだ僕にできることがあるだろう」では、視点を同世代へとフォーカス。“働くお父さん”への共感を、大らかな歌声に乗せて歌っている。11月からは、歌手デビュー以来じつに43年、途切れることなく続けているという全国ツアーがスタート。“楽しくてしかたない”と語る楽器演奏を含め、ライヴにまつわる喜び、そして期待についても
中村雅俊に語ってもらった。
――前作〈ならば風と行け〉は、若い世代の背中をドンと押すような曲だったのに対して、今回は同世代向けで。
「もう、もろですよね」
――続編のような趣きがあって、おもしろかったです。
「そうですね。やはり同じ作詞家(
松井五郎)、作曲家(
都志見 隆)と組んでやってるから、流れのようなものが出来てきてるんです。都志見さんとは30年一緒にやってるし、松井さんも前作以来、すっかり僕らのファミリーに溶け込んでいただけて。今回、この2曲以外にもたくさん作っているんですよ」
――その中から厳選したんですか。
「ノスタルジックなタイプの曲もあったりと様々だったんですけど、“この曲はもうちょっと後で出そう”とかみんなで話し合って決めていきました。作詞家作曲家も含めて、とにかく意見を出し合いましたね。レコーディングにも松井さん、都志見さんが立ち会ってくれて。ただプロの作詞家作曲家とお仕事しましたという感じじゃなく、語り合いながらレコーディングしていったんです。すごく実のある作業でした」
――作詞家がそばについてらっしゃると、歌い方や言葉の表現の仕方について、アドバイスなどがあるものですか。
「あります。作詞家が込めた思いとかインテンション、意図もその場で直に訊けるから、表現として理解しやすくなる」
――そのせいなのか、世代的なものもあってか、今回の歌詞には具体的な描写が目立ちます。
「そうだね」
――映像的でもあって。
「そうそう。あと、むずかしい言葉がない。メロディもそんなに複雑じゃない。あくまでシンプルな詞であり、曲なんです。そのせいかな、歌いやすかったんです。詞の内容に共感できたってこともあるだろうし、メロディがシンプルな分、自分の中にす〜っと入ってきた。表現するのが、すごくラクでした。実際、レコーディングもすごく短かった(笑)。ディレクターがびっくりしていたくらい。〈
ふれあい〉の頃を思い出しました。〈ふれあい〉の時も、歌ってすぐにOKだったんですよ」
――ぴったりの靴が見つかる時のように、歌にもしっくり来る来ないという“サイズ感”があるんですね。
「あります。コンサートやってても、めちゃくちゃラクに歌える曲と、表現にとても苦労する曲がある。キーの高さに関係なく声が出づらいとか、かと思えば自然に歌えちゃう曲もあるしね。そういう意味では、今回の2曲は、すごくラクに歌えたな」
――そういうフィット感のせいか、聞いている側にも、風景がすごくよく立ち上がります。
「わかります」
――映像があるわけじゃないのに、というか、MVがいらないくらい。
「ですよね。同じ感慨があります。歌っていて、風景を想像しやすいし、歌いやすい。何から何まで、やりやすかった」
――〈まだ僕にできることがあるだろう〉の歌詞に、“娘に鼻であしらわれ〜”というくだりがあるじゃないですか。中村さんご自身にしてみれば、あくまで“フィクション”であるはずなのに、絵づらとして合って聴こえるのが、おもしろかったです。
「そういう設定なんですよね。俺自身、ほほえましく思いながら歌いました」
――かと思えば、“もっと大きく描きたかった ナスカの絵描きもいたはずだ”と話が突然大きくなって(笑)。ふきだしながら聞いてました。
「おもしろいよね。あの、雑にポジティヴな感じが大好きなんです(笑)。せつない内容の歌詞ではあるんだけど、そこに“まあまあ、なんとかなるだろ〜”みたいなさ(爆笑)。ピラミッドとかナスカの地上絵とか、あれだけデカいものを作ったやつだって、“もっとデカいのを作りたかった”って嘆いてるかもしれない。そういう発想って、かわいいしチャーミングだよね。そっちのほうが楽しいし」
――中村さんご自身の歌い方、表現の大らかさにも、合っている気がします。
「合ってますかね(笑)。だったらよかったのかな。〈どこへ時が流れても〉に出てくる“いまを生きる”ってフレーズにしても、言い尽くされた言葉なんだけど、サビのところでメロディがぱっと変わる。メロディのそういう変化と“いまを生きる”って歌詞の、説得力がはまっているなと。俺自身、もういいトシなんで、昔みたいにがむしゃらに“どう生きるか”を問うより、今この瞬間、遠い未来ではない“今この時”を、考えるようになってくる。そんな自分の生き方ともリンクしているから、“そうだ!”と共感しながら歌えたんじゃないかな。その意味でも、近年では一番シンプルでわかりやすい、でも楽しい感じの曲作りになりました」
――昨年のツアーの映像(〈中村雅俊コンサート「L-O-V-E」〉2016年12月3日 中野サンプラザホール)も拝見したんですが、歌い手自身、楽しんでらっしゃるなあと。
「そうですね。歌が好き、ライヴが好きっていうのがまずあるんです。また、いろんなジャンルの持ち歌があるんですよ、幸か不幸か(笑)。〈ふれあい〉みたいな静かな曲があるかと思えば、“意外とロックっぽいじゃない”と言われる曲もあって」
――今回のライヴDVDで言えば、〈70年代〉や〈滑走〉がそうですね。 「うん」
――ああいう曲、すごく楽しそうに見えますが。
「楽しいんです。で、じつは歌がラク。バラードを歌う時って、それこそ細心の注意、気を遣う部分があるんです。バラードやミディアムを楽器少なめで歌うのって、それこそめちゃくちゃ歌うまいやつだったら”どうだ!”って気分にもなれるんだろうけど、俺の場合so-so(まあまあ)だからさ(笑)。ただ、曲の幅がすごくあるんで。同じような曲ばっかりやってるわけじゃないんでね」
――曲によっては、サックスまで吹かれて。
「ピアノも弾いたんですよ。収録時間の関係で、今回はカットされちゃったけど」
――サックスはいかがですか。
「楽しいです。いつも思うんですけど、楽器弾いてる時、自分が歌ってない時が、じつは一番楽しいなと(笑)」
――本番までの練習は、どれくらい?
「あまりしないです。サックスの場合、コードだけ決めて、なんとなくメロディを。ピアノのほうが、まだ細かくやるかな」
――ピアノを弾く楽しさを挙げるとすると。
「基本、アップテンポの曲がない。バラードかミディアムで演奏するんですが、感情を表現する上で、ピアノの音色って、ほんとによくって。特にアコースティック・ピアノ。俺、
ニール・ヤングが大好きなんだけど、彼もピアノ弾きながら歌うことがあるじゃないですか。ニール・ヤングって、ピアノ弾く時サングラスかけてるんですよ。俺が推測するに、いまいちピアノに対して自信がなくて、目がきょろきょろ動くのを隠しているんじゃないかと(笑)。ギターの時は自信があるから“ぎゃ〜〜〜ん!!!”って、思いっきり振り切って演奏してるけど」
――中村さんのそういう観察に、尽きせぬニール・ヤング愛を感じます(笑)
「ライヴで〈
ハート・オブ・ゴールド〉や〈
サザン・マン〉をカヴァーしたこともあるくらいだから。エレキ・ギター持っても、うまいんだかへたなんだか、いまいちわかんないとこがいいんだよね(笑)。ほほえましいというか、好感が持てるんです。技術ではなく、持ち味みたいなもの、人間味で人を感動させる、というか」
――音楽にかぎらない、中村さんご自身の人間観を感じさせる言葉だと思いますが。
「音楽から離れちゃうけど、俳優になって2年目くらいに、
笠 智衆さんと映画で共演させていただいて、四六時中ご一緒したことがあるんです。おもしろい方で、エキストラから出発されてるんですよね。しゃべり方も顔の表情も、しゃしゃり出るところが本当にない人だなあ、と思っていたら、その通りの人だった。説教もしないしね。なのに、食事しながら、なにげなくすごいことを言うんです。“雅俊くん、芝居なんか、何やってもいいんだよ。数学みたいに、答えがひとつしかない世界じゃないから、何やってもいい。ただね、リアリティ。これは必要”とかね」
――深いですね〜。
「一緒にいて、とにかく居心地がよかった。そんな経験もあって、演技もそうだけど、歌にも“うまさ”や技術だけじゃない、いろんなファクターがあって、それで成り立っていると思っているところがある」
――中村さんの声って、こういう表現が妥当かどうかわからないけれど、いい意味で茫洋としていますよね。そんな声が伝える大らかさというのは、間違いなくあると思うんです。今回のシングル曲にしても、決してきらびやかな歌ではないですよね。なのに、聞く側をしょんぼりとはさせない。得がたい大らかさあってのことだと思うんですが。
「その言葉、大事にします(笑)」
――コンサート映像を観ていても、そのあたりが一番、お客さんに伝わっているのではないかと。
「積み木みたいに、お客さんの気持ち、感情の高まりを積み上げていく作業なんですよね、コンサートって。で、一番難しい積み木はバラード。そういう意味では、やっぱり気をつかうよね。ロックっぽい曲やカヴァーは、積み木としてはやりやすいけど。そのあたりのバランスが大事。独りよがりにならないよう、選曲に留意はしています。」
――中村さんが客席に下りて歌われる〈花になろう〉で、お互い積み上げていく雰囲気が出てますよね。 「あの曲を作ったのって、宮城県・東松島の2つの小学校が、震災後統合することになったのがきっかけなんです。松井五郎さんが作詞、俺が曲を書いて、新しい校歌を作ることになったんだけど、せっかく2つの学校が一緒になるんだから、ハモれる曲がいいんじゃないかと思った」
――悲しい災害がきっかけで統合されることになった歌とはいえ、そこにハーモニーの感覚を持ち込むというのはいいですね。
「で、松井さんのアイディアで、後半〈
ヘイ・ジュード〉みたいに、別のメロディを入れることにした。入学式や卒業式で、そこだけ繰り返し歌えるでしょ。校歌だから、何百人で合唱してもいいんだけど、いっぽう二人だけでハモりながら歌うこともできる。客席に下りてみんなで歌えたのも、そういう意図を込めて作った曲だったからなんですよね」
同世代のメッセージソングを携え〈コンサートツアー2017〜2018「ON and ON」〉を開催する中村雅俊。積み木のように観客と感動を築き上げていくステージを体験してはいかがだろうか。
中村雅俊
コンサートツアー2017〜2018「ON and ON」
■2017年11月9日(木) 東京 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール開演 18:30 S席 6,500円■2017年11月11日(土) 埼玉 パストラルかぞ 大ホール ※開演 16:00 全席指定 6,500円■2017年11月12日(日) 群馬 前橋市民文化会館 大ホール ※開演 16:00 全席指定 6,500円■2017年11月25日(土) 福島 須賀川市文化センター ※開演 17:30 全席指定 6,000円■2017年12月2日(土) 東京 中野サンプラザホール開演 17:00 全席指定 7,000円■2018年1月20日(土) 埼玉 飯能市市民会館大ホール ※開演 16:00 全席指定 5,500円■2018年2月11日(日) 山梨 富士川町ますほ文化ホール ※開演 16:00 全席指定 5,500円※の会場は〈中村雅俊 コンサートツアー2017〜2018「ON and ON」 Acoustic Unit〉となりアコースティック編成です。