主人公の輪郭を求めているのかもしれない 中村雅俊、通算55枚目のシングル「だろう!!」

中村雅俊   2018/11/20掲載
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 シンプルだが骨太な歌詞が、一発で“入って”きます。実に55作目を数えるという、中村雅俊のニュー・シングル「だろう!!」。歌い手自身をも含めた、中高年世代への(プライドある)応援ソングという、近年すっかりおなじみになった主題をふまえながら、曲調、そして何より歌声に、てらいのない“熱”がこもっているのがいい。CDリリースに先駆けて公開されたMVも、マイクに向かって歌う表情を濃やかに捉えた充実の映像。歌い手のつきることない“ロック・マインド”を、問わず語りに伝えてもいる。
 「コンサートでの評判もいいんですよ。ツアーが始まった9月26日の段階からアンコールで歌っているんですが、“新曲、いいですね!”という反応が、さっそくファン・レターに書いてあったりして」
――「だろう!!」というフレーズ自体、すごくキャッチーですよね。
 「いつもながらの中高年へのメッセージなんだけど、なにしろ言葉に力がある。松井(五郎)さんならではの歌詞ですよね。松井さんの中にも“まだまだ自分はやれる”という意識が、絶対あるんだろうし。そんな思いが、“どうだ まだ行ける”“そうさ 前を向け”みたいなフレーズに込められているんじゃないかな。で、最後にもう一度「だろう?」って念を押す。そういうストレートな気持ちが、歌っている自分自身にも伝わってくる曲なんです」
――しかも覚えやすい。歌がストレートに入ってきます。
 「そうそうそう! 耳馴染みのいい普遍的な曲なんだけど(笑)。でも、それって大事じゃないですか。歌として非常に溶け込みがいい。水溶性が高いっていうか(笑)。歌ってて、自分でも気持ちがいいですよ。メロディーがす〜っと入ってくる。今回、候補曲がいっぱいあった中から厳選してるんです。作曲の都志見(隆)さんも俺と組んで長いんで、俺の声や歌い方のおいしい部分をわかってくれている。ここのところ、都志見さんがレコーディング・ディレクターもやってくれてるんですよ。作曲家というより、もはやメンバーの一員。松井さんにしても、何かあればすぐ駆けつけてくれるし」
――歌詞の相談のために、ですか。
 「そう。サビで“どうだ!!”とたたみかける部分が、最初は同じ言葉の繰り返しだったんだけど、少し変化をもたせてはどうだろうとか。こちらのそういう提案に対して、松井さんが、だったら“どうだ どうだ そうさ”に変えてはどうかと応じてくれたり。みんなであれこれ考えていく感じでした」
――繰り返しが多い半面、同じ言葉でもニュアンスを変えながら歌ってらっしゃいますものね。
 「ストレートな歌詞なんだけど、ある程度年齢が行った世代からしたら、いろんな思いが感じられる。実際、俺の同級生なんか、すでに還暦を過ぎて家にずっといるようになっても、“まだまだやれる”。そういう思いを抱いているやつらが多いと思うんですよね」
――アレンジ的にも、中村さんの“実はロック好き”な側面が、反映されている気がします。
 「鋭いですね(笑)。今回、自分のコンサート・ツアーのバンド・メンバーが、アレンジしてるんです」
――大塚修司さん。
 「彼とはもう36年間、一緒にツアーをやっているんです。中村雅俊といえば〈ふれあい〉というイメージとは違う、俺の側面もわかってくれている。演奏もライヴっぽいでしょ」
――ギターの音の立ち上がりからして、ロックぽい。
 「そうなんです。今まで出したシングルにだってアップテンポのものはあったんだけど、それを知らない人も多いかもしれないので、あえてこういうロックテイストの楽曲を今、だしてみてもいいんじゃないかなと」
――かざりけのない、直球で入ってくる歌詞なので、アレンジ的にも合ってますよね。
 「実際歌ってて気持ちがいいのも、そういうことだと思うんです。コンサートで歌っても、自然にノってくるんですよ」
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――今後の代表曲になるかも、という予感がある曲って、いいですね。
 「俺のヒット曲って、ミディアムからバラードが中心だったから、ここにきてアップテンポの代表曲ができるのは、すごくうれしいですよね。自分にとっての自信にもなるし」
――ライヴでの、重要なアクセント曲になりそうです。
 「はい。いかようにもアレンジできそうだし。何より聞いてる人のウケがいいのが、送り手としてはうれしいことなんです」
――歌い出してすぐの“♪嵐に変わる”の“ら”の発音とか、強めに舌を巻いてらっしゃるじゃないですか。
 「ははは。そうでしたか(笑)」
――語尾の母音も心持ち二重母音(“あい”“おう”など母音が重なる音)的に発音されていて、気持ちがこもっているのが歌声からも伝わる。シャウトしなくても、強く歌うことってできるんだな、と思ったんです。
 「なるほどね……。アーティストによっていろいろ表現はあるんでしょうけど、俺は役者もやってるから、言葉の意味は大事にしてますよね。なかなかむずかしいんですけど。あんまりはっきり言い過ぎると、日本語が持つメロディ感がぶつ切れになっちゃったりして」
――そのあたり、理屈というより“こう歌ったほうが結果的によかった”と、積み上げていく感じですか。
 「レコーディングで何回も歌っていくうちに、“あ、ここは”と“発見”していく。もちろん、最初からデッサンがしっかりできて、すぐ歌える場合もあったりはするんですが。レコーディングをしていく時に、すぐうまくいく時といかない時があって(笑)。そこは洋服と似てますよね。実際着てみないと、本当に似合うかどうかはわからない」
――今回の曲は、そういう意味でイメージも湧いたし、実際の着心地もよかったと。
 「そうなんです。ファッションとしてはちょっとハード系だけど、着心地もいいし、周りからも“シルエットがいい”ってほめられる(笑)」
――ダメージ感があるのもオツだとか。
 「まさにそうなんです」
――MVも拝見したんですが、登場する2台のギターは、中村さん所有のものですか。
 「残念ながら違います。どっちもけっこう高いやつなんだよね(笑)」
――12弦のアコースティック・ギターとエレキ・ギターを配してみたり、中村さんがお好きな音楽のイメージを、監督もくみとってるのではないかと。
 「俺自身、役者業の片手間にやってるつもりはないからね。当たり前といえば当たり前なんだけど、一人の歌手、一人のアーティストとして認めた上で演出してくれたのは、ありがたいことですよね」
――スタンド・マイクもヴィンテージ系です。
 「60年代によく使われてたSHUREってメーカーのやつなんです。こだわりのあるアーティストが当時のスタンダードを歌う時って、今でもあれを使ってる。そういう時はファッションもキメるだろうし、マイクロフォンもその大事な要素」
――歌ってらっしゃる表情が“寄り”で捉えられているので、マイクの形もこうであってほしいというイメージが、監督的にはあったのじゃないかと。
 「ですよね。洋服にもけっこうこだわっていて、ワンポーズで撮っているように見えて、じつは衣装を替えているんです。よく見ると、相当細かく編集されてるんですよ。俺も一時期凝って、自分でもやっていたからわかるんだけど。といいながら、まだ一回して観てないんですけどね。お芝居もそうなんですけど、意外と照れくさいものなんですよ。ドラマなんか、2年くらい経ってから再放送で観て、ようやく“なんだ、おもしろいじゃん”って客観的に楽しめたりする(笑)」
――じゃあ、今年評判になった、NHK朝ドラ(『半分、青い』)のおじいちゃん役も……。
 「NHKの場合、(オンエアの)だいぶ前に撮っちゃうんです。そういう意味では、客観的に観れたかな」
――中村さん演じる“仙吉おじいちゃん”が、ドラマの中で歌ったりする。おもしろい趣向でした。
 「反省点としては、仙吉じいさんをやってたはずが、歌い出したとたん“中村雅俊”になっちゃってた(笑)」
――ギターを持って歌い始めたとたん、おじいちゃん度が下がっちゃったんですね(笑)。
 「“こんなおじいちゃんはいねえよ”っとお叱りを受けるんじゃないかと心配してたんですけど、観ている方も慣れてくるんですかね。“まあ、こういうおじいちゃんもいていいか”って受け入れていただいたようで、よかったです(笑)。あのドラマ、キャスティング的に言うと、ほとんど当て書き(演劇や映画などで、その役を演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書くこと)だったんですよ。豊川(悦司)くんにしても、原田知世ちゃんにしても、彼や彼女にしかできない役として、書かれていたんです」
――そういう意味では、中村雅俊さんのアーティスト活動をふまえての“仙吉おじいちゃん”だった。
 「不思議だったのは、ドラマの中で歌うことって、あれほど観ている人をエモーショナルにするのかと。びっくりしました。もちろん、歌自体が持ってる力もあるんでしょうけど、仙吉が亡くなった直後、“亡くなりましたね〜”と俺に向かって言ってくる人がいて(笑)。俺も役者人生長いですけど、自分の演じた役柄に対してあそこまで感情移入されたのは、あれが初めてだったかもしれない」
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――ニュー・シングルに話を戻すと、カップリングの「千年樹」は、「だろう!!」とは好対照の曲です。
 「ゆったりたたみかけていく、ああいう曲も好きなんです。和ものを意識しています」
――旋律がオリエンタルな。
 「メロディがよくて、かつひとつの世界観、メッセージもある。“風を怖れて枯れるより 枯れて悔やまぬ枝でいい”という一節とかね」
――風景としての“樹”かと思いきや、じつは歌い手の内的風景でもあるんですね。
 「そうなんです。心の景色を歌い上げている。葉っぱが舞うように落ちていって、それは人と変わらない。さすがは松井五郎の詞。売れっ子なのはだてじゃない」
――“樹”のイメージにことよせると、中村さんご自身は、樹木や森林に思い入れはありますか。
 「あまりないかも(笑)。けど、枯葉にまつわる思い出はあります。子どもの頃、山に上っては、枯れた杉の葉を拾ってきてたんですよ。炭俵の空になったやつにぎっしり詰め込んで。こんな話すると、“いつの時代ですか?”って笑われるんだけど」
――それは焚きつけ用ですか?
 「そう。田舎だったから、まだ竈もあってね。杉の葉って、枯れて茶色くなると、よく燃えるんです。パリパリ音を立ててね」
――うかがっていると、記憶がすごく鮮やかでらっしゃいますよね。葉っぱが“パリパリ音を立てる”とか。
 「言われてみればそうだね。その山には別の思い出もあって、たいして高いわけじゃないから、冬になると自分でソリをつくって滑り降りたりしてた。薪を半分に割って、並べて台をつくって、縄を手綱にして。先っちょは“R”形に丸めてね。時々スピードがつき過ぎて、笹藪の中にぽ〜んと飛び込んだものですよ」
――やっぱり映像性が高いです。
 「そうですかね」
――たとえご自身が意識されてなくても、枯葉を燃やすとこういう音がするとか、こんな手触りがしたとか、記憶のひとつひとつが、表現する上での蓄積になっているのじゃないかと。
 「ああ……。歌う上でも、映像だけじゃなく、主人公の輪郭を求めているのかもしれないね。松井さんと気が合うのも、そういうところかもしれない。じつはおしゃれなのに、しゃしゃり出ていくことが好きじゃない人だから。服にしても、一見すごく地味なようでいてとてもよいものだったりする。人の生き方とか主義って、そういうところに出たりするのかもしれないですよね」
取材・文 / 真保みゆき(2018年10月)
Live Schedule
中村雅俊コンサートツアー2018
「ON and ON」Vol.2


11月24日(土)
静岡 森町文化会館
※Acoustic Unit
開演 15:30
全席指定 6,000円(税込)

11月25日(日)
岐阜 美濃加茂市文化会館
※Acoustic Unit
開演 16:00
全席指定 5,500円(税込)

12月1日(土)
東京 中野サンプラザホール
開演 17:00
全席指定 7,000円(税込)

12月9日(日)
福島 二本松市民会館
※Acoustic Unit
開演 17:00
全席指定 3,000円(税込)

中村雅俊ディナーショー2018

2018年12月4日(火)
大阪 伊丹シティホテル 光琳の間

【1st】
DINNER 17:00〜18:00
SHOW 18:00〜19:00

【2nd】
DINNER 20:00〜21:00
SHOW 21:00〜22:00
35,000円(税込)
tomonokai.mj-e.com/

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