――コンサートを体験して、クラシックの曲を演奏しながらも、ステージの雰囲気はずいぶんオープンな印象を受けました。“バンド”と呼んでもいいくらいのノリがありますね。
ネマニャ・ラドゥロヴィチ(以下、同)「私も含めてメンバーはみんな、クラシックの奏法が演奏のベースになっていますけれど、ほかのジャンルの音楽が時代に合わせて変化してきたように、クラシックも現代の生活に合う新しいスタイルが生まれてもいいと思っているんです。サラサーテほかの名曲をグループのためにアレンジして聴いていただくこともそのひとつですし、伝統的なクラシック・コンサートのスタイルである“座って演奏する”ということから脱却し、基本的には立ったままで動きのある演奏をしているのも、そうした試みなんです」
――その演奏スタイルが、音楽に対しても新しいエネルギーを与えているように思えました。
「演奏しながらメンバー同士がコミュニケーションをとったり、互いの音楽を聴きながらさらに表現を広げたりするというスタイルを大事にしています。またそうすることで生まれた音楽が客席へ届き、今度はお客さまの熱い反応が返ってきて、自分たちの音楽がさらに深くなるという可能性も大きいですね。そういった循環がコンサートの醍醐味だと思います」
――グループ名の“悪魔のトリル”はインパクトがありますね。
「間違っても“ネマニャ+カルテット with コントラバス”なんていう名前にはしたくありませんでした。言うまでもなくタルティーニのヴァイオリン・ソナタ〈悪魔のトリル〉からヒントを得ていますが、じつはメンバーそれぞれが異なる演奏スタイルをもっており、トリル奏法ひとつをとっても個性的なので、グループの音楽性を伝えるためのシンボルになっているという一面もあるんです。ときどき由緒ある大聖堂のようなところでコンサートをするときには、当然ですけれど“悪魔という名前はちょっと……”と言われますから、単に“トリル”という名前で演奏することもあります」
――ステージでの演奏は常にアグレッシヴですけれど、弾きながら弓が髪にからまったりするアクシデントはないのでしょうか?
「(笑)。じつはときどきあるんですよ。
ラヴェルの〈ツィガーヌ〉という曲を弾いていたとき、ラストの激しい部分で弓の先端が髪留めに引っかかって抜けなくなり、仕方がないのでピアニストが一人で弾き終えたという事件がありました」
――演奏を聴いていると、これまでどういった音楽に影響を受けてきたのかが気になります。クラシックはもちろんだと思いますが、お好きな音楽の一端を披露していただけますか?
――そこにある愛用のiPhoneにも、たくさんの音楽が入っていそうですね。
「本当にたくさん聴きますよ。オススメの音楽ですか? 最近気に入っているのはトシェ・プロエスキというマケドニアのシンガーです。とても印象深い歌声で感動します」
――“悪魔のトリル”は今年の秋にも再来日が予定されています。それも含めて、今後の予定を聞かせてください。
「“悪魔のトリル”は今回と別のプログラムを考えていますので、まったく違った曲を楽しんでいただけると思います。ソロでの活動では、今年2月に東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と
プロコフィエフの協奏曲第2番を弾きました。これからは
サミュエル・バーバーの協奏曲も何度か演奏しますので、この曲もいつか日本のオーケストラと共演したいですね。ステファン・ベゼクリというアルゼンチンの若い作曲家には、私のための新作協奏曲を書いてもらっています。CDについては、いま4つのプロジェクトが同時進行しているんですけれど、私の口からはまだ公表できないので、どうぞお楽しみに!」
取材・文/オヤマダアツシ(2011年3月)