常に上だけ見ていたい ゆるふわギャング“NENE”初のソロ・アルバムを発表

NENE(Sophiee)   2017/12/08掲載
はてなブックマークに追加
 ゆるふわギャングのSophieeがNENEに改名。その第1弾として初めてのソロ・アルバム『NENE』をリリースした(過去にミックステープを配信したことはあるが)。SALU5lackに加えて相棒のRyugo Ishidaも3曲に客演し、ビートはAutomaticEstra(a.k.a. OHLD)が担当。ゆるふわとは完全に地続きの作品で、線引きも特にしていないと言う。ソロでは正真正銘、最初のインタビュー。隣にはRyugoも臨席し、リラックスした空気のなか、落ち着いた物腰と朗らかな表情にナチュラルな自信がうかがえた。今年3月にゆるふわギャングとして取材したときと同様に、清々しいひとときとなった。
拡大表示
Photo By 山谷佑介
――どうしてこのタイミングでソロ・アルバムを作ったんでしょうか?
 「自分自身を表現したいっていうのがあって。もともとふたりともソロでやってたし、その延長線上にゆるふわギャングもできた感じだったから、自然な流れですね。りゅうくん(Ryugo Ishida)も入ってるし、分けて曲を録ったりもしないので、ゆるふわとの違いはあんまり考えてないかもしれないです」
――普段から録りためていたとか?
 「録りためてたのは『Mars Ice House』を作り終わってすぐにりゅうくんと作った曲くらいですね。〈High Time〉とか〈High Way〉とか。それ以外はアルバムを作るってなってから作った曲が多いです」
――4月のワンマン・ライヴで“ゆるふわギャングの新曲”として歌っていましたものね。
 「〈High Time〉ですね。レベルがどんどん上がってるから、以前と違って聞こえるかもしれないけど、自分としては分けて考えたことはないです」
――NENE名義は今回だけですか? それともSophieeからNENEに変わるとか?
 「変わります。それもそこまでちゃんと考えてなくて、ノリみたいなものなんですけど(笑)。“NENE”って自分のあだ名じゃないけど、家族や近所の人に小さいときからそう呼ばれてるんです。その話をしたら“NENEっていいじゃん”みたいになって、じゃあ変えようと思って変えました」
――自分自身を表現したかった、とのことですが。
 「ゆるふわでは自分たちのまわりの状況とかを歌うことが多かったんですけど、ソロでは自分の内面みたいなものを表現したかったんです。自分にとってはファースト・アルバムだし、NENEはこういう人間なんだ、って。だから言いたいことを言えたっていうか」
――『Mars Ice House』と構成に通じるものがある気がします。威勢よくスタートして、だんだん内省的になっていって、最後はチームワークでパッと明るくなって終わる。
 「自然とこうなりました。〈朝に得る feat. Ryugo Ishida & SALU〉と〈Team〉は軽井沢にみんなで泊まり込んで録ったんですけど、すごいチーム感があって、〈Team〉はできたときに“絶対に最後の曲にしよう”って思いました」
――チームっていうのはおふたりとAutomaticさんと?
 「それはもちろん、今関わってくれている周りの人たちです」
――最初のほうの曲は“自分が着てる服の値段がわからない”(「Price」)とか“まじこのままいく get famous”(「Famous」)とか、思いついたものをそのまま出しているような言葉が多いですが、何か裏のメッセージがあったりするんですか?
 「いや、その場でポンと浮かんだことを歌ってます。〈Famous〉に関しては、まじで“このままいく”って感じだったから」
――曲の作り方はどんな感じですか?
 「〈I Know〉〈群れたくない〉〈Shinagawa Freestyle〉あたりは完全にひとりで家で作ってスタジオに持っていきました。他はほとんどスタジオで生まれた曲ですね」
――すると、大まかな傾向としてはひとりで作った曲が後半に入っている感じですかね。それでアルバムが進むにつれてディープな感触になるのかも。
 「たしかに、ひとりになったときに考えて作るとそうなるかもしれないです」
――そして最後の2曲はチームのパワーを誇示する感じで解放感がある。流れが明快だから、聴いていると自然に気持ちが乗っかっていきます。
 「あー、よかった。曲順は〈Team〉以外最後の最後に決めたんですけど、自分では並べ替えられなくて、Automaticさんとかりゅうくんとかの客観的な意見に助けられました」
拡大表示
Photo by 山谷佑介
――軽井沢はレコーディング合宿みたいな感じだったんですか?
 「ずっと同じ場所で作ってるとインスピレーションが狭まるじゃないですか。ちょうどキャンプしたいなって思ってたから、曲作りも一緒にやっちゃおうって話になって。でも、まじ、ずっと朝から晩までスタジオにこもりっぱなしで、キャンプらしいことは何もしなかった(笑)。ずっとスタジオに入ってて、夜ちょっと星を見に行って寝て、朝またスタジオみたいな。ストイックだったけど、自分たち的には全然負担になってなくて、すごい楽しかった」
――そのお話はおふたりに僕が持っているイメージに合致しますね。ひたすら楽しみながら音楽を作っている感じ。
 「それがいちばん楽しいし、できることがそれしかないから、苦じゃないっていうか、自然にやっちゃうっていうか。むちゃくちゃいいヴァイブスしか流れてないです。ネガティヴなことはまったくないし、いつもいい感じでできてる。幸せです、今」
――そのせいか、聴いていて疑問に思う箇所がないんですよね。
 「ほんとですか? うれしい。けっこうそう言われるかなと思ってたけど(笑)」
――ということは自信があったんですね。
 「ありました。自分は間違ってないって常に思ってるから、言うことを怖がったりしないし、べつに認めてくれなくてもけっこうです、ってスタンスだから」
――好きって言われたらうれしいけど、嫌いって言われても“あ、そう”って。
 「違う人間なんだなって思うしかない(笑)。べつにその人を嫌いになるわけでもないし。音楽は好きなことだから自由にやりたいんです。そこで他のマインドが入ってきたら、作る音楽が変わっちゃうじゃないですか。音楽に関しては自分に忠実でありたい。“どう思われるか”とかはあんまり考えないです」
――“My pussy my choice”(「Game Boy Life」)って堂々と言い切れる人って、まだまだ日本には少ないんじゃないかなって。
 「そうですかね(笑)。ちょっと前は迷いがある時期もありましたけど、作り始めてからは“絶対間違ってない!”ってなったから」
――“わたしいいこと言ってるなぁ”って?
 「“く〜っ!”って自分でなるときが何度もありました(笑)」
――最高ですね!
 「そうなんですよ。あんまりネガティヴなことは考えなかった。チームのみんながいて自分がいるっていうのもあったし。自分のヴァイブスが下がりそうになったときに、ガッと持ち上げてくれる仲間がいることが、すごい助けになりました」
――ヴァイブスはどんなことで下がるんですか?
 「ほんと些細なことだったりするんですけど。日常のなかだったりとか、自分のあり方だったりとか、考えすぎちゃって不安になるときって、けっこう誰にもあるじゃないですか。でも、曲を作ろうってみんながスタジオに集まると、“あ、ここだ”って思って、ふっと戻れる自分がいたかなって。曲を作るっていう行動がヴァイブスを戻してくれる」
――「Shinagawa Freestyle」では自分のバックグラウンドを語っていますね。
 「めちゃくちゃラップしたかった気持ちのときに家で一気に書きました。けっこう最初のほうにできて、入れるか入れないか最後まで迷ったんですけど、入れとこうと。やっぱり言いたいこと言いたいし、一回、自分のなかで区切りをつけられる曲を入れたいと思って。がっつりラップして。ちゃんとスピットできてよかったと思います」
――5lackさんの客演(「風 feat. 5lack」)はどういう経緯で?
 「もともとすごい好きだったんですよ。日本語ラップを聴き始めたのも5lackさんとかからで、一緒に曲をやることに憧れてました。まさかこのタイミングでやれるとは思ってなかったけど、〈風〉ができたときにふたりでクルマで聴いてて、“これに5lackさん入ってたらどうかな”“いいじゃん”“すぐ連絡しよう”ってなりました。一緒に曲をやることができて超うれしかったです」
――聴いてみてどうでした?
 「めっちゃ感動しました。“うおー! ありがとうございます!”って感じ(笑)。やっぱさすがだなって。うまくフィットしてよかったし、憧れてるラッパーにちゃんと自信を持って送れる曲ができてよかったなって思うし。そこは自分ビガップですね(笑)」
拡大表示
Photo by 山谷佑介
――前にインタビューしたとき、NENEさんは“りゅうくんと出会う前はパッパラパーだった”って仰っていましたよね。
 「フフフ」
――アルバムを聴いて、こうして話を聞いて、パッパラパーだった人とは思えないです。
 「いや〜、めっちゃまじめになりましたよ(笑)」
――それもあるし、もともと考えるタイプではあったんじゃないかなって。
 「あぁ、たしかにそうかもしんない。考えたくないから遊んでたみたいな。だからいい歳を重ねられてるっていうか……この年齢で言うのはあれだけど(笑)、ちゃんと濃い年を味わえてると思います。それは音楽を見つけてちゃんとやってるからだと思いますね。成長できてる、音楽のおかげで」
――“自分がいいと思ったらいい”“分かる人だけここにいればいい”と歌っている「I Know」とか、気持ちいいですよ。
 「〈I Know〉は、ライヴがうまくいかなかったときがあって、その後にすぐ書きました。最初からうまくいったらいいのにな、けどそんなわけないよな、そんなふうに思ってたらダメだな、って思って、“フー”(落胆)から“フワッ”(上昇開始)ってなったときに作った曲です。SNSとかが身近にあると、自分がいいって思ったことがブレたりする若い子が多いと思って。たとえばほんとはこういう曲が好きだけど、こっちのほうが人気があるからそっちがいいって言う、みたいな。わたし、あんまりそういうのがよくわかんないから、気持ち悪いなと思って。いちばん大事なのは自分の気持ちで、惑わせる言葉が日常には溢れてるけど、意思は強く持っていたいって気持ちがいつもある。みんなも絶対そうして生きるべきだって思って曲にした感じです」
――「High time feat. Ryugo Ishida」をはじめ、アルバム全編に“捨てる”って言葉やイメージが頻出するのも……。
 「そういう意味ですね。自分もちょっと悩んじゃう時期とかあるけど、決断が大事っていうか。だから“捨てる”って言葉を使ったのかもしれない」
――“クソなコミュニティ 抜け出しな”(「Damn Phone」)とも歌っていますが、人間関係も捨てるのが大事ということですか?
 「クソなことにあんまり突っ込んじゃいけないっていうか。わざわざそこにいたがる人もいますけど、そういうのは自分はしたくない。音楽だけやっていたいし、好きなことはまじめにやるべきだし、言い訳とかはしないで。クソなことにいつまでも付き合ってられない、自分は」
――ひとを変えようとするよりは、断ち切っちゃったほうがいいと。
 「その人のために何か言ったりしたりしても、結局変わらなかった、っていうことがあって、それから“自分で気づかないと意味がないな”って思うようになりました。それは自分にも言えることだし」
――そういう考え方は冷たいって言われることもありませんか?
 「冷たいのかもしれないけど、自分の人生を考えたときに……誰の言葉だったか忘れちゃったんですけど、“ひとに何かしてあげる時間はない”みたいな。それを見たときに“あ、たしかに”って思って。自分は今、なりたいものややりたいことがいっぱいあるし、時間がない、ほんとに。一日がもっと長ければいいのにって思うし、それぐらい必死でやることがあるし、生きてるし。それを実感したら、ひとのことを考えてる暇はないなって。誰にも自分で気づくタイミングは必ずあるし、自分もあったし。だからなるようになるかなって思ってて、見捨てるとかそういうことじゃなく、自分で気づいたタイミングでまた出会えればそれはそれでいいし……っていう考え方なんですよね」
――冷たいというよりも、大事なものを見つけたんですね、NENEさんは。
 「そうですね。りゅうくんとの出会いもあるし、チームのみんなとの出会いもあるし、そこで気づいたものがすごい大きかったから。“これじゃいけない”と思って。〈Game Boy Life〉で“もう下は見ない”って言ってますけど、常に上だけ見ていたい。自分たちのことに集中してる感じですね、今は。もっと余裕が出てきたらできることは増えてくるのかもしれないけど、今はとにかく曲を作るのがめちゃくちゃ楽しいから、それに集中したいです」
――出会いって大きいですね。
 「ほんとそうです。りゅうくんと出会って、Automaticさんやマネージャーの肥後さんと出会って、『Mars Ice House』ができて、ライヴとかいろいろしてるうちに見つけた自分がいて」
――その出会いを総括するのは早いと思いますが、たった今はどういう意味があったと考えていますか?
 「うーん……大げさかもしれないけど、生きる意味っていうか。自分の人生を生きる意味が見つかったっていうか」
――よかった。
 「(笑)。そう思います、ほんとに。頑固さは変わってないけど(笑)、ほんとによく考えるようになった。あと客観的に自分を見れるようになったのもあるし」
――このアルバムはわたしです、って言い切れる出来になりましたか。
 「はい。『NENE』って感じです。自信作」
――そんなアルバムを聴いてRyugoさんはどう思いますか?
Ryugo Ishida 「すばらしいと思います」
――驚いたことは?
Ryugo Ishida 「全部ですかね。曲を作るたびに、どうしてそういうフレーズが出てくるんだろうとか、どうしてそういうメロディが出てくるんだろうとか。聴いたことないです。『NENE』って感じ。すごいです。ずっとスタジオに入って見てて、楽しいし、俺もやろうって思います」
――ゆるふわギャングの今後も楽しみです。目標はグラミー賞だと前に仰っていましたが、今年7月には上海で初の海外ライヴもありましたね。
 「すごいよかったですよ。みんな踊ってくれたし、歌ってくれる人もいて、うれしかった。アジアも、ヨーロッパも、アメリカも、全部でやりたいですね」
Ryugo Ishida 「準備はできてますから」
取材・文 / 高岡洋詞(2017年11月)
Fri HOMESICK x Erection presents
NENE『NENE』Release party

www.metro.ne.jp/
2017年12月22日(金)
京都 CLUB METRO
開場 / 開演 22:00
前売 3,300円 / 当日 3,800円(ドリンク代別途)

出演
LIVE: ゆるふわギャング / KID FRESINO / 鶴岡 龍
DJ: okadada / CH.0 / shakke-n-wardaa / Tomoh / dj colaboy


ゆるふわギャング 〜NENE album release live〜
www.maryjoy.net/artists/yurufuwagang.html
2017年12月26日(火)
東京 渋谷 WWW
開場 19:00 / 開演 20:00
前売 2,500円
e+ / ローソンチケット / チケットぴあ / iFlyer / WWW店頭


最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 角野隼斗 イメージ・キャラクターを務める「ベスト・クラシック100極」のコンピレーション・アルバムを選曲・監修[インタビュー] 色々な十字架 話題の“90年代ヴィジュアル系リヴァイヴァル”バンド 待望のセカンド・アルバムをリリース
[インタビュー] アシックスジャパンによるショートドラマ 主題歌は注目のSSW、友成空[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤
[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ
[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも
[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”
[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015