2010年末に本国アメリカでリリースされた
ニッキー・ミナージュのデビュー・アルバム
『ピンク・フライデー』は、彼の地で瞬く間に話題となり大ヒットを記録した。鮮烈なヴィジュアル・イメージもさることながら、
カニエ・ウェストや
エミネムら大物をフィーチャーしながら、物怖じせずに個性的なラップの応酬を繰り広げた彼女は、
レディー・ガガに迫るポップ・アイコンとして絶大な存在感を放っている。いよいよ『ピンク・フライデー』の日本盤リリースを2月23日に控えた彼女に話を聞いた。
――アルバム『ピンク・フライデー』のコンセプト、そしてこの作品を通じてあなたが打ち出したかったことを教えてください。
ニッキー・ミナージュ(以下、同)「このアルバムは、自分探しの過程というか、過去を振り返りながら、今の私はいったいどういうステップを踏まえて生まれたんだろうって見つめ直したものになってるわ。恋愛のことから、自分が疎外感を覚える時のこと、認められたいって思う気持ちや、いつもよりハードな態度でいかなきゃって思う時のこと、そして単純に騒いで楽しみたいって気分のことまで、パーソナルな物語を歌ってるの。誰かの日記を覗くような感じね」
――あなたの別人格キャラ、ロマン・ゾランスキーが大活躍する「ロマンズ・リヴェンジ」はアルバムの最大の聴き物だと思います。ロマン・ゾランスキーというキャラクターについて教えていただけますか?
「ロマン・ゾランスキ―は、言うならば派手なゲイの男の子かしら。彼は突拍子もなくてクレイジーなの。思ったことを口に出しちゃう人。あえてコミカルな要素を加えて、軽いノリの曲にしたかったのよ」
(C)Howard Huang
――その「ロマンズ・リヴェンジ」ではエミネムが客演していますね。彼との共演はいかがでしたか?
「エミネムはアイコンであり、ラップっていうジャンルを越えて、音楽界におけるレジェンドでしょ? 彼と仕事するのは本当に夢だったの。謙虚で優しくて、誠実な人だったわ。曲の制作過程でも積極的に意見を出してくれて、ちゃんと考えてやってくれてるんだなって感じられたし、この曲をヤバいものにしようって、時間もエネルギーもたくさん注いでくれたの」
――本作について、「セクシャルなイメージを削ぎ落とそうとした」と語っていますね。これは従来の女性ラッパーのイメージや在り方を大きく覆すものと言えますが、この発言の真意、そしてこうした考えに行き着いた経緯や背景を教えてもらえますか?
「以前は先輩の女性ラッパーを見ながら、成功するにはセックス・アピールをがんがん出していかないとだめなんだって思ってたの。でも自分の中でなにか違うって感じてた。私はみんなが思ってるほどセクシャルじゃないのよ。だからこそバカっぽい表情をしてみたり、自分の中のコメディアン的要素をどんどん表に出している。最初期を振り返ると、間違った選択をしたなって後悔することもあるわ。私っていう人間を間違った見せ方で表現したと思うから。今みたいに自分らしさを前に出すことで、普段は女性ラッパーの曲なんてほとんど聴かなかったような人にも相手にしてもらえるようになったし、なんといっても、女の子、とくに若い女の子に、もっとまっとうなメッセージを届けられるようになったと思うの」
(C)Howard Huang
――あなたはこれまでにいくつかの別人格キャラを生み出していますが、それは子供のころに数々の問題を抱えていたあなたが現実逃避をするために描いていた妄想が出発点になっているそうですね。そんなあなたの「妄想は私にとっての現実」という発言は、家庭環境などで悩みを抱えている女の子たちに大きな勇気を与えることになると思います。音楽活動を通じて、そういった女の子たちにどんなメッセージを伝えていきたいと考えていますか?
「伝えたいのは、“意志あるところに道は拓ける”って慣用句ね。3年前の私なんて、住む場所もなくて車で生活してたんだもの。貯金もなかったし。でも私には信じる力っていうものがあって、それにすがってた。神さまはきっとなんとかしてくれるって信じてた。あの頃の自分を考えると、本当に不可能なものっていうのはないんだなと思うわ。苦労している間は“いつ終わるんだろう”ってすごく長い時間に感じるんだけど、雲り空が晴れわたった瞬間にすべてがものすごい早さで一気に好転していくの。だから女性ファンにはそれを伝えたい。諦めちゃだめ、意志さえしっかり持ってれば、かならず道は拓けるからって」
――レディー・ガガや
リアーナ、
ケイティ・ペリーら、音楽的にもヴィジュアル的にも個性的で、挑発的な女性アーティストの活躍が目立ちます。そういう人たちの存在は刺激になりますか?
「もちろん。パワフルでクリエイティヴな女性が、私の目指していることを成功させているのを見るとすごくワクワクするわ。でもその中でも私は完全に独立してると思う。言うまでもなくラッパーってカテゴリーに入ってるのは私だけだし、女性ラッパーにはほかにはない戦いがあるから。彼女たちはストリートからの評価は必要ないし、すごく気の利いたリリックやパンチラインや比喩のことなんか考えなくても大丈夫だし。でも、ビヨンセのことはすごく尊敬してるの。彼女は作品に妥協はしないけど、彼女自身成長して変化を遂げてきたでしょ? メインストリーム度は上がったけど、しっかりバランスをとっているし、自分をブランドとして上手に見せている。まさにビジネス・ウーマンでしょ? 業界の女性の中で私のインスピレーションになってる人って言ったら彼女ね」
構成・文/房賀辰男(2011年1月)