ミュージシャン、DJ、プロデューサーというマルチな視点で新世代のヨーロッパ・ジャズ・シーンをリードする
ニコラ・コンテが、ジャズの名門インパルス・レーベルへの移籍第一弾となる新作
『ラヴ&レヴォリューション』を発表した。気心の知れたミュージシャンたちとの、リラックスした中にも緊張感あふれる演奏が楽しめるのはもちろん、過去10年にわたる自身の創作活動を総括するかのような、濃密な内容にも興味をそそられる。
――伝統あるジャズ・レーベル、インパルスへの移籍第一弾となる新作のコンセプトは?
ニコラ・コンテ(以下同)「新作はもともと、インパルスから発表されたあらゆる種類の音楽にインスパイアされたアルバムとして作ったものだったんだ。前のアルバムよりもオープンな雰囲気を持たせるために、自分の音楽の範囲を拡張して、ソウルなどの(ジャズ以外の)要素も盛り込んだけれど、そうした動きは60代後半のインパルスでも盛んだった。もちろん、インパルス以外のアーティストでも、自分にとって重要な人たちに捧げる曲も入れたよ。たとえば
マックス・ローチと
アビー・リンカーンに捧げた〈フリーダム・デイ〉や〈ブラック・スピリッツ〉、
マル・ウォルドロンに捧げた〈テンプル・オブ・ファー・イースト〉、60年代のジャズはアフロの影響も受けていたということで、
ジャッキー・マクリーンの音楽を取り入れた〈ガーナ〉なんかがそうだね。あと、インパルス絡みで言えば、ある時期の作品はサイケデリックなサウンドやフラワー・パワーの影響を強く受けていたから、新作でもサイケデリックな要素を意識したし、僕の大好きなギタリストのひとりである
ガボール・ザボを思わせるサウンドも取り入れたんだ。もちろん、僕は
コルトレーンや
ファラオ・サンダース、
アーチー・シェップといった人たちにも影響を受けている。音楽の“行間を読んで”もらえれば、曲のアレンジやサウンド作りにそういった要素を盛り込んであるのがわかると思うよ」
――「バントゥ」では、ひさしぶりに打ち込みのリズムを取り入れていますね。
「前作には、DJとしての僕の側面が欠けていたという意識があったから、スピリチュアルなサウンドを保ちながらエレクトロニック・ミュージックの世界でも実験しようと思ったんだ。じつを言うと、ほかにもサンプリングを使った曲があって、それは残念ながら、元ネタの使用許可が下りなくてアルバムに入れられなかったけれど、インパルスというのは、つねにその時代のサウンドを取り入れてきたレーベルでもあるから、打ち込みのドラム・パターンや60〜70年代の珍しいジャズ・レコードから取ったサンプルと、生演奏の楽器やヴォーカルを組み合わせる実験も重要だと思っているし、僕もそれをサイド・プロジェクトか何かで続けていくつもりなんだ」
――インドのシタールやアラブのウードといった、非ヨーロッパ世界の民族楽器も取り入れていますね。
「僕自身、そういった音楽も大好きだし、60〜70年代のインパルスについて言えば、民族音楽の要素を取り入れる実験が盛んに行なわれていたということも重要なんだ。今後はこの方向性ももっと探っていくつもりだよ。もちろん、表面的なサウンドだけじゃなく、こうした音楽のスピリチュアルな面にも目を向けているのは、音楽を聴いてもらえばわかると思う」
――当時の実験的なジャズには、アヴァンギャルドなものも少なくありませんでしたが、あなたの音楽はあくまでも、グルーヴィかつソウルフルな親しみやすいものですよね。
「アヴァンギャルドかグルーヴィ&ソウルフルかというのは、同じものの違う側面だと思う。ただ、僕の役目は音楽のメッセージをより多くの人たちに伝えることだと思っているから、売れ線に走ったりおバカな(笑)ことをやったりせずに、親しみやすいものでありながら、深い部分への注意も促せるような音楽作りを心がけているんだ」
取材・文/坂本 信(2011年5月)