国内外の良質な音楽を発信しているレーベル、catune/morecのオーナーでもある斉藤健介“9dw”が5年半ぶりとなるニュー・アルバム『Self Titled』を4月30日にリリースする。バンド形態からソロ活動へシフト後、初のアルバムとなる本作。バンドから培った生のグルーヴとインスピレーションに基づくクロスオーヴァー・ミュージックは、インディ・ロックの枠を飛び越え、クラブ・シーンへも届かんばかりの鮮烈な印象を持っている。 かつては
envyとともに、エモ/ポスト・ロック・バンドの雄としてアンダーグラウンド・シーンを支えたバンド、NINE DAYS WONDERが、斉藤健介のソロ・ワーク、9dwとして5年半ぶりに復活。最新アルバム『Self Titled』では、かつての激情と叫びは影を潜め、ファンク・ビートをベースにエレクトロニクスとヴィンテージ楽器の音色を融合させた、独自のクロスオーヴァー・ミュージックを展開している。サポート・メンバーの佐藤幸司(ds、perc)とともに制作の背景を訊いた。
「バンドだと、メンバーそれぞれの意向というものがあるし、脱退とかもあって、それにうんざりしていたというか。バンドの最後の頃は、僕が曲を持ってきて、それをただ演奏するだけの状態になっていた。だからまたバンドという形でやろう、という気持ちにはなれなかったんですよね。一人でやろうって決めてからは、自分自身のルーツ音楽をひたすら掘り下げていく作業でした。それこそ、親から聴かされていたような音楽から、自発的に聴き始めた音楽まで。そこにいろいろ繋がる部分とか発展させたい部分があって、それが作曲に反映されてると思う」(斉藤)
サポート・ドラムの佐藤は、15年来の盟友で、かつてはMOOCHYと斉藤の3人でヘヴィ・ジャンク・バンド、Evil Powers Meを組んでいた仲間でもある。
「音源を聴かせてもらった時に、すごく健ちゃんらしさがあったし、自分が関わることでよりよくできるんじゃないか、というイメージがあった」(佐藤)
本作の最大の聴きどころは、ヴィンテージのシンセサイザーやドラム機材まで、1年間かけて徹底的に吟味しつくしたサウンドにある。
「機材は全部が私物じゃないですよ(笑)。でもローズは父親から譲ってもらったもので、親しみがあったから入れたかった。あとはエンジニアの林田さんの影響も大きいですね、アナログ・シンセに強い方なんで。“こだわった”というより、“必要だから”という感覚です。生音も打ち込みも、アナログもエレクトロニックな機材も両方試して、よりいいものを選んでいった。どうミックスされているのかわからないような状態が理想だったんです」(斉藤)
「もう止まらなかったよね。レコーディングの最終日の前日にドラムセット買ったりしましたよ(笑)。“やっぱりこれじゃなきゃダメだ!”って。頭の中で一度その音が聴こえてしまったら、もうそれを避けては通れないから」(佐藤)
バンド時代から飽くなき音楽性の変遷を続け、ソロでもまた大きな進化を遂げた9dw。それでも彼は“ナイン・デイズ・ワンダー”というバンド名を、表記こそ変えたものの、今でも名乗り続けている。
「やっぱり自分の中で、ずっと納得がいってなかったんですよね。まあ、名前はどうでもいいという思いもリアルにあったりするんですが(笑)。以前ロックをやっていた時も、常に他のジャンルから影響を受けていて、その姿勢は今と繋がってますしね。今回は、ひたすら自分一人で掘り下げていく作業によって、やっと納得がいくところまで来れた。これが再出発点というか、これからはむしろ変わっていきたくないですね(笑)」(斉藤)
取材・文/齋藤奈緒子(2008年4月)