ブルーノート・レーベル・アーティストで、現在のジャズ・シーンを象徴するスター、
ホセ・ジェイムズをプロデューサーに迎えたニュー・アルバム
『Full Moon』は、
noonのデビュー10周年を飾るに相応しい意欲作だ。ジャズ・スタンダード・ナンバー、
カーペンターズや
ジョニ・ミッチェル、
スティーヴィー・ワンダーなどの名曲カヴァー、そしてボサ・ノヴァ作品が収録され、穏やかな彼女らしさが最大限に引き出された内容となっている上、ホセ・マジックの神髄ともいえる極上サウンドを味わえる。これまでの10年を振り返ってもらいながら、新作レコーディング・エピソードを聞いた。
――デビュー10周年、おめでとうございます。
「来たな〜って感じです(笑)。実は、数年前から10周年に向けて成長したいという意識が急速に高まっていました。もう、甘えられないな、もっと前に進まないといけないな、そんな自覚が芽生えていたと言いますか」
――10年前と比べて変わったなと思う部分は?
「私はもともと音楽活動をしていたわけではなく、ただ、歌がうたいたいという想いだけの無垢な状態でCDデビューしましたので、年々、見えていない細かい景色がどんどん広がっているように感じています。アルバムを作るごとに、以前出来なかったところをクリアし、さらに次の課題が見つかる……。まだまだですけれども、ヴォーカリストとして少しは成長しているんじゃないかなと思っています。そんな風に自分を冷静に観察する力も養われましたしね」
noon
“Full Moon”
――さて、新作『Full Moon』のプロデュースを手掛けているホセ・ジェイムズとの出逢いについて教えて下さい。
「今年の3月に〈ジャカルタ・インターナショナル・ジャワ・ジャズ・フェスティバル2013〉に出演し、その時、初めてホセさんのステージを拝見したんです。それはもう凄い衝撃でした。洗練されていてグルーヴも気持ちよく、迫力もあるんだけれど押しつけるところがひとつもない。一瞬で虜になってしまいました。ホセさんのバンド・メンバーでトランぺッターの
黒田(卓也)さんが、私のサポートをしてくださったギタリストの
荻原(亮)さんと親しかったご縁で、ホセさんともコミュニケーションが取れ、みんなでご飯を食べに行ったり、メール・アドレスの交換もしたりと素晴らしいひと時を過ごしたんです」
――その時に、アルバムのプロデュースをお願いしたのですか?
「いえ、感動の余韻を残したまま帰国し、1か月ぐらい、彼のアルバムを繰り返し聴いていました。ちょうどその頃、新作はどうしようかという話が出ていたので思い切ってホセさんに、“私がニューヨークでアルバムを作る時は何らかの形で参加して頂けますか?” とメールしたら、“だったら、プロデュースがしたいな” と返事を貰えたんですよ!」
――嬉しいお申し出ですね。
「しかも、特にお願いしたわけではないのに、ジャズ・フェスでお会いしたホセ・バンドのミュージシャン全員に声をかけてくれて、彼らとレコーディングすることが出来たんです。これには本当に感激しました」
――収録曲はnoonさんが決めたのですか?
「基本は私が歌いたい曲を選んでいます。ただ、ホセさんから〈セイヴ・ユア・ラヴ・フォー・ミー〉と〈ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー〉、それと
アントニオ・カルロス・ジョビンの〈白と黒のポートレート〉をリクエストされ、難しい曲ではありましたがチャレンジしました。じつは今回、ポルトガル語の曲を入れるつもりはなかったのですが、私がジャカルタでうたったボサ・ノヴァ・ナンバーを気に入って下さったのがきっかけで、ジョビンの曲を提案してくれたようです」
――レコーディングはニューヨークで行なったんですよね。
「リハーサルが1日、録音は3日間でした。予定よりも2日早く終わったのですが、それはホセの決断が日本のレコーディングに比べて格段に早いからです。正直、今のテイクは大丈夫だったかなと不安になることもあったのですが、私も潔くならざるを得なかった(笑)。結果、これで良かったと納得しましたしね。それと原曲を大事にする姿勢も印象的でした」
――というと?
「例えば、ポップス・ナンバーをカヴァーする際、私は自分の色にするためにサウンドやリズムを変えることが多かったのですが、ホセさんは、というより、ホセ・バンドの皆さんはオリジナルをベースに個性を出すのが当然という考え方なんです。余計なことはいらないという、それは原曲に対するリスペクトだと感じましたし、イコール、シンプルにしたいという私の求めていた世界と繋がっていたんです。そういったことをレコーディング中にヒシヒシと実感できたのも収穫ですね。ですから、ホセさんには心から感謝しています。本当にニューヨークへ行って良かったです」
――デビュー10年という節目に新たな発見があったということですね。
「深めていきたいことがより明確になりましたね。実はアルバム・タイトルに『Full Moon』と付けたのは“10年でひとつの満月になりました。丸に完成されました”という意味を込めているんですが、10年一区切りでゼロになった、つまり新月のようにまっさらになったという気持ちも含んでいます」