ノラ・ジョーンズ待望の4作目のニュー・アルバム
『ザ・フォール』が11月11日に発売になります。ジャクワイア・キングをプロデューサーに迎えバンド・メンバーも一新。初めて全曲ノラ・ジョーンズの作または共作曲となった、ノラ・ジョーンズ新章のスタートといえる本アルバム。リリースを記念したこの特別企画では、ノラのデビューから現在までを追いながら、その音楽的魅力をあらためて分析します。ノラ自身が語るインタビュー映像やキュートなPVとともにお楽しみください。
ブルーノートからのデビュー〜最新作『ザ・フォール』まで
ルーツ音楽へのまなざしと、拡大していく音楽的自由
ちょっとジャズ風味のシンガー・ソングライター!?
ノラのルーツ・ミュージックへのリスペクトと再構築
ノラ・ジョーンズのニュー・アルバム『ザ・フォール』は、これまでの彼女のアウトフィットとはやや趣を変えた、痛快なシンガー・ソングライター・アルバムだ。4作目を数えるこの新作で、ノラはプロデュースにジャクワイア・キングを起用。キングは
トム・ウェイツの
『ミュール・ヴァリエーションズ』でエンジニアを担当し、以来、ウェイツとの関係を保ちながら、
キングス・オブ・レオンなどのオルタナティヴ・アクトを手がけてきたエンジニア兼プロデューサーだ。ノラはアルバムでトム・ウェイツの「ロング・ウェイ・ホーム」を取りあげたことがあるし、彼女の作風にも、時おりウェイツの影響がはっきり認められたりする。ノラがウェイツの熱心なファンだということを知る人も多いだろう。新作『ザ・フォール』では、そんなウェイツのアルバムにも通じる、オルタナティヴ風味の独特の音響的空間を醸しながら、ノラが新たなシンガー・ソングライター像を打ち出したアルバムとなっている。一方で、彼女らしいメロディックな作風はしっかりと健在。そんな程よいプロダクションが、ノラにとてもよく似合っている。
モダン・ジャズの名門レーベル、ブルーノートから、アルバム
『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』でデビューしたのは2002年のこと。チャーミングでありながらも毅然とした歌いっぷりと、ノラと友人たちの書く新しい世代による優れた歌を掲げながら、彼女はたちまち世界中で熱い支持を集める。翌年のグラミーでは、アルバム・オブ・ザ・イヤーはじめ5部門でウィナーに輝いた。インド音楽の大家、
ラヴィ・シャンカールを父に持つというバイオグラフィ上の話題性とはほとんど無関係に、
『フィールズ・ライク・ホーム』(2004年)、
『ノット・トゥ・レイト』(2007年)と続いたアルバムのセールスは、累計で3,600万枚に達した。
ピアノを弾き語り、ちょっとジャズ風味のアコースティック・フィールを持つ、アダルト・オリエンテッドなシンガー・ソングライター……。一般的にノラ・ジョーンズはそんなイメージを持たれるアーティストだが、僕はそんなふうには見ていない。ビリー・ホリデイやビル・エヴァンスを好み、大学でジャズ・ピアノを学んだという経歴は、確かにジャズとの深い関わりを物語るけれど、ノラのよさは、むしろR&Bや、フォーク、カントリーなど、アメリカ南部の伝統的なルーツ・ミュージックを、自分たちの世代の感性で、自由に再構築している点にあると感じている。ノラの音楽には、こうした音楽に対する心からのリスペクトが確かにある。
プロデューサーからバンドまでを一新しギターを手に自作曲で打ち出す明確な個性
そんなノラの感性を育んだのは、出身地のニューヨークではなく、むしろ4歳から学生時代までを過ごしたテキサスだったように思う。何年か前、コーヒー・チェーンのスターバックス限定でノラの選曲によるコンピレーション盤が発売されたことがあったけれど、そのCDの
ジョニー・キャッシュ、
ウィリー・ネルソン、
ルシンダ・ウィリアムス、
ギリアン・ウェルチといった新旧にわたるカントリー / フォークなチョイスにはちょっと驚いた。このほか、
レイ・チャールズ、
エタ・ジェイムス、
アレサ・フランクリン、
ダニー・ハサウェイといったソウル・ナンバー、もちろん
ビリー・ホリデイや
ニーナ・シモンといったジャズ・ヴォーカルに加え、ザ・バンドまで収めた選曲の妙は、そのままノラのバックグラウンドの縮図を見るような思いがした。
これまでのアルバムやライヴDVDにも、“私のもうひとつのルーツはここ”と言わんばかりのレパートリーがいくつもある。
ハンク・ウィリアムス、
グラム・パーソンズ、そしてテキサスの伝説的なシンガー・ソングライターの
タウンズ・ヴァン・ザントやビル・キャラリーの作品まで。2006年にリリースした
リチャード・ジュリアンら仲間たちとのバンド・プロジェクト
“リトル・ウィリーズ”は、ノラのそんな志向が全開した、とても楽しいアルバムだった。
しかしそうしたルーツ音楽へのまなざしが、都市的、とりわけニューヨーク的な作法によって表現されるのが、ノラの誇るべき特質だ。学生時代に訪れて刺激され、そのまま拠点としたニューヨークの気風は、ノラの音楽を無用なカテゴライズから解き放った。ジャズ、そしてトム・ウェイツからハンク・ウィリアムスまでを行き来するノラの感性に、最大限の自由を与えられる街は、ニューヨーク以外になかったろう。そして彼女の成功は、
エイモス・リーや
プリシラ・アーンら、新世代のシンガー・ソングライターたちに、老舗のブルーノートが門戸を開放するきっかけともなったのだった。
ノラ・ジョーンズは新作『ザ・フォール』で、彼女の音楽的自由をさらに拡大させている。プロデューサーとなったジャクワイア・キングは、
マーク・リボーやジョーイ・ワロンカー、ジェイムス・ギャドソンら、新たなサポート・ミュージシャンを導入。今回はリー・アレクサンダーはじめ、レギュラー・バンドの面々が参加していない代わりに、ノラの新世代のシンガー・ソングライターとしての個性を明確に打ち出すことに成功している。全曲がノラ単独の自作、あるいは
ライアン・アダムス、
ジェシー・ハリス(ノラの代表曲「ドント・ノウ・ホワイ」の作者)らとの共作。ファースト・シングルとなった「チェイシング・パイレーツ」ではクールでモダンな都市型シンガー・ソングライター像を描き出し、ライアン・アダムスとの共作曲「ライト・アズ・ア・フェザー」では、バラッドにも似た古典的抒情をにじませる。ノラはピアノやウーリッツアー(エレクトリック・ピアノ)のほか、近年のステージでたびたび披露しているギターも弾いている。最近はギターで作曲する機会が増えたそうだ。ノラ・ジョーンズはまたひとつ、新たな自由を獲得したようにみえる。
文/宇田和弘
映像で楽しむ! ニュー・アルバム『ザ・フォール』
※画像をクリックすると動画がご覧になれます。
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