ニューヨーク出身のエスコバー兄弟による個性派ユニット、ナッシン・バット・ストリングスが5月21日にアルバム『ストラグル・フロム・ザ・サブウェイ・トゥ・ザ・チャーツ』で本邦デビュー! クラシックの名門ジュリアードでヴァイオリンを学んだという2人のルーツは、ライフ・スタイルとしてあったヒップホップやソウル。アグレッシヴな彼らの演奏やラップはYouTubeで全米中に流れ、果てはブッシュ大統領に招かれてホワイトハウスでも演奏もしたというエピソードも。そんな彼らにアルバムについて話を訊いた。 ニューヨークはクイーンズ出身で、ライフ・スタイルは当然のことながらヒップホップ。が、義務教育時から兄弟揃ってヴァイオリンを手にし、10代半ばにはジュリアード音楽院で本格的にクラシックとヴァイオリンの基礎を学んだという、異色のユニットがナッシン・バット・ストリングスだ。
「言わば僕たちの音楽は、
NASが
バッハに出逢うような感じに必然的になったのさ」
(トーリー・エスコバー) 彼らの音楽性の特徴として印象的なのが、クラシックのコンポーザーでフェイヴァリットに挙げている
ヘンデルや
バッハといったバロック、
ヴィヴァルディや
ベートーヴェンといった古典派からの影響。どこか憂いを帯びた悲しげな曲調は単にメロディ・ラインをなぞったものではない。
「そう感じてくれるのは嬉しいよ。アメリカでそんなふうに言われても、そうでもないんだけど、日本の人たちは音楽の深みを分かってると思うから嬉しいよ。ヒップホップにバロックの要素を融合するのは、今の僕らにとって絶対、必要な表現の仕方だね」(トーリー)
加えて彼らのヒップホップとしてのスタイルは伝統的ですらある。その背景には今、21歳と19歳という若さに似合わぬ嗜好が……。
「ブレイクビーツやドラム・プログラミングには昔の音源を使ってて、実際に過去の作品『BROKEN SORROW』では60年代のレコードの音を細かく刻んで、ドラムの音を作ったんだ。60年代に限らず、70年代も80年代の音楽も好きなんだけど、それは自分が音楽作りを始めたときに、他の人たちがどうやっていたのか研究するために聴いていた部分もある。その結果、80年代のはパ―ティで盛り上がるような感じとか、70年代は戦争もあったし悪い時代だったがゆえに物語を綴った素晴らしい歌が一杯あるし、60年代はサイケデリックでハイになる感じがあるから全部好きさ」(ダミアン・エスコバー)
頼もしい音楽観を持った2人。日本ではようやくデビュー・アルバムとなる『ストラグル・フロム・ザ・サブウェイ・トゥ・ザ・チャーツ』がリリースされるが、本国ではすでにエミー賞での受賞や、バディ・リビンストン監督の新作でサウンドトラックを再び担当するなど、斬新なスタイル以上に、その音楽性で引く手数多な状況のようだ。
「でもサブウェイで演奏してたことが結局は土台になってるんだ。マンドリン奏者や、スプーンとかキッチンにあるようなもので音楽を作ってる人とか、ホントにいろんな人がいたから、そういうとこから得たものは大きいよ。そういうのがフツウだと思って僕らもデビューしたしね」(ダミアン)
「喧嘩したり盗みに遭ったり、捕まったり……すべて経験したよ。だからこの1stアルバムはタイトルどおり僕らの人生のサントラだね」(トーリー)
取材・文/石角友香(2008年4月)