自由に踊る音楽――
踊Foot Worksの1stフル・アルバム『
odd foot works』は、音楽そのものが自由に踊っている。そして聴いた人間も、勝手気ままに踊り出したくなる。踊Foot Worksは、Pecori(MC)、Tondenhey(ギター / トラック制作)、Fanamo'(コーラス / DJ)、SunBalkan(ベース)から成る。この4人が作り出す音楽は、天真爛漫なダンス・ミュージックとでも言えようか。インタビューからも垣間見える、4人の伸びやかさ、気取らなさは、自由奔放な音楽の魅力に直結している。昨年12月に、ライターの三宅正一が主宰するレーベル“Q2Records”からEP『
Arukeba Gravity』を発表、そこにリミキサーとして参加したGiorgio Givvnが本作のミックスを手掛けた。そのことも本作を語る上で欠かせない。
『odd foot works』
――まず、踊Foot Worksの音楽がどのように作り上げられているのかという話を聞かせてもらいたいです。ドラマーはいなくて、基本的にTondenheyさんがビートを作っています。そのビートも激しい展開をみせますよね。そこで、Pecoriさんのラップの身体能力の高さが際立っています。
Pecori 「ラップが乗るかどうか以前に、ビートがカッコイイかどうかを考えていますね。今回送られてきたトラックは全部好きだったし、カッコイイと思えた。ラップの乗せ方が難しいって思うのもあったんですけど、そこは個人的な挑戦という意味でやってみましたね。まずビートがカッコイイかどうか、ですね」
Fanamo' 「Pecori以外にラッパーの友達はいないし(笑)、そこまでヒップホップを深く聴いてこなかった自分たちにもPecoriのラップはすんなり入ってくるんですよね」
Tondenhey 「それと言葉遊びがメッチャ面白いと思う。人名のあとに物質名がくるみたいな言葉遊びは、僕の親父曰く“
佐野元春っぽいね”って」
SunBalkan 「“彼女はプラスティック”(〈NDW〉)っていうフレーズとか天才だなって思って」
Pecori 「Tondenheyの親父に“天才だね”みたいに言われたので、“俺、天才なんだ”って気持ちで頑張ってます(笑)」
――ははは。あと、サビ、フックの作り方が絶妙だなと。メロディと歌詞のどちらも大きいと思うんですけど、それまで混沌とした展開をみせていても、サビに入ると、ラブ・ソング的、ポップス的な高揚感がグワッとくる。
Pecori 「直接的に愛について歌っている曲は数曲だと思うんですけど、個人的には、音楽をやる上で根底に“LOVE & PEACE”はあると思います」
――“LOVE & PEACE”という点では、「大家族」はそういう曲じゃないかなと感じました。チャンス・ザ・ラッパーを彷彿させるような、ゴスペル的要素もありますよね。Pecoriさんはチャンス・ザ・ラッパーと同い年なんですよね? Pecori 「はい。俺は“Pecori世代”って呼んでます!」
Tondenhey 「Pecoriから〈大家族〉っていうタイトルの曲を入れたいっていうのをけっこう前から言われてたんです。僕はだから、〈大家族〉というお題からトラックをどうカッコよくするかを考えて作りました」
Pecori 「俺は基本、曲を作る時にタイトルから決めたりしたいんです。コイツ(Tondenhey)と次のアルバムのテーマとかタイトルを決めとこうよって話をしたんです。そこで、〈大家族〉と1曲目の〈時をBABEL〉のタイトルが決まった」
Tondenhey 「その時に出たタイトルで使ってないのは、“エビフライ”ってやつですね(笑)」
SunBalkan 「今回のアルバムではそれぞれが同じぐらいの数のトラックを作る予定だったんですけど、けっきょく9曲中6曲はTondenheyがトラックを作りましたね。俺は1曲だけ作りました。俺、ベースがホントにヘタクソで。女子高生が基礎もわからないままメッチャ頑張って練習した感じなんです(笑)。その野性的な部分を強く出していきたいなと」
Fanamo' 「〈時をBABEL〉は僕がトラック作って元々シンセベースも入れていたんですけど、やっぱりSunBalkanにベースを弾いてほしくて頼んだんです。でも僕としてはその出来が“ウ〜ン、もうちょっと頑張ってほしい!”って感じでチョイ揉めしましたね(笑)」
SunBalkan 「だから、もう唸りながら弾いてますよ。“ウ〜〜!”って」
Fanamo' 「でも、曲全体のグルーヴはやっぱりSunBalkanが作るんですよ」
Tondenhey 「そう、SunBalkanのベースが最後の最後で曲をグッとこさせるとこまでちゃんと持ち上げてくれる。それで完成する」
SunBalkan 「だから、楽曲のストーリー性をメッチャ意識して弾いてますね。自分で言うのもなんですけど、〈Bebop Kagefumi〉のベースはメッチャいいと思いますよ! ベースがなかったら曲のストーリー感がぐちゃぐちゃになるよって」
一同 「ははははは!」
SunBalkan 「〈milk〉とかもう本当に唸り散らしてましたね。“ウ〜〜!”って!」
――ウ〜〜!って(笑)。ちなみに「milk」に参加されている女性ヴォーカルはどのような方なのでしょうか?
Fanamo' 「
中村佳穂さんってミュージシャンの方で、表現力のあるシンガーを客演に迎えたいと考えた時に真っ先に浮かんだのが彼女でした」
――なるほど。先ほど話に出た「Bebop Kagefumi」はイントロのラテン風のリズム・ギターとか、RIP SLYMEの「楽園ベイベー」のような心地良さもありますよね。 Tondenhey 「そうですね。僕があのイントロのギターの技法を練習して、“あ、できるようになった!”って感じで入れたら〈楽園ベイベー〉になっちゃったっていう(笑)。でも、元々は
ゴールドリンクの曲とかを参考にして作ったんですよね」
――ああ、そうなんですね。ここまでの話を聞いていて気になったのが、バンドを統率するリーダーのような存在はいるんですか?
Fanamo' 「リーダーはいないんですよ。Tondenheyが書いてきた曲、作ってきたトラックに関しては彼が発言権を持ってるし、ラップはもちろんPecoriだし、ライヴになるとSunBalkanが“ここはもっとこうしたい”って意見を言いますね。僕がいちばん年上なんですけど、引っ張ってる感じは全然ないですね。みんなの意見が尊重されると言えばそうなんです」
『Arukeba Gravity』
『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ??』
――Giorgio Givvnがミックスで参加しているのは重要ですよね。彼は、昨年12月に踊Footがリリースした『Arukeba Gravity - ep』で「Tokyo invader」のリミックスをやっていますね。
Fanamo' 「Givvnを呼んでくれたのは三宅さんですね。で、ミキサーというよりはアレンジャー的な仕事をしてくれたんです。僕らが作った音をカットしてチョップして、送り返されてきた音が全然違うものになっていた」
Tondenhey 「根本は変わっていないんですけど、音がすごく良くなって、強調したい部分がガッと浮き出た。例えば、ヴォーカルに入れるエフェクトとか、サビに入る時に抜く音とかいろいろやってくれましたね。でも、Givvnさんの曲になっているわけじゃないのがまたすごくて」
Fanamo' 「Givvnがミックスしたあとの〈NDW〉を聴いて、Givvnの家のキッチンで踊ったもんね(笑)」
Tondenhey 「僕とFanamo'はGivvnさんのご自宅にもうかがったんです。音楽を作っている時に笑えるかどうかは僕にとって重要なんですけど、Givvnさんにもそういう部分があるんです。“オイシイ”と思ったところで大声で笑うんですよ。“ギャハハ!”って。作業も終盤でもう夜中だっていうのにメッチャ笑ってましたね」
Fanamo' 「しかも、熊野(功雄)さんマスタリングしてくれて。熊野さんもヤバいっす」
Tondenhey 「作業している時に熊野さんが自作したケーブルがちょっと折れてたんですよ。で、電圧が一定にならなくて。そういう時に電圧を見ながら曲を流したり、電気の流れを良くする液体をジャックに塗って、“よくなったね”とおっしゃってて」
Fanamo' 「ドープな音ってこういうところから生まれるんだって勉強になりましたね」
photography by Shun Komiyama
――なるほどー。踊Foot Worksの楽曲は、自分たちの好きな、いろいろな音楽を目一杯ぶち込んでそれでも破綻しないのが本当にすごいなと思って聴いてました。好きな音楽を作る音楽にすべて反映させようとするのは、実はとても難しいことじゃないですか。
Tondenhey 「嬉しいですね」
――「逆さまの接吻」なんかはロックンロールっぽさがありますね。バラードもありますけど、一貫しているのはダンス・ミュージックとして成立していることだと思うんです。その感想についてはどうですか?
Pecori 「ダンス・ミュージックは大好きだし、踊るのも好きですね。中学か高校ぐらいの時に、良い曲か、良い曲じゃないかを、首が振れるか振れないかで判断している時期がありましたね。それと同じで、踊れるか、踊れないかは一つの物差しになってるところはありますね」
――みなさんはクラブに踊りに行ったりしますか?
Tondenhey 「大学の時に死ぬほど行きましたね。渋谷のVISIONとか行きまくりました。ハウスのイベントも行ったし、ヒップホップのイベントで、奥の方のフロアでR&Bがかかってるようなパーティとかにも行って楽しんでました」
Fanamo' 「僕は地元の島根で、高校生ぐらいの時に、学校終わって制服のままクラブに行ってましたね。大人もそういう高校生を面白がってくれて。そこで音楽の遊び方を覚えた感じですね。今32歳だから15、16年前、2002、2003年ぐらいの時ですかね」
――あ、そんなに他のメンバーより年齢が上なんですね?!
Fanamo' 「そうなんです。だからSunBalkanが12歳の時に俺は22歳ですね(笑)」
一同 「たははははっ!」
SunBalkan 「だから、音楽に関してこういうジャンルはこうじゃなきゃいけないという考え方がないんだと思います。明らかにあり得ないモノが一緒くたになってても、1回やってみたらいいじゃんって気持ち、スタンスが踊Footの音楽には出てるんじゃないかなと」
Fanamo' 「だから、みんなに共通するのは“こうじゃねえとヒップホップじゃない”とか“ロックじゃない”とか、そういう音楽の聴き方、音楽への接し方ではないんです。アイドル・ソングもポップスもヒップホップもソウルも、良いと思った曲が良いっていう人たち。だから普通にリンクできるのかなと。“〜っぽい”って曲でもPecoriがラップしたら踊Footの音楽になるんですよね」
Pecori 「でも俺は、“こうじゃねえとヒップホップじゃない”とか“ロックじゃない”っていうのは、カルチャーとしてはカッコいいことだと思うから否定はしたくないんです。ただ、俺たちの性に合ってないってだけなんです。“踊Footみたいなヤツいなくない?”と言われたいし、言われていきたい。そういう意味で自由でいたいですね」
取材・文 / 二木 信(2018年4月)