“鍵盤の貴公子”と称されるピアニストの
大井 健 は、ふだんピアノ音楽やクラシック音楽をあまり聴かない人たちに向けて、さまざまなコンサートを行なっている。「クラシックのすそ野を広げたい、クラシックにもっと親しんでほしい」と心から願う彼は、録音でもそのコンセプトを生かしたアルバムを制作。これまで『
Piano Love 』と題した録音を2枚リリースしている。ここでは、まだクラシックになじみのない人たちに向けて、聴きやすく親しみやすい旋律に彩られた名曲の数々を演奏し、ピアノ音楽の楽しさを伝えている。
そんな大井が新たな視点を見据え、『Piano Love』シリーズの集大成となるコンサート&ドキュメンタリー『Piano Love The Movie〜Music Documentary Film〜』(
Blu-ray /
DVD )を作り上げた。ここには自作の新曲「Departure」を含め、
ショパン の「ノクターン」や
ドビュッシー の「月の光」などの名曲を東京都庭園美術館で演奏する様子が収録され、さらにふだんの大井の素顔、ピアノ演奏のウォーミングアップ風景や作曲するときのプライベートな姿も映し出されている。
VIDEO
――この映像はすばらしい場所での演奏風景が印象的ですが、東京都庭園美術館における演奏はいかがでしたか?
「本当にすばらしい経験になりました。美しい庭園を臨む場所で、よく響くところでした。場所柄、鳥の鳴き声が入り撮り直したことはありました(笑)。おかげで緊張感だけでなく和やかなムードで撮れましたよ」
――今回の選曲は、どのように考えられたのですか?
「デビュー当初は、メランコリックでロマンティックな作品を主軸に置いていました。自作もそうした雰囲気の曲が多かったのですが、ツアーを行なったときに“もっと元気な曲が聴きたい”“明るい曲が聴きたい”という希望がお客さまから多く出たものですから、新曲の〈Departure〉はそれを意識して作りました。クラシックの世界は本当に市場が狭いんですね。僕はそれを少しでも広げたいと思って、プログラムを考え、自作を書き、ピアノ・デュオなどの活動も続けています」
――ソロ・デビューする前は、オペラユニット“レジェンド(LEGEND) ”の専属ピアニストを務めていらしたんですよね。どのような活動内容でしたか。 「オペラをうたう5人の歌手たちのコレペティートル(※オペラ歌手の稽古でオーケストラを一人で表現し、指揮、指導までするピアニスト)を行なう仕事でしたが、音取りからリハーサル、本番まですべての役割をひとりで担っていましたから、大変でした。10年間それを務めたので、初見(※初めての楽譜を見て、即座にうたったり、弾いたりすること)が強くなりましたね。クラシックばかりではなく演歌や民謡などもあり、1,000曲以上演奏しました。コンサートが年間100回ほどありましたから、体力的にきつかった。なにしろ、オペラ歌手5人の声量はすごいものがありますから、それを支えられるようにピアノを弾かなくてはならない。ちょっと指を痛めた時期もありました。10年経過したころにソロ・デビューのお話をいただき、最初はお断りしたんです。でも、望んでくださるかたがたの多くの声にやってみようと決心し、『Piano Love』が始まったわけです」
――それでは、デビュー録音はさぞ緊張されたでしょうね。
「ホント、大変でしたよ(笑)。当時はまだレジェンドの仕事も並行していたため、コンサートの合間を縫って録音させていただきました。ただし、体力には自信があるんです。ピアニストは体力勝負ですから……。いまもジムに通ったり、水泳したりしています。つい最近、ヨガも始めました。これが非常にいい効果をもたらしています。呼吸法やストレッチを行なう形ですが、腕の可動域が広がるので、ピアニストに適していると思うんです。みんなに薦めようと考えているんですよ(笑)」
――実際に行なって、効果を実感しているのは強みですね。今後はどのような活動がメインになりますか?
「僕は、コンサートでもよくみなさんにお薦めするんです。有名な作品を聴いていただいたら、同じ作曲家のこういう作品もありますよ、と。ピアニストのソムリエのような感じで、この曲もテイスティングしてみて、この曲はいかがですかというように……。これからも曲のエピソードや歴史的背景、聴きどころなどのトークを交えながら、さまざまな作品を紹介していきたいと思っています」
――新譜の映像に合わせたプレミアムコンサートが2月14日にHakuju Hallで予定されていますが、そのときもトークを行ないますか?
「トークも楽しみにしてくださいね。僕の趣味は読書ですが、トークに反映されることもたくさんあるんです。最近読んだ本ではトーマス・マンの『魔の山』が強い印象となって残っています。最後に主人公が、
シューベルト の『菩提樹』を口ずさみながら第一次世界大戦へと出向いていく。ミラン・クンデラの本など、よく文学にはクラシックが登場しますが、そういう本は印象に残りますね。ピアニストでは、
グリゴリー・ソコロフ に魅了されています」
――ピアニストになろうと思ったきっかけは、何かいい演奏を聴いたからでしょうか。
「きっかけは、海外で受けたコンクールの優勝の副賞としていただいたコンサートのチケットで聴きにいったリサイタルです。ショパンの〈舟歌〉を聴き、深く感銘を受け、ピアニストの道を本格的に目指すようになりました。中学生のときに買ったCDで
ラフマニノフ のピアノ協奏曲第3番を聴き、すぐに楽譜を買い求め、自分でも演奏したいと思ったことも影響しています。いま、コンサートでトークをする場合も、自分が最初に聴いたクラシックの名曲に魅せられたように、みなさんにお気に入りの曲を見つけていただければと考えています」
――ピアニストのソムリエとして、新たな道を切り拓いてください。期待しています。
取材・文 / 伊熊よし子(2018年1月)
大井健 Piano Love The Movie プレミアムコンサート 2018年2月14日(水) 東京 富ヶ谷 Hakuju Hall 開場 18:30 / 開演 19:006,000円(税込 / 全席指定) ※お問い合わせ: 株式会社カンパニーイースト 03-6427-0162(平日11:00〜17:00) 鍵盤の貴公子 大井健 ソロコンサート“Piano Love” 2018年3月3日(土) 山梨 甲斐 KINGSWELL コンサートホール 開場 14:30 / 開演 15:004,500円 全席指定 (税込) ※お問い合わせ・チケット取り扱い: キングスウェル 0551-20-0072(10:00〜18:00 / 火曜定休) 鍵盤男子 WhiteDay感謝祭 in 横浜 2018年3月13日(火) 神奈川 横浜 ホテルニューグランド「ル・ノルマンディ」 受付 17:30 / ディナー 18:00 / ショー開演 19:1520,000円 ※食事 / グラスシャンパン1杯 / ショ― / サービス料 / 税込 ※お問い合わせ・予約: カンパニーイースト 03-6427-0162(平日 11:00〜18:00) ホテルニューグランド 045-681-1841