盛り上がる日本のアイリッシュ / ケルト音楽シーン[前編] インタビュー: 豊田耕三(O’Jizo)

O'Jizo   2017/04/28掲載
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O'Jizo
『Via Portland』
 アイリッシュ / ケルト音楽は以前から日本で根強い人気があり、チーフタンズアルタンをはじめとする数多のバンドが日本を訪れてきた。リスナーの層が厚いのはもちろん、聴くだけでは事足りずに演奏する人も多く、各地で定期的にセッションが行なわれ、アイリッシュ / ケルト音楽をベースにしたみずからの音楽を作り出しているバンドも多い。そんななか、このところ若い世代が充実のアルバムを立て続けにリリースするなど、シーンが盛り上がっている印象がある。
 日本のアイリッシュ / ケルト音楽シーンはどうなっているのか。今ひとつ実像の掴みにくいその動きを前後編の2回にわけてお届けします。前編では、シーンの中心人物の一人であり、ニュー・アルバム『Via Portland』を出したばかりのバンドO'Jizoのリーダー / フルート奏者でもある豊田耕三に話を聞いた。(編集部)
 前編  後編 
インタビュー: 豊田耕三(O'Jizo)
 わが国のアイリッシュ / ケルト音楽シーンのトップ・バンド、O'Jizoが6年ぶりの新録アルバム『Via Portland』を発表した。北米におけるアイリッシュ・ミュージックの拠点の一つ、オレゴン州ポートランドで地元のミュージシャンを交えて録音したものだ。トリオとしてのキャリアの総決算であり、次の段階への跳躍台でもある。シーン全体の要にもなってゆくだろう。そこには秘密の鍵があるのか。リーダーでフルート奏者の豊田耕三はにやりとした。
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撮影 / Satoshi Eto
――そもそもポートランドで録音した経緯は?
 「ポートランドにはもともと興味があったんですが、ポートランドに本社があるスポーツ・ウェア・メーカーからスポンサーのテレビ番組のテーマ曲をたまたま依頼され、ぼくが作曲、O'Jizoで録音して提供しました。その映像を見てポートランドにますます惹かれたんです。一昨年夏、ロサンジェルスに住んでいる母親に呼ばれた際、時間があってポートランドに遊びに行きました。事前に友人などに訊いて計画を立てておいて、5日間毎日セッションに行ったんです。ケヴィン・バークが住んでいたりして、音楽のレベルが高いんですね。最初に飛び込んだベテランたちのセッションにいたギタリストのナンシー(・コネスク)さんが気に入ってくれて、家にも招かれ、ギグにも誘われました。旦那さん(マイク・ドーリン)がすぐれたジャズ・ギタリストで、世界的なギター・メーカーでもあります。 帰国後、次のアルバムを計画している時、トシバウロンがポートランドで録音したらと提案してくれたんです。ダメもとで、エンジニアやスタジオについてとりあえず訊いてみたら、ナンシーさんの旦那は優秀なエンジニアで、家の地下にはスタジオがある。うちに泊まって録音すればいい、ということで即決。ついでに近くでフェスティバルもあるからと言われて打診してみたらすぐ出演OKが出ちゃいました」
――アルバムのゲストは地元の人たち?
 「フィドル(Erik Killops)とイーリアンパイプ(プレストン・ハワード)はセッションで仲良くなった同世代の人たちです。歌っているのはナンシーさん」
――パーカッションで渡辺庸介さんが参加していますね。
 「パーカッションはやはりほしいと思っていて、渡米前からライヴにゲストで参加してもらっていました。最初からそれを念頭に入れて書いた曲もあります」
――オリジナルを作るときにはどういうことをめざしているんですか。
 「〈Trail from Portland〉は例のテレビ番組のテーマ曲をふくらませたんですが、候補として出した数曲の中にもう一つ最後まで残った曲があり、それを使いたかったんです。お手本にしたのはジェイムズ・バーンズという吹奏楽の有名な作曲家の作品です。テンポが速く始まり、中間にゆっくりしたパートがあり、最後に頭の速いメロディと中間のゆっくりしたメロディが対旋律として複雑にからみあう。裏ではすごく速く動いて、前ではゆったりのびのびやっている、というものです。通して聴いたとき、映像が浮かんで、映画を観たような気分になれることを狙いました。 ぼくはその時自分ができる技術的限界に挑戦します。一瞬でもいいから新しい音を作りたいんです。今までのアイリッシュでは絶対に感じない拡がりを出したい。なので、曲を作ってはみたし、演奏もできるけれど、ライヴとなると実際に演奏できるか危ういこともあります。もちろん、やっていくうちに楽にできるようになるから、自分の技術を引き上げようとする意図もありますね」
――伝統曲はオリジナルとの並びを考えて選曲していますか。
 「伝統曲はマイキィ・オーシェイ(日本在住のフィドラー)と一緒にやることを前提にして、セットを組んでいます。全体の構成としては行き当たりばったりです。とはいえ、この録音に向けてオリジナルを結果的には3人で4曲書いて、それを柱として、その流れに入る伝統曲を選んでいる。なので、ライヴではよくやっているけど、ここには入っていないものもあります」
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撮影 / 廣田達也
――録音はしたけれど、使わなかった曲はないんですか?
 「ないです。個別に部屋に入って、お互いの音が聞こえるようヘッドフォンをつけて、せーので録音しました。基本的にはベースとなる長尾のギターがOKになったら、ほかのを修正してゆく形です。もっとも、一発でOKになったのもあれば、後からギターを修正したものもあります」
――ゲストの役割が大きいようですが、今後もトリオでやっていくんですか。
 「準レギュラーのような形になるかもしれませんが、できるだけナベさん(渡辺庸介)もマイキィも入れてクインテットにしていきたいと思っています。5人で初めてできることがたくさんありますし、音楽に広がりも出ますし。ただ、ぼくとしてはトリオとクインテットと両方やりたいんです。ずっとクインテットだと、旋律担当であるぼくが甘えてしまう気がするので。旋律が一人であるからこそ鍛えられるところがあります」
――目標としているミュージシャンはいますか?
 「影響を受けたということではまずダーヴィッシュ。それからラウーです。中村(大史)がブズーキを持つとダーヴィッシュになり、アコーディオンを持つとラウーになる感じ。〈Fogs〉はラウーとKANを念頭に書かれてます。あの曲はブライアン・フィネガンが憑依しないとぼくも吹けません。 ぼくが目標としているのはとにかくマイケル・マクゴールドリックです。彼のオリジナルが出ると、伝統曲が一般的なアイリッシュのセッションにごく当然のようにとりいれられてゆくのもすごい。このCDを作ってからあらためて彼の録音を聴くと、シンプルな美しさに圧倒されて、まだまだ遠いなあ、と思います」
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撮影 / Satoshi Eto
――バンドとして窮極の目標は何ですか?
 「とくにないですね。O'Jizoとして忘れられないものになってくれれば満足です。そういう意味では、O'Jizoの曲がスタンダードになりうることも否定できませんが、そうなってもらいたいような、もらいたくないような……」
――録音と同時に参加したフェスティバルはどんなものだったんですか。
 「〈Galway Bay's Celtic Music Feis〉というものです。ワシントン州に入ってすぐのところにGalway Bayというパブがあり、そこが主催です。すごく大きなパブで、ライヴのできるスペースが4ヵ所ぐらいある。それと近くのコンヴェンション・センターが会場でした。出演者の音楽はポーグス・タイプのノリノリな歌ものがメインです。楽器はブルーグラスで使われるものが多くて、フルートはぼく一人ぐらい。コンサティーナはゼロという感じ。ぼくらは1回30〜40分くらいのステージを4回やりました。はじめは場違いな感じで不安もあったんですが、やっていると客がどんどん入って来て、集中して聴いてくれました。アメリカ人は背景なんか気にせず、ストレートに受け止めて評価してくれるのでやりやすいです。それと同業者受けがやたら良かった。回を重ねるごとにミュージシャンが増えて、最後のライヴは3分の2ぐらいが出演者。今年もお招きを受けていて、10月に行きます」
取材・文 / おおしまゆたか(2017年4月)
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