2014年にCDデビュー5周年を迎える
OKAMOTO'S。昨年もコンスタントにリリースを重ね、精力的にツアーも展開。さらには
杏子や
山下智久らとのコラボレーションも手がけ、個々のメンバーも多くのセッションに参加したりと、傍目から見れば順風満帆な活動を展開しているように思える……が、OKAMOTO'Sは憤っていた。日本のロック・シーンに、熱い想いを伝えきれない自分たちに。満足しきれない歯痒さをバネにして、彼らは5作目のアルバム
『Let It V』を完成させた。
――前作『OKAMOTO'S』から振り返って、バンドにとってはどんな1年でしたか?
オカモトショウ(以下、ショウ) 「セルフ・タイトルを付けた
4枚目のアルバムをリリースして、そのリリース・ツアーに出たんですが、自分たちとしても手応えがあるものだったし、お客さんの反応も上々だったんです。今までとは違う次元に行けた、そんな手応えを感じて。ただ、そうしてお客さんに伝わってると実感したし、自分たちにとっても自信作だと信じていたアルバムにも関わらず、CDやチケットの売上げ枚数がいきなりガッと上がったりするわけでもないという厳しさに直面させられたツアーでもあって」
――その先になかなか進めないというジレンマがあった?
ショウ 「そもそも前回のアルバムを出すまで、メジャーから3枚のアルバムを出してきたんですが、そこでは1年で3タイトル作って、中にはカヴァー曲も3曲入れて、自分たちのルーツも見せていこうと決めていて。好きなものを好きなようにやったらみんなが大喜びするだろうと思ってやっていたような、ある意味ではリスナー感覚で作った3枚だったんです。だけど、それを経て、ミュージシャンとしていろんな人に届く曲を作りたいし、より自分たちのやってることを伝えられないかなって思って、意識を新たにして作ったのが前回アルバムだったんです。それ以前は、自分の中である程度のルールを決めてその中で曲を作っていた感じがあった。たとえばメロディやコード進行がブルース・マナーから外れないようにしたいとか。自分たちとしては、ロックバンドらしい様式美の中でどれだけできるかということで何曲も何曲も書いて。それを経て、弾き語りだけでもいいと思えるようなメロディの曲をバンドで合わせていくっていうように、作り方も一新して作ってみたのですが、まあ結果はそういう感じで……やっぱりそれは、そういうルールの中で作ったからなんじゃないかという話にもなって。ツアーもいい感じでしたし、東名阪ファイナル3公演で新曲をやってみようという話になったときに、OKAMOTO'Sとして、あえて四つ打ちに挑戦してみようということでできた曲が
〈JOY JOY JOY〉だった。もともと僕らは、四つ打ちのサウンドアプローチにすごく抵抗があるバンドでして。今、四つ打ちをやってるバンドがすごく多いじゃないですか?」
――たしかに、ロック・フェスと呼ばれるイベントに行っても、ストレートなロックンロールを演奏しているバンドよりも、四つ打ちやダンス・ミュージックを取り入れているバンドのほうが多かったりしますよね。
ハマ・オカモト(以下、ハマ) 「本当に、どこを見渡しても四つ打ちばっかりなんですよね。僕らも毎年いろんなフェスに出演させてもらって、カッコよく四つ打ちを魅せている人や、戦略的に言葉をビートにどう乗せるかって考えてる人はカッコいいですし、確固たる意識を持ってやっていると思うんですけど、とりあえず四つ打ちやっときゃいいと思ってやってるアーティストが多すぎる。30分いかにライヴを展開するかということも考えてなさそうな、バンドマンと呼んでいいのかわからないようなバンドが多いことに、僕らはすごく憤りを感じていて……そんな話は2年ぐらい前からしていたんですけど、まあ、(四つ打ちの楽曲を)やってみないとわからない景色というのもあるから。やらないで文句ばかり言ってるのもちょっといただけないってことで、ツアーの最後に、リズムが四つ打ちの新曲をやってみようと決めて作ってみたんです」
――「JOY JOY JOY」が生まれたきっかけは、現在のロック・シーンに対する逆説的なアンチテーゼだったんですね。
ハマ 「ツアーの最終日、それまで1時間半ぐらい、エイトビートとかブギーとかモータウンビートみたいな曲を延々やってきて、アンコールのアタマに、新曲の〈JOY JOY JOY〉を演奏してみたんです。そうしたら、それまでの1時間半を帳消しにするぐらいの盛り上がりで。思惑どおりと言えば思惑どおりなんだけど、同時に思い切り殴られたようなショックも受けたんです。相反する気持ちが同居したような感じで」
――たしかに、バンドとしては複雑な感情を覚えるかもしれないですね。
ハマ 「僕らの狙いとしては、四つ打ちも単純に武器のひとつになればいいなと思っていたし“新曲、すごくよかったよ”みたいな広がり方をするのであれば、それはそれでいいと思っていたんです。ある意味では、確信犯的なセルアウトのつもりで作ったところもあったのですが、ツアーのあとにシングルとしてリリースして、プロモーション期間に取材を受けると、ライターさんの中にも“いつも通りの軽快なロックンロールで”みたいなことをおっしゃる方がいたり」
――ほうほう、なるほど(笑)。
ハマ 「音楽的な伝わり方って、リスナーの立場と僕らではまた考え方も違うと思うんですけど、感覚的に“この新曲、イヤだな”って感じてくれる人もいたらいいなと思っていたんです。だけど、ライターという観点から仕事する人たちからも、わりとそういう声が普通に上がったので、それがまた結構ショックだったんですよ」
――もっと賛否両論があってもよかった、と。
ハマ 「そうですね。それと同時に、リズムがどうとか強く意識してるのは、僕らだけだったんだなということも自覚したというか。僕らが今まで四つ打ちをやっていたかどうかなんて、たぶん誰も意識してなかったんじゃないかって。次にシングルを出すことも決まっていたし、次もまた “今までどおり”と言われるのも悔しいので、あえてもっと、違いが分かるようなものを作ったらどうかってという話になって、秋前ぐらいにシングル〈SEXY BODY〉と、今回のアルバムに向けたレコーディングに入って。最初は全部四つ打ちのアルバムにしてしまうか、ぐらいに開き直っていたりもしてたんです。念のために言っておきますけど、別に、怒り満載のアルバムではないですよ(笑)。ただ、リズムに関して言えば、今の時代に対してのカウンターな部分はあると思うんです。それが僕らの中に流れるルーツであるし、結局全部四つ打ちでやることはできなかった。そんなことやっていても面白くないなっていう、シンプルなところで。やっぱり僕らは“こういう音楽もあるよ”って、リスナーに対して呈示していくことがバンドの仕事だと思っているんです。このアルバムを作って完成したときにすごく思ったのは、結局、僕らはデビューのときから3曲カヴァーを入れたりして、気がつけば“こういうのどうですか?”っていうことをずっと体現してきたんですよね。言いたいことは全然変わってない。だから〈JOY JOY JOY〉と
〈SEXY BODY〉というシングルを入口として、僕らの世界に引き込んでいかないといけないなという思いもあって。2枚のシングルを聴いて、“OKAMOTO’Sって、名前は知ってたけど、こういう感じなんだ? いいじゃん”って思ってくれる人もいたと思うんですよね。そういう人たちが、このアルバムを聴いてくれたときに、“シングルも良かったけど、他の曲もすごくいいよね”ってところに持っていかなきゃいけないと思っていましたし。今まで応援してくれていた方たちにすれば、鋭い人は“OKAMOTO'S、どうしちゃったんだろう?”って見てくれてたと思うんですよね。そういう意見に対しても、このアルバムを聴いてもらうことでこういうことだったんだと理解できるような。どちらの層も同時に納得させるようなものを作らないと、2013年にやってきたことの意味がなくなってしまうなと思ったので。そこはメンバーそれぞれ意識をしながらライヴや制作に挑みましたね」
ショウ 「本来、明かさなくてもいい話なんですけど、でも、言わなきゃ伝わらないということもよく分かって。本当は、5周年なんで踊れるナンバーを書きましたと話すだけでもいいんですけど」
ハマ 「僕らみたいな年齢のバンドに、“最近の日本のロック・バンド大丈夫なんですか?”みたいなこと言われてて大丈夫なのかなっていう(笑)。でもこのタイミングで、僕らのような年齢の人間が何かを言っていかないと状況を変えられないと思って。僕らはデビューして5年ですけど、“もう5年”って考え方もできるじゃないですか。“僕らなんてまだまだです”というよりはもう少し自分たちに自信を持っていこうというモードにようやくなれたというか」
――こういう話をOKAMOTO'Sが出来るのも、ずっと好きでやってきたロックやリズム&ブルースという幹が、すごく太くあるからで。デビューして5年経って、そこに対する自信をより強くしてきたから言えることなんでしょうね。
オカモトレイジ(以下、レイジ) 「それに、単純に年齢的な感覚というか。デビューが19歳だったんで、一人の人間が成長して、いろいろ考えられるようになったっていうのもあるかもしれないです。もうすぐみんな23歳になるんですけど、大人でも子どもでもない……って、みんな大人ですけど(笑)。まだ若いほうの大人というか、やっと社会人になって1年目ぐらいの年齢じゃないですか。そこで使命感みたいなことも出てきたんでしょうね」
ハマ 「2013年は、世代が近くてまったく交流のなかった人たちが、ポンポン飛び出ていった年でもあって、そこに危機感は覚えましたね。
黒猫チェルシーや
ねごとなど同年デビュー組のバンドがいるんですけど、僕ら世代はアタマひとつ抜けきれてないんですよね。まだ誰も飛び抜けてないという、それもまた悲しくて。ルーツは全然違うけど、みんなそれぞれカッコいいことをやっていて。なのに誰もシーンを引っ張っていけてない。ちょっと大人になったからなのか、そういう話もいろんな人たちとできて。それはそれで嬉しいなと思いつつ、2014年から変えていかないとって気持ちが強くなりましたね。まあ、こうして話してることが、5年もしないうちに笑い話になることが、今の目標でなんですけどね(笑)」
――そうしてさまざまな想いを込めて、5作目のアルバム『Let It V』が完成しました。
レイジ 「まず、2014年がCDデビュー5周年っていうのと、アリオラジャパンからの5作目のアルバム、ハマ・オカモトが加入して現メンバーで5年経って……と、“5”がキーワードになっていたんです。ローマ数字で書くと“V”なので、Vからはじまる単語を調べていったら、今の俺らの心情にピッタリくるワードがめちゃめちゃあって。これはちょっと気持ち悪いぐらいにシンクロしてるなって思って。それで、『Let It V』ってタイトルにしたんです。その〈V〉の単語が、1曲目の歌詞になってます」
――VENTURE(思い切ってやる、危険を冒してやる)、VANDALISM(破壊行為)、VIVID(鮮やかな、はつらつとした)、VENOM(毒)、VICE(悪ノリ、悪いクセ)……たしかに今までの話といろいろとリンクする言葉ばかりですね。アルバムを聴いて、すごく開放感のある作品だと思ったんです。それは岸田繁さんのプロデュース曲があったり、逆説的ではあるけれど「JOY JOY JOY」みたいな曲に挑戦できたからこそ到達した部分なのかもしれないし。 オカモトコウキ(以下、コウキ) 「本当にいいアルバムができないと、さっきまで言ってたようなことは言えない。中途半端な仕上がりでは、リズムがどうだ、四つ打ちがどうだなどを話しても、説得力がないじゃないですか。だけど今回のアルバムは、この完成度で、バラエティがあって、それでいて最初からOKAMOTO'Sが呈示してきたようなことが、全部詰まったような作品だから」
ハマ 「前作とは全然違う完成度というか、グレードをすごく上げられた。現時点におけるMAXは出し切れました」
――「HAPPY BIRTHDAY」はくるりの岸田繁さんがプロデュースを担当しましたが、そのきっかけはライヴの共演からですか? ショウ 「ライヴの共演もあったし、あとは
木村カエラさんのカヴァー・アルバムで、岸田さんがザ・フーの〈MY GENERATION〉をプロデュースしていて、そのドラムをレイジが叩いていたり。それ以前からも交流はあって、岸田さんも“OKAMOTO'S、入れてくれやー”みたいなことを言ってくれてたりして(笑)。ありがたいことに俺たちのこともリスペクトしてくれていて、前回のアルバムを出したときも、いろんな素敵な言葉をかけてくださったんです」
――実際にレコーディングの作業をしてみていかがでした?
ショウ 「ほとんど好きなようにやらせてくれたというか。唯一、サビのコード進行はもっとよくできるよということで、みんなでスタジオに入って“5分あげるから、それぞれコード進行を考えてみて”って課題をもらって、一人ずつそれを発表していって。その4人のコード進行の集合体が、実際にサビのコードになっているんです。さらに“じゃあ、2つめのサビはこういうのでどう?”って、岸田さんが考えたサビが入っていて。メロディは似たような感じで〈HAPPY BIRTHDAY〉と繰り返してるだけだし、俺らも好きなように演奏していただけなのに、コード進行ひとつですごくドラマチックになった。岸田さんカラーも感じられる、すごくいい曲になったと思います」
――アルバムを聴き進めていく中でも、この「HAPPY BIRTHDAY」で色彩が変わる感じがしますね。個人的に好きなのは、アルバムのちょうど真ん中に位置している、ファンク度高めなロック・チューン「Yah!!(ビューティフルカウントダウン)」。
ハマ 「わりとコード進行一発で作ったような曲で、最初はもうちょっとPファンクのイメージというか、自分たちがいじくり回せる要素が多すぎたんですけど、あまり弾きすぎないようにして。ある意味、自分たちの得意分野という感じで、そのままやるともっとゴチャゴチャしたまま終わっていくようなところに、わかりやすいサビをあえてつけて。最近のモードと昔からの流れが合わさったような感じの曲ですね」
コウキ 「下手するとアルバム全体がポップすぎるというか、甘くなりすぎる気がしていたので、なんとなくこういう曲を入れたいなと思ったんです。割合的にも1曲だけというのもよかったのですね」
――聴き手もここでハッとさせられて、後半に向けてまた明るくポップに展開していく構成が面白いと思います。8曲目にはシングルとしてリリースされた「SEXY BODY」が収録されています。作詞はいしわたり淳治さんとショウさんの共作。いしわたりさんは、2012年7月にリリースされた「マジメになったら涙が出るぜ」でもコラボしています。 ショウ 「自分たちのまわりにいて一番プロフェッショナルというか、俺たちに向けてくれる言葉がいちいち鋭い。外から見た自分たちを気付かせてくれるんですよね。歌詞についても、歌謡曲的な言葉遣いだったり、キラリと光るものをOKAMOTO'Sに入れてくれる。〈SEXY BODY〉も、ただのバカ騒ぎするだけの曲にはしたくなかったので、きっと淳治さんとやったら面白いものになるんじゃないかと思って。今回は、淳治さんと1対1でメールのやりとりで完成させていきました」
ハマ 「もともとバンドマンでありながら、作詞家っていうのがいいですよね。
剛力彩芽や
少女時代の歌詞も書いてるっていう。ポップスのど真ん中を手がけながら、ルーツもしっかりある、引き出しの多さがすごいですよね。一緒に制作をするようになって、ショウくんの歌詞も変化してきてるよね」
ショウ 「随分変わりましたね。淳治さんはなんでこの言葉が入るのかとか、誰の目線の言葉なのかということを、物語としてすごく気にするし、それが歌詞には大事だってことを教えてくれた方で。〈SEXY BODY〉を書いてからも、またもうひとつ上のステップに行けた感じがするし。一方で、〈HAPPY BIRTHDAY〉は最後のほうにレコーディングしたんですが、岸田さんは逆に歌詞については感覚派で。これはどういう意味なんだろうというのが、10年後にわかるっていうのでもいいんだと教えてくれた人で。いろんな考え方があるしどれも正解なんですが、二人の先生具合が俺にとってはちょうど良くて。いい経験だったし、自分の中に確実に残るものとして入っていった感じがするんで、ミュージシャンとしては幸せでしたね」
――ラストを飾る「虹」は、バンド・サウンドとはまた違うオーケストレーションが興味深いポップスに仕上がりました。
ショウ 「日本の音楽シーンと自分たちのルーツのリンクした出し方を模索して行く中で、50年代〜60年代のアメリカン・ポップスと、そういうものをロックバンドがどう消化してきたかという系譜にヒントがあると思って。
フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドと、
大瀧詠一さんのナイアガラ・サウンドのいいとこ取りみたいな楽曲を目指したのが〈虹〉ですね。みんなで試行錯誤しつつ、音の壁を作っていきました。あとは、歌詞も気に入っていて。このアルバムが雨が降ったあとにかかる虹だったらいいなという思いもあるし、2014年が虹のような一年になったらいいなって思いもあったり。“また僕は雨を降らせるだろう”とも歌ってるんですけどね。今回、ずっと話したことも、たぶん一生立ち向かうことだと思う、そこに向けてのメッセージでもあります」