大沢伸一『SO2』ロング・インタビュー
DJ/リミキサーとして国内外で活躍する一方、作曲家/プロデューサーとして
安室奈美恵、
布袋寅泰、
CHEMISTRYら数々のアーティストの作品を手がけ、さらに
小林武史とのユニット“Bradberry Orchestra”としても活動するなど、全方位的なアクションを続けている
大沢伸一から、“SHINICHI OSAWA”名義のニュー・アルバム
『SO2』が到着。自らのDJサイドを反映したという本作は、2010年代のシーンを予見する、新世代のダンス・ミュージックとして機能している。
『The One』以来、約3年ぶりとなるこのアルバムについて、たっぷりと語ってもらった。
次の時代を紐解いてくれるような新しさ
大沢伸一のDJサイドが反映された新作『SO2』
――前作『The One』と比較すると、フロア向けのトラックが強く印象に残りました。
大沢伸一(以下、同) 「割り切ってそういうふうにしているトラックとリスニングにも適してるトラックがパキッと分かれているというか。でも、サウンドのテイストが近いから、並べて聴いてもそんなに不自然じゃない。いずれにしても、僕のDJサイドを反映したアルバムだと思いますね」
――しかも、次の時代を紐解いてくれるような新しさがあって。ここ数年は便宜上、エレクトロと称されることも多かったと思うんですが、完全に“その先”を見せてくれてるというか。
「もともと、どこか特定の音楽だったり、コミュニティに属したいタイプではないですからね。僕の音楽は僕の音楽でしかないし、どういうふうに呼ばれているかってことは気にしないようにしてます」
――インディペンデントでありたい、と。
「というより、自分でありたいということですね。孤立したいとは思ってないけど、自由でいたいんだと思います」
――ダンス・ミュージックにはその時々のトレンドがありますが、それとも無関係でありたい?
「トレンドって“それを作る人”と“追いかける人”によって成立するものだと思うんですけど、僕は追いかけたい人ではない、ということですね。かといって、(トレンドを)作ろうとも思ってないですが。自分が新鮮味を感じていれば、その場所で何かをやると思うんです。でも、居心地の悪さがあれば、そこではない何処かに行きたくなる。ほとんどの時期がそうなんですよね、僕は。自分が作る音楽、もしくは周りの状況に満足していなくて、常に違うところに行こうとしてるっていう」
――では、社会の流れ、ムードについてはどうですか? この3年間はかなり音楽業界をとりまく経済も世相も殺伐とした雰囲気だったと思うのですが、そういう空気は音楽にも影響しますか?
「音楽に直接フィードバックすることはないですね。たとえば“クラブの現場に人が少なくなった”ということがあれば、それなりに感じることもあるのかもしれないけど、結局そういうことって、クリエイターが気にしてもしょうがないんですよね。それは(音楽を)ビジネスに変えていく人、変えないといけない人たちの課題であって、僕らはむしろ、淘汰される側ですから。“あなたの音楽には価値がありません”って言われれば、“あ、そうですか”って言うしかない。まあ、音楽はなくならないですけどね」
――『SO2』を聴いていて感じたのは、希望というか幸せというか、とにかくホントに気分が良かったんですよね。
「そうですか。だとしたら、良かったです」
――それはもしかしたら、時代に対するカウンターでもあるのかな、と。
「世相が悪いからハッピーなものを作ろうなんて思っていたわけでなくて、ただ単に僕の気分ですね。ただ、このアルバムにはあまりネガティヴな要素は入ってないとは思います。エレクトロが始まったと言われている2004年とか2005年くらいには、このムーブメントの要素のひとつとして、80年代のロック感、ニューウェイヴ感があったと思うんです。そこにはある種のハードな側面、負の要素もいっぱいあったんだけど、そういうものが入ってないんですよね、今回は。それも作為的なことではなく、やっぱり僕の気分なんですけど」
――たとえば1曲目の「LOVE WILL GUIDE YOU(feat.TOMIIE SUNSHINE)」、最後の「THANK YOU FOR YOUR LOVE」というタイトルというのは……。
「まあ、それも自然なんですけどね。何か意識的なものではなく」
――では、他者からの心遣い、優しさに触れたことが曲に繋がることはありますか?
「あります。ありますけど、そんなに大仰なものではないですよ。もっと言ってしまえば、音楽にメッセージは込めていないんです。出来上がったものをそれぞれが勝手に、好きなように解釈して楽しんでもらうっていうのが僕のスタイルなので。こちらから“こんなふうに聴いてほしい”というのではなく、自由な聴き方をしてもらうことが一番の本望ですね」
――DJとして活動してるときも?
「そうですね。僕はみんなが望んでることをやってるわけではなくて、好き勝手に楽しんでるだけ。それに対して、“踊りたい”って思えば踊ればいいし、“ぜんぜん楽しくない”って思えば僕が淘汰されるだけで」
――『SO2』の中にはすでにクラブでプレイされているトラックもありますが、お客さんの反応によって、楽曲が変化していくことはありますか?
「それはありますよ。選曲が変わることはないけど、その楽曲が持ってるポテンシャルを高めるための努力は当然しているので。クラブでの鳴りだったり、お客さんの反応もあるし。それはさっき言った“みんなが望んでることをやってるわけではない”ということとは、まったく関係のはない話ですね」
現在、大沢伸一とシンクロしている音楽とは?
『SO2』
――なるほど。ちなみにいま、大沢さんが気になってる音ってどんなものなんですか?
「ジャンルではなく、新しいことをやろうとしている人は大好きですよ。それはたぶん、ダンス・ミュージックではないんですよね。たとえば
MGMTを筆頭とした、ブルックリン界隈の若手のクリエイターだったり。それから
ダーティー・プロジェクターズ、
メトロノミー、
フォールズ――ちょっと前ですけど、
ベイルートっていう、ニューメキシコ出身のバンドも良かったかな。あとはニューフォークと呼ばれる人たちの音楽なんかが、ここ3年くらいの個人的なリスニングのブームですね」
――『SO2』にもフォークロア的な要素が感じられますね。
「そうですね。ここ数年、そういう音楽が自分の気持ちとシンクロしていたっていうのもあるし。ただ、ここで言ってるフォークロアっていうのは、地域とか時代性を特定してないんですよね。漠然と民話調っていうだけで、どこの国の音楽かわからないっていう。ブルックリン系のクリエイターもそうじゃないですか」
――そうですね、生まれた場所も時代も関係ないっていう。いま大沢さんが挙げてくれたアーティストもそうですけど、今年に入ってから素晴らしいアルバムがどんどん出てきていて。
「あ、そうですか」
――音楽に関してはこれから、いい時代になっていくような気がしてるんですよね。
「要するに音楽があまりにも売れないから、音楽に生活を懸ける人が減ってるんだと思うんですよ。他の仕事を見つけることで音楽への負荷を減らして、その結果、自由に音楽が作れる――そういう図式だと勝手に理解してるんですけどね。僕もそうなりたいと思うし……。僕にとって音楽は仕事でもあるから、チャンネルを変えるしかないんですけどね。趣味で音楽やり、仕事で音楽をやるっていう」
――『SO2』は当然、大沢さん個人としての資質が出てるということですよね。特にこのアルバムは、満足度が高いんじゃないかなと思うんですが。
「満足してるってことはないですね。他のこともそうですけど、終わって良かったとは思っても、満足するってことはまずない。やりたいことが山のようにあるし、どうしてもそっちが気になっちゃうので」
――なるほど。確か去年は「NO JIMMY」(地味にならない)っていう目標を挙げてたと思うんですが。
「言ってましたね、そんなこと(笑)」
――今年はどうなんですか?
「今年はですねえ、“幸せになろう”とかそんなことですね。世相的にも不幸せなこといっぱいあるので、小さいことでもいいから、みんなに幸せなことを見つけてほしいっていう。まあ、平和ボケみたいなセリフですけど」
――大沢さんにとっての幸せって、どんなことですか?
「音楽に関係することですよね、やっぱり。音楽で上がって、音楽で下がって、音楽に苦しめられて、音楽に助けられるっていう生活をずっと続けてるので。ストレスがあるときも、趣味でギターを弾いたり、アマチュア・バンドを作ろうってことでラクになったりするし」
――音楽からは逃れられない?
「いや、それがラクなだけですよ、ただ単に」
取材・文/森 朋之(2010年6月)
<インストアDJパフォーマンスのUSTREAM配信が決定!>6月30日19:00〜@代官山bonjur records
※USTREAMにてライヴ配信
(
http://www.ustream.tv/channel/bonjour-records)
※クラブ・イベント情報サイト「iFLYER」(
http://iflyer.tv/)のトップページ画面でも閲覧可能。
<SHINICHI OSAWA / SO2 / RELEASE PARTY>7月3日(土)京都WORLD
7月9日(金)名古屋OZON
7月17日(土)大阪 PARTITA(名村造船所跡地)
7月23日(金)熊本JANG JANG GO
7月24日(土)渋谷WOMB
7月30日(金)神戸TROOP CAFE
7月31日(土)福井CASA