ジャズ・ギターのレジェンド、パット・メセニーが自身初となるクラシック・アルバム『Road to the Sun』をリリースし、室内楽作曲家デビューを果たした。アルバムには、ジェイソン・ヴィオーのために書き下ろした組曲「Four Paths of Light」と、ロサンゼルス・ギター・カルテット(LAGQ)のために書き下ろした組曲「Road to the Sun」を収録。さらに、エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトの名曲「アリーナのために」を、メセニー自身が42弦ギターでカヴァーしたヴァージョンがボーナス・トラック的に収録されている。
アルバム最初に収録された「Four Paths of Light」は、急−緩−急−緩の4楽章で構成されたギター・ソロのための組曲。超絶技巧を要求する“急”の奇数楽章と、メセニーならではの美しいメロディが展開する“緩”の偶数楽章が、文字どおり“光と影”のような好対照をなす作品である。演奏しているジェイソン・ヴィオーは、アルバム『Play』で2015年グラミー賞ベスト・クラシカル・インストゥルメンタル・ソロ部門を受賞。学生時代にメセニーの魅力に目覚め、2005年にはクラシック・ギターでメセニー作品をカヴァーしたアルバム『Images of Metheny』をリリースしている。
バンド・リーダーとして、あるいは今回の場合は作曲家として、ジェイソンくらいレベルの高いミュージシャンを招く時は、才能の限界に挑んでもらうような曲を書かなければ意味がない。〈Four Paths of Light〉はたしかに演奏至難な曲だけど、ジェイソンは僕が音楽に望む高い要求を受け入れ、同時にそれを楽しんでくれると、最初から確信していたよ」
アルバムの核をなす「Road to the Sun」は全6楽章、演奏時間約30分にも及ぶ大作。2005年グラミー賞ベスト・クラシカル・クロスオーバー部門を受賞したアルバム『ギター・ヒーローズ』でメセニーの「レター・フロム・ホーム」をカヴァーしているLAGQが、メセニーに作曲を委嘱し、2016年に世界初演した。驚くべきことに、「Road to the Sun」は同じテーマやモティーフが6楽章全体を通じて何度も登場する手法、つまりクラシックで言うところの循環形式で作曲されている。しかも演奏を聴く限り、LAGQのメンバーひとりひとりに固有のテーマがあてがわれているような印象を受けるので、あたかもワーグナーの楽劇のように、個々のメンバーのキャラクターをライトモティーフで表現しているような錯覚すら覚える。
メセニー自身は、「Road to the Sun」の各楽章に説明的な標題(プログラム)を付していない。にも関わらず、リスナーは全曲を聴き終えた後、さまざまな情景を喚起する音楽と共に、何か長大な物語を読み終えたような充足感に満たされるはずだ。「Road to the Sun」をユニークたらしめている最大のポイントは、これまでクラシック・ギターのアンサンブル曲にあまり見られなかった豊かな物語性、つまりナラティヴな要素が音楽の中心を占めている点である。そのあたりは、作曲家としてどのように感じているのだろうか。