“心に残る”出会いの場所――ピーター・バラカン、音楽フェス〈LIVE MAGIC!〉を語る

ピーター・バラカン   2016/09/27掲載
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 良質のルーツ・ミュージックを心ゆくまで堪能できるフェスとして、幅広い層のリスナーから支持を集めている〈Peter Barakan's LIVE MAGIC!〉。ラインナップには日本ではほぼ無名のアーティストも並ぶが、なにせキュレーターを務めるのはご存知ピーター・バラカン。出演するのは他のフェスではまず観ることのできない、実力と個性を兼ね備えたアーティストばかりだ。

 そんな〈Peter Barakan's LIVE MAGIC!〉が今年も開催されることになった。秋の定番フェスとして定着しつつあるこのフェスの見どころについてピーター・バラカンに語っていただこう。
――1回目の〈LIVE MAGIC!〉が開催されたのは2014年だったわけですが、どのような経緯でスタートしたんでしょうか。
 「クリエイティヴマンの平野さんとタワーレコード事業部の田中さんが僕のところに来たんですよ。彼らは十代のころから『ポッパーズMTV』(84年から87年にかけて放映されていたピーター・バラカンが司会を務めていたテレビ番組)を観ていたそうで、フェスを立ち上げるにあたって"ピーター・バラカンをキュレーターとして誘えないだろうか"という話になったそうなんです。僕自身、興行の仕事は一切したことがなかったので不安もあったけど、二度とないチャンスなのでやってみよう、と」
――立ち上げにあたってフェスの音楽的なカラーははっきりと決まっていたんですか。
 「ざっくりいえば、“ルーツ・ミュージックのフェス”ぐらいのイメージですよね。最初はいろいろ考えてたんですよ。スライド・ギターのフェスができたらいいなあ、ライ・クーダーも呼んでさあ、ローウェル・ジョージもあの世から帰ってきたらいいねえ……とか(笑)。なかば冗談でしたけど、結局毎年スライド・ギターの誰かは呼んでますね」
――1回目はいかがでした?
 「大変なこともいっぱいありましたけど、ものすごく楽しかったです。多くのお客さんにとっては僕の番組以外では聴いたこともないようなミュージシャンばかりですから、来てくれた方々もおそらくどういうフェスになるか分からなかったと思うんですよ。でも、みなさんがノリノリで楽しんでくれてる姿を見たら“これは絶対に続けなきゃダメだ”と実感しましたね。1回目でもうやみつきになったんですよ」
――先ほど話に上がったスライド・ギターのアーティストですけど、1回目はジェリー・ダグラスがやってきました。70年代以来のドブロ・ギターの達人の来日ということで、多くのブルーグラス・ファンが狂喜しましたね。
 「ジェリー・ダグラスのライヴは素晴らしいものがありましたよ。あの時はドブロとフィドル、ウッドベース、ドラムズという編成でやってくれたんですけど、ロックする曲もあればジャズやカントリー、フォークに近い展開もあって、なんでもあり。ジェリー・ダグラスは本当に天才ですから、楽しいだけじゃなくて音楽的にもとても充実していました」
――1回目はスタンリー・スミスなどニューオーリンズ勢や日本勢も出演しましたが、必ずしもネームヴァリューのあるアーティストばかりではなかったですよね。
 「そうですね。毎年新しい音楽を紹介したいという気持ちもあって、詳しい方であってもまず知らないだろうアーティストもラインナップに入っています。あと、予算の限界もあるので、そう簡単にビッグネームを呼べないんですね。だから、何年も続けていくうちに“出てる人は知らないけど、あのフェスは必ずいいものを聴かせてくれる”という評判がつくようになったらいいと思っています」
――昨年の2回目に出演したスティールパン奏者、ジョナサン・スケールズなどは日本でほぼ無名のアーティストですけど、ライヴはものすごい盛り上がりでした。そこが〈LIVE MAGIC!〉ならではですよね。
 「そうなると嬉しいですね。キューバのダイメ・アロセナにしたって基本的には無名ですけど、反響は凄かったですし」
――今年の〈LIVE MAGIC!〉ですが、まずは70年代から活動を続けるルイジアナのギタリスト、サニー・ランドレスがやってきます。
 「すごいスライド・ギターを聴かせてくれると思いますよ。今回は土曜と日曜の2日間出てくれるんですが、セットを変えてもらうようお願いしてます。1回はブルーズ特集になると思うけど、サニーはもともとザイディコでデビューした人ですから、もう1回はブルーズ以外の音楽も交えたセットをお願いしています」
Sonny Landreth
――ラテン・ソウルのレジェンド、ジョー・バターンの出演にも驚きました。
 「こういうフェスだからこそ、ジョー・バターンのラテン・ソウルはすごく盛り上がると思うんですよ。先日、電話でインタヴューしたんだけど、本当に元気だった(笑)。ヨーロッパ〜南米〜アジアでものすごい数のライヴをやってるんですよ。自伝も書いてるそうだし、新しいアルバムも作ってるみたいで」
Joe Bataan
――イギリス出身のスライド・ギター奏者、ジャック・ブロードベントにはYouTubeの映像を観ただけで出演オファーされたそうですね。
 「そうなんですよ。アムステルダムの運河沿いの橋の上でアクースティック・ギターと小さなアンプで演奏してる動画なんですけど、これが格好いいんだ。彼のスライドはかなりいいと思います。弾き方もおもしろいし、歌もうまい。まだ二十代だと思いますけど、キャンド・ヒートの大昔のヒット曲をやったりして、すごくおもしろいんです」
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Jack Broadbent
amazing busker in the Amsterdam Red Light district
――〈LIVE MAGIC!〉ではラウンジで突発的なセッションが行なわれることも名物になってますが、この人はラウンジでも活躍しそうですね。
 「そうなるといいですね。今回はマイク・ガーナーとニール・ビリングトンというニュー・ジーランドのアクースティック・ブルーズ・デュオも出るんですが、彼らもセッション向きだと思うんですよ。シンガー・ソングライターのサラ・レクターとIchiroのコラボレーション・ユニットにもラウンジでやってもらおうと思ってます。ただ、セッションはフタを開けてみないとわからないものだし、みなさんには“気が向いたらやってください”とお願いしてます」
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Mike Garner and Neil Billington
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Sara meets Ichiro
――日本勢にもセッションで威力を発揮するタイプのギタリストが何人もいますよね。ほぼレギュラーになってる紀伊勝浦のギタリスト、濱口祐自さんや成長著しいギタリスト / シンガー・ソングライター、Reiのように。
 「そうですね。濱口さんは“ラウンジだけでやりたい”と向こうから言ってきたんですよ(笑)。あの人の場合はお客さんがすぐそこにいる環境のほうが好きみたいで」
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濱口祐自
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Rei
――海外アーティストだとアルヴァスの2人もおもしろそうです。
 「アルヴァスはノルウェイのジャズ系ミュージシャン、スタイナー・ラクネスがやっててるユニットで、この人はすごくおもしろいんですよ。ウッド・ベースを弾きながらトム・ウェイツみたいな声でアメリカーナの曲を歌ったりする。アルヴァスはこのスタイナー・ラクネスがサーミ族のサラ・マリエル・ガウプとやってるユニット。素朴だけど、すごく引き込まれるものがあるんです」
――ザバデュオもルイジアナのベース奏者とブラジル出身のパンデイロ奏者というユニークな組み合わせのデュオですね。
 「去年ジョナサン・スケールズのことを教えてくれた野口さんという方からの情報で知ったデュオで、彼らもおもしろいですよ。ベースのチャーリー・ウトンはサニー・ランドレスと同じルイジアナのラフィエット出身で、今回のサニー・ランドレスのバックでも演奏することになったんです」
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Arvvas
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Zaba Duo
――日本勢もすごく魅力的なメンバーですよね。吾妻光良 & The Swinging Boppersのライヴもものすごく盛り上がりそうです。
 「実は僕、Swinging Boppersのライヴはまだ観たことはないので、すごく楽しみで。大きな会場でやったらみんな踊ってくれそうですよね。吾妻さんは日曜にはトリオでもやってくれるんです。2日間で違うセットになるので、こちらも楽しみですね」
――ミッキー吉野さんはオルガン・トリオの編成で出演されるんですよね?
 「最初はオルガン・トリオでお願いしてたんだけど、彼が起用しようとしていたギタリストの都合が悪くて、彼がやってるEnTRANSというグループで出てもらうことになりました。ミッキー吉野がキーボード、鳴瀬喜博がベース、八木のぶおがハーモニカ、ヒダノ修一は和太鼓という変わった編成なんだけど、なかなかファンキーでいいんですよ。このグループのライヴはかなり期待できるんじゃないかな」
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吾妻光良 & The Swinging Boppers
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EnTRANS
――高田 漣さんは今回どんな形で出演されるんですか?
 「高田 渡さんの(71年作)『ごあいさつ』を丸ごと再現してもらいます。これは〈LIVE MAGIC!〉だけの企画で、本人から提案してくれたんです。彼はアルバム『コーヒーブルース〜高田渡を歌う』で『ごあいさつ』の曲を5曲ぐらいやってますけど、今回は自分のバンドで丸ごと再現してくれるというのでかなり楽しみにしていますね」
――バンバンバザールはいかがですか?
 「バンバンバザールの福島(康之)さんは福岡に自分のライヴスペース(LIV LABO)を持っていて、そこで2回ほどDJをやらせてもらったことがあるんですよ。間違いなく盛り上がるでしょうし、いつか呼びたいと思っていたんです」
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高田 漣
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バンバンバザール
――今回初めて出るNAOITOは葉山のOASISでピーターさんがDJされた際に初めて一緒になったそうですね。
 「そうですね。彼はアフロビートやレゲエなど混ぜた、すごく心地いいグルーヴを持った音楽をやってますよね。日本でこういうことをやってる人がいるんだ!と驚いたんです」
――大所帯レゲエ / アフロ系バンド、Reggaelation IndependAnceの出演にも驚きました。
 「トロンボーン奏者の齋藤(徹史)さんから毎回音源が出るたびに送っていただいていて、毎回いいグループだなと思っていたんです。彼らはレゲエのグループですけど、アフロビートもやるし、すごくおもしろい音楽をやってますよね」
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NAOITO
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Reggaelation IndependAnce
――というわけで、今回もまたヴァリエーション豊かな出演者が揃いましたね。僕も昨年お邪魔しましたけど、いい音楽をゆったり楽しむことができる、休日の過ごした方としては最高に贅沢なフェスだと思いました。
 「大人がゆっくり楽しめるフェスにしたいという思いは最初からありましたね。フードも手作りの美味しいものが出るし、クラフトビールやオーガニック・ワインも用意してます。音楽フェスっていうとすごく大規模なものが多いですけど、〈LIVE MAGIC!〉ではゆったり過ごしてもらえるんじゃないかと思ってるんですよ」
――〈LIVE MAGIC!〉はそれまで知らなかった音楽と出会える場所でもありますよね。そういう出会いを楽しみに来られるお客さんも多いと思うんですよ。
 「心に残るような出会いのあるフェスにしたいと思っていますね。お客さん同士が会場で仲良くなるなんてこともあるみたいで、こちらとしては願ってもいなかったことですよね。それもまた出会いのひとつですし。……そうそう、今回はまた昨年までになかった試みをするんですよ。FM YOKOHAMAで一年間、『アナログ特区』という番組をやってたんですけど、そのなかで息子と2人で『親子の溝』というコーナーをやってたんです。そのコーナーを日曜日のラウンジでやります」
――それは楽しそうですね!
 「うん、楽しいと思います。セッションも含め当日なにが起きるかわからないところも〈LIVE MAGIC!〉だと思うので、そうした企画も含めてぜひ楽しみにしていただきたいですね」
取材・文 / 大石 始(2016年9月)
Peter Barakan's LIVE MAGIC! 2016
supported by MasterCard PRICELESS JAPAN
www.livemagic.jp/
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2016年10月22日(土)、23日(日)
東京 恵比寿 ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール / ザ・ガーデンルーム
gardenplace.jp/
1日券 12,000円 / 2日通し券 21,000円
※中学生 / 高校生は学割チケットを購入可能。
学割1日券 7,000円 / 学割2日通し券 11,000円

すべて税込 / オールスタンディング

[10月22日]
開場 12:00 / 終演予定 21:30
Sonny Landreth / 吾妻光良 & The Swinging Boppers / Joe Bataan / バンバンバザール / Jack Broadbent / Naoito / Arvvas / Sara meets ichiro / 濱口祐自 / Mike Garner & Neil Billington / ZabaDuo

[10月23日]
開場 12:00 / 終演予定 20:00
Sonny Landreth / Reggaelation IndependAnce / 高田 漣 / EnTRANS / 吾妻光良トリオ + 2 / ZabaDuo / 濱口祐自 / Rei / Mike Garner & Neil Billington / Jack Broadbent

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