“自分を解放して歴史を取り戻したい” バウハウスのピーター・マーフィーがリアルな歌を聴かせるソロ9作目

ピーター・マーフィー   2011/06/23掲載
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“自分を解放して歴史を取り戻したい” バウハウスのピーター・マーフィーがリアルな歌を聴かせるソロ9作目
 後続のアーティストに多大な影響を及ぼしたUKポスト・パンク最重要バンドのひとつ=バウハウスのフロントマンを経て、地道なソロ活動を続けてきたピーター・マーフィー。近年は再結成したバウハウスでの活動に忙しかったが、2008年のラスト・アルバム『暗闇のごとく現れ、白い陽炎のように去りゆく(GO AWAY WHITE)』で足掛け30年のバンドの歴史に幕を閉じ、心機一転してソロ最新作『ナインス』を完成。シアトリカルで威厳に満ちた唯一無二のヴォーカル・スタイルの魅力をあらためて実感できる、会心の作だ。
――『ナインス』は7年ぶりのソロ作品になりますが、どんな想いで着手したんでしょう?
 ピーター・マーフィー(以下同)「何よりも自分の本質、自分が得意とする手法を最大限に活かしたいと強く意識していたよ。それは自然発生的で、一組のミュージシャンたちが一室に集まってオーガニックな音楽を鳴らすってことなんだ。細かく分析し過ぎたり、過剰に音を重ねたりせずにね。もちろん僕は、実験的な凝った音作りを試みることもある。ただ、あらゆる音がデジタル処理されて音程の外れたヴォーカルなど聴こえず、音楽が無味乾燥になっている中で、僕の場合は時折テンポがズレていたり、“リアル”な歌を聴かせていると思うんだ」
――実際、直球のバンド・サウンドに貫かれているだけに、あなた独特のヴォーカルが際立つ作品になりました。
 「ああ、今回は2005年から一緒にツアーをしているバンドと録音して、飾りを剥ぎ取って直観を重視しながら、全テイク、バンドと一緒に歌ったんだ。スタジオで彼らとコラボするのは初めてだったが、ユニットとしての絆が確立されていたから彼らを巻き込むべきだと思った。ヴォーカルに関してはいろいろアプローチが変化していて、バウハウス時代には極めてアヴァンギャルドでパンク・ロック的な、純粋に感情に任せた実験的歌唱法を身に付けた。その後ソロになって徐々にそこから離れていき、最近は自然なメロディを伝えることに興味が移った。常に歌い手として進化してきたつもりだよ」
――作詞も同じような直観重視のアプローチで行なったんですか?
 「たしかにスピーディに書いた曲ばかりだ。でもインスピレーション源ははっきりしているよ。今回はニューヨーク郊外のキャッツキル山地に滞在して、曲作りやレコーディングを行なったんだ。レイドバックな田舎でありながらワイルドな部分もあって、そういう場所で暮らした体験が詞に反映されている。と同時に、もう一方ではよりアブストラクトなインスピレーションに根差していて、僕はここにきて自分の歴史や功績を再確認して奪還したいという強い欲求を感じていた。そうすることによって自分を解放しようとする、ある意味で傲慢ですらある主張を含んでいる。冒頭の〈ベロシティ・バード〉が好例だね。さらには、僕の作品に欠かせない秘儀的でスピリチュアルな要素もある。バウハウス時代も僕の表現の核にあったそれが喚起するものを、人々は“ダーク”と形容したが、僕にとっては “ダーク”ではなく“隠されたもの”なんだよ」




――自分を解放して歴史を取り戻したいと思うようになったのは、2度の再結成ツアーを経て『GO AWAY WHITE』を発表し、バウハウスに終止符を打ったことに関係しているのでは?
 「その通り。これまでソロのライヴでバウハウスの曲を歌わなかったのは、バウハウスのオーセンティックさを守りたかったからで、僕はあのバンドの最大の擁護者であり、再結成を主導したのも僕だった。でも活動を再開してみると、結局1983年の解散の理由になったさまざまな問題がまたもや目の前に立ちはだかったんだ。挙句の果てに悟ったよ、バウハウスの動力源は僕なんだってことをね。そして『GO AWAY WHITE』も僕がリードして作り始めた作品で、一旦作業を始めると勢いがついて、ミックスも含めて18日間で完成に至った。その勢いが、行き場がないまま僕の中に残っていて、今回のアルバムへと引き継がれたのさ。だから、僕自身がバウハウスそのものなんだと悟った今は、遠慮なく昔の曲を歌っているよ(笑)」
――アルバム・タイトルはとてもシンプルですね。
 「そうだね。僕にとって通算9枚目のアルバムだし、その事実をごくシンプルに表記したかった。余計な色や装飾なしに、額装していない絵のようにね。あとは、ベートーヴェンの交響曲第9番のことも頭にあった。あんな歴史的傑作になるかどうかは数十年後に振り返った時に初めてわかるんだろうが(笑)、僕は10、11、12枚目……と、まだまだアルバムを作るつもりだからね!」
(2011年5月 取材・文/新谷洋子)
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