2009年にリリースされた最新作
『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』が、フランスのミュージシャンとして初めてグラミー賞“最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞”を受賞。フレンチ・ロック・シーンを代表する存在になった
フェニックスが、今年2月に4年ぶりの単独来日を果たした。幼馴染みたちでバンドをスタートし、気がつけば世界の頂上に立っていた彼ら。グラミー賞受賞の感想や新作の舞台裏、そして、音楽に対する向き合い方などを、クリスチャン・マザレイ(g)、デック・ダーシー(b)に訊いた。
――グラミー受賞おめでとうございます。アルバムが完成した時は、手応えを感じていましたか?
クリスチャン 「うん。自分たちでは納得できていたんだけど、ただ本当に喜んでくれるのはごく一部の人たちだろうなって思ってたんだ。だからグラミー賞はまったくのサプライズだよ」
デック 「いいステップだとは思うんだけど、グラミー賞をもらったからって、妙にプロフェッショナルなことを要求されるようになるとイヤだな。音楽的には何も変わりたくないからね」
――今回のアルバムは、いろんなところを旅しながら曲を作ったそうですね。
クリスチャン 「曲を作っている時やレコーディングをしている時は、何か詩的な環境のなかで生活を送りたいと思っているんだ。あまりにプロフェッショナル仕様なスタジオに入ってしまうと、ミステリーを感じられなくなるからね。前回はベルリンに行ったんだけど、今回はどうしようかと考えていた時に、
トリュフォー(フランソワ・トリュフォー/ヌーヴェルヴァーグを代表する映画監督)がホテルにこもって作品を練っていたことを聞いて。それで、僕らもホテルにこもってみたんだけどうまくいかず、あれこれ試しているうちに、気がついたらいろんな土地を旅していたんだ」
――とくに印象に残った場所はありますか?
デック 「セーヌ河に浮かぶボート・ハウス。あれはいい思い出だよ。バンドのメンバーが船酔いしちゃってね(笑)。結局、ボート・ハウスでレコーディングする計画は諦めるしかなかった」
クリスチャン 「でも、すごくいい船だったんだよ。アルゼンチンのポロの選手が持ってる船で、トロフィーがいっぱい飾ってあって、デザインも素敵だった。僕ら二人は平気だったんだけど、ほかの二人が船酔いしてダメだったんだ(笑)」
デック 「とてもいいスタジオなんだけど、僕たちが使っていた時はまだ工事中で、なおさらスペシャルな感じだったよ。僕らは落ち着いた雰囲気の場所より、どこか居心地が悪いような、エッジーな感覚がある場所のほうがクリエイティヴになれるみたいなんだ」
――出来上がったアルバムは、緻密にデザインされながらも息苦しく感じさせない、とてもグルーヴ感のあるサウンドが印象的です。サウンド面ではどんなところにポイントを置きましたか?
クリスチャン 「そう言ってもらえると嬉しいな。僕らはファースト・テイクで終わらせてしまうことが多いんだ。パーフェクトとは言えない感じが気に入っていて、何度もやり直すと、どんどん違った感じになってしまう気がする。そういうシンプルな録り方と入り組んだミックス、そのバランスによってああいうパワフルな音ができてるんじゃないかな。パワフルなだけじゃなくて、そこにちょっとした儚さみたいな、フラジャイルな感じも残っていてほしいと思ってた」
クリスチャン 「そうだね。前作ではナイーヴな感じやスポンティニアスな感覚を求めてああいう作り方にしたんだけど、今回はもうちょっと手の込んだものを作りたいと思っていたんだ。人間って何かひとつの段階を終了すると、また違うことをやることでエキサイトしたいと思うものだからね。だから今回は、前作よりも感触の豊かな、層の厚みを感じられるサウンドを目指したんだ」
デック 「それって偶然だったんだけど、僕らのヨーロッパ文化的ルーツを歌詞にも反映させたいとは思っていたんだ。僕らはヴェルサイユの出身で、いつもヨーロッパの歴史的な遺産(ヴェルサイユ宮殿など)を身近に感じて育ってきたから」
――あなたたち4人は幼馴染み同士でバンドをやり、最近ではレーベルも立ち上げました。やっぱり幼馴染みでバンドをやるっていいものですか?
デック 「僕らとしてはほかのやり方を知らないからね。普通に仲のいい友だちとやってたことが、こうやって取材を受けたりするようになった。それはとても光栄なことだけど、いまだに信じられないよ」
クリスチャン 「僕らの場合、それぞれが持ち寄るものはすごくシンプルで、“大したことないじゃん”って思うようなものなんだけど、それを集めた時に素晴らしいものが生まれる。その感覚がいちばん嬉しいし、楽しいところなんだよね。友だちと一緒にやっていくのはいいことばかりで、悪いことなんて考えられないよ」
取材・文/村尾泰郎(2010年2月)