plane、普遍的な魅力を持った7年ぶりのニュー・アルバム

plane   2020/06/03掲載
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 1996年に大阪で結成、25周年を迎えた4ピース・バンド、planeが約7年ぶりとなるニュー・アルバム『2020 TOKYO』をリリースする。前作『僕らに今があるということ』(2013年)以降、バンドのライヴを断続的に行ないながら、ヴォーカルのキクチユースケは弾き語りを中心に活動。カフェから老人ホームまでさまざまな場所で歌うなかで「ずっと先まで歌える曲を作りたいと思うようになりました」いう彼のソングライティングは、確実に深みを増している。シンプルで奥深いバンド・サウンドを含め、幅広いリスナーの心に届く、普遍的な魅力を持ったアルバムと言えるだろう。そんな今作について、キクチに話を聞いた。
New Album
plane
『2020 TOKYO』

ZGCL-1006
――まずは2013年のアルバム『僕らに今があるということ』以降の活動について聞かせてください。キクチさんは弾き語りのライヴも精力的に行なっていますよね。
 「そうですね。バンドのライヴもあったんですけど、どちらかというと弾き語り、ソロの活動のほうが多かったので。活動自体が少なった時期もありつつですけどね」
――カフェも運営しているんですよね?
 「今は運営はしてないです。でも、ここ3、4年ぐらい“珈琲ミュージシャン”と名乗って、オーストラリア産の豆とコーヒーミルを持って弾き語りの旅をしてるんですよ」
――弾き語りを続けるなかで、得たものもありましたか?
 「すごくあります。自分が一人でライヴをやるなんて思ってなかったから、弾き語り自体がすごく新鮮だったんですよ。2011年の震災で、自分のなかの価値観、音楽への思いが変わったのも大きかったですね。今も活動を手伝ってくれている大柴広己(シンガー・ソングライター / プロデューサー。音楽レーベルZOOLOGICAL主宰)と一緒にライヴをやったとき、“ミュージシャンは音楽しかやれないから、続けます”とお客さんの前ではっきり言っていて。その姿を見て、“こうやって素直に言えるのはいいな”と思ったし、その頃から“自分もできるかぎり続けていきたい”という気持ちになりました」
――なるほど。その間、planeというバンドに対する意識も変わってきたんですか?
 「バンドは自分のなかの“やめなくていいもの”の引き出しに入ってるんですよ。活動が少ないからやめるとか、ライヴが少ないからやめるではなくて。“いつかできる”“いつでもできる”と思ってちゃダメなんだけど、メンバー4人が自然と“このイベントに出よう”というタイミングもあるので。誰かのスケジュールが合わなかったり、“このライヴには出たくない”という意見があれば、やらないですけどね。以前は個々の感情よりバンドを優先していたんですけど、今はそれぞれの状況を尊重して音楽を続けるというスタンスなんです」
――バンドの活動が優先順位の1番ではない、と。
 「そうですね。planeのメンバーとは中学時代からの友達なんですけど、高校を卒業して、社会人になって、それぞれに波があって。家族よりも長くいたし、バンドを最優先にしていた時期は特別だったと思うけど、もしかしたらほかのことを犠牲にしたり、自分の気持ちを抑えていたかもしれないなって。今はそれぞれの生活も大事にしたいというか……年齢もあると思いますけどね。たとえば“出世したい”とがんばってきた人が“個人でやれたらそれでいい”と独立したり、お金よりも時間を選んで、早めにリタイアする方もいらっしゃるじゃないですか」
plane
――バンド活動と人生が自然に寄り添っているというか。そんななか、ニュー・アルバムの制作はどのように始まったんですか?
 「弾き語りのための曲はずっと書いていたんですけど、大柴くん、(シンガー・ソングライターの)近野淳一くんと一緒にツアーを回ってるとき、〈オリンピックが終わる頃〉という曲に対して大柴くんが“これはバンドでやったほうがいい”と言ってくれて。音楽系の専門学校の学生さんたちとレコーディングすることを提案してくれたんです。前作は自分たちで制作を用意したんですけど、そういうやり方だと、どうしても空回りしちゃうんです。人から“レコーディングしよう”と言ってもらえたことが素直に嬉しかったし、ありがたかったですね」
――「オリンピックが終わる頃」が起点になってるんですね。
 「曲を書いたのは3〜4年前で、今年の夏にはオリンピックが終わることを想定していたので、今の状況は不思議な感じですけど。ほかの曲もほとんどが弾き語りで作っていて、あとはバンドでやるかどうかのジャッジでした。自分自身が“バンドで聴いてみたい”と思う曲だったり、“planeでやるとこうなるだろうな”とイメージが湧く曲だったり。最終的は判断は大柴くんに委ねたところもありますね」
――『TOKYO 2020』というアルバムのタイトルも、オリンピックに重ねたんですか?
 「それもありますけど、自分たちが1980年生まれというのもあって。メンバーのうち3人が、今年で40歳なんです。自分のなかで20歳を2回やったというイメージもあったから、“2020”にしようかなと。この年齢まで東京に住んでいるとは思ってなかったから、それも不思議です」
――40歳という年齢に節目を感じている?
 「すごくありますね。2000年に20歳になったんですけど、ノストラダムスの大予言を信じていたから(笑)、その前に世界が終わると思ってたんです。ところがまったく終わらなくて、“あ、続くんだ”と。それから20年経って、“どういう人間になりたいか”と考えたときに、“60歳になっても歌っていたい”と思ったんですよね。そのためには長く歌えるような曲を書きたいなと。それは今回のアルバムにも出てると思います」
――当然、曲作りのスタンスも変わってきますよね。
 「はい。あまり高いキーにしないほうがいい、とか。それは“無理しない”ということではなくて、ずっと歌えるものにしたいから。そう思ったきっかけの一つが、前作のアルバムに入っている〈あと何度〉という曲で。作ったときは“あと何度もない”という気持ちだったんですけど、弾き語りで歌っていくうちにちょっとずつ考え方が変わってきて。聴いてくれた人の捉え方を知れたのも大きいですね。飲み屋で知り合った70歳くらいのおじさんがCDを聴いてくれて、“〈あと何度〉はすごくいい”と言ってくれたことがあって。“キクちゃんはまだわからないだろうけど、俺くらいの年齢になると、〈あと何度〉って数えながら生きてるんだよ”と。そういうことが何度かあって、自分の解釈も変わってきて。“あと何度もあるからこそ、これが最後になってもいいという気持ちでやろう”というか。悲しい感じで作った曲が、始まりの歌に変わったんですよね」
――歌い続けていくなかで、歌の意味合いが変化する。
 「曲を作ったときがゴールではないんです。“歌ってみた”も、そういうことだと思う。以前は“曲を作った人が歌うことで成り立つ”という感覚があったんだけど、今はそうじゃなくて、(作者とは)別の人が歌ったものが受け入れられいて、感動を集めていて。以前、アンダーグラフの真戸原直人と2人で老人ホームで歌わせてもらったことがあるんですが、“自分の歌を歌ってる場合じゃないな”と。みなさんが知ってる曲を歌うべきだと思って、〈川の流れのように〉などを歌って。泣いている方もいらしゃったし、そのときあらためて“歌というのは、聴いた人の感情や思い出と混ざってできるんだな”と感じたんですよね。自分が作ったかどうかは、どうでもいいというか」
――曲を書いているときはどうですか? 当然、キクチさん自身の感情を込められていると思いますが。
 「そうですね。その瞬間に出てきたものがすべてというか、最初の一行ができると、“よし、できた”と思っちゃうタイプなんですよ(笑)。たとえば“何奴も此奴も 愚痴こぼして”(〈いつかあなたに花束を〉の冒頭の歌詞)もそう。メロディと歌詞が同時に浮かんできて、あとはもう、その後が出てくるかどうかなので。まあこの曲が浮かんだのは27歳くらいのときで、ずっと続きができなかったんですけどね(笑)」
――12年越しなんですね(笑)。
 「なぜか今回、急に思い出してやってみたら、続きもどんどん出てきたんです。歌のテーマとしては……花束をもらっても、ちゃんと嬉しいと思えないんです。どうしていいかわからないし、人に花束をプレゼントするのも躊躇してしまって。花束をもらったときに、素直に喜べる人っていいなと思うし、そういう人になりたいという気持ちで書いた曲です。この曲は3連のリズムなんですが、僕のなかでこのリズムはplaneのイメージで」
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――「陽はまた昇る」も生々しいバンド・サウンドを軸にした楽曲です。“誰がいなくなって 世界は 廻る”というペシミスト的な歌詞も印象的でした。
 「今回のアルバムで唯一、(レコーディングまでに)できてなかった曲なんです。レコーディングの準備でスタジオに入ったとき、みんなでセッションして。そのとき出てきたのが、一行目の“君がいなくたって 僕がいなくたって”という歌詞なんですよ。あとは演奏のノリに合わせて、メロディや言葉を歌って。メンバーの演奏技術も高くなってるし、今はそういうやり方でもできるんですよね。たまたま録音できる環境だったので、3〜4時間でオケを作って、ヴォーカルだけ後でレコーディングしました」
――「はじまりの歌」のシンプルなバンド・サウンドもいいですね。メンバーのみなさんが奏でる音がしっかり伝わってきて。
 「この曲も書いたのはだいぶ前なんですよ。D.W.ニコルズの〈愛に。〉を聴いたときに、“すごくいいバンドだな”と思って、その後、だいちゃん(わたなべだいすけ)と初めて会ったときにデジャヴの話を教えてもらったんです。人はあらかじめ人生をすべて見て、それをOKした人だけが生まれてくる。ときどきそのことを思い出して、“前にも見たことがある”と思ってしまうっていう。その話を聞いて、すぐに作ったのが〈はじまりの歌〉なんです。弾き語りで歌ったり、だいちゃんと2人で歌ったこともあるですが、“いつかplaneでやりたい”と思っていて。今回のレコーディングでは、自分にとっての憧れのバンドの音像というか、いいバンドの音作りを実現できたと思ってます」
――“疲れたら 休めばいい あなたを 取り戻すために”というラインは、現在の状況で聴くとすごく沁みますね……。
 「ありがとうございます。そう感じてもらえるのも、弾き語りで歌ってきたことが大きいと思います。一人で歌うことで曲が自分のものになって。それを経て、バンドであらためて表現したという順序が良かったのかなと。だからこそ、このアルバムに入れたかったんですよね」
――アルバムの最後に収められている「ぼくたちがやりました」には、バンドの現状だったり、planeで音楽を続けてきたことへの思いが反映されていて。
 「曲を書いたきっかけとしては……僕、ドラマを観るのが好きで、ドラマのタイトルで曲を書くことがあるんですよ。この曲も『ぼくたちがやりました』というドラマの題名がもとになっていて。そのときは大柴くん、近野くんとツアーを回る前だったから、2人のことを重ねながら歌詞を書いたんですが、今回の制作でバンドのイメージに近づけていって。中学生の頃から知ってるので、“あんなことやったな”という思い出もたくさんありますからね。レコーディングも楽しかったです。“みっちがこんなフレーズを弾くんだな”という発見もあって」
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――今後の活動についても聞かせてください。これだけ充実した新作が完成したら、当然、ライヴで演奏したいと思いますが。
 「7月23日に大阪でライヴの予定があって。弾き語りの活動を続けているなかで、僕のことは知っていても、planeを知らない人も増えてきたんです。なので全国で知り合った人たちに、planeが生まれた大阪に来てほしいなと。ただ、今の状況では開催できるかどうかわからないし、じつは僕としては5年後くらいにやれたらいいかなぐらいに思っているんです。モヤモヤした気持ちのまま集まってライヴをやるのもどうかと思うし、すぐに次のことを決めるよりも、もっとゆっくりやっていきたいなと。長く大事にしていきたいアルバムだと思うので」
――焦りはない?
 「もちろん、音楽をやっている人間として、1日でも早く歌いたいという気持ちはありますよ。ライヴハウスの人たちもそうだし、音楽に関わっている人たちにも、できればその世界で生きていってほしい。ただ、以前のような日々に戻ることはないとも思っていて。音楽の在り方を含めて、いろいろなアイディアを試しながら、次のスタンダードな幸せを提示できたらいいなと思っています」
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■キクチユースケのお店「電波赤丸」
〒153-0052 東京都目黒区祐天寺2-6-11-1F
※TSUTAYAの向かい、きこり食堂となり
取材・文/森 朋之
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