特別企画 Q;indivi Starring Rin Oikawa シンガーとしての“及川リン”をフィーチャーした“ハウス・ミーツ・クラシック”なアルバム

Q.;indivi   2009/07/23掲載
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 YUKIのヒット・シングル「joy」、元気ロケッツの代表曲「Heavenly Star/Breeze」などを手掛けたことで知られる田中ユウスケを中心としたハウス系ユニット、Q;indiviSweet Boxのリミックスでも話題を呼んだこのユニットの新作が、シンガーの及川リンを全面的にフィーチャーしたクラシック・カヴァー・アルバム『Celebration』だ。“クラシック×ハウス・ミュージック”というフォーマットを大きく進化させた本作は、聴き手とシチュエーションを選ばない、スタンダードとしての魅力を備えている。このアルバムの成り立ちについて、及川リンに訊いた。


――まず、『Celebration』を制作することになった過程を教えてもらえますか?
及川リン(以下、同) 「Q;indiviで〈メヌエット〉(バッハ)をモチーフにした曲を作ったことがあって(アルバム『Philharmonique』に収録された〈Love You〉)、それをたくさんの方に評価していただいたんです。そこから、“クラシックと私の歌声を中心にしたアルバムを作ってみたらどうだろう?”っていう話が出てきて」


――及川さん自身が歌詞を書く、というアイディアも当初からあったんですか?
 「はい。最初は“勝手に歌詞をつけていいんだろうか?”って思ったんですけどね。クラシックのファンの方に怒られないかな? とか(笑)」


――「G線上のアリア」(バッハ)、「悲愴」(ベートーベン)、  「月の光」(ドビュッシー)など、ポピュラリティのある曲ばかりですしね。
 「そうなんですよね。でも、歌い手として“クラシックのメロディを歌ってみたい”という気持ちのほうが勝ったというか。今回、取り上げさせてもらった楽曲も本当に美しいメロディばかりだし、やっぱり歌ってみたかったんですよね」


――実際、歌詞を書く作業はどうでした?
 「『Celebration』というタイトルが付いているとおり、祝福、愛情っていうのが大きなテーマになっているんです。曲によって対象は違うし、そこで描かれている愛の形はさまざまなんですが。個人的には〈弦楽セレナーデ〉(チャイコフスキー)がよく書けたんじゃないかなって思ってるんですよ(笑)。このアルバムのなかでも一番、いま自分が思っている愛だったり、恋愛観がストレートに出てるんじゃないかなって」


――意味だけではなく、言葉の響きも印象的でした。
 「あ、それは嬉しいですね。メロディと言葉のなじみ方や、響きはいつも意識していて、日々努力をしているところなので。このアルバムは日々のBGMとしても聴いてもらえると思うんですけど、何か一つでもいいから、強く印象に残るところがあればいいなって」


――そこにも及川さん自身の思いが強く反映されてる。それはこれまでのQ;indiviの作品とは違いますよね。
 「そう、だから“starring”なのかなって(本作は“Q;Indivi Starring Rin Oikawa”名義でのリリースとなる)。確かに個人的な思いも強いし、そのぶん、達成感がありますね。周りの方の意見も、より自分のこととして受け止められるというか」


――このアルバムももちろんハウス・ミュージックが基調となっているわけですが、こういうサウンドもすっかり自分のものになってる?
 「はい、楽しんで歌わせてもらってます。自分のルーツはアコースティックなサウンドが中心なんですけど、歌うことに関して言えば“どんなジャンルでもやってみたい”っていう気持ちが強いんですよね」


――ジャンルが広がれば、歌の表現力も増してきそうですね。
 「Q;indiviでもすごく勉強させてもらってるし、刺激になりますね。田中さんの作るメロディはとても美しいし、尊敬しているアーティストでもあるので。もともと、デジタルとアコースティックを融合させることに興味があったんです。歌は人の体温を一番伝えられるものだと思うし、そこは自分なりに挑戦していきたいなと思ってるところで」


――なるほど。菅野よう子さんのサントラ作品『嫌われ松子の一生』『パコと魔法の絵本』など映画音楽にも参加されてますが、これからやってみたいことは?
 「たくさんありますね。映画のエンドロールで私の歌が流れる、っていうのは大きな目標の一つだし。あとは海外のアーティストと一緒に歌いたい! っていう夢もあって。そういう人たちにも自分の声が届くように、がんばっていきたいですね」



取材・文/森 朋之(2009年7月)


■Q;indivi
第3世代のミュージック・プロダクツ。数多くのアーティスト・プロデュースにも携わる田中ユウスケ、KevinGillmour、及川リンを中心としたクリエイター集団。映像を喚起させる透明感のあるそのサウンド・クリエイトは高い評価を集める。
http://www.q-ltd.com/q_cd/q_indivi/
●田中ユウスケ(SOUND PRODUCE / COMPOSE)
サウンド・クリエイター、音楽プロデューサー。元気ロケッツ「Heavenly star」作曲、YUKI「joy」のサウンド・プロデュースを始め、倖田來未、HALCALI、いきものがかりなどさまざまなアーティストの作品に携わる。近年ではsweetbox、チバユウスケ率いるThe Birthdayのリミックスを手掛ける。そのプロデュースワークとサウンド・クリエイトは各方面で高い評価を得ている。
●Kevin Gilmour(ORGANIZE / RHYTHM PROGRAMMING)
90年代にはエレクトロニック・グループ“The Time Machine”を率いて活動後、バークリー音楽院を卒業、現在日本でCM音楽プロデューサーとして多岐にわたり活動。Q;indiviではRHYTHM PROGRAMMING、Art Directionを担当。
●及川リン(LYRICS / VOCAL /CHORUS)
2004年、映画『下妻物語』のサウンドトラックに参加。その他、管野よう子作品など、多数のCMや映画にて、繊細で独特な歌声が人々の心を掴み、各界で話題となる。2006年には映画『嫌われ松子の一生』、2008年には映画『パコと魔法の絵本』のサウンドトラックに参加。CMでは、資生堂「マシェリ」、SHARP「AQUOS」など多くの作品を手掛けている
http://www.q-ltd.com/q_cd/rin_oikawa/



Q;indivi Starring Rin Oikawa『Celebration』楽曲解説




Q:indivi Starring Rin Oikawa/Celebration
(※発売中 QSP-0001 税込2,415円)

01.G線上のアリア(バッハ)
 「管弦楽組曲第3番」のアリアをもとに、ヴァイオリンのG弦だけで演奏できるように編曲された小品。軽やかな心地よさをたたえたハウス・ビートを軸にしたトラックが、メロディの可憐な魅力をバランスよく引き出している。


02.威風堂々(エルガー)
 原曲はイギリスの作曲家、エドワード・エルガーの行進曲。しっかりとしたグルーヴを感じさせるベース・ライン、パーカッションを効果的に交えたリズム・アレンジ、華やかなピアノのフレーズが品のいい高揚感を表現している。


03.結婚行進曲(メンデルスゾーン)
 このアルバムのテーマである“祝福、愛”をもっともストレートに感じさせるナンバー。喜びに満ちたサウンド・メイクのなかで広がり、エアリーな透明感に溢れたヴォーカルの素晴らしさをたっぷりと堪能してほしい。


04.愛の挨拶(エルガー)
 1888年、自身の婚約記念の際、パートナーの女性に贈ったとされる楽曲。“Just like a flower and morning light”というフレーズでスタートするリリックが、メロディの愛らしい雰囲気にぴったり。


05.トゥーランドット(カルロ・ゴッツィ)
 1762年に著されたカルロ・ゴッツィによる戯曲「トゥーランドット」、そのもっとも有名な歌をモチーフにしたナンバー。ドラマティックな展開を見せるメロディと祝祭のムードあふれるサウンド・プロダクションが見事に融合。


06.弦楽セレナーデ(チャイコフスキー)
 1880年に作曲されたチャイコフスキーの代表曲。切なくも力強い旋律とパワフルなサウンドが、“大きな愛”をテーマにしたリリックとともに心地よく広がっていく。エモーショナルな色合いを強めた歌にも、ぜひ耳を傾けてほしい。


07.悲愴(ベートーヴェン)
 ベートーヴェンのピアノのソナタのなかでも、もっとも高い評価を得ている作品のひとつ。気持ちよく体を揺らしてくれるビートと豊かな叙情性をたたえたメロディがナチュラルに溶け合っている。抑制の効いたヴォーカルもいい。


08.ジムノペディ(エリック・サティ)
 1888年に著された、フランスの作曲家エリック・サティの代表曲。浮遊感のある旋律、抽象的な雰囲気をまとったリリック、ささやくようなヴォーカル・スタイルが一つになり、聴く者を幸せな空想の世界へと誘い込んでいく。


09.月の光(ドビュッシー)
 「ベルガマスク組曲」の第3曲にして、ドビュッシーの作品のなかでももっとも人気のある楽曲の一つ。旋律を奏でるのはピアノ。そこに及川のナレーションを加えることにより、幻想的な雰囲気のインスト・ナンバーに仕上げている。


10.別れの曲(ショパン)
 数多くのアーティストにカヴァーされ、映画やドラマなどにも使用されてきたショパンのもっとも有名なエチュード。エレクトロ・テイストの音響とイノセントなムードを持った歌を中心としたアレンジが印象的。


11.主よ人の望みの喜びを(バッハ)
 1723年、聖母マリアご訪問の祝日のために書かれたとされる楽曲。オルゴール風のサウンドのなかで、祈りにも似た美しいヴォーカルをゆったりと楽しむことができる。シンプルながら奥深い魅力を持ったコーラス・ワークも素敵。




文/森 朋之
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