2007年に発表されたアルバム
『イン・レインボウズ』をひっさげ、10月1日の大阪市中央体育館から10月8日の東京国際フォーラムまで全6公演行なわれた
レディオヘッドの来日公演。即日完売となった今回の公演のチケットを入手できず、涙を飲んだ方も多いのでは? 今回は10月4日、5日にさいたまスーパーアリーナで行なわれたライヴを4名のCDJournal.comのスタッフがレポート! ライヴはもちろん、会場の興奮や熱気などをダイレクトにお届けいたします。
ジョン・レノン・ミュージアムが併設するさいたまスーパーアリーナ。昔からファンですといった感じの男性ファンが多く、観客の年齢層は若干高め。また、物販の列は尋常ではなく、開演1時間半前の段階で“今から並ぶと開演に間に合わないおそれがあります”というアナウンスも響いていました。
オープニング・アクトは、
トム・ヨークのアルバム
『ジ・イレイザー』のリミックス盤にも参加しているドイツのエレクトロニカ・ユニット、Modeselektor。ステージ背後に設置された3面スクリーンにさまざまな映像やグラフィックを映し出し、DJスタイルによる演奏でテクノ/エレクトロニカ・サウンドをノンストップで奏でました。約30分間のアクトで会場は熱気に包まれ(アリーナはすでに蒸し風呂状態!)、レディオヘッド登場への準備は完了。
さて、レディオヘッドのライヴはどうだったのか。気になるライヴの模様をご紹介いたします!
■10月4日(土)
「初期の曲も聴きたかった」
10月1日から始まった来日公演。わりと日ごとにセット・リストも変えて、本編は時間たっぷりやって、アンコールにも応える。このあたり、日本への愛が多分に感じられる次第。というわけで、4日のさいたま公演に行ってきました。
さて。17:00開演、前座のModeselektorも無事(?)、適度(?)に幕引き。レディオヘッドは18:10頃に登場。予想どおり『イン・レインボウズ』のオープニング・トラック「15step」からスタート。その後はひたすらディープ・ブルーに深く潜る展開が続き、集まったファンの多くは、メロウにたゆたうトム・ヨークのヴォーカルにうっとり身を預けていました。とくに「Nude」では、楽曲の幽玄さと曲中に訪れる一瞬の静寂も相まって、ファンからはどよめくような歓声も。さすがだなー。などと思っていたら、「Faust Arp」では歌い出しが気に入らなかったのか、トム・ヨークが「……Again!」と曲を中断、もう1回頭からやり直したり(笑)。
『イン・レインボウズ』(全曲きっちり披露)+
ベスト盤からが中心で、淡々となめらかに進む展開。個人的には
『キッド A』からのナンバー(この日は「Idioteque」「Everything in it’s right place」などを披露)が良かったですね。初期の曲(「Anyone Can Play Guitar」は聴きたかったぁ)も聴ければもっと良かったけど、繊細で崇高な曲をたくさんやってくれたし満足です。そういえば、10月7日はトム・ヨークの40歳の誕生日でした。フォーラムでは、なにかサプライズがあったんでしょうかねぇ。はてさて。(田山雄士)
「驚き三昧の一夜となりました」
レディオヘッドをロクに聴いておらず、ファンから程遠い私ですが、なぜか成り行きでチケットを手に入れ、来日公演に行って参りました。
大バコのライヴで楽しみなのが、ステージ・セット。今回はステージの天井から大量のLEDパイプが垂れて、変幻自在に輝いていました。特に宇宙を模したと思われるパターンは秀逸の一言です。
ライヴ本編では、トム・ヨークの歌声がCDで聴く以上に美しくて儚いことに驚き、彼の多芸ぶり(ピアノ・ギター・上手くはないけどドラム)に驚き、やたら身体と首をくねくねさせて歌う姿にも驚き、トムだけでも想定外の事ばかり。自分の中で勝手に「物静かでクレバーで緻密な音作りをするバンド」と位置づけていましたが、時折見せる狂気と衝動に満ちたプレイに、前言撤回。やはり生で観ないと分からないことがたくさんあると痛感しました。
想定外いえば、「縦ノリジャンピング禁止/ダイブ・モッシュ禁止」の張り紙。ダイブ禁止はよく見かけますが“縦ノリ”や“ジャンピング”まで禁じる公演は初です。まぁそんな事をする人はいないさ、とタカをくくっていたら、思いのほかたくさんいらっしゃって、それにも驚愕。驚き三昧の一夜となりました。 (武田ちづる)
「もうUKロックという次元で語るバンドではないと思った」
ライヴを観るのは『キッド A』〜
『アムニージアック』のツアー以来なので7年ぶり。前に観たときよりもバンドははるかに進化していて、UKロックというよりもプログレ・バンドというか、“ロック”ではなく“音楽”を奏でる演奏家集団のように感じました。ファンにはおなじみとなりつつある至近距離でメンバーや機材を映し出す映像やLEDライトを使った大掛かりな演出も、レディオヘッドをさらに巨大な存在に感じさせ、7年前とはもはや別バンドのようにも感じたり。
ジョニーはテレキャスター1本でギターとしての機能をはるかに超えた音を奏で(ギターを弾きながらギターのヘッドで鍵盤を弾く荒業も披露!)、それとは対照的にES-335(?)やテレキャスターなど次々とギターを持ちかえ、ギタリストらしい姿を見せてくれるエド(コーラスもバッチリ!)。必要最小限のフレーズで楽曲にアクセントをつける安定感たっぷりのコリンとフィルのリズム隊。そして何より、トム・ヨークのその歌声と圧倒的な存在感(あの奇妙な踊りも健在)! ピアノやエレピ、パーカッションなどさまざまな楽器を多用して曲ごとに楽器編成が変わり、ギター・バンドとしての側面をそぎ落としても、やっぱりレディオヘッドはレディオヘッド。初期の曲も今の曲も並列に違和感がないのは、メンバー・チェンジなくずっと活動を続けてきた賜物でしょうか?
そんなライヴを観終えて、もうUKロックという次元で語るバンドではないとあらためて思ったのと同時に、“レディオヘッド”というジャンルが成立しているとも思いました。あの5人だから成り立つ誰にも真似のできない音楽なんだと、ライヴを観てより強く感じました。 (千田正樹)
■10月5日(日)
「レディオヘッドはとてつもないライヴ・バンドだと実感した」
さいたまスーパーアリーナ公演、2日間とも行きましたが、わたくしは2日目のリポートを。この日は、前日と同じく『イン・レインボウズ』のオープニング曲「15steps」から小気味よくスタート。「やっぱりセットリストは昨日と同じか……」なんて思っていたら、なんと
『OKコンピューター』を代表する名曲「Airbag」のイントロが! テンションは一気に急上昇、終始鳥肌ブルブル(前日はこういう“ザ・名曲”的な曲はほとんどやらなかったのです)。そしてその興奮は次の「Just」(95年
『ザ・ベンズ』収録)で早くも沸点に。うつむき加減に全身全霊でギターをかき鳴らすジョニーの姿に、ギター・ロック・バンドとしての初期のレディオヘッドが見られたような気がしました。
そして中盤以降は『イン・レインボウズ』の世界観を保ちながら、エレクトロ要素多め&わりとおとなしめの選曲で進行。この日、なかでも個人的に一番グッときたのが「Pyramid Song」(『アムニージアック』収録)。チェロのように弓を使って奏でるジョニーの幻想的なギターの音とトムの震えるような静かな歌声に、会場中が静謐で研ぎ澄まされたなんとも感動的な空気に包まれたのです。正直、CDでは派手さがない(=とにかく覚えづらい)と思っていた『キッド A』『アムニージアック』の楽曲が、ライヴでこんなにも多くの観客を魅了するものなのかということに、ただただ圧倒されてしまいました。そういった意味で、やはりレディオヘッドはとてつもないライヴ・バンドなのだ、と実感した一夜でした。(木村浩子)
いかがでしたか? ライヴ、会場の雰囲気は伝わりましたでしょうか? ちなみに4日のライヴは、いわゆる名曲、代表曲をほとんど演奏せず、アンコールではトム・ヨークのソロ・アルバム『ジ・イレイザー』に収録された「Cymbal Rush」も披露という、コアなファン向けとでも言うべき内容。とはいえ、やはり多くの人が『OKコンピューター』や『ザ・ベンズ』の楽曲を欲していたのか、アンコ−ルで演奏された「Paranoid Android」「Street Spirit(fade out)」では大歓声があがっていました。その後、曲間には客席から「creep!」と叫ぶ声も聞こえるなど、“レディオヘッド=クリープ”の図式もいまだ健在といった様子でした。
これからも進化を続け、リスナーに驚きと感動を与えてくれるだろうレディオヘッド。今回、ライヴに足を運べず、涙を飲んだファンの方はもちろん、まだレディオヘッドのライヴを観たことがないという方は、次回の来日公演の際にはぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか? 想像をはるかに超えたライヴをきっと見せてくれるはずです。