美しさと暴力性、Ramzaの“手”に触れる『pessim』

Ramza   2017/07/14掲載
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 2016年の突出した名作であるCampanellaのアルバム『PEASTA』において、Free Babyroniaと共にサウンド面を担った名古屋のビートメイカーのRamzaC.O.S.A.やNERO IMAI、MC KHAZZYUKSTA-ILLMIKUMARITOSHI蝮といったRC SLUM周辺のラッパーやBUSHMINDMASS-HOLEKID FRESINOtofubeatsといったアーティストのビートやリミックスを手掛け、その先鋭的な作風に対する評価が高まるなか、今年4月に待望のファーストアルバム『pessim』をリリース。ヒップホップを軸に、エレクトロニカやダブテクノをはじめとするベースミュージック、アンビエントからノイズ、インダストリアルまで、彼の広範な音楽遍歴が美しく危ういビートミュージックに凝縮されている。この作品にインスパイアされた映像作家のTAKCOMが同名の短編映画を制作、公開するなど、そのシネマティックなサウンドスケープがビートミュージックの枠組みを超えた広がりを見せているRamzaは、果たしてこの傑作アルバムにどんな思いを投影したのだろうか?
――今回のアルバム以前に、2011年にフリーダウンロード作品の『GERALD』、2014年に自主制作盤『Dusty』という2枚の作品をリリースしています。Ramzaくんにとって、この2作はどんな位置付けの作品ですか。
 「その2枚は自分のなかでアルバムというよりクラフトなんですよね。『GERALD』はBandcampが始まった頃で、面白いから出してみたという作品だったし、『Dusty』は1枚1枚異なるハンドメイドのコラージュで作ったアートワークを売ることがメインで、音は副次的なもので、気に入ったアートワークは買って欲しくないなって思っていたくらいだったので(笑)」
――そして、Ramzaくんの活動としては、作品制作、トラック提供と並行して、マシンライヴを精力的に行ってきたと思うんですけど、今回のアルバムの収録曲は、ライヴですでに披露したものが多いですよね。
 「僕は曲がある程度出来ると、本来はもうちょっと詰める必要があるんですけど、そうする前に興味がなくなっちゃって、ライヴでやって消えていくだけの曲が作った曲の7、8割なんですよ。で、そういう曲をラッパーたちが拾いにくる。それがCampanellaが去年リリースしたアルバム『PEASTA』だったりするんです」
――個人的に昨年の『PEASTA』は今年出たヴィンス・ステイプルズの『Big Fish Theory』より遥かに先進的なアルバムだと思っているんですけど、CampanellaはRamzaくんのところにトラックをもらいにいくと、自分が作ったトラックなのに“こんな最低なトラックを使うのか”って怒られるって言ってましたし、Ramzaくん自身、“アルバムを出す予定は?”って聞くと、“うーん”っていう状態が何年も続いていましたよね?
 「何なんですかね。自分でもよく分からないというか、僕の音楽には色んな要素がありすぎて、どうしても、1枚のアルバムにまとめられなかったんですよ。例えば、アンビエントなトラックとその一方ですごいヒップホップなトラックがあるとして、それを1つにまとめるとなったら、頭を抱えるっていう。でも、今回、アルバムを作ってみたら、結局、そういう散らかってる感じが自分の音楽、なるべくしてなったアルバムというか、これからもずっとこんな感じなんだろうなって」
――その高いハードルを超えて、アルバムを完成まで持っていけた要因は?
 「(レーベル“AUN Mute”主宰にして、同郷のビートメイカー)Free Babyroniaですかね。ずっと出せって言い続けてくれて、さらに『PEASTA』が出たことで、いよいよでしょっていう無言の空気がハンパなかったし、自分としても抱えてるものを早く出して、次に行きたかったんです。やっぱり、リリースしなかったら、次には行けないんですよね。でも、リリースせず、次に行こうとしてて、数え切れないくらいのストックを抱えて、循環が悪くなってしまったんですよ。だから、アルバムをリリースした今は気持ちいいですね。制作中はすごい細かい音を調整したり、ミックスし直したり、新しい曲を作らずに、古い曲を引っ張り出して触ることがあまりに辛すぎたので、全ての作業が終わって、何も気にせず、新しい曲を作り始めた時の気分はホント最高でした」
Ramza
――同郷のCampanella、Free Babyroniaとは高校生の頃から一緒に音楽活動していたそうですが、当時のRamzaくんはビートメイクだけではなく、ラップもやっていたとか。当時はどういったヒップホップ、アーティストを聴いていたんですか?
 「ニューヨークのヒップホップですね。サラーム・レミをはじめ、好きなアーティストは沢山いるんですけど、敢えて一人だけ挙げるなら、DJプレミアですかね。当時のリアルタイムは2000年代のサンプリング手法を確立したジャスト・ブレイズやカニエ・ウエストJ・ディラだったので、それ以前の90年代ヒップホップは後追いで聴いていて。もっと言えば、ヴォーカルが入ってないサンプリングネタが主流だった90年代ヒップホップに対して、2000年代に入って出てきたディプロマッツはヴォーカルが入ったネタを使っていたところが自分にとっては衝撃で、自分がトラックを作る際にはその初期衝動が10年以上に渡って持続している感じですね」
――しかし、その後、エレクトロニカにどっぷりハマったCampanella、Free Babyroniaに対して、当初、Ramzaくんは否定的だったそうですね?
 「そうですね。エレクトロニカはクソだと思ってた時期もあったんですけど(笑)、その後、自分も完全にハマったという。当時、周りのヒップホップをやってる連中でエレクトロニカに興味があるやつは少なくて。ヤバい音を掘っては、"これはどうだ!"って感じで競い合ってたCampanellaやFree Babyronia、それからテクノをやってる連中とつながってたラッパーのNERO(IMAI)くんとか、そういう数少ない人たちと情報をシェアしてましたね」
――名古屋の郊外でそうしたミュータントなヒップホップが育まれた現象は非常に興味深いんですけど、やはり、ネット・カルチャーの影響が大きかったんでしょうか?
 「僕らは雑誌から情報を得ていた最後の世代なんですよ。高校生の頃は、rootsやSEENっていう地元のストリート誌を読んで、M.O.S.A.D.BLACK GANIONの情報を得たりしたんですけど、ちょうど高校を卒業する頃にMyspaceやmixiが出てきて、寝る時間もないくらい、音楽を掘りまくるようになって。アイスランドの音楽狂になったCampanellaとFree Babyroniaはmixiのアイスランド音楽のありとあらゆるコミュニティを立ち上げては管理してて(笑)、自分は90Sヒップホップのアンダーグラウンドなアーティスト、例えば、スムース・ダ・ハスラーとかトリガー・ザ・ギャンブラーのコミュニティを管理するという不毛なことをしてたんですけどね(笑)」
――当時は、L.D.Kというヒップヒップ・グループで活動していたんですよね?
 「そうです。高校の同級生だった俺とCampanellaとdj ayeの3人で始めたグループだったんですけど、そこに途中からFree Babyroniaが入ってきて、エレクトロニカとかEskmoのようなダブステップのトラックでラップしたり、最後の方はあまりに実験的すぎて、活動はフェイドアウトしていったっていう。当時、名古屋において、一番大きな存在だったTOKONA-Xが亡くなって、何を聴けばいいのか分からなくなってしまったというか、音楽嗜好が解き放たれてしまって。アンダーグラウンドなヒップホップのパーティに通いつつ、そこで知ったアート・オブ・ノイズとかシネマティック・オーケストラとか、ヒップホップ以外の音楽と出会ったことでちょっとずつ音楽の聴き方が変わっていったんです。そして、変わらず、ヒップホップを聴きつつ、水面下では色んな音楽を探しては聴いて、自分の感覚をアップデートし続けて今に至るという感じです。例えば、サウンドシステムにこだわって、E.C.M.のようなジャズを爆音で浴びたり、エレクトロニカからドイツのダブテクノを聴くようになったり、振り返ると、その間、いくつか重要なポイントがあったと思います」
――今回のアルバムでマスタリングを“Pole”ことステファン・ベトケにお願いしたのもRamzaくんが聴いてきたドイツのエレクトロニックミュージックの流れを汲んでいるということなんですよね。
 「ヒップホップアルバムなのにね(笑)。Poleはどんな気持ちだったんでしょうね。でも、ヤン・イェリニクの『Loop-finding-jazz』を世に送り出した彼のレーベル、〜scapeには大きな影響を受けたし、2014年には名古屋でダブテクノを作ってるTetsumasa Okumuraのユニット、Devecly Bitteのリミックスをやったんですけど、そのマスタリングをステファン・ベトケが手掛けていて、その鳴りがすごい良かったんですね。だから、その経験を踏まえて、今回も彼にお願いしたんですけど、出音が柔らかくなったし、散らかってた音がきれいに整頓されたと思いますね」
――世代的に直撃を受けたであろうJ・ディラやLAビートシーンの影響についてはいかがですか?
 「J・ディラは超聴いてましたし、LAのビートシーン、その代表的なパーティ〈LOW END THEORY〉に対抗して、俺たちもムーヴメントを作ってやろうぜっていう勢いでビートメイカー主体の〈MdM(MADE DAY MAIDER)〉という今も続くパーティを始めて。ただ、好きで聴いていたからこそ、彼らのフォロワーにはなりたくなかったんですよね。それはトラップだったり、全ての音楽にも言えることだと思うんですけど、特定のサウンドをトレースするように模倣するのは全く意味がないことだし、その人が作ることによって生まれる作家性が重要なのであって、自分が作る音楽に関しても作家性は常に意識してますね。ビートメイカーだとBUSHMINDやOWLBEATSOLIVEOILもそうだと思うんですよ。聴けば、彼らの作品であることはすぐに分かるじゃないですか。いや、格好いいビートを作る人は沢山いますよ。でも、時代性に呼応はしても、後々まで残るトラックがどれくらいあるのかなって思うんですよ」
――Ramzaの“Ra”はSun Raが由来だとうかがっていますが、このアルバムはフリー、スピリチュアルな側面を持った作品でもあるのかなって。個人的にはこのアルバムからアラビックなインダストリアルダブを量産していたムスリムガーゼの影響を強く感じるんですけど、彼の音楽はポリティカルであると同時にイスラム神秘主義に触発されたものでもあるじゃないですか。
 「そうですよね。自分たちのルーツを探求して、ブラックムスリムとして生きた黒人音楽家もそうですし、アラビア文化に触発されたマンチェスター生まれのムスリムガーゼにも強い影響を受けました。イスラム神秘主義には惹かれるものがあって、スーフィズムについての本を読んだりもしていたし、フリー、スピリチュアルな要素は意識的に盛り込んだわけではないんですけど、作品からにじみ出ているとは思います」
――そうかと思えば、このアルバムは曲名に羊やシャチ、鹿だったり、キリスト教における象徴的な動物の名前が付けられていたり。
 「確かにそうですね。僕は10代の頃から曲名に動物の名前をずっと付けていて、ビートを提供したC.O.S.A.の〈GZA1987〉は最初のタイトルが〈カワウソ〉だったりとか(笑)。そこまで深い意味があって付けたわけではないんですけど、理性を超えた何かの象徴として動物の名前を使っていたりもします」
――そして、アルバム・タイトル『pessim』には悲観的な、厭世的な意味合いがありますよね。
 「そういうネガティヴなムードを匂わせつつ、そこまで破滅的なものではなく、むしろポジティヴな意味を込めたつもりなんですけどね。というのも、戦後のとある私小説を読んでいたら、ペシミズムというのは、別に世界を恨んでいるわけじゃなく、世界は完璧なのに、なんで俺はこんなにダメなんだっていう自己嫌悪の表明として描かれていて。10代の頃から自己嫌悪の意識がずっと強かった自分は、ペシミズムのそういう捉え方に共感を覚えたし、自分自身を象徴する言葉だなって思って、『pessim』というアルバム・タイトルを付けたんです」
――自己嫌悪をこういう危なくて美しいアルバムの世界に転換する行為は、むしろ、ポジティヴな行為ですもんね。
 「むしろ、破滅的じゃなかったら意味なくないですか?って思うんですよ(笑)。中庸なものだったり、毎日楽しく生きてるだけの人間は絵にならないし、例えば、酔い潰れて、アスファルトに打ち付けられた翌日にいいことが訪れるとか、友達が出所してくるとか、破滅のなかに一筋の光が射すとすごい絵になるじゃないですか。映画の表現って、そういうものだと思うんですけど、光と闇だったり、コントラストがある作品には強く感じ入るものがあるんですよね」
――感情が大きく振れるこの作品も暴力的であると同時に美しかったり、マシーンミュージックであると同時に血が流れているように感じられたり、確かにそうしたコントラストには想像力が掻き立てられます。
 「血が流れてますか(笑)。色んな人からそう言われるんですけど、そうですね。自分でも何故かは分からないですけど、確かに血の匂いは漂っていますよね。今回のアルバムを制作しているタイミングで映像作家のTAKCOMさんから映像を作らせてもらいたいということで、『pessim』を彼なりに解釈した短編映画を作ってもらったんですけど、その映像でも真っ赤な血が大量に流れてて、僕の音楽はそう捉えられているんだって、すごく興味深かったです」
――作品を作る時は、何らかのヴィジュアルイメージを想像することはありますか?
 「映像を作るように作品を作っているわけではないですけど、映像を喚起する要素は必ず入れるようにはしています。いい意味でも悪い意味でも自分にはロマンチストなところがあって、自分の曲や誰かの曲を車で聴いている時に映画のワンシーンのような映像を思い浮かべて遊んだりしているし、短編映画を作ってくれたTAKCOMさんにも“抜群に映像喚起力がありますね”って言ってもらえて、すごいうれしかったですね」
――しかも、この作品のアートワークは、ご自身が手掛けたコラージュなんですよね? 音を作ったうえで、さらにそれをヴィジュアルに変換する作業はスムーズに進みました?
 「すごい難しかったです。普段、コラージュはぽんぽん出来るんですけど、この作品は音が出来上がってから、アートワークがなかなか決まらなくて。でも、今回のアートワークに込めた意味合いとしては、“手”であることが重要だったんですよ。“手”、つまりはクラフトということですね。クラフトには色んな意味があると思うんですけど、その時代を知るにはニュースなんかを見るよりも、誰かが作った何かを見たり、聴いたり、触ったりすることが大切というか、それこそが全てだというのが僕の哲学なんですよ」
――マシーンで作られた音楽であり、知的で、アーティスティックな作品であると同時に、このアルバムはプラグマティックな作品であり、フィジカルな作品であることは特筆すべきか、と。
 「ナードミュージックではないですよね。日々生きているとそれなりに揉まれたり、すれたりして、そこで何かしらの力強さを手にしないとサヴァイヴ出来ないわけで、そうした在り方こそがごくごく自然なことなのに、今の時代、その自然なことが異端なものになってしまっていますよね。もっとも、そういうメッセージや念を今回のアルバムに詰め込もうとは思っていなかったんですけど、インストアルバムにも関わらず、結局、漏れ出てしまいました(笑)。アルバムというのは、制作していた期間、僕の場合は長くかかってしまいましたけど、文字通り、その記録であって、その間に考えていたことは伝えようと意図しなくても、伝わってしまうものなんだなって、よく分かりましたね」
取材・文 / 小野田 雄(2017年5月)
Ramza Live Schedule
twitter.com/ramza_mdm
yignight Presents
KINGPINZ“KINGPINZ”(MASS-HOLE & KILLIN'G) RELEASE
& YOUBOB“the INVISIBLE exhibit”in NAGOYA EXHIBITION PARTY


2017年7月14日(金)
愛知 名古屋 club JB'S
開場 / 開演 22:00
前売 3,000円 / 当日 3,500円

出演

Guest Live: KINGPINZ (MASS-HOLE & KILLIN'G) / Ramza / SH BEATS
Guest Livepaint: YOUBOB
JOE$ / SLUSH SNAKE / dhyan / SHADOW JAM / KANA




NATURALISM vol.1

2017年7月15日(土)
京都 OCTAVE
開場 22:00
前売 2,000円 / 当日 2,500円(+ 1Drink)

出演

SP GUEST: Campanella / Ramza
Live: R-pezio / 要 / criminally in / RIO / REO D-White
DJ: 矢車 / SULLEN / DUKE / arrki aka 842 / 百姓
Beat Live: dhrma / AEgill




CERF CAMP 1st. Anniversary

2017年7月16日(日)
兵庫 加古川 bar antonio
開場 21:00 / 終演 5:00
当日 3,000円(+ 1Drink)

出演

SP Guest: KID FRESINO / Campanella / Ramza / NF Zessho
Live: KAKKY / 写楽 / MC Rey / criminally in. / d-white / JIN / Little juniour
Beat Live: dhrma / Agill
DJ: SULLEN / 矢車 / JAM / ZAKI / YASUDUB / DUKE
Dance show: NUBIAN
Photo: toru


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