ジャズ・ピアニストとしてのバックグラウンドを持ちながら、ハウス・シーンのトップ・クリエイターとして、今や世界各国のフロアをロックする存在となった
ラスマス・フェイバー。確固たるコンセプトのもとに制作された、記念すべき“オリジナル・ファースト・アルバム”
『Where We Belong』を発表、一夜限りのリリース・パーティのために来日を果たした彼に話を訊いた。
「“良いアルバムを作りたい”っていう最初のプラン通りでありながら、エモーショナルで自分の想像以上に情景や映像が浮かぶ音作りができたと思うよ」と、待望のフル・アルバム『Where We Belong』を完成させたスウェーデン生まれのハウス・クリエイター、ラスマス・フェイバーは、本作について語る。
いわゆるクラブ系と呼ばれるアーティストの多くは、12インチなどフロアでの機能を基準にした作品作りを行なっており、ラスマス自身も数多くのシングル、そして
『So Far』 『To Far』という2枚のシングル集的なアルバムをリリースし、ヒットさせてきた。しかし今回、ラスマスは“アルバム”という意識よりも大きな意図で、彼自身の音世界を構築していった。
「今回は考える前に自然に浮かんでくるようなメロディやアイディア、かつ今までにやったことのないフレッシュさを意識したんだ。シングルはフロアでかかる前提としては機能的だけれど、アルバムにはそういった機能を超えた音楽的な自由度が存在すると思うんだ。僕の場合シングルはまずコンセプトを立ててから作るんだけど、今回のアルバムはアルバム自体が一つのコンセプトだから、より自由に音楽を生み出すことができたね」
その意味では、アルバム単位で一つの大きな物語を描くという伝統的な作品作りだったと言えるだろう。
「スタイルやジャンルに固執しないで、時間や国境、年代を超えた、誰もが共感できるような深い感情を呼び覚ます作品を作りたかったんだ。だからこのアルバムで避けたのは、いわゆる今っぽいハウスを作ること。トレンドを意識して今だけアピールするものではなく、できる限りタイムレスで普遍的な作品を作ろうと思ったんだ。同時にハウスという枠組みを使うことによって、アルバムを一枚の絵のように、ぼやけずに収めることができたと思うよ」
たしかにこのアルバムから感じるのは、ハウス・ミュージックという基礎は存在しながらも、着地点にあるのは普遍的な“グッド・ミュージック”という音楽性だ。リスナーの心を優しく包むような心地よいメロディ、それが作品の背骨としてアルバムを支えている。
「心地よいメロディなのは……それは僕が穏やかな人間だからじゃないかな(笑)。だけどメロディを重要にしている意識はないんだ。良いメロディを作ること自体が僕にとって普通のこと。いわゆるダンス・ミュージックという枠の中じゃなくて、もっと広い音楽と比べても遜色のないクオリティの作品を作りたいから、それは当然のことだよね。ブラック・ミュージックの影響を感じるんだとしたら、ハウス・クリエイター以前に自分の基礎にあるジャズやソウルの影響かもしれないし、そういう音楽的背景は自然に表われてしまうものだね。ハウス・リスナーと同時に、そういったジャンルに触れていない層にまで音楽を届けたいというのが僕の使命だと思っているから、オープンな気持ちでこの作品を受け取ってもらえると嬉しいね」
取材・文/高木晋一郎(2008年11月)