――サマー・アルバムという構成で作品を作られた理由は?
MUMMY-D 「<フラッシュバック、夏。>は、去年リリースした<WALK THIS WAY>と同時にできた曲だったんだ。で、やっぱり季節を表現する部分が強かったから、夏にとっておこうと。それをサマー・ミニ・アルバムに結実させようってのは去年末ぐらいに決まったのかな」
――「WALK THIS WAY」と同時にできたというのは興味深いですね。
宇多丸 「“良い時だ”ってことは、その良い時が終わって気づくっていう、大人の諦観込みの曲だし、“でもそれは人生の宝物だよね”って思えるという意味では、コンセプト的には<WALK THIS WAY>と通底してるんだよね。この曲でいう“良い夏”っていうのはヴァーチャルな世界にしか存在しないっていうペシミスティックな視点に立ってるし、しかも、“記憶”とか“残像”ってその思い出も本当かどうかも怪しいって言い散らかした挙げ句、その上、スゴく不吉に終わるという(笑)。でもその視点のサマー・ソングを思いついた時は発明だって思えた。ペシミスティックではあるけど“生の輝き”を捉えた内容だし、みんなが共有できる感覚ではあると思うんだよね」
DJ JIN 「ビート的な部分でも、RHYMESTERはブラジリアン・テイストのある曲がけっこう多いし、本流なサウンドって気持ちがあったかな」
MUMMY-D 「今回のトラックは
GAGLEのMITSU THE BEATSがプロデュースしたんだけど、もう、リズム感だったりコード進行だったり“生理的に好き”って感じだね。だから、聴き手の人がどう思おうが、“俺たちはこれが好きだ!”って言い切れるようない達成感がある」
MUMMY-D 「
ベンチャーズ的なサーフ・ロックで一曲作りたいなと思った時に、パッとのっさん(小野瀬雅生)が浮かんだんだよね。で、その話をしたらのっさんも“今、寺内タケシさんにハマってて”って言ってて、これはテケテケやってもらい放題だなって(笑)。手法としてはマボロシの方法論を取り入れたプロデュースになったね」
――ビート的にもドライヴ感の強い、サンサンと輝く太陽を感じさせるような曲調ですが、歌詞的には震災以降を一番色濃く反映していますね。
MUMMY-D 「そうだね。最初は“海!波!可愛い女の子!”的なバカな曲にしようと思ってたんだけど、それを決めた数日後に地震があったんだ。そういう時期に作った曲だったら、それはやっぱりどうしても意識せざるを得なくて。ただ、何もなかったかのうように夏を歌うのは簡単だとは思うんだけど、それは自分としてもいいことだとは思わないし、一回一回、一曲一曲作るたびに考えて、自分たちの思う正解を出していくしかないなって。そうやって作った曲だね」
――
さかいゆうを客演に迎えた「Magic Hour」はJINさんのプロデュースですね。
DJ JIN 「もともと、夏をテーマにリスナーの心に沁みるような作品を作りたいなと思った時に、ソウル・ジャズのファジーなコードが循環していくようなモノにしたいってイメージがあって、そこに歌サビを載せるとしたら、伝統的なソウルのオーガニックな感じと今の音楽の流れが同時に分かってて、メロディ・メイクも歌もできるのは、さかいゆうだよねって。音的にもシネマティックな音像にしたくて、こういう奥行きのあるモノになったんだけど、これを3人で聴いて出てきたテーマが、日没の時に現れるマジック・アワーだったんだよね。そういう“朧”な感じを表したくて」
――宇多丸さんは
矢野博康さんとの共同プロデュースで「into the night」を制作されましたね。
宇多丸俺は曲自体は作れないから、誰かと組むしかないんだけど、MIHIROの<これは恋ではない>を俺がプロデュースした時に一緒に手がけてもらったのが矢野さんで、今回も“じゃあ俺は矢野さんと組んで80'sをガッチリやりたい”って真っ先に浮かんだんだ。で、矢野さんに“あの曲のコード感や、あの曲のドラムの感じ”みたいなことを説明して、それをサウンドとして具現化してくれたって感じかな。内容的には<フラッシュバック、夏。>と似てて“期待してる時”のことを歌ってるんだよね。良い予感を感じてる瞬間が、人生で最高の瞬間じゃんっていうね。だって、一番良い時間が始まったその瞬間から、実は絶望が始まってるかも知れないしさ(笑)」
――そして、説明するのは野暮な超濃厚曲「ザ・サウナ」に加え、この後の夏フェスなどが楽しみになる内容ですね。
宇多丸 『POP LIFE』と『フラッシュバック、夏。』って新曲がたっぷりあるから、どう組み合わせるか考えもんですよ」
MUMMY-D 「でも全然やらなかったりして(笑)」
取材・文/高木“JET”晋一郎(2011年6月)