活動再開後の楽曲をコンパイルしたベスト
『The R 〜The Best of RHYMESTER 2009-2014〜』 のリリースや、イベント〈R25〉の開催などで、結成から25周年となる2014年を駆け抜けた
RHYMESTER(ライムスター) 。そして2015年はビクターへ移籍、レーベル「starplayers Records(スタープレイヤーズレコーズ)」を立ち上げ、両A面シングル
「人間交差点 / Still Changing」 で新たな一歩を踏み出した。オーセンティックなファンク・ビートに、それぞれの人生を肯定するテーマを形にした「人間交差点」、ポップ・アプローチなビートに変化の肯定を形にした「Still Changing」。その意味では、"王道"と"変化"の両面こそがライムスター・イズムだということをシングルとして切り取った意義深い作品だと言えるだろう。主催フェスの開催と併せて、ライムスターは常に切り拓き続ける。
――ベスト盤のリリースで一区切りという意識はありましたか?
DJ JIN 「狙って連続するような作品群にしたわけではなかったんだけど、でも再始動後の自分たちは、独特の雰囲気があったと思うし、ベストは“ライムスターの一時期”をパックしたものになったかな。〈人間交差点〉からレーベルを移籍することで、また変化があると思うから、それまでの期間はまとめておきたかった」
――シングルからまた新たな一歩を踏み出すということですね。
宇多丸 「そうだね。このシングルでは〈人間交差点〉よりも、〈Still Changing〉の方が、その意味合いとしては強いかな」
Mummy-D 「〈Still Changing〉を先に録ってたんだよね。移籍第一弾ってことでアッパーな作品にしたくて、
BACH LOGIC のこのトラックを選んだんだけど、最初は宇多さん(宇多丸)とJINには聴かせなかったんだ。“果たして、これでいいのかな”っていう逡巡が俺の中にあって」
――というのは?
Mummy-D 「ヒップホップとしてはあまりないタイプのビートだし、扱いをちょっとでも間違えると、変にポップ過ぎて聴こえてしまうかなって迷いがあったから。だけど聴かせたら“これでやってみようよ”って。“変化し続ける”“チャレンジを続ける”っていうテーマは、宇多さんから出たんだよね」
宇多丸 「確かにヒップホップとしては際どいトラックだと思うんだ。でも、だからこそ、いつだって変わってきた、でも変わらないというライムスターのあり方を落とし込めるビートかなと。ただ最初の段階では、それが出来るっていう確信は持てていなかったのも事実」
Mummy-D 「まず手を付けてみてからって感じでもあったね。サビから作り始めたんだけど、何パターン作っても全っ然しっくり来なくて。もう何フック作っては潰したかって感じ。はっきり言って、今までで一番難しかった」
――それはどういった部分で?
宇多丸 「テンポと曲調の問題かな。ビート自体が"歌ってる"から、そことの整合性とか」
Mummy-D 「なにしろテンポがまず難しいんだよね」
――BPM125付近と、オンで乗るには速いし、半分 / 倍速で取るには遅いですよね。
Mummy-D 「そうそう。ラップをガッと乗せると過剰になるし、じゃあ朗々と歌い上げるかって言ったら、それはライムスターとしては違うし。本来、ラップを受け付けないトラックなのかもしれない(笑)。でも華はあるからどうにかモノにしたくて、ずっと頑張ったんだよね」
宇多丸 「ビート的にも内容的にも楽天的な雰囲気があるから、暗い顔よりもサラッとした印象になってくれないと。でもラップで楽天的って相性悪いんだよね。やっぱり、葛藤を乗り越えるのが、ヒップホップの醍醐味でもあるから」
――特にライムスターはそうですね。
宇多丸 「そうだよね。だから出来なさすぎて、普通だったら“これは無しかな〜”ってなるところなんだけど、それでも捨てきれない何か、この感じだからこそ出せる何かがあったんだよね」
RHYMESTER / 人間交差点 / Still Changing
――お言葉通り、サラッと軽快でありつつも、タフな部分のしっかり感じるフックだと感じました。この曲のDさん(Mummy-D)のヴァースは、Common 「I USED TO LOVE H.E.R.」的なアプローチなのかなと思ったんですが。 Mummy-D 「そう? でも今回の内容はヒップホップに対するメタファーとかではないよ」
――そうだったんですか?!
宇多丸 「あ〜、でもそういう発想も分からなくはない」
Mummy-D 「うん。だからそうやって聴いてくれてもいいよ(笑)!」
――(笑)。スゴく勝手な解釈をさせてもらうと、例えば「見慣れた景色 / 見慣れない人々 / 横目で見ながら一人歩いてる / 下手な口笛吹いて」ってパートは、“ヒップホップは普遍的に『風景』になったけど、シーンにいる人たちはどんどん変わっていって、それでもライムスターはヒップホップを続けている”ことなのかなって。だからDさんのヴァースで“ライムスターが見る今のヒップホップの状況”を描いて、その後の宇多丸さんのヴァースで“ライムスターのヒップホップ”と対比させたのかなって。
Mummy-D 「いや〜、深みが増すねぇ(笑)」
宇多丸 「って言うと全然深みがなくなるよ(笑)! でも、その解釈もありっちゃあり。“Wi-Fi”のくだりとかも“どこでもヒップホップに触れることの出来る今の状況”って捉えられるしね。変わったって言われるけど、変わってない。でも、変化が悪いことじゃないというテーマは、そういったことも包括しうるし、それがヒップホップに当てはまるのは当然だよね」
Mummy-D 「ホントのことを言えば、自分の体験談なんだよね。“アンチエイジングって気持ち悪くない?”とか、“「年を取ることが悪」なんて風潮は若い子たちにとって希望ないよな”って話をした直後に、高校の同窓会があって」
――想像以上にパーソナルな話だったんですね(笑)。
Mummy-D 「そうだよ(笑)。で、みんなオバさん化してるかと思ったら、女の子がみんな結構可愛くてさ。……飲んでたからかもしれないけど(笑)。それがなんか嬉しくて、年取ることも悪くないよ、格好いいことじゃんって表現したくなったんだよね。それが俺のヴァース」
DJ JIN 「でも、(曲中の)女の子をヒップホップと捉えても……」
Mummy-D 「やぶさかではない(笑)」
宇多丸 「女の子が出てくると、それはヒップホップのメタファーじゃないかっていうのは、ヒップホップ・リスナーこそ思いがちだよね。しかも俺のヴァースは、実在の俺たちが主語になったセルフ・ボーストだから、余計にヒップホップとの対比になってるって思うのは当然かもね」
――こういった変化・進化を命題に持ってきたことが、リスナーとしては、スゴく嬉しい部分でもあって。
宇多丸 「俺のヴァースも、最初はもっと一番に寄せたような内容だったんだよね」
Mummy-D 「宇多さんも最初は歩いてたから、もう歩かなくていいよって(笑)」
宇多丸 「“もっとフルスロットルで威張っていいよ”ってディレクションがあって、この方向に進んだ感じだね。この(変化の)タイミングで、(進化を)威張るのは正しいよねって。ベテランになるほど、新しいことをやると、リスナーからは“そこは求めてなかった!”なんて言われることもあるし、かといって同じことばっかりやってるのもダメで、だから、これまでの良さを残しながら、それでも“今の曲”になるのが一番格好いい。“オヤジたち変わってねえけど、今の曲になってるじゃん!”ってさ。そのために、どの曲をいつ提示するか、どうカードを切るかっていう、そのバランスはスゴく考えるよね。気づいたら“『リスペクト』の頃の曲はライヴでやってないじゃん”とか、誰もすぐには気がつかないレベルで変化させることが必要じゃないかって」
――身体の細胞が徐々に変わって、いつしか全く別の細胞で構成されるように。
宇多丸 「そうそう。まさにそうだね」
――その意味では「Still Changing」は目新しいビートですが、「人間交差点」はファンク性が強い、いわゆる“ライムスターらしさ”があります。
Mummy-D 「前作(『ダーティーサイエンス』)はダーティな音像がテーマになったから、次のアルバムはもっと耳にやさしいものを作ろうと思ったんだけど、ただ、それがシングルとして一発目にくるのはちょっと違うのかなと。だから最初は派手な感じでいきたくて、この2曲のバランスになったかな」
――「人間交差点」はJINさんのプロデュースですね。
DJ JIN 「次のアルバム制作の流れのなか、総合プロデューサーのDから〈ミュージシャンシップとクロスオーヴァーするようなサウンドで、かつアガる曲が欲しい〉って言われたんですね。自分のアーカイヴを考えた時、
Ray Barretto の〈TOGETHER〉をサンプリングじゃなくて生演奏で、しかもヴィンテージではなくフューチャーなサウンドになるオケにしたい……そこで演奏を
Mountain Mocha Kilimanjaro にお願いして。ファンクやジャズを柔軟に構築してくれることは分かっていたので」
――原曲の音域は中音域が部分が強いですが、「人間交差点」ではグッと高・低音部が持ち上がってますね。
DJ JIN 「ハイ・エンドとロー・エンドにガッツがある音作りにしようと思って。そのドンシャリな感じで、今っぽい、世界的に流行っている音像にもしっかり近づけようと」
VIDEO
――この曲の“人間交差点”というテーマはどのように決まったんですか?
宇多丸 「5月10日に開催するフェス(RHYMESTER presents 野外音楽フェスティバル 人間交差点 2015)を立ち上げる時に、そのタイトルと絡めて生まれてきたテーマだね。かつ、今作ってるアルバムの全体も、この曲に繋がっていく。だから、アルバムの一曲一曲で言ってきたころが、この曲で決着するような、ピースの中心になるような曲だと思う」
――アルバムの前哨曲であり、決着点を先に見せているというか。この曲は“誰しもが主人公である”というメッセージを中心に構築されていますが。
Mummy-D 「人間交差点というテーマで何を歌おうか考えた時、多様性と、それを肯定することを形にしたいと思ったんだよね。例えば、渋谷のスクランブル交差点を渡るとき、自己中心的な考え方をしてしまえば、周りの人がただのエキストラに見えるかもしれない。でももちろん、そこにいる人たちにはそれぞれの人生があって。だからエキストラなんていないし、みんな主人公なんだって気づくことができれば、人に対して優しくなれるんじゃないかな」
――最近は日本でも、外国人や障害者、性的少数者などのマイノリティに対する排斥や排除を唱える人たちの存在が無視できなくなってきています。もっと身近でも、例えば「ベビーカーで電車に乗るべきかどうか」までが問題される。そういった不寛容な部分が表出しやすくなっているのかなと思うんですね。それに対するライムスターからの回答なのかなとも思いました。
宇多丸 「イントレランス(不寛容)ですよホント。世界的な問題だって、そこに繋がっている部分もあるし」
Mummy-D 「不寛容ないまの世の中に対して“何か言いたい”気持ちはスゴくあったし、同時に俺らは今“何かを混ぜたい”時期。自分たちのキャリアの中で“ヒップホップとしての純度を高めたい時期”もあったけど、今は“混ぜたい”タイミングなんだと思う。それはフェスもそうだし、ヒップホップとヒップホップ以外、人と人、楽曲にもいろんな要素を混ぜて作りたい。そういう意味でも、この曲を作る運命的な意識を感じたりもする。その混ざり合ったものから“次”が生まれるとも思うし」
宇多丸 「交差点って、ぶつかりそうになったら、お互いに気を使って避けるっていう、人間の無意識的な知恵に基づいてると思うし、それって不寛容とは間逆じゃない? 指図されるんじゃなくて、それぞれが勝手だから上手くいく。その意味では、人間の叡智の究極かもって思ったんだよね」
――その意味では、色んなアーティストや色んなお客さんが、思い思いにその場とその時間で“交差”するフェスという場に、“人間交差点”と名づけたことにも合点が行きました。
Mummy-D 「以前から、俺らが主催でフェスをやったほうがいいのかな、でも大変そうだな……って腰が上がりきらなかったんだけど(笑)、今回はスタッフが盛り上げてくれたんで“よし! じゃあやるか!”。俺らっぽいフェスを考えたら、ヒップホップ勢と他のジャンルのアーティストを混ぜて、舞台上も、バックステージも、客席も、交差して化学変化するような一日にしたいね」
――その意味でも、非常にミクスチャーな人選になっています。
Mummy-D 「自分たちが好きなアーティストなのは間違いないんだけど、“ライヴが上手い”のが一つのテーマになってる」
宇多丸 「もちろん“あの人も呼んで欲しい”とかも分かるんだけど、全部のカードは切れないし、来年以降もやりたいと思ってるから。だから、これは組み合わせの一部」
――なるほど。そして先ほどお話にあった通り、アルバムの制作が進んでいるとのことですが。
Mummy-D 「キーになる部分で言えば、今回は
PUNPEE と作ったアルバムって感じになりそう。それだけ動いてもらってるし、“PUNPEEと曲を作る”そのミラクルがスゴく作用してる。あいつ、スゴいポップなんだよね、センスが。それがライムスターにどう影響するかは、なかなか想像しにくいとは思うけど、絶対にマジックが起こってる」
宇多丸 「あとはクレちゃん(
KREVA )との曲も画期的な感じになってて」
Mummy-D 「その意味でも、サウンド面は全体的に意外な曲調が多いかもね。でもグッド・ミュージックな雰囲気にまとまってると思う」
宇多丸 「普通に“素敵”って思ってもらえるんじゃないかな。メロディックな要素も多いし。テーマ的にも、言ってることもアダルト・テイストな、一貫したアルバムに聴こえると思うよ」
――その意味ではリリースがもう見えそうですね!
(全員複雑な表情で顔を見合わせる)
―― ……大体、どれくらい先かが分かりました(笑)。
DJ JIN 「言ってる側でさえ、そわそわしちゃって。言っといて(笑)」
取材・文 / 高木 “JET”晋一郎(2015年4月)
ライムスター・野外フェスティバル 『人間交差点 2015』
nkfes.com 2015年5月10日(日) 東京 お台場野外特設会場(ゆりかもめ青海駅すぐ) 出演: ライムスター / KGDR(ex-キングギドラ) / SOIL&“PIMP”SESSIONS / 10-FEET / SUMMIT(PUNPEE, GAPPER, SIMI LAB, THE OTOGIBANASHI'S) / スガシカオ / SUPER SONICS / レキシ / Mighty Crown / スチャダラパー 開場 9:30 / 終演 20:00(予定) 税込7,500円 ※各プレイガイドにて絶賛発売中(小学生以下 / 保護者同伴の上でチケット無料) ※お問い合わせ 株式会社チッタワークス 044-276-8841(平日12:00〜19:00)