RISA KUMON バイリンガル・シンガー・ソングライター  ユニバーサルなアルバムでデビュー

RISA KUMON   2023/11/21掲載
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 R&B系シンガーのRISA KUMONが、ファースト・アルバム『Ri-Verse』をリリースした。彼女はこれまで波瀾万丈の人生を送ってきた人で、幼少時にいったん失明するという目の難病を患い、専門学校卒業後にアメリカ・ロサンゼルスに留学し、帰国すると沖縄への移住を経て現在に至っている。そういった豊かな経験がヴォーカルの説得力につながっていて、聴き手を包み込むような“癒し系”的な歌い方だったり、のびやかな生命力を感じさせたりと、すでに独自の個性を確立している。今回のアルバムは全曲カヴァーで、R&B、ソウル、ロック、沖縄音楽などの多彩な楽曲を、彼女の解釈で表現してみせた傑作だ。彼女に、これまでの経緯とこのアルバムについて話を聞いた。
First Album
RISA KUMON
Ri-Verse

(R2D-2)
――幼少の頃からピアノを習っていたそうですね。
 「そうですね。小さい頃に一回失明してしまって、両親がなにか技術的なものを持たせたほうがいいんじゃないかということで、ピアノをやっていました」
――その目の難病は大変なことだと思うんですけど、音楽的にはむしろプラスになったようにも思えるんですよね。ほかのインタビュー記事で、“暗闇でも波動を感じる”とおっしゃっていました。
 「そうですね。以前、妹に言われたことがあって、私は雰囲気があまり良くない時に、口笛吹いたりハーモニーを歌ったりして“調整”していたらしいんです。私も全然気づいていなかったんですけど。たとえばホテルに行って、自分と合わない空気だったりすると、BGMでそのムードに合う曲をかけたりとか。そうやって居心地を良くしていたんですね。それは自分にとってすごく大事なことなんです」
――歌を歌いたいと思ったのはいつ頃なんですか。
 「目を悪くする前はすごくリーダーシップがあったらしいんですよ。3歳の頃なんですけど。でも失明して、いきなり真っ暗な世界にシャットダウンして、母によるとすごくおとなしい子供になったらしいんです。その中でいちばん居心地がいいのが音楽で、いろんなジャンルの音楽を見つけるのが楽しかったんです。ジャズとかブルースとか、そこで自然に歌い出して、私は歌うことが得意かもしれないと気づきました」
RISA KUMON
――専門学校卒業後に、3年間ロサンゼルスに音楽留学されていますよね。その時にはプロのシンガーになりたいという意識があったんですか。
 「音楽の道に進みたいと思っていました。両親がお花の仕事をしていたので、フラワーデザインの専門学校を出て、お花と音楽とどっちにするか考えたんですけど、もっと音楽のほうを追求したい気持ちが強くて、それで留学を自分で選びました。LAの3年間は、私の人生の中でいちばん重要な時期。いろんな人種の人、いろんなジャンルの人、いろんな宗教の人と出会って、音楽をしたり、一緒に遊んだりする中で、自分をもっと見つけられるきっかけになりました。考え方も視野も広くなりました」
――そのLAから帰国して、沖縄に移住されるわけですけど、それはどうしてなんですか。
 「LAから帰ってくる時に、もうLAのホームシックになっていたんです(笑)。でも東京は満員電車とかまわりの忙しさというところで、狭さを感じたんです。LAは開放的なところが好きだったので、東京はネガティヴなイメージのほうを強く感じて。それでここは私の場所じゃないなと感じていた時に、LAの学校でクラスメイトだった友人がパフォーマンスに誘ってくれて、それ以来沖縄へ歌いに行くことが多くなり、そのうちにああここが私の場所だって思ったんです。国際的な場所でもあるし、ジャンルに縛られずいろいろできるというところもあって。父から、“キャリアとしては東京だろうけど、自分に合うところでやらないと伸びないんじゃない?”とアドバイスをもらって、それが大きかったかもしれないです」
――沖縄には結局5年間いたそうですけど、どういう時期でしたか。
 「自分探しの時期だったのかもしれないです。いろんなアーティストさんや、米軍基地の人とか、いろんなところできっかけをもらって、その都度、自分はなにを求めているのかとか、これは自分に合うものなのか、それをすごく探していたと思います。日本で自分はなにができるんだろうって。それでプロデューサーのROROと出会って、(2人が経営するレーベルの)R2 RECORDZを一緒にやろうって言って、彼がプロデュースして私が歌って、というのが始まったんです」
――今回のアルバムは全曲カヴァーですけど、どの曲も思い入れの強い曲なんですか。
 「そうですね。私にすごくインスピレーションをくれた曲だったり、特別な曲だったり。〈Free〉はROROが“歌ったらいいんじゃない?”と言ってくれて。私ももともと好きだった曲でした」
――ビル・ウィザーズやサム・クックなどのブラック・ミュージック系をはじめ、ロックのU2があったり、沖縄音楽もあったりして、かなり幅広いですね。
 「父もオールディーズとか昔のクラシック・ロックとかも聴いていましたし、LAの音楽学校の先生もロックのギターの先生だったりしましたし。私たちなりのスタイルに変えてみたいねって言って。そこでいちばん大事にしているのはグルーヴです」
――それと英語をメインに、日本語、ハワイ語、ウチナーグチ、という多彩な言語で歌われていますね。
 「自分が本当に歌いたいものを歌うタイプなので、言語を気にせず、という感じです。スペイン語やイタリア語の曲も歌いますし、もっといろいろ挑戦したいと思っています」
――ヴォーカルはたとえば「Free」は冒頭から引き込まれるような強さがありますし、「花」は聴き手を包み込むような癒し系の歌声ですよね。その一方でビル・ウィザーズの曲なんかは低音で攻撃的だと思うんですよ。そういう風に曲ごとに歌い方を変えていますよね。
 「その曲が持っているメッセージを私が受け取って、それがその歌い方になっているのかなと思います。〈Free〉は包容力がある曲なので、ふんわり包み込むような、とか。ビル・ウィザーズはちょっとダークだけど、強さを出したりとか。〈花〉は、私は森で歌っているイメージがあって、森に溶け込むような雰囲気で歌ったりとか。それぞれの曲でヴィジョンがあるんです」
――こういうカヴァーを歌う時に、曲に対してどういうスタンスがありますか。リスペクトがあるとは思うんですけど、自分のものにして歌うのか、それとも原曲に忠実に歌うのか、どちらだと思いますか。
 「音楽家としては、忠実に歌うのが大事だと思うんですけど、私はなんでも自分流にしてしまうタイプなんです。好きな曲を鼻歌で歌ったりしていると、勝手に自分の好きなように変えちゃったりとかするので。だからインスピレーションは受けたものをそのまま出していると思うんですけど、自分のライフ・ストーリーに共鳴するところを出していたりとか、それが強いかなって思います」
――サウンド的なところでいうと、まず前半の4曲はバンド・サウンドで、グルーヴィでダイナミックな演奏が続きますね。
 「演奏の低音とリズムを大事にしていて、そこはROROがしっかり見てくれて、ヴォーカルとぶつからないくらいの低音のグルーヴを出しています」
RORO「彼女にマッチするのはオーガニック・サウンドだから、そこをメインにしていったんです。楽器もオーガニックな音色だし、彼女の歌声も楽器のひとつとして考えていましたね」
RISA KUMON
――後半の5曲目以降は、ギターやピアノだけのシンプルなアレンジになります。音が少ないからヴォーカルが際立っていて、歌声の良さがいっそうダイレクトに伝わってきて、いいですね。
 「そこは私もやりやすくて、私が引っ張っていける立場っていうか。私は歌いたいように歌うので、その時の雰囲気で変えたりするので、そこに付いてきてくれるようなギタリストの人と一緒にやって、いいテイクが録れたと思います。たとえば〈Nothing Can Change This Love〉も、レコーディングしながら、私の行きたい方向を決めたところもあるんです。何テイクも録って。気持ちの盛り上がりっていうところをうまく表現したかったんです」
RORO「アコースティックの曲を気に入ってくれているというのは、すごくうれしいですね。沖縄で初めて彼女のパフォーマンスを見た時は、キーボードの弾き語りのスタイルで、いろんなアーティストが出る中で、それがいちばんのハイライトだったんです。〈Lovin' You〉を歌ったんだよね」
 「〈Lovin' You〉は、私が最初に自分らしくアレンジした曲で、私のルーツになる曲。だから今回も弾き語りのスタジオ・ライヴで録りました」
――あと沖縄音楽の曲も多いですけど、やはり思い入れがあるんですか。
 「そうですね。私の中でスピリチュアルな曲というのが、沖縄の曲なんです。沖縄で喜納昌吉さんが出されている店で歌わせてもらった時に、喜納さんが“あなたの歌からは波動が出ているね”って言ってくれて」
――その「花」はア・カペラで歌っていますね。
 「〈花〉はスピリチュアルな曲だと感じたので、自分のスピリットを出したいと思って、あえてア・カペラにしました。ほかの演奏者が入ると、演奏者のエネルギーも入ってしまうので、自分だけのスピリットを100%出したいと思って。森の、川が流れているところで歌っているイメージで、声も自分の好きなボリュームで歌いました」
――それとCDのボーナス・トラックで、「上を向いて歩こう」が入っています。これもア・カペラですけど、これを選んだのは?
 「私の曲を聴いた人に、よく“何人かな?”って思われるんです。だから私は日本人ということをしっかり入れたくて。それで、国際的な活動していても、この曲は日本だとみんな知っているんです。この曲だったらどこの人が聴いても日本ってわかるなと思って」
――今回はカヴァー・アルバムですけど、これからはオリジナル曲も出していくんでしょうか。
 「もともとジャズのスタンダードなどを歌っていたので、その感覚で、私の中ではカヴァーというよりアレンジっていうイメージが強いんです。好きな曲はアレンジして歌うと思いますし、オリジナル曲も書きます。曲はいっぱいあるので、オリジナルも出していきたいと思っています」
――もうひとつ、KUMONさんのヴォーカルというのは、聴き手に癒しだったり活力だったりを与えるような、そういう在り方の歌声だと思うんですけど、聴き手に対してどうありたいと思っていますか。またどういう活動をしていきたいですか。
 「今回のアルバムのコンセプトにもなっている、“癒しとインスピレーション”を与えられるようなアーティストになりたいです。聴いてもらって、波動を受け取ってもらって、なにか気づくものとか、普段の生活で忘れているようなものを思い出すとか、そういうなにかを感じてもらえたらうれしいです。私は日野皓正さんのライヴに行くと、なにかわからないんですけど、なにかを受け取るんですよ、いつも。ブワッときて鳥肌が立つんですよね。そういうアーティストになれたらうれしいと思ってやっています。それと、グローバルに活動できるアーティストになりたいですね」

取材・文/小山 守
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