“まるで13本立てのカルト映画祭”ROLLYが新曲入りセルフカヴァー・アルバム『ROLLY

Rolly (ex-すかんち)   2019/05/22掲載
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 シルクハット姿で“おじさんじゃなぁーい!”と叫びギターをかき鳴らす、ちょっと風変わりな司令官。その本当の顔は、日本が世界に誇るべき稀代のロック・ミュージシャン! 老若男女問わぬ人気・知名度を誇るROLLYが、令和の幕開けを彩る豪華絢爛ロック絵巻『ROLLY'S ROCK WORKS』をデビュー記念日である5月21日にリリース。本作には、これまでももいろクローバーZPUFFY藤木直人MEGらに提供したオリジナル曲のセルフカヴァーを収録。さらにはオープニングとクロージングを書下ろし新曲がドラマティックに飾る、濃厚な作品だ。
――『ROLLY'S ROCK CIRCUS〜70年代の日本のロックがROLLYに与えた偉大なる影響とその影と光〜』(2015年)のインタビューで、“ファンはアーティストに提供した曲を、新曲としてカウントしてくれない”とおっしゃっていたことをよく覚えています。『鋼鉄のハードロッカー』以来の待望の未発表新曲も収録していて、ご自身にとっても、ファンにとっても念願のアルバムですね。
 「そうね、ファンの方をお待たせしてしまいましたね。この世に産まれ落ちてから培ってきた養分を、熟成に熟成を重ね、放出し続けています。でも、新たに得た養分や刺激から受けとったものをお客様にお聴き頂くには自分の細胞になったくらいのレベルに醸すにはせめて10年は必要……。だから、たいがいのロック・アーティストはデビュー盤が最高傑作でしょう。僕も来年でデビュー30年、だんだん消耗してきてテンポが遅くなるのは仕方ないと思うのですが、いかがでしょうか(笑)」
――(笑)。今作には、いろいろなアーティストへ提供した楽曲のセルフカヴァーが収録されていますが、これまでROLLYさんはどんなイメージで制作してきたのでしょうか?
 「たとえば、ももいろクローバーZさんには5センチくらいのサイズになって頂いて、僕の映画の中で活躍してもらうような。……映画監督は僕ですが、やはり心の中では自分が“主演”をしたいという気持ちもある。提供したすべての曲に僕の歌うデモ・ヴァージョンがあるわけで、いつかそれを世に出したいと思っていました。たとえば、キャンディーズの〈優しい悪魔〉は吉田拓郎さんの作曲なんですけど、ちょっと聴いてみましょう……。それから拓郎さんの歌うものも」
――本当に両方を聴くと吉田拓郎さんのメロディ以外の何物でもないことがよくわかりますね。
 「石野真子さんの〈狼なんて怖くない〉も、拓郎さんの曲。これもちょっと聴いてみましょう……“♪あなたが狼ならこわくない〜”ね、“こわ〜”のところ! ほら! この瞬間に、鰹節がまぶされているような、おかか味が現れますね! ……拓郎さんのセルフカヴァー・アルバム『ぷらいべえと』を聴いて、“なるほど!”と思った時、僕は中学生でした」
――とてもわかりやすい、ありがとうございます(笑)。今回はROLLY版『ぷらいべえと』なんですね。
 「壮大な時間がかかりましたが、完全にその通りです。浜田省吾さんが能瀬慶子さんに書いた曲、〈アテンション・プリーズ〉ってご存知かな? 浜田さんは拓郎さんに強く影響を受けているね。この曲も歌っているところを想像して聴いたら絶対に“ハマショー味“。……きっと“自分が歌いたい”と思っているはず(笑)」
――確認してみます! 今作のレコーディング・メンバーのみなさんについても教えてください。
 「THE ROCK ROLLYでもドラムをお願いしている松本 淳さん、さらに永井ルイ長谷川智樹というふたりのサウンド・クリエイターを招いています。長谷川さんはももいろクローバーZのストリングス・アレンジや楽曲提供もしている方。園 子温さんの映画『自殺サークル』(2002年)で出会いました。今作に収録されている〈宇宙のMON DIEU〉や〈僕等のセンチュリー〉は彼と作った曲です」
――永井さんもTHE ROCK ROLLYのメンバーですね。
 「はい。すかんちからドクター田中が抜けるときに、“一緒にやりたい”と声をかけてくれたんです。永井さんが作った音源はまるで70年代のカナダのロック・バンド、クラトゥの2ndアルバム『ホープ』のような、めくるめくロック・オペラで驚きました。しかし当時の僕はアナログ・シンセサイザーを縦横無尽に弾きまくれるプレイヤーを探していましてね、加入には至らなかった。この頃は『笑っていいとも』のレギュラーとして“どんぐり黄門”という〈どんぐりころころ〉を『水戸黄門』のテーマ曲のメロディで歌う、そんなコーナーに出演していたんですが、担当のギャグ作家が素晴らしいロック・キーボーディストだということが判明して……それが後のすかんち、THE ROCK ROLLYのメンバーである小川文明でした。顎が外れそうなほど関係ないことを話している (笑)」
――(笑)。ちなみに“今回は顎が外れそうなほどコーラスを重ねた”そうですね。
 「永井さんはコーラス魔人でね。彼のコーラス・アレンジの才能は他に類を見ないセンスがあります」
――実は『ボヘミアン・ラプソディ』を観て、ロジャー・テイラーがコーラス録りに苦労しているシーンを観たとき、まるですかんち――って思いました(笑)。
 「なかなか面白い (笑)。ビートルズのコーラスは誰がどのパートを歌っているかわかるでしょう? これは同時にコーラスを重ねるやり方で録音するハーモニー。ド・ミ・ソの音をそれぞれ3人で歌うから、ほかの人の音に影響を受けたりして難しい。けれども3人で同じ音、たとえばドを重ねて録音すれば3回で9人分の厚みが出る。それからハモリのパートを録って重ねてさらに厚みをだす、これがクイーン方式。クイーンは3人で、僕は永井さんと2人で(笑)。使い分けもしていて、このアルバムだと〈恋してキメル!〉はビートルズ方式ですね」
撮影: 中野敬久
――永井さんとの共作「秘密のギミーキャット〜うふふ 本当よ〜」の冒頭ではフレディ・マーキュリーのシグネチャーである“HEY!HEY!HEY!”と同じクオリティの“HEY!HEY!HEY!”が聴けました。
 「あれね、マイケル・ジャクソンとフレディが一緒に歌ってたらおかしいなっていうイメージですね。あの“WHOO!”はMJのクオリティを目指して。これは確かにほかの人には出来ないね」
――“憧れ”を“完コピ”し、さらにROLLYのおかか味を潜ませる。これまで磨き続けてきたROLLYの芸術だと思いました。
 「これに匹敵するのは小島よしおさんの“HEY!HEY!HEY!”だね。僕は彼のことを素晴らしいと思っていて、誰に何て言われても長年やってきた美しさと信念がある。僕も珍味として30年やってきて55歳には必ず“いいこと”がある、記念すべき年になると永らく言ってきました。“これがそうか! これがいいことだ! 予言通りだ!”と喜ぶことがたくさん起こる中、究極の作品が完成しました。……が、異常すぎてどなたも共感できないでしょう。すべての曲が僕の命を削ったもの。それぞれの曲が映画のようで、濃厚、まるで13本立てのカルト映画祭。“これは自分のことを歌った曲だ”とみんなが共感して喜ぶようなことを僕は歌わない。たとえば〈未来泥棒〉は〈ロッキー・ホラー・ショー〉の舞台本番中でしたが、舞台に集中しなくてはならないけど、詞が出来ず、かなり苦しみました。とうとう完成したときにあまりの高揚感に泣きじゃくって永井さんに電話して、読み聞かせましたね」
――リスナーの共感はなくても、それぞれの楽曲には憧れを生む異次元世界が描かれていました。
 「僕が愛するフラワー・トラベリン・バンドの『SATORI』には異常な世界が繰り広げられています。その世界は、一昨年リリースしたThe MANJIの『TRIPLED』に収録した〈来るのでっす〉のような、狂気を生みだす懸念もある。しかしSF映画のごときストーリーを音楽で描くわけですから、カルトな気持ちにさせることは必要ですね。変な映像が見えてくるような、僕にしかない世界を描きたい」
――「天地創造」を聴いて“裏切られても、裏切られても〜僕の作ったシナリオだから僕を好きになる”(恋の1,000,000$マン)という歌詞を思い出しました……こういう人だった!と(笑)。
 「若かったころ、音楽家としてのエゴで自分の思い描いたヘンテコ世界で世間をぬりつぶしたいと思い、ソロになった。聴いた人が度肝をぬかすようものを作りたくて〈THIS IS THE ROCKROLLY (恐るべきロックローリー)〉というロック・オペラをソロ・アルバム『ROLLY'S ROCK ROLLY』の1曲目に用意して。一番やってはいけないことだと僕以外はみんなわかっていたみたいなのねえ(笑)」
――初ソロ・アルバムの1曲目は「恋のマジックポーション2」が期待されていた(笑)。
 「そうね(笑)。でもすかんちの頃からSF超大作は必ずあって、無謀なことをずっとしていますね。もう二度と“同じ間違い”はしてはいけない……はずなのにもう一度やろうという曲が〈天地創造〉。ここまでストレートな詞はこれまであっただろうか? 表現がもはや『十戒』(笑)」
――まさか“解き放たれた呪縛”は“ロック・オペラは売れない”ということですか?
 「どうかなあ(笑)。この曲は細川俊之さんと三浦理恵子さんと出演していた『ルドイア☆星惑三第』というTV番組のテーマ曲を録音する朝に、突然ひらめきまして。全く弾けないシンセサイザーなどを駆使して作り上げ、10年以上温めました。発表するのは今しかない、と思いましたね」
――「天地創造」と「Eejanaika」は平成が終わり、新しい時代を迎える今にぴったりの曲ですね。
 「このふたつ、本当は1曲なんです。〈Eejanaika〉は大変悩んだんですが、“ええじゃないか”以上の言葉は浮かばなかった。僕のふるさと、大阪の高槻には〈高槻音頭〉というものがあって “ええじゃないかええじゃないか”と踊るしね。僕の血となり肉となった70年代の日本のロック・カヴァーや2枚組のライヴ盤、THE MANJIのアルバムも経て、満を持して発表する『ROLLY'S ROCK WORKS』。ここ10年くらいの活動……ソロやシャンソン、谷山浩子さんとのからくり人形楽団も、ありとあらゆるエッセンスを合体させることができました。精魂尽くしすぎてレコーディング中に口内炎だらけになり、さらに顔面も手もしびれて。脳卒中や脳梗塞の予兆かとMRIやCTスキャン、血液検査もやりましたが、問題なく健康だとお医者さんに褒められました。明らかに体調がおかしいのはノイローゼやと思います。あのね……いろんなことがあったのよ。僕、心配症でね(笑)」
――健康で良かった! まさにROLLYさんのすべてが注ぎ込まれた作品です。いまやEテレの『ムジカ・ピッコリ―ノ』で育った若いファンも増えていますが、更なるROLLYの音楽世界を知るには、このアルバムのほかに何を勧めますか?
 「東京・世田谷のシアタートラムという場所で〈お話の森〉という公演を毎年やっています。演奏しながら絵本を読み聞かせるんですが、もう10年続けていてありがたいことに即座にソールド・アウトします……じゃ、あかんやん。ROLLY司令官を観てくれている子どもたちには〈タイムマシンにお願い〉のMVを観てもらおうかな、きっと喜んでくれる。僕が『できるかな』のノッポさんはどんな人なのか知らなかったけど好きだったように、今の子供たちに思っていてもらえたら嬉しいね」
取材・文 / 服部真由子(2019年4月)
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