本当の意味は“無い”――RYKEYの2ndアルバム『AMON KATONA』が登場

RYKEY   2015/12/22掲載
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AKLO「RED PILL(ONE YEAR WAR REMIX)」への参加や、MCバトルへの登場などという動きはあったものの、ほぼノンキャリアといっていい経歴の上で、今年5月にアルバム『Pretty Jones』をリリースしたRYKEY。本人の人生を赤裸々とも言える形で表現した「ホンネ」や、ラブ・ソング「BABY」など、その中ではRYKEYというアーティストが強く押し出されている……ようにも一聴目には感じるのだが、その実は、その世界の主人公はRYKEYでなくとも成立するような、物語性の上で成立した作品だった。そして、そこから5ヵ月というスパンでリリースされる『AMON KATONA』は、非常に抽象的であったり、物語性よりも観念的な言葉によって綴られた作品となって完成し、ある意味では『Pretty Jones』の分かりやすさとは対極の作品である。ただし、観念的であるからこそ『AMON KATONA』には彼の内宇宙が表出し、非常に「彼自身」を強く描いた作品として完成していると感じさせられた。その意味でも、この二枚はコインの裏表であり、地続きの作品である。その二面性を形にしたRYKEYとは何者なのか、改めて語り下ろしてもらった。
――CDジャーナルには初登場いただくので、今回はRYKEYくんのキャリア全般を伺いたいと思います。まず、RYKEYくんとヒップホップとの出会いは?
「中学生ぐらいですね。家でお姉ちゃんが2PACとかビギーを聴いてて、それで自分も聴きだして。日本のラップだとOZROSAURUSとかHeartsdalesとかを聴いてましたね。それで、先輩とかにクラブに遊びに連れてってもらうようになったりして」
――地元は八王子ですよね?
「そう。クラブも八王子でしたね」
――では、自分でラップを始めたのは?
「ライヴを初めてやったのは16歳ぐらいですね。先輩に“やれやれー”ってそそのかされて。本格的に始めたのは、19〜ハタチぐらい。影響を受けたのは、BESくんとかKNZZくん、くん、くんとかですね」
――ある種、ストリート・ライフや、イリーガルな部分も歌詞に包み隠さず書くタイプのラッパーに影響を受けたんですね。RYKEYくんもストリート・ライフを送られたようだけど、それは、そこに対する共感から?
「それもあると思うけど、それよりも、辞書で引きたくなったり、大人が聴いてもしっかり届くような言葉遣いや内容だと思ったって方が大きいですね。大麻がどうたらとか、覚せい剤がどうたらとか、そういう話をとっぱらって聴いてましたね。言葉って、色んな文明とか歴史の上に成り立つじゃないですか。その上にそういう言葉遣いがあると思うし、それがスゴいと思って、それで自分でもリリックを書き始めたんですよね」
――「言葉」がカッコいいと思ったと。
「うん。一言で、言葉で、一気に世界観が広がるようなラップに影響を受けたんですよね。言葉一つで世界観が生まれるってことに気づいて、それに衝撃を受けて、自分でもラップが書きたいと思ったし、そうやって書くうちに、自分のスタイルが出来上がっていって。それでハタチぐらいのときに、ちゃんと“RYKEYをやります”って」
――“自分はラッパーだ”と自認したというか。
「というより、“ラップやりたい”ですね。“それしかない”って。自分もやっぱりポップな生活もしてなかったんで、正直(笑)。当時は、このままいったら“二つに一つしかないみたいな感じの道”だったから、自分の周りの人間が送りがちな人生よりも、普通の人に会ったり、そこに影響を与えられるような言葉を表現して、生きていける職業に就きたかったんですよね。それが自分にとっては、音楽家兼ラッパーっていう仕事で。人生、真面目に生きてくとしたら俺にはそれしかないなと思ったし、だからそれを選んだっていうか」
――リーガル・ライフを送るためにはラップだと。
「それで、2010年の7月、21歳の時に、本当はアルバムを出す予定にはなってたんですよ」
――それはどういった経緯で?
「渋谷のVuenosで遊んでた時に、SIMONとかとフリースタイルをやってたんですよね。その時にJIGGくんが近くにいて」
――KOHHなどを手がけている318たちとプロダクション・チーム「GUNSMITH PRODCTION」のメンバーとしての活動を経て、現在はBACH LOGICとOne Year War Musicのメンバーとして活動するトラック・メイカーだね。
「それで、彼が興味を持ってくれて“うちのスタジオでちょっと録ってみる?”って。自分としてもトラックさえあればって思ってた時期だったんで、JIGGくんが使ってた板橋の318スタジオに遊びにいったんですよね。そしたらSIMONとかSEEDA、KOHHがいて、初めて東京のヒップホップ・シーンに触れたんですよね。俺も東京出身とはいえ八王子だったから、東京の真ん中の方のシーンに対しては“あんなのダセーよ”“絶対俺たちのほうがやべーよ”とか仲間内で陰口言ってたんだけど(笑)、実際に会ってみたらフレンドリーに受け入れてくれたし、JIGGくんを通じて、そういうシーンと繋がることが出来て。それで、遊んだり、RECしたりする中で、JIGGくんが“アルバム作ろうか”って言ってくれたんですよね。俺も断る理由もないから、制作を進めたんだけど、完成して、もうすぐリリースっていう所で、俺が“旅行”をすることになって」
――それでリリースは頓挫してしまったと。
「普通の人からしたら“もう終わったな”みたいな、そう思うかもしんないすけど、自分の場合は“旅行”すること自体、箔に感じたっていうか。それこそヒップホップだからこそ、その旅行が箔に感じられて。それに、旅行先でもJIGGくんと手紙でやり取りして、その中で本格的にラッパーで生きていこうと思ったんですよね。時間を無駄にせずに、自分が音楽に注いでる時間をお金にしようって思って」
――ネガティヴじゃなくてプラスに捉えたんだ。
「本もたくさん読んで。だから、人生でマイナスになるべきことを、うまくプラスに出来たと思いますね。それに、世間的にネガティヴなことを、ヒップホップはプラスに変えられると思うんですよね。例えば“死にたい”って思う感情も俺は知ってる。何もない、時計もない部屋に、何ヵ月もずっといれますか?って言われたら多分、普通の人は“いられない”と思うけど、その生活も俺は知ってる。その状況にいた時より、下の感情ってたぶん世の中にはないですよ。それぐらい辛い。でも、そういう自分に向き合うしかない状況の中にいたから、自分のリリックや、自分自身がどんどん研ぎ澄まされたと思うんですよね。だからこそ、自分のラップは“リアル”とか“胸にくる”、“心臓にくる”って言って貰えるんだと思う。自分が本当に伝えたいことが伝わってると思うし、自分の今のやり方で正しいんだなって思えるようになってきて」
――リリックはどういう思いで書いてるの?
「“感情をドラッグする”みたいな感覚なんですよね。ドラッグみたいな感覚で感情を扱って、それを作品に落とし込んだ感覚がありますね」
――聴くことで感覚が変わったり、意識が変容するような表現を、ラップやリリックを通して形にしたいと。
「そういうことっす。ぶっちゃけラップがなければ、自分も意味不明なことを言ってるんだろうなって、自分も分かるんですよ。だけど、これを音楽っていう枠で、ラップっていう枠で、自分は表現してるからこそ、商品になって、聴いてくれる人もいると思うんですね。音楽に乗せれれば、何でも言っていいって思ってるのが、ラップなんで。それに、音楽の中毒性ってやっぱり、ぶっちゃけドラッグと変わんない部分もあると思ってるんですよね」
――なるほど。そして、2013年に旅行から帰ってくるんだね。
「そうですね。それで『Pretty Jones』を作って」
――『Pretty Jones』はすごく分かりやすい内容で、RYKEYくんが今までどういう生活をしてきてたかが、ポップな形で落とし込まれた作品かなって。
「そこは一番気にしたところで。例えば〈BABY〉みたいなMVって、普通のラッパーだったら“やだよ、こんなの”って“撮りたくねえや”みたいになるかと思うんですよね」
――確かに、照れくさく思うような人もいるかもね。
「だけど、海外じゃ当たり前だと思うんですよね。だから、ああいう表現が出来ないのが、“ジャパニーズ・ラップ”って言われちゃうところかなって。その意味では、『Pretty Jones』も『AMON KATONA』も、海外標準にしたいっていう意識はありましたね。JIGGくんにもそれをお願いしたし。でも、それは今の時代に乗るってことじゃなくて、自分がホントに“良い”と思ったモノを形にしたかったからなんですよね。だから、ポップとかブルースとか、そういう人たちにも伝わるような、ポップ目線のある、ポップな作り方のラップは考えましたね」
――『Pretty Jones』は、RYKEYくんのヒストリー的な部分がすごく強く反映されてると思いきや、実は主人公はRYKEYくんじゃ無くても成り立つ内容になってるんだよね。
「ああ、やっぱ分かってくれます?」
――実は実存性よりも物語性の方が強いし、それは“ポップ”に繋がるなって。
「“ポップ”な話です。“ポップ”な作り方。そうしてるのは意識的ですね、完全に。やっぱり、ポップじゃなく作ろうと思えば、いくらでも作れるんですよ。その方がより簡単だし、正直」
――自分だけが分かるようなワガママな作り方というか。
「でもそうじゃなくて、やっぱりポップさを出すのが、プロとしてのラッパーの仕事だと思うんですよね。やっぱりポップに、一般人に分かる話をしないと意味ないんで。そこがプロか、プロじゃないか、ってところだと自分は思いますね」
――新作の『AMON KATONA』の表現は、抽象的だったり、分かりづらい部分があったりもするんだけど、そこに実はRYKEYくんの内面が出てたりするんだよね。だから『Pretty Jones』で“RYKEYってこういう人間なんだ”って思うかもしれないけど、実はそこには虚構性も含まれてて、“どういうことなんだろ?”って考えさせる『AMON KATONA』の方に、RYKEYくんの本質が多く含まれてるように感じて。
「そういうことっす。だから、歌詞カードも丁寧に作ってて。〈東京ナイチンゲール〉とか、ワードだけを取り出せばぶっちゃけ意味不明ですけど、意味があるんですよね。聴くと意味が生まれる」
――だから、例えば“ナイチンゲールって何ですか”って意味をRYKEYくんに訊くことは出来るんだけど、その謎解きをしちゃうとあんまり面白くなくなってしまうというか。リスナーが聴いて“これはどういうことなんだろう”って思ったり、それぞれの人の見方によって意味性が変わるのが面白い。
「そうそう。そういうことっす。音楽はそうであって欲しいんで」
――だから『AMON KATONA』は、同じ人が聴いても、体調とか環境とか、どんな情況で聴いてるかっていうセッティングの違いで、見え方が変わる作品だよね。
「このアルバムは、みんなと一緒に聴くっていうよりは、家で聴くか、移動中にヘッドホンで聴いてるか、車の道中に聴いてるか……って、独りで聴いて欲しい感じはありますね。人間って時間が経てば頭の感覚も変わってくるし、センスも変わってくるじゃないですか。でも、そういう変化があっても、絶対に一曲も飛ばすことが出来ないアルバムになってると思いますね。だから、はっきり言いますけど、『AMON KATONA』は良いアルバムですよ。正直言って(笑)」
――『AMON KATONA』のリリックはどうやって書いていったの?
「フリースタイルな感じですね。その感じをポップにしたっていうか。とりあえず何も決めずにフリーで、思ったことを書き始めるんですよね。そうやって書く途中で、だんだん意味が生まれてくるから、そこからは、その続きを意識して書くみたいな。意味不明なとこから意味を作っていって、その意味が出来たところから、さらに物語を作るって感じですね。だから、走り出したら最後まで曲は作らなくちゃいけないし、途中で止めて、“明日続きやろう”とかはならないですね。しかも、書いてる段階でフロウしながら作ってるんで、書き終わる段階で、ラップの仕方や展開が頭の中にインプットされてるんですよね」
――そうなると必然的に制作速度も速くなるし、リリースペースの速さもそこに由来してると。
「そうですね」
――ラップのスタイルも『Pretty Jones』と『AMON KATONA』では結構変えてるよね。
「『Pretty Jones』はポップな人たちでも聴けば分かる上手いラップって感じだけど、『AMON KATONA』はラップの好きな人たち、それこそラッパーが聴いたらもう何も言えない、みたいなモノにしたかったんで」
――このアルバムを“道に迷ってるB-BOYを助けに行かなくちゃいけない(「国際宇宙ステーション」)”っていう言葉で終わらせたのは?
「要はホントに、世の中のチャキチャキ(した音楽)から解放しなきゃいけないと」
――チャラい音楽から解放しないと、と。
「ヒップホップをチャラさから解放しなきゃいけない。昔はそんなカッコしてなかったじゃんとか、そんな音楽やらなかったハズじゃん、って思うことが多いんですよね。だから、誰かが手本を示さないと思ったし、俺は『AMON KATONA』でそれを表現したかった。“この時代にこれ言っちゃう?”みたいな部分もあると思うんですよ、ぶっちゃけ」
――確かに、表現として心配になるようなラインは少なくないよね。
「でも、俺からしたら“大丈夫です”って感じだし、別に大丈夫だったじゃないですか。だから、良いものは良いんですよ」
――でも、いわゆる“使っちゃいけないとされる言葉”は、ほぼ使ってないんだよね。ハードな内容になれば、どうしてもそういう言葉が出てきがちだけど、このアルバムはそこをいかに避けて、いかに分からせるかも重要なポイントで。「氷のさけび」なんかはまさにそういう曲だよね。
「上手いっすよね、これは。我ながら(笑)」
――最初はRYKEYくんの内面の話なのかなと思いながら聴いてたら、3回目ぐらいで“あっ、なるほど”って思うっていう。
「いろんな聴き方があっていいと思うし、それこそが音楽だと思うんですよね。例えば“これが人を殺した歌”とか“これは人を救った歌”ってテーマを先に出すと、そのイメージで聴かれるじゃないですか。『Pretty Jones』はそういう意味合いも強かったと思う。だけど、今回はそれを言わない。いろんな聴き方があっていいし、本当の意味っていうのは、今回は“無い”」
――本当の意味はリスナーの中にあるという。
「そうそう。ホントにそういうアルバムなんですよ。そして、それが音楽であって欲しい。だけど、そうやって作るのは、人と繋がりたいからなんですよね。これからも、どういう形であっても、いろんな人が共感したり、理解したり、考えたり出来るような話を歌うと思う。そこで繋がりたいと思うから」
――『Pretty Jones』と『AMON KATONA』はその間5ヵ月というリリース・ペースだったけど、これからどうなりそう?
「今後EPとか音源は何枚か出ていくと思うんですけど、自分の今の考えでは1年に1枚、間違いないアルバムを出していきたいなと思ってます。それが今の自分のペースなのかなって」
取材・文 / 高木“JET”晋一郎(2015年11月)
p.s 1all16=。

今回の『AMON KATONA』はモノラルなので耳が不自由な方、、、、、。
例をあげると、、、、、、、、。
補聴器だったりとか片耳だったりと、いろいろ歳をとってしまったりとか若い子供達にはわかりにくい音だったりとかマニアックな音だったりを再現したりする作品にはしたくなかったので、、、、、。
簡単に言うと、生ですべてやらせていただいていて、生命体なら、平等にすべての音がダイナミックに音の芯にあります。
つまり、片耳でも、両耳でも、差別なくきこえるということです。
あえて、モノラルにしての偏見に対する抵抗をなくし、善悪をひっくり返し、その善悪がついた、悪と善とはなにか、、、、。
『AMON KATONA』はあなたの湧き出る感情を、時に優しく時に厳しくときに荒々しく時にとげとげしく時に神々しく、和らげてくれるはずです。

by 1all16=。


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