近年USヒップホップのアルバム作品あるいはラッパーの作品には、ミュージシャンが多数参加する例がある。
ケンドリック・ラマー の『
To Pimp a Butterfly 』しかり、また
マック・ミラー の遺作になった『
Swimming 』しかり。そこで誰がプロデュースの実権を握るかは、曲によって、また見方によって様々なケースや見解があるだろう。もちろんラッパーがプロデューサーを担うこともある――。
KANDYTOWN のメンバーとして知られる
Ryohu が、16曲入りミックステープ『
Ten Twenty 』を配信リリースした。“ミックステープ”と銘打つのは、既発曲のリミックスやリメイクを多く含むからであろうが、実質的にはアルバム作品とも言える。自らビート・メイキングもこなすRyohuは今回、プロデューサーとしての役割に比重を置いているように思う。ラップに専念した楽曲や、ミュージシャンとの共同作業で作り上げた楽曲まで、バリエーションに富んだ本作について訊いた。
――『Ten Twenty』は、打ち込みと生楽器を融合するプロダクションという点では、昨年リリースしたEP『
Blur 』の延長にある作品だとは思うのですが、どのように制作していきましたか? 『Blur』にはいろんなミュージシャンが参加していましたね。
「参加してくれているミュージシャンも基本は『Blur』と変わらないです。『Blur』と大きく変わったのはビート以外でも打ち込みの音源を使ったことです。『Blur』はほとんど生楽器だったので。今回もギターを弾いてもらったり、管楽器を吹いてもらったりしましたけど、ピアノやシンセに関して、ソフトウェアの中に入っているものから俺が音色決めて弾いてもらった音もあります。生の鍵盤で弾いてもらったのもありますけど」
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――全16曲、いろんなタイプの曲がありますよね。R&Bやソウル・ミュージックっぽさが強調された曲もあれば、レゲエ風の曲もあるし、4つ打ちもある。「Wash(Put a Melody)」のビートとベースは、ニュースクール・ヒップホップみたいな楽しさがあります。
「リリースしていなかった曲も含め、過去に原型を作った曲が多いからだと思います。昔作ったものをアレンジし直した曲が多いから、自分の音楽性の幅がわかりやすく出たのかなと思う。〈Wash〉も元々のヴァージョンはけっこう前に作った曲ですし」
「あれも元々は俺の曲だったんです。KEIJUのアルバムに入ってるヴァージョンを聴いてもらうとわかると思うんですけど、俺が2ヴァースをラップしたあとに、KEIJUがヴァースを蹴るという構成になっている。実はKEIJUがラップしているところには、
IO のラップが入ってたんですよ。制作してから時間が経ってしまいリリース・タイミングがわからなくなっていたら、KEIJUが“自分がやります”っていうので、彼の曲として世に出たんです。それを聴いて、俺も良い曲だなと思って今回違うアレンジで作り直した。生まれ変わりましたね。気に入っています」
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KIKUMARU が今年出したソロ・アルバム『
711 』のエグゼクティヴ・プロデューサーはRyohuくんでした。KANDYTOWNのメンバーから「いちばん音楽をわかっているのはRyohu」という発言を聞いた記憶があります。今回もRyohuくんのプロデューサーとしての側面が強く出た作品だと感じました。楽器を習ったり、音楽教育を受けたりしたわけではないんですよね?
「そういう経験はないんですよ。小学校から高校生までずーっとスポーツをやってましたし。バンドに参加したりした影響でいろんな音楽を聴くようにはなりましたけど、楽器を練習したことはないです。ただ、KANDYTOWNとして活動するときもそうですけど、常に俯瞰してみる、一歩引いてみるっていう役割をやろうという意識はありますね。KANDYTOWNとして曲を作るとき、特別に俺が引っ張っていくわけではないですけど、何かを問われたらアドバイスできる準備は常にしておきますね」
――ミュージシャンの人とはどういうやり取りをしながら制作していくんですか?
「実家の地下をスタジオにしているんです。そこでビートやトラックのループを作って、一旦デモ状態に持っていく。そこからリリック書きながら全体の構成を練っていく。そういう中で“この方が曲が良くなるんじゃねえ?”ってアイディアが出てくるんです。でも、それを全て一人で具現化できるわけじゃない。そういうときにお願いしますね。スタジオに来てもらって、こういうギターとかベースが必要だから弾いてくださいとか、こんなキーボードのフレーズがほしいですとか。もしかしたら使わないかもしれないけれど、複数の演奏を録音させてもらいますね。例えば、〈Where the Hood At〉では暖かみのある音がほしくて、
TENDRE さん(『Blur』の共同プロデューサーである河原太郎のソロ・プロジェクト)に生のローズ・ピアノを弾いてもらいました」
――スタジオにミュージシャンを呼んで作っていく、と。
「そうですね。俺は、制作のときに余計な時間があった方が好きなんです。遊びながら作る感覚は大事にしたい。完成させるための詰めの最終段階では遊び抜きで集中せざるを得ないから、制作の初期段階では遊びの時間を大切にしたいんです。最初から、“この曲はこういう方向性でやる!”と決めつけ過ぎないで、いろんな可能性にあふれたなかで進めていった方が俺は良い曲ができますね。とはいっても、自分のなかではある程度のゴールは見えた状態でスタートしている。今回の作品は自分の持つイメージに近いところまでわりと行きましたけど、理想はまだ先にありますね」
――ヒップホップやクラブ・ミュージックの世界では特に、楽器を弾けない人がプロデューサーの役割を担うことは珍しいことではないですけれど、Ryohuくんのアイディアについて、参加ミュージシャンからはどんな反応がありますか?
「みんなすごく面白がってくれますね。俺名義のアルバムは基本的に俺がすべてなので。もちろん参加してくれたミュージシャンの意見は聞きますけど、ひとまずアイディアのひとつとして引き出しに入れさせてもらう。で、必要な時に出す。必要じゃなかったらしまっとく。そこはみんなもわかってくれていますね。さっきも言いましたけど、俺は、“こういう音楽を作りたい”というのが明確にあってスタートしているので。TENDREさんには『Blur』の前から手伝ってもらっているんですけど、たとえば“このベースラインは手数が多過ぎるからラップがもっていかれそうになるので、もう少し手数を少なくしてもらえませんか”とお願いしたり」
――とあるインタビューでは、
ジョーイ・バッドアス やケンドリック・ラマーの作品で聴けるベースぐらいじゃないと物足りない、というような発言をされていましたね。
「もちろんジョーイ・バッドアスやケンドリック・ラマーの作品のすべてが正解ということではなく、例えのひとつという意味だったと思いますけど、ミュージシャンの方は、それぞれの楽器がキレイに鳴って調和がとれている状態が良いグルーヴだという考え方をするのが基本だと思うんです。ただ、ヒップホップでは必ずしも調和がとれている状態が正解じゃないときもありますよね。俺は、ビート・ミュージックをやっているつもりなので、まずビートが活きるようにしたいんです。まずそこが大前提にあった上でアレンジがある。だから、低音やベースはかなり意識して作りますね」
――それは面白い話ですね。例えば、
MUD のラップをフィーチャーした「Lux」はダミアン・マーリーを彷彿させるようなレゲエ・ロックだと感じたんですけど、いま説明してくれたようなアンバランスさが際立っていますね。
「レゲエっぽい曲を作ってみようというのがスタートでした。ミックステープという形式だし、いままで作ってみたことのない楽曲にトライしてみたかったのもあって。たしかに最初は、ダミアン・マーリーとかの感じを出していこうかなと思って作りましたね。ただ、途中で“何かが違うぞ”って感じたんです。もっとヒップホップのノリを出したくて、サウンドをダーティに仕上げた」
――MUDはラガ・ラップと言っていいフロウですね。
「MUDに参加してもらうアイディアは最初からあって、ラップが入る空間を用意しておいたんです。でも、あのラップには純粋に驚きました。MUDらしい“ラップが来ました! ドーン!”って感じのフロウでくると思っていたから、良い意味で予想を裏切ってくれた。あいつ、レゲエがすごい好きなんです。ディレイで飛ばしたりするアイディアもMUDがリファレンスを出してくれたりして。ただ全部盛り込んだらやり過ぎになっちゃうので、要所で使わせてもらいましたね」
――IOとKEIJUのラップを加えた「All in One(Remix)」で、KEIJUのラップのヴァースが入る前のビートがドラムンベースになるじゃないですか。すごくハマってるなって思いました。
「あの部分はサンプリングですね。聴いている人に、“ラッパーがくるぞ!”って感じさせたくて、ドキッとさせたかったんですよね。IOのヴァースは1年前に録ったもので、今回新しく録ったのはKEIJUのヴァースだけです。KEIJUはたぶん(
illicit)tsuboi さんのスタジオで録ってきたと思います。tsuboiさんワークを参考にして、ドラムンベースというアイディアが生まれました」
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――あと、MALIYAがヴォーカルで参加している「Nothing But a Blur」のイントロのサックスは、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』収録の「For Free?」の
テラス・マーティン が吹くサックスへのオマージュですね。
「あの曲のサックスを参考にしていますね。そもそもこの曲は『Blur』に入る予定で、アレンジもまったく違ったんです。イントロのサックスはあったんですけど、いまほどスッキリしてなかった。もっとディレイがかかっていて、ドラムの打ち込み方も違った。今回作り直した際に、“ドン、ウン”って感じのどっしりしたドラミングではなくて、ドライヴするように前に流れていくドラミングに変えたんです。新しく作り直してすごく気に入ってますね」
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OMSB がビートを作った「Vibes」のRyohuくんのラップのスピットは力が入ってますよね。OMSBとしてはかなり直球な部類に入るブーム・バップとの相性もばっちり、という感じで。
「この曲はもうとにかく超ラップしてやろう!って作りました。もう少しゆったりしたビートのデモがこの曲の前にあったんです。でも、2人ともちょっとこれは違うな、という感じだった。制作期間も短いなかで、オムスも新しいビートのテイクをいくつか送ってくれて。そのなかに、“これだ!”って思えるテイクがあったので、1ヴァース書いてラップを録ってオムスに送って……という作業をくり返した。俺もそうだけど、誰しもビートを作る人は、ラッパーにビートを渡すとき、“このビートにはこういうラップが合う”っていうイメージがあると思うんです。オムスにもきっとあると思うし、そのイメージに良い意味で沿いたいし、良い意味で裏切りたい。だから、お互い細かく指示し合いながら作りましたね」
――しかも、こんな風にセルフ・ボースティングする“ラッパーRyohu”はなかなか珍しいですよね。Bボーイ・スタンスを主張していますね。
「実は、そこはオムスに言われたポイントなんですよ。“ライヴでノってる状態がいちばんカッコイイから、そういうつもりで自分を出すのがいいよ”って。やってみて、意外にそういうのが俺は得意じゃないんだなって発見がありましたけど、この曲は良い感じにできましたね」
――Ryohuくんがフィーチャリングで参加した
LowPass の「Spinning Wheel(Uchimawari)」のアグレッシヴな感じを思い出しました。
「たしかにそうですね」
「もちろん好きです! いまはヒップホップっていろんな解釈があると思いますけど、純粋にラップすることに立ち返った曲ですね」
――ラップ・ミュージックという観点で聴くと、in-dと
Campanella をフィーチャリングした「Where the Hood At」のマイク・リレーもありますね。
「この曲のビートは俺が作りました。CampanellaさんはKANDYTOWNのツアーで名古屋に行ったときにゲストで出てくれたりもしたんですよ。俺は昔、
プリモ (DJプレミア)とか
アルケミスト のインストのビートでラップしてたから、〈Where the Hood At〉のビートに関しては、みんなもその感覚でどうぞ使ってくださいっていう企画もやろうと思ってます」
――最後の曲「Keep Your Eyes Open」を
EVISBEATS & MICHEL☆PUNCHがプロデュースしてるのにも驚きました。
「もらったトラックにはメロディに関しての方向性がなかったので、俺の方で全部考えましたね」
「マック・ミラーはもちろん好きなんですけど、この曲のリファレンスにしたわけではなくて。〈Blue Rose〉は元々もっとハードなエレクトロとかハウスだったんですけど、暖かみを持たせるために工夫しました。ただ、とにかく、この曲はダンス・ミュージックにしたかった」
――Ryohuくんはクラブに踊りに行ったりしますか?
「特にどこのクラブに行くとかは決まってないですけど、踊りに行ったりしますよ。全然人がいないパーティになんとなく流れて、ブラジリアン・ハウスとかラテン・ハウスがかかってて、“最高!”みたいに踊ったりすることもあるし(笑)。最近は前ほど行かなくなりましたけど、一昨年の年末はLIQUIDROOMの
石野卓球 さんに行ったし、去年はベルリンのクラブでずーっと遊んでました。シンプルにぶっ飛べるのってすごい良いですよね。人間らしいと思う」
――なるほど。ところで、さきほど理想はまだに先ある、と語っていましたけど、その理想とはどういうものですか? もっと多くのミュージシャンを迎えて作品を作るとか?
「それもあると思いますけど、いま以上の規模を求めるのであれば、ミュージシャンに限らず色んな人の助けを借りますね。まだまだ俺個人がやれることは技量的に限界があるんです。ただただ音を派手にするのも何かが違うというのもあるし。だからこそ、ワンループのビートでオムスはあれだけカッコイイ音楽を作れたりするわけですしね。今回ももっと音を太くしようという選択肢もあったんですよ。でも、これ以上はやめました。欲張って崩れちゃうのも良くないと思ったので。音楽を作ること以外にも楽しんだ方がいいことはあるし、ライヴもしたいですし、制作だけにひたすら時間をさいてもしょうがないという考えもあって。だから、この作品も3、4ヶ月ぐらいで作りましたね」
――近年USヒップホップでは、たくさんのミュージシャンやエンジニアが関わって制作された作品もありますよね。
「さらっと“いる”感じがカッコイイですよね。いま、国内でもバンドの曲にラッパーが参加したり、ラッパーの曲にバンドの人が参加したり、共作したり、そういう音楽が増えてきているじゃないですか。ジャンルが入り混じったイベントもたくさんある。だけど、“いろんなジャンルの音楽が好きです”だけでは良い音楽は作れないんですよね。好きは誰でも言える。いや、もちろん好きっていうのはいちばん大事なことではあると思うんですけど、音楽的に理解しなければいけないことがたくさんある。異なるジャンルの人がいっしょに音楽を作るときに、各々がもっと理解し合わないとカッコイイ音楽は作れないなって思います。アレンジだけではなく、エンジニアの方やミュージシャンの人たちとビート・ミュージックに対する理解を深めたり、スキルを共有しないと、俺が思う“もっと良いもの”はできないですし、それを上手く伝えて共有していくのも俺の仕事だとは思ってます。例えば聴いてきた音楽によって根本的に求めている音の鳴りに違いがあったりしますよね。そういう“違い”をもっと深く理解し合えたら、よりカッコイイ音楽が作れるようになっていくと思う」
取材・文 / 二木 信(2018年12月)
Ten Twenty Tour 2019 www.ryohu.com/live/ 2月1日(金) 大阪 UMEDA BANANA HALL
出演: Ryohu / Guest: SIRUP 開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,300円(税込 / 別途ドリンク代) ※お問い合せ: YUMEBANCHI 06-6341-3525
(平日11:00 〜 19:00)
2月3日(日) 愛知 名古屋 CLUB UPSET
出演: Ryohu / Guest: Campanella 開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,300円(税込 / 別途ドリンク代) ※お問い合せ: JAILHOUSE 052-936-6041
2月9日(土) 福岡 Voodoo lounge
出演: Ryohu / Yelladigos ほか 開場 & 開演 22:00(オールナイト公演)
前売 2,500円(税込 / 別途ドリンク代) 2月10日(日) 長崎 BETA
出演: Ryohu ほか 開場 & 開演 17:00
前売 2,500円(税込 / 別途ドリンク代) 2月24日(日) 東京 渋谷 WOMB
出演: Ryohu / Guest Live Act:KEIJU Visual Collaboration: YOSHIROTTEN 開場 17:00 / 開演 18:00
前売 3,300円(税込 / 別途ドリンク代) 東京公演最速オフィシャル先着先行受付
12月21日(金)12:00〜1月18日(金)23:59
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