ベスト・アルバム
『everywhere』のリリース、30歳の誕生日に行なわれた日本武道館ライヴ(2010年3月31日)など、デビュー15周年のアニバーサリー・イヤーを駆け抜けている
坂本真綾から初のカヴァー・シングル
「DOWN TOWN/やさしさに包まれたなら」(c/w「悲しくてやりきれない」)が到着。日本のポップスの原点とも言える名曲に深く触れることで彼女は、シンガーとしての存在意義を改めて見つめ直すことになったようだ。
――カヴァー曲のリリースは今回が初めてですよね。坂本真綾(以下、同)「そうですね。じつはいままでにも“カヴァーはどうだろう?”という話は何度かあったんですけど、“はっきりした動機がないと、やっちゃいけない”という気持ちがあって、実現しなかったんですよね。でも、今回のタイミングでは意外にあっさりと“いいな”って思えて。明確な動機というよりも直感に近いんですが、新しいものに挑んでいくエネルギーになるんじゃないかなって」
――なるほど。今回カヴァーしている曲はすべて超ド級の名曲ばかりですね。まず「DOWN TOWN」(シュガーベイブ/75年)ですが。 「もともとはタイアップの関係(アニメ『それでも町は廻っている』オープニング・テーマ)から上がってきたんですが、10代の頃からよく聴いてた曲なんですよ。ラジオばっかり聴いてる青春時代だったんですけど、90年代くらいにシュガーベイブがよく流れていた時期があって」
――リバイバル・ヒットしたんですよね、その頃。
「私たちの世代にとっては新しい音楽だったし、カッコいいなって思ってましたね。今回改めて聴いてみても――ほかの2曲もそうなんですけど――音の豊かさ、温かさをすごく感じて。その雰囲気を感じてもらいつつも、自分が歌う意味、私というヴォーカリストが歌うということを考えたアレンジをしていきたかったんです。イントロは残しながら、アレンジはぜんぜん違うっていう。ミュージカルというキーワードもあって、こういう方向になりました(服部隆之氏の編曲による、35人編成のビッグバンド・サウンド)」
――PVもミュージカルっぽい雰囲気ですよね。真綾さんもすごく楽しそうで。
「楽しくて明るい曲のPVはそんなに多くないし、いままでにない感じになったなって。思った以上によく笑ってましたね。よくまあ、こんなに笑えるようになったもんだって(笑)。最初の頃、何回“もっと笑って!”って言われたことか。大人になって、ある意味、開き直れるようになったのかも。撮影もすごく楽しかったですし」
――「やさしさに包まれたなら」も、「魔女の宅急便」(宮崎駿監督)の主題歌になったり、何度も繰り返しヒットしてる曲ですよね。
「私も最初は『魔女の宅急便』でした。小学生だったんですけど、1日に2回映画館で観たり、ホントに大好きで。この曲って、聴くたびに印象が変わっていくんですよね。去年、20代最後のひとり旅をしているときも聴いてたんですけど、すごく泣ける日もあったり。私にとっては“がんばれー!”て言ってくれてるような、ものすごく力が沸いてくる曲なんです。サウンドも歌詞も歌い方も、“もしかしたら、音楽のなかでいちばん好きかも”って思える瞬間があるくらい。そういう曲を歌えるっていうのは、嬉しいですよね」
「原曲にある素朴な手触りを残したかったんですよね。DEPAPEPEさんの音楽もずっと前から一方的に聴かせてもらってたんですけど、カヴァー曲の経験もたくさんある方々だし、“あ、こういう感じで組み立てていくんだ”って勉強になる部分もあって」
――シンガーとしても新しい発見があったのでは?
「そうですね。いざレコーディングという段階になって“あ、これは難しい挑戦だな”って気づいて。最近は“自分で作詞して、歌う”っていうのがセットになってたんですけど、今回はそうじゃなくて、シンガーとしての自分だけがそこにいなくちゃいけないというか、坂本真綾としての個性を改めて問われた気がしたんですよね」
――何か糸口は見つかりました?
「事前にいろんなことを考えて、何度も試行錯誤を繰り返したんですけど、本番のときは“まず、音楽のなかに身を委ねる”ということだけを意識してました。音楽の一部になるというか、自然にそこにいるってことが大切だなって。個性ってことで言えば、“そもそも、そんなものはない”というところから始まってるんですよ。学校にいてもすべてが平均で“こういう子”っていうのがハッキリしなかった――そんなことをいまさら思い出したり(笑)。何て言うか、普通であること、どこにも振れない、ニュートラルなことが自分の個性なのかもしれないなって。ただ、いまの時点では投げかけられたままなんですよね」
――投げかけられた、というと?
「“坂本真綾って、どんな歌い手さんなわけ?”って(笑)。いま新しいアルバムの制作に入ってるんですけど、このカヴァー・シングルで改めてそこを問われてしまって。そういう意味でも原点に立ち戻れた出来事だったと思います」
取材・文/森 朋之(2010年10月)
◆坂本真綾 2011年3月 待望の全国ツアー決定!
3月5日 (土)5:00PM 開場/ 6:00PM 開演 厚木市文化会館 ¥6.300(税込)
3月11日 (金)6:00PM 開場/ 7:00PM 開演 Zepp Fukuoka ¥5.500(税込)
3月19日 (土)5:00PM 開場/ 6:00PM 開演 Zepp Sapporo ¥5.500(税込)
3月21日 (祝・月)5:00PM 開場/ 6:00PM 開演 Zepp Sendai ¥5.500(税込)
3月26日 (土)5:00PM 開場/ 6:00PM 開演 名古屋センチュリーホール ¥6.300(税込)
3月27日 (日)5:00PM 開場/ 6:00PM 開演 大阪国際会議場 メインホール ¥6.300(税込)
3月30日 (水)6:00PM 開場/ 7:00PM 開演 中野サンプラザ ¥6.300(税込)
3月31日 (木)6:00PM 開場/ 7:00PM 開演 中野サンプラザ ¥6.300(税込)