「いろんな人と曲を作ってみたいって気持ちはBACHLOGIC(以下、BL)さんと出会う前からあったんです。でもBLさんと曲作りをしていくうちに、自分でも相性がすごくいいと思ったし、たぶんBLさんも思ってくれてたと思いますし、夢中になって曲作りしてたら3年経ったので、そろそろかなって思って。BLさんも快く了承してくれたので、別に仲が悪くなったとかではないんですけど(笑)」
――曲ごとのプロデューサーの人選も自分で?
「自分からが多いです。〈In My Face〉を一緒にやった
mabanua さんは、僕がちょうど初めて聴いて“この人と音楽やれたらいいな”って思ってた一週間後くらいにスタッフから提案されて、“ちょうど僕もやりたいと思ってたんすよ!”みたいな感じでしたけど」
――tofubeatsさんとは2年前に対談してますよね。それがきっかけ?
「そうです。僕は〈水星〉のときからずっと好きだったんですけど、対談させてもらっていつか一緒にできたらいいなって思ってて、やっとできました。僕は共演するときは直接ご本人にお願いするスタイルでやってきたんですけど、トーフくんは対談のときに“直接やりとりするのがあんまり好きじゃない”って言ってたんで、じゃあ彼のやり方でやってみようと。こういうのがいいんじゃないか、って言葉じゃなく音楽で提案してくれて、3往復くらいのやりとりで完成しました。新しい楽しみを発見した気がしますね」
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「Macka-Chinさんが作ってくださったトラックに僕がラップを乗せて、cro-magnonのみなさんがそのトラックを生演奏してくださったんです。そしてアレンジをしてくださったのがSuzukiさんで、いろんな方の音楽性が入って、すごい曲になりました」
――しかもそこに中島美嘉さんの歌も入って。SALUさんのラップパートと対話みたいになってますね。
「ラップが入った状態で、“こういうイメージです”とか“こう歌ってほしい”っていう言葉よりはもっと漠然としたイメージをお伝えして、戻してくださったのがバッチリはまりましたね。中島さん自ら作詞もしてくださったんですよ。彼女がデビューされた当時から聴いてて、ずっと大好きだったので、参加していただけたのはほんとうれしいです」
――もうひとりのゲスト・シンガーのSalyuさんは? 〈All I Want feat. Salyu〉はSALUにSalyuと名前的にもキャッチーな共演ですが(笑)。
「よく間違えられるんですよね(笑)。Salyuさんも歌声にすごい力があるなって思ってて、前からどうしても一緒にやりたかったんです。そういう曲を作ろうってEstraくんと2人で模索してたんですけど、なかなかできなかったんですよ。今回、ついにこれだ!っていうものができて、ぜひ実現させたいとオファーしたら快く引き受けてくださって」
――先に細かいところからお訊きしましたけど、アルバム全体を聴いてストーリーを強く感じました。テーマありきで曲を作っていったのか、できた曲を並べていくうちに流れができてきたのか、どちらなんでしょうか?
「1年間ぐらいずっと、いろんな曲ができては“これじゃない”って破棄するのを繰り返してて、去年の6月ごろ〈All I Want〉ができて、“入口はここだ!”って言ってポンポンとできていって、ここまでって締め切った感じです。悩んだ期間が長かった分、一貫したものができたんじゃないかと思いますね。具体的にこうしたいとかは思ってなかったんですけど、深層心理的なところにはイメージがあって、どういう形に落とし込むかっていうところでずっと試行錯誤してたのかもしれません」
――『Good Morning』というタイトルは文字通りの夜明けなわけですね。
「2年間ずーっと夜みたいな感じだったんで……。5〜6時ごろの“明るくなってきたかな”くらいのときにアルバムが完成して、今は7〜8時みたいな。やっと朝がきたから、みんな安心してね、っていう。わかりやすいのがいいかなって思って」
――前向きだったり温かかったり明るい曲が多いけど、ダークな曲も一部ありますね。
「〈How Beautiful〉がいちばん暗いですね。〈Mr. Reagan feat.Takuya Kuroda〉とか〈Nipponia Nippon〉とか〈ビルカゼスイミングスクール feat. 中島美嘉〉は、曲調は明るいけど歌詞はそうでもなかったり。今回はダークなものや攻撃性が強いものをなるべく入れないっていうことをコンセプトに作ったんですよ。〈In My Face〉も、一度転んで起き上がってからの明るさっていう感じです。辛さや痛みや孤独といったところから明るさに向かっていく、というイメージはデビュー作から一貫したものなのかなって自分では思ってます」
――表裏一体みたいな感覚でしょうか?
「表だけやりたいんですけど、なかなかできないんですよね(笑)。それができる人ってすごいなって思うんですけど。そういうのもこれから僕がやりたいことのひとつなんで。強さやかっこよさや明るさだけを表に出すという」
――表だけの歌を他のアーティストがやってるのを聴いて、「そんなわけねえだろ」って思うよりも、その裏もあるんだろうな、すげえなって感心するほうなんですね。
「最近はそうです。昔は大っ嫌いでしたけど(笑)。“そんなこと思ってないでしょ”とか“本気でそう思えてたらすげー幸せだな”とか思ってたんですけど、今は素直に素晴らしいなって思うようになりました」
――今の世相について考えると暗くならざるを得ないとこもありますけど……。
「でも、だからって落ち込んでてもさらに悪くなっていくだけなんで、そういうことは忘れずに、どれだけポジティヴにやっていけるかってことが大事かなって思って」
――失礼かもしれませんが、大人になってきたんですかね。
「あー、そうだったらいいですね……そうじゃなきゃまずいみたいな(笑)」
――〈Lily〉の《ありのままの自分を完全に理解してくれる人は居ない 居ないのなら 自分で自分を励まし進んでいくしかない》っていうくだりとか、大人っぽいですよ。
「これ、大人はみんなやってることっぽいっすもんね(笑)。昔、音楽やってた先輩で、今は社長とかやってる人がいるんですけど、その人とかに言ったら“SALU、それ当たり前だから”とか言われちゃうみたいな(笑)」
――あと〈タイムカプセル〉で、懐古的なイメージを歌ったあと、いま君が聴いてくれてる僕の音楽もいつかワゴンセール行きになってしまうのかな、と諦念を吐露して、でも《君がまた来るのを僕は待ってる》と締めるのも、大人だなって思いました。
「これまでだと、みんな忘れちゃうんだろ、ってとこだけ切り取ってひねくれた感情を歌ってたなって思うんですけど、そういう要素はもちろん切り刻んでいったら最後に残るものとして必要とは思いつつも、“だけど……”っていうところが最近は強いですね」
――〈Nipponia Nippon〉の《状況を変えようともがいてる若者を 裏がどうのゆとりがどうのと叩こうと》とか、〈Tomorrowland〉の《何もしない癖に 何かしてる人テレビ見て嘲笑い》とか、ツッコミ過剰なマインドに軽く苛立ってる感じも。
「それはどっちもありますね。《何もしない癖に……》は僕がずっとやってたことだし(笑)、今でも気を抜くとやっちゃうことでもあるんで。〈Tomorrowland〉って、1ヴァース目は自分のことを歌ってて、そんな僕に《見えない招待状》が届いて、2ヴァース目はそっちの世界に行ってつまんなそうな人を見つけて、君も昔はそう思ってたでしょ、だったら一緒に来ない?って話しかける流れなんですよ。どっちの気持ちもわかるのが大人なのかなって思って。その上でどうするかですよね。あえてほっとくんじゃなくて、そこで一緒に行こうよって言っちゃうあたりが僕はまだ若いのかなって(笑)」
――〈How Beautiful〉は従来のSALUさんのヴォーカルとは違う地声っぽい感じで歌い出してますよね。
「確かに、あれは今まで一回もやってない発声ですね。しかも2ヴァース目の最後の《じゃあ何が出来る?》の最後のほうとか、言ってないくらいの、消え入るような感じでやってるんですよ。最近
リアーナ とか
カニエ・ウェスト も言葉じゃない言葉みたいなのを試みてて、一昨日くらいに
マイケル・ジャクソン の〈ヒューマン・ネイチャー〉を聴いてたら、マイケルもそういうことやってるんですよね。全然無意識だったんですけど。僕はずっと独学で音楽をやってきたので、OHLDくんが“SALUは感覚でやってるのがいいと思うよ”ってよく言ってくれるんですけど、逆にいうと感覚でしかできなくて(笑)」
――でも感覚で核心をつかめたら理想的じゃないですか? 主導権を無意識に明け渡さないとできないことだろうし。
「あ、そうそう。そうですね。何も考えないっていう。なかなかできないことだと思うんですけど、両手離しした瞬間につかめるっていうか、つかもうとするとつかめないっていうか。そのパターンが今回は多かった気がします」
――「両手離しした瞬間につかめる」か。いいこと言いますね!
「やっぱり怖がっちゃうから難しいんですけど、両手離しした瞬間につかめたものっていうのが、けっこうみんなにいいって言ってもらえる場合が多いんですよね。今回はけっこうそれをやったかもしれないです。あと、ひと昔前でいうとセルアウトと受け止められかねないようなこともやってます。これまでは先回りして考えちゃって“やめとこ”ってなってたんですけど、そこも手離ししてみました。感じた通りやったんだから、それで何か言われても、お互い言いたいこと言ってていいじゃん、って思えるようになったっていうか。むしろそっちのほうが面白いかもしれないと思って」