1993年、ベルギーのR&S RECORDSのアンビエント・レーベル『APPOLO』よりデビューを果たし、以降、DJ、リミキサー、べーシストとして多方面で活躍する奇才、
サワサキヨシヒロ。雑誌やwebで連載を手掛けるなど無類の温泉フリークとしても知られる彼が遂に究極の“温泉チルアウト・ミュージック”を完成! その第1弾作品として“Naturally Gushing”名義で8年ぶりとなるフル・オリジナル・アルバム
『Naturally Gushing Vol.1』を発表した。温泉への大いなる愛情からアンチ・グローバリズムまで、さまざまな思いが込められた今作についてサワサキに話を訊いた。
テクノ、ドラムンベース、ブレイクビーツといったアッパーなものから、繊細なアンビエント・ミュージックなど、さまざまなサウンドをクリエイトするアーティスト/DJのサワサキヨシヒロ。雑誌で連載を持つほどの温泉フリークとしても知られる彼が、“温泉チルアウト・ミュージック”をテーマにした8年ぶりのオリジナル・フル・アルバム『Naturally Gushing Vol.1』を完成させた。
「自分のことを、アッパーでアホなDJってイメージでとらえている人もいるけど(笑)、最初に『APOLLO』で作品を出したときから、アンビエント、チルアウト的なものはずっと作っていて、今回それを温泉に結びつけて出したんです。“温泉チルアウト・ミュージック”っていうのは、要するに、音で温泉心地を体現できるもの。自分のチルアウトはそこに通じるんです」
アルバムには、ピアノの甘いメロディが響く「Life Is Good, 2008」、ジャジーなムードの「Relax, Onsen」、外国人の女の子が和なメロディを歌う「Yukemuri Ryojyo」、そして、「オネーさんがどっぷり浸かってる感じ」のキラキラした「Lady's Eqicureanism」、「湯治に来て運命のお湯に出会えたって感覚」のディープな『Destiny's Water』など、心地良い気分に浸れるラウンジーなナンバーが詰まっている。中には、
クラスターのようなジャーマン・プログレ感、デトロイト・テクノのダウンビート・テイストを感じさせる楽曲も少なくない。
「シンセサイザーは、結構、温泉じゃないかな。なんと『TVチャンピオン』の温泉マニアで三連覇した郡司 勇さんも、中ジャケで湯船の写真を使わせてもらっている、まるみや旅館のオーナーもプログレ・マニアなんです。あと、デトロイトに温泉があるのか知らんけど、多分あるんじゃないかなと思ってますね(笑)」
そして、本作には、源泉のように熱い、彼のメッセージも込められていた。
「タイトルの『Naturally Gushing』は、自然に湧出するって意味。やっぱり温泉は、自然湧出が一番いい。最近、都心でも温泉があるけど、地下1500mも掘ってポンプで無理矢理上げてる。そんなのエコでもなんでもない。環境破壊ですよ。それと、脱グローバリゼーション的な発想も僕の中にあるんです。おしゃれな雰囲気のジャケットだけど、実は、鳴子温泉郷の東蛇の湯って温泉マニアもうなる湯治場の大浴場で撮影していたり。そんな、爺さん婆さんしか来ないようなとこにモデルさんが来てるみたいな、アンチ的なことをやっちゃいたい。さらに言えば、ディスカバー・ジャパン的な、“脱東京”的発想で田舎に焦点を当てたい。たとえば、日本人が海外行くにしても“ロンドンとかの都会より、イタリアのシチリア島のあそこに行きたい”ってなるやん。かたや日本の田舎はダサイってなる。こんな素晴らしい温泉があるんだから、そんなグローバリズムの洗脳を解いて、海外だけじゃなく日本の田舎もカッコよくて、おしゃれだって風潮になっていってほしいんですよ」
アンビエント、チルアウト・ミュージックは、宇宙や海、自然をイメージさせる浮遊感のある音楽。それを日本人が一番身近に体感できるものが、温泉といっても過言じゃないだろう。このアルバムを聴いていると、都会の喧騒を離れ、山の中にある温泉に行きたい気分に駆られてしまう。まさに本作は、都会と田舎の架け橋的な作品でもあるのだ。
「間口は大浴場のように広いんで、老若男女に聴いて欲しい。野外パーティ野郎にもチルアウトで聴いてほしい。単に“おしゃれだな”って聴いてくれてもオッケー。あと、聴いて寝てしまってもオッケー。寝れる温泉はいい温泉だし、聴ける温泉みたいな音楽を目指してるので、僕としては本望ですよぉ〜」
取材・文/土屋恵介(2008年9月)