キューバに留学し、現地の一流ミュージシャンと交流、共演することで自己のスタイルを築いたヴァイオリン奏者の
SAYAKAが初のリーダー作
『パルマ・アバネラ』をリリースした。通底するのはアフロ・キューバンだが、音楽家の両親のもとに育って6歳からクラシックを始めた経歴や、
マイルス、
ピアソラ、
ロドリーゴほかジャンルにとらわれない選曲がデビュー作にしてオリジナリティ溢れる音世界を創り出している。
――デビュー作『パルマ・アバネラ』にはラテン、ジャズ、クラシックなどの多彩な楽曲が収められています。どのような基準で選曲したのですか?
SAYAKA(以下同) 「キューバ、ニューヨーク、スペインをはじめとするヨーロッパなど、旅をした先で出会ったもの、感じたものの印象につながる曲です。ただ、アルバムのために曲を選んだというよりは、バンドでライヴを重ねるなかで演奏してきた曲が中心です。ちょうど去年の7月22日(アルバム・リリースの1年前)に現在のメンバーで初ライヴをしました。最初の何曲かで全員が“この5人、いいんじゃない?”と思って、同じメンバーで続けています」
――オリジナルの演奏ではヴァイオリンが使われていない曲も多く、新鮮な印象を受けます。たとえば、チック・コリアの「スペイン」は“キメ”に終始する技巧的な部分と直後のメロディアスな部分の対比が、ヴァイオリンが艶やかにメロディを弾くことによって強調され、曲のよさを再認識しました。
「歌っているような気持ちでいつも弾いています。マイルス・デイヴィスの〈オール・ブルース〉はフラメンコっぽいリズムと融合する曲を探していて、大儀見(元/パーカッション)さんと大口(純一郎/ピアノ)さんが選びました。フラメンコとキューバの感じが混ざるリズムの感じとか、ちょっと新しいかなというのがあって、演奏するときはみんな燃えますね」
――マヌエル・デ・ファリャの「火祭りの踊り」をはじめとして、ヴァイオリンのさまざまな奏法や音色が楽しめるアルバムですね。
「6歳でクラシックのヴァイオリンを始めて、音大に入るまで続けていました。クラシックではフレーズとか間が大切というイメージがあり、いまもどこか残っていると思いますが、アフリカ系の音楽を聴くようになってからはグルーヴを意識するようになったんです。ヴァイオリンでリズムを出すためにエッジを強くして弾くこともあり、感覚は違いますね。トランペットとユニゾンで弾いた〈エル・ピート〉は、スタジオで私の音だけピックアップして聴いたら、自分でびっくりするくらい太い音でした。キューバでラテンの弾き方を習ったときは“スピード感を出して弾け”というようなことを言われたのですが、そのへんはクラシックの奏法と違うところですね」
――キューバでは名グループ、オルケスタ・アラゴンのヴァイオリン奏者であるL.D.ゴンザレスに師事しました。
「来日した際にちょっとレッスンを受けて、その後、キューバに行ったとき、スペイン語がわからないふりをして“えっ、泊まり込みでレッスンしてくれるの?”と言ったら、最初は一瞬かたまっていましたけど、いいよと言ってくれて(笑)、しばらくお世話になりました。リズムがわからないと楽譜が書けないので、キューバではパーカッション全般も習いました」
――アルバムにはアフロ・キューバンの要素が通底していますし、キューバ抜きにSAYAKAさんの音楽を語ることはできませんね。
「キューバに行って、地に足が着いたというか、価値観がまったく変わりました。日本は情報が多くて、何がなんだかよくわからないままに生きてきた部分があったと思うんですけど、キューバでは生きていることと音楽をやることが同じでした。パーカッションがバーッとうねっていて、途中で人が倒れたりとか、そういう体いっぱいで演奏しているのを見て、いままでやってきた音楽ってなんだったんだろうと感じたんです。本当はクラシックはクラシックでエネルギーを費やせるし、最終的にはジャンルの壁をなくして、私にしかできないことがあったらやっていきたいなと思っています」
取材・文/浅羽 晃(2009年6月)