SCOOBIE DOの9作目となる
『MIRACLES』の素晴らしさを、いったいどう形容すればいいだろうか? ソウル・ミュージックやロックンロールへの愛情、先人たちへのリスペクト、バンドとしてのポテンシャルとプライド、それらが見事に融合した純度の高いアルバム……と呼んでもこぼれ落ちるものが多すぎる。にも関わらず、この作品にはいやらしい尊大さの欠片もない。まさに奇蹟。偶然か必然か。メンバー全員に集まってもらい、そのミラクルを解くヒントをもらおうじゃないか。
――このアルバム『MIRACLES』の制作はどんなことから始まったんですか?
マツキタイジロウ(ギター、以下マツキ) 「今年の頭ぐらいにこの10曲のデモを作ったんです。弾き語りの状態で曲順も決まってなかったんだけど、こんな感じで行きたいとみんなに渡して。最終的にその10曲でアルバムになったんです」
コヤマシュウ(ヴォーカル、以下コヤマ) 「デモを聴いたら“いい曲ばっかり”って思いました。それだけで満足というか、詞もメロディも全部できてて……どうやってもいいアルバムになるな、という予感がしましたね」
ナガイケジョー(ベース、以下ナガイケ) 「僕も曲がいいなと思いましたね。“歌モード”な感じも伝わってきたし、この10曲をちゃんと作り込みたいんだっていう意気込みが感じられたので、望むところだ!と(笑)」
オカモト“MOBY”タクヤ(ドラムス、以下MOBY) 「今まではスタジオで弾き語りをしてもらいながら自分の設計図を描いてたんですけど、今回はデモをもらってすぐに他のパートも含めてヴィジョンが見えたから“俺たちはデキるバンドなんだ!”みたいな感情が一気にわき上がって(笑)。個人的にはエレドラを買ったもんだから、作り込んでいくことが理にかなってたというか」
――ほう! そんなMOBYくんの一方で、マツキくんも鍵盤を買ったとか。
マツキ 「今回は、かつてのモータウンのようにキラキラとして完成されたポップスのようなものを目指していたので、ピアノやオルガンやエレピといった鍵盤のダビングが必要だなと思って。ピアノとか弾けなかったんですけど、打ち込みでやるよりは自分でイメージ通りに弾きたかったから、小さいシンセを買って、自宅でデモと一緒に拙いながらも練習して……3ヶ月くらいそんなことをやってました」
――だからかな、ソウル・ミュージックのアレンジャー視点、みたいなものを感じましたが。
マツキ 「自分の思いとしては、フォーマットや曲のフォルムといったもの以上に“本当の意味でのソウル・ミュージック”──本当に聴く人に寄り添うもの、弱っている人間から発せられるからこそ弱ってる人に届くもの──そういものになればいいなと思って作りました」
――純度高いですよね、このアルバム。何作か前の重要なファクターだったノイズ成分はここには……。
コヤマ 「見事にないですね(笑)」
――だからよけいに、得意なところをやってる体でありながら新鮮に感じるんですよ。
マツキ 「ここまで分かりやすいソウル感のあるものはやってなかったな、とは思います。今まではソウル“っぽく”しましたじゃダメなんだ、という思いがずっとあって。でも、たとえソウルっぽくした音楽を作ったとしても、その枠から本当の意味でのソウルやポップネスを溢れ出すことができるはず、そこを目指すべきだ、と前作の『何度も恋をする』から思い始めて。で、今回からそれを具体的に形にしていく作業、そんな感じでした」」
――なるほど。このアルバムは、各メンバーの趣味・指向は重要ではなくて、曲の持つ良さをなんとか開花させようという集中力を感じます。リズム隊、特にベースにそれを強く思いますね。個性を発揮できなくてもフラストレーションがない、というか。
ナガイケ 「僕自身、歌に向かって行きたいっていう思いがあったんですよ、今回。それでもリハのときに“ベースは曲のイメージを支配する楽器なんだからよけいなことしないでくれ”みたいなことを言われたりもして(苦笑)」
マツキ 「そうだっけ?」
――そういうことは言われた方だけ覚えてるものです(笑)。
ナガイケ 「でもホント、そういうことだと思うんです。だからそこは意を汲んで自分が提供できるものを最大限にやったという思いがあって、それでいいものができたから、自分としても成長したと思います」
MOBY 「今回はドラムで刻んでいくというよりは、ベースに乗っかってるほうが多いんです。でもこのアルバムにはそれが合うんじゃないかと思います」
――なるほど。ヴォーカルがいつもに増して気持ちよさげなのはその辺のグルーヴ感も関係してるんですかね。
コヤマ 「いい音で録りたいなというのがあったんで、そう録れるように歌うというか……うん、いい音は感動するんですよ。エンジニアの中村さんもそういう指向があって。気持ちいい感みたいなのは、そういうところでトライした結果かもしれないですね」
マツキ 「毎回、レコーディングのときには中村さんによる“バンドクリニック”みたいなものがあるんですよ。要するに、ライヴに慣れた僕らの感覚でレコーディングに臨んでしまうと、やっぱりいい音では録れないんですよ。レコーディングはレコーディングの音で作らなくちゃダメなんだ、ということを言われるわけです。最初にリズム隊を録るから、まずドラムがダメ出しされて、ベースもダメ出しされて、ギターを録りはじめるとギターもダメ出しされて、もちろん歌もダメ出しされて……今はだいたい年に1回レコーディングしてるんですけど、ある意味、それを受けたくてやってるところもあるかもしれない(笑)」
コヤマ 「完全にバンド全体がM体質になっちゃってて、こうやったらダメ出しされるかなあ?みたいな探り探りでね(笑)」
マツキ 「でもこの歳になっても第三者的視点で突っ込んでくれる人がいるっていうことはすごく貴重で。なおかつ中村さん自体が“現役”として最前でキープオンしてる人なんで。だから、俺たちからするとダメ出しに聞こえるだけで、実は中村さんは、シュウくんの言う“いい音”を録るための最短を言ってるだけなんですよ。だから、バンドの“ライヴさえがっちりやってればいいんだ”みたいな感覚をリセットさせてくれるというか、ミュージシャンとしていさせてくれるというか、指標になる人ですね」
――なるほど、積み重ねてきたゆえのピュアネス、みたいなヒントが分かってきましたよ。で、このアルバムは『SCOOBIE DO』っていうタイトルでもおかしくないくらい、バンドの本質をえぐり出したように思うんですよ。となると、ここが到達点で……という不安が若干よぎったりもするんです。
マツキ 「いやいや! まだまだこの先はありますよ!」
取材・文/フミヤマウチ(2011年9月)」