ソロMCとして現在最も注目を浴びているであろうSEEDAが完成させた7枚目のアルバム『SEEDA』は、いわゆる“日本語ラップ”という文脈から離れた、新奇性の塊のような驚きに満ちた作品であり、共同制作者のBACH LOGIC(以下BL)、そして今作に参加したアーティストたちによる、音楽シーンへの幸福な挑戦状とも言える作品だ。
「今作は、2008年までにはなかった、ヒップホップのカラーを出すことに成功した手応えがありますね。自分たちが“カッコいい”って思えるヒップホップの価値観だけで作ってみようというところから制作をはじめて、特にアメリカのヒップホップってことを意識したわけじゃないけど、自分が一番凄いと思っている場所と勝負するんだったら、どういう音が必要かってことをBL君と一緒に考えたらこういう作品になったんですね」
特にトラックに関して言えば、20代を中心にした新しい感覚を持ったトラック・メイカーが多く参加し、彼自身も「若いイイ奴らがどんどん出てくると思いますね。今までの常識は通用しなくなると思う」と話す、“ヒップホップはこうあるべき”という柵を打ち破った新感覚のビートに溢れている。
SEEDAはこれまで、日本語ラップ・シーンが持つ認識を一変させるような、驚くべき作品をリリースしてきたが、今作はもはやそのシーンを飛び越え、音楽界全体へ訴求できるポップさも加味された作品となった。ふるいにかけられた精度の高い言葉・ラップと開かれた世界観、そしてフレッシュなビートという、至極真っ当な音楽作りによって、ヒップホップはヒップホップのままで、ポップとして訴求できることを日本語でも証明した作品と言えよう。その面では、確実にヒップホップの意味合いを拡充する作品となったわけだが、彼自身は、ここでなにかを完成させた、もしくは完結させたという気はさらさらないようだ。
「今しか歌えないことを歌いたいんですよ。ヒップホップって“時代の中に生きてる”ってことを投影する音楽だと思うし、だからこそ、その時代に自分がどう考えて、どうその時代を切り取って、どう生きてたかを“証し”として作品に残したいんですよね。自分の作品にしても、新しい時代がきたら、それに自分としてどう反応するかってことの繰り返しだと思うんです。だから、今作にしても“今は”これがいいだろって感じですよね。今回やったようなことを人に真似されたら別のことをやるし、このアルバムをヘイトするなら、それにもアンサーする用意はありますよ」
今作の特異性も含め、その言葉から感じたのは、やはり彼は“まれびと”なのだろうな、ということ。シーンの内部にダラリと安住することなく、次々に新しい切り口を生み、自身を取り巻く状況全体にまでも変革をもたらす。だからこそ、SEEDAの動きからは目が離せず、スリリングであり、次に開けてくれるであろうドアさえも期待せずにはおれない。
取材・文/高木晋一郎(2009年4月)