口も八丁、手も八丁。そんな形容がハマる日本人ドラマーというのも、この人をおいて他にいないだろう。
村上“ポンタ”秀一。2008年にリリースされた
『7(seven)』は、ポンタ同様、日本のロックやポップスを、演奏や編曲面で支えてきた6人のつわものが、その呼びかけに応じて集合。“スタジオ一発録り”を敢行した異色かつ意欲的な一枚だったが、その続編にあたるライヴ作がこのたび発表された。題して『7(seven)returns』。“帰ってきた7人”というわけで、いずれ多忙なメンバーが、再度“全員集合”するまでの経緯を含め、バンマスのポンタに語ってもらった。これまたポンタ名物、愛情あふれる憎まれ口も、相変わらず絶好調。この独特の語り口にかかると、どんなベテラン・ミュージシャンも人間臭〜い横顔をのぞかせてしまうのだから、ほんと、何度インタビューしてもおもしろい。
村上“ポンタ”秀一(ds)
――まずは“7人が帰ってきた”いきさつから。
村上“ポンタ”秀一(以下、同)「……」
――帰ってきてないんですか(笑)。
「いやいやいや。“7”はスタジオ盤のレコーディングとDVDを撮影した、あの1回きりと思ってやったからね。全員のスケジュールを押さえるだけで、とにかく大変だったんですよ。名のあるメンバーばっかりだから」
――スタジオ一発録り、すなわち“全員、現場に来い”ってことですもんね。
「中身に関しては全然心配してなかったのよ。全員技量は、
(井上)鑑がいて、俺の思い通りに譜面を起こしてくれる。問題はスケジューリングだけ。2年前、スタジオ録音が終わったその日に、
(後藤)次利と
島健から電話がかかってきて、“これ一回きりじゃもったいない”って、すぐビルボードでのライヴをブッキングした。ビルボードの最終日には、もう。
7(seven)っていうバンドになっているわけですよ。そしたら今度、“ツアーやろう”って。そこで俺がキレてね。その時点で即解散」
井上鑑(key)
――もう解散しちゃったの(笑)。
「“うれしいけど、お前ら、スケジュール取るのにどんだけ待たせるんだ”って。ただ、その後もメンバーひとりひとりに会う機会は、結構多かったんですよ。次利とは
吉川(晃司)とトリオ組んでることもあって、よく顔を合わせてた。そうこうするうちに制作スタッフが動き出して、『7(seven)returns』に至ったという」
――今回、ほぼ全曲をオリジナルが占める中にあって、1曲目の「One Phone Call」だけマイルス・デイヴィスのカヴァー(『ユー・アー・アンダー・アレスト』収録)ですよね。 「この時期のマイルスって、バンドが下手なのよ。
ジョン・マクラフリンのギター含め、とにかくバラバラ。音が合ってない。“7”は逆で、みんな上手すぎて、そこがつまんなかった。俺、最近“下手”に命賭けてるから、こんなにピッチリ合っちゃう演奏ではダメだと(笑)。この曲をぶつけることで、ぐしゃぐしゃで混沌としたオープニングにしたかったのね。ちょっと狙いがはずれて、いい曲になっちゃったけど(笑)」
後藤次利(b)
――さすがに皆さん上手かった。
「亡くなった
加藤和彦と、昔よくそういうのをやってたんですよ。ポップな曲をわざと下手くそに叩く。気分は一番下手だった頃の
リンゴ・スター(笑)。翌朝足が攣って、必ず後悔するんだけど」
――そんなポンタさんの遊び心に、笑いながら付き合ってくれる“7”のメンバーではあるんですよね。
「次利なんて文句言ってるけどね。“[7]は曲が難しい。リハーサル・スタジオでベース練習してたら、指が攣った”って(笑)。かわいくて」
――そんなことおっしゃるんですか。
「最初からベースは次利でいこうと思ってたからね。これが
高水(健司)や
岡沢章だと、当たり前に気持いい世界になっちゃうから。次利はおもしろい」
――次利さん名義の「Crossway」はすごく好きです。
「あれはもともと
ジプシー・キングスみたいなイメージ。『鬼平犯科帳』のエンディング・テーマみたいな雰囲気で作れたらいいなって……」
――それはポンタさんのほうからアイディアを。
「(他のオリジナルも)俺がイメージを全部言うの。メンバーひとりひとりに会って、資料音源を渡して、これはこういう曲でこう繋げてって、イメージを伝えていく。それを統括して譜面に起こしてくれるのが鑑」
――じゃあ、ポンタさん名義の曲がなくても……。
「元は全部、俺。曲順も最初から考えてたし。
PONTA BOXでもそうだったけど、曲順が決まらないと、アルバム全体って見えないんだ。話は少しズレるけど、最近、いろんなトリオ編成で全国を楽器車で貧乏ツアーしてるんですよ。
ライ・クーダーの全集と
キング・クリムゾン全集を持って(笑)。かたや田舎、かたや変拍子の極致。どっちやねん!って(笑)。発狂しそうになるけど、それくらいしないと曲を書く気にならない。理想は両者の融合だから」
――融合しちゃうんだ(笑)。
「うん。組曲みたいなのが多いよね」
本多俊之(ss)
――『7(seven)returns』でも、井上鑑さんが書いた「Opus 1.2」は、完全にそういう感じでした。
「
(本多)俊之もそういう曲を書いてきたし(注:<Two-Way ANOVA>)。変拍子っていうと、みんな先入観が強くて“えっ?”って思うけど、俺は好きなの。緊張感があるからね。変拍子って、杓子定規に音符、拍数を数えながら演奏するからつまんないんだよね」
――それって、ポンタさんが歌のバックで叩くのが上手いことと、関係あるんじゃないですか。
「(変拍子って)言うならば“歌”だからね。変拍子の塊が1拍みたいな」
――2曲目の「Swampwalk」は、先ほどおっしゃってたライ・クーダー的な。
「
(近藤)房之助としばらく一緒にツアーしてたとき、あいつがドブロ・ギターに凝っててね。ライ・クーダーをフリー・ジャズみたいにして、弾きまくってた(笑)。そのときのイメージがちょっと残ってるかな。ライ・クーダーからは貧しいメキシコの人たちの世界が、すごく見えるんだよね。カリフォルニアでも下のほうの……」
――渇いた風土の。
「そうそう。保養地みたいな雰囲気もありつつ、土は乾いてる、みたいな。それとキング・クリムゾンを二本立てで聴いて苦しんでる(笑)」
――ちなみに『7(seven)returns』は、演奏された順の収録なんですか。
「そうです。マイルスの曲はちゃんとした楽曲にするつもりはなかったから、すぐ終わりたかったの。みんなあんまり上手いから、止まらなくなっちゃった」
――2曲目以降からがらっと雰囲気が変わって。
「そっからが本番ですよ」
7(seven)
島健(p)
――井上鑑さんと後藤次利さんのお話が出ましたけど、残り4人のみなさんを、ポンタさんなりにご紹介していただくとすると。
「鑑と島健は好一対なんだ。島健とは、あいつがチック・コリアと活動した後、日本に戻ってきてからトリオを組んだことあるんですよ。今回入れた<Bop’n Roll>は、試行錯誤であれこれやってた時期にできた曲。レコーディングしたことがなかったから提案してみたら、島健的にも新鮮だったんじゃないの。『7(seven)returns』に収録されたのは東京でのライヴだけど、その後、名古屋やって大阪やって、大阪でやる頃には全然違うバンドになっていた。みんな、こなれるのが早いからね。俺が好きなのは、メンバー全員、楽器好きな“小僧”の顔になってることね。いずれ劣らぬ先生たちが、だよ。次利なんかガキそのもの。昨日ベースを始めたばっかり、みたいな顔で弾いてるもん。鑑だって、島が入ることによって、もっと自由になる。現代音楽っぽい曲とか、ほんと、楽しんで弾いていますよ。おい、そんなとこ弾いて一体どこまで行くつもりなの?って訊いても“いいんじゃない?”って。普段の鑑なら絶対そういうことは言わない。本来、いい意味での計算ができる人だから」
斎藤ノブ(perc)
「ノブは相変わらずいいかげん(笑)。ノブはかっちり入れちゃダメなのよ。野放しがいい」
――ドラマーであるポンタさんにとって、パーカッショニストって、どういう存在になるんでしょう。
「色づけ(笑)。俺、パーカッショニストって基本的に認めてないから(笑)。本音を言うと、あんまり関わりたくない(笑)。打楽器奏者の音楽的センスって、あんまり認めてないんだよ。ただコンテンポラリーなJポップで叩ける打楽器奏者って、日本では唯一ノブしかいない。俺、ノブとのコンビネーションはいいんだ。ノブケインでの付き合いも長かったし」
――本多俊之さんは、本多さんを入れたかったのか、ソプラノ・サックスの音色が欲しかったのか、どっちだったんですか。
「俺、俊之のソプラノのファンだよ。クラシックのヤツらと室内楽みたいな試みもやってるからね。その中で自由奔放にやってるのがいい(笑)。“7”の最年長は、数ヵ月違いで島。島が4月、ノブが11月。俺が翌年(1951年)の元旦。次利がたしか3月。松原(正樹)と井上がほぼ同い年で、俊之はそれよりちょっと下じゃないかな。みんな還暦なのよ。還暦(のお祝い)で久しぶりに会う機会が多くなった。ゲストで
かまやつ(ひろし)さんが来たり、
角松(敏生)が
小坂忠さんの曲をやったり、
織田哲郎が初期
TUBEに提供した曲をセルフ・カヴァーしたりね。還暦を機にいろんなヤツと再会するのが、いいきっかけになってるよね」
松原正樹(g)
――ポンタさんにとっての松原さんのギターというのは。
「ヤマハ出身の上手いヤツがハコバンをやってた“夢殿”というライヴハウスがあって、松原もそこで演奏していた。俺が高水と
(大村)憲司とトリオ組んで回ってた頃だから、ずいぶん昔になる。俺、どこでもセッションやるから、夢殿でもセッションしてたら、憲司が“このギター、ちょっといいぞ”って言い出した。それが松原との出会い。そこから松原のソロ・アルバムに参加したり、すごく古い付き合いになるね。松原には憲司も一目置いてたもん。憲司が“33”ってAOR系のギター、
ラリー・カールトンや
リー・リトナーが使ってたやつを弾くようになったのも、松原がきっかけだからね」
――最後に、“7”の展望を。
「『7(seven)returns』では、俺の意向に沿ったオリジナル曲中心にやったわけだけど、今度は逆に、メンバーそれぞれが自分の意思で書いてきた曲をやるのもおもしろいかなと思って。次回はそれかな。そうしょっちゅう会えるわけじゃないしね」
村上“ポンタ”秀一(ds)
取材・文/真保みゆき(2010年12月)
<『7(seven) returns』リリース記念ライヴが決定!>●2011年1月30日(日) (入替制)
【1部】OPEN 16:00 / START 17:30
【2部】OPEN 19:30 / START 20:15
●会場:Blues Alley Japan
(目黒区目黒1-3-14 ホテルウィングインターナショナル目黒B1)
●前売券:
テーブル席(自由/SC込)7,000
立見(自由)5,000
当日券:各料金500UP
(各税込/整理番号付)
※お問合せ:BLUES ALLEY JAPAN/03-5740-6041
http://www.bluesalley.co.jp/【出演】
7(seven):村上“ポンタ”秀一(Drums)、井上鑑(Key)、島健(Pf)、松原正樹(Guitar)、後藤次利(Bass)、斎藤ノブ(Per)、本多俊之(Sax)