――島さんは、Shima&ShikouDUOや「名曲を吹く」シリーズなどさまざまな活動を展開なさっていますが、その中でSilent Jazz Case(SJC)はどのような位置付けなのでしょうか?
「SJCは僕のリーダー・プロジェクトのひとつです。いくつかの側面を持っていますが、最も大きな目的は、単なるプレイヤーとしてだけではなく、プロデュースも含めたトータル・ミュージシャンとしての表現をするということ。僕は自分の演奏活動以外にも、2010年頃は数多くのアーティストのプロデュースやサポートも手掛けていましたがそうした活動を行なう際に、いくつものダビング・トラックやデモ・トラックを作るのですが、そうしてできあがった音源をさらに発展させてアルバムの形に集約したものが、2010年に発表した1stアルバム『Silent Jazz Case』です」
「現在の自分の音楽や活動がしっかりと反映されたものにしようと。1作目の『Silent Jazz Case』はクラブ・ジャズにフォーカスした作品。続く『Silent Jazz Case 2』は、もうちょっとアッパーでグルーヴィな音楽をイメージして作り上げたアルバムでした。いろいろとチャレンジしたなかで思ったことは、自分には派手なものよりも、哀愁感のある音楽の方がフィットしているということでした。今回のイメージは、泥臭くて哀愁たっぷりだけど、グルーヴ感のある音楽。メロディやハーモニーは涙を誘う切ないもの。だけど、ベーシックなリズムの部分ではしっかりとしたグルーヴが流れている。それが基本的なコンセプトです」
「綺麗で聴き心地がいいけど、ガッツがあるサウンドをイメージしました。前作『Silent Jazz Case 2』では、ちょっと音を重ね過ぎてしまったんです。そこが前作の反省点でした。音を重ね過ぎると音楽のエッセンスが薄まってしまうように思いますね。今回は重ね過ぎないよう、とにかく我慢しました(笑)。1950〜60年代のジャズを意識した2ホーンだけでユニゾンしている楽曲などもありますが、ハーモニーの重ね方やミキシングもなるべくシンプルなものに仕上げました」
――先ほどお話にも出ましたが、今回のアルバムは楽曲の振り幅がとても広く、ひたすら美しい「Blue in Kyoto」や、熱気あふれる「K's Dream」など、個性的な曲が揃っています。
「作曲方法に関しては、ふとした時に思い浮かんだメロディをその場でメモのように録音しておいて、そのモチーフをもとに書き進めることが多いのですが、このやり方だと曲が似通ってくる危険性があります。それを避けるために、最近では共演するミュージシャンからインスパイアされる共作という形を取ることが多いのですが、それでもときどきメロディがすっと思い浮かびそのまま自然に書き上げられることがあります。この2曲はどちらも僕の単独作品。〈Blue in Kyoto〉は、ライヴ・ツアーの際、京都の東福寺を訪れた時に思い浮かんだものです。まさしくメロディが降りてきてくれました。〈K's Dream〉はファンの方との会話がきっかけになって書いたもの。タイトルの由来は、ホレス・シルヴァーの〈ニカズ・ドリーム〉です。〈ニカズ・ドリーム〉は、4ビートとラテンが交錯するリズムに哀愁あふれるメロディを乗せたものでした。僕の〈K's Dream〉もドラムンベースのリズムに演歌調のメロディを合わせたもの。ホレス・シルヴァーが新たなミクスチャーを生み出したのと同様に、新しいミクスチャーを作り出したいと思って付けたのがこのタイトルです」
――プロデューサーとしての色彩が強いというSilent Jazz Caseですが、4ビートで疾走する「R40」や8ビートでグルーヴする「Blues for Faran」など、トランペッター島 裕介のハード・バップ・テイストのブロウが聴けるのも嬉しいところです。
「前作『Silent Jazz Case 2』にはあまりハード・バップ感がなかったんですよね。今回はそういった面も出してみたくて収録しました。〈R40〉は、ジョン・コルトレーンの〈ジャイアント・ステップス〉のようにコード進行が複雑な上にトーナリティも定めにくい難曲ですが、ジャズのエッセンスをふんだんに入れた曲です。タイトルの由来は、映画などにある“R18”のような年齢指定の表示。こういう小難しいジャズは40歳以下の人にはわからないかなー、でも若い人たちにもわかってほしい(笑)。そんな二律背反な思いを籠めてこのタイトルにしました。〈Blues for Faran〉はリー・モーガンの〈サイドワインダー〉のようなありがちなオールド・ジャズ・ロック・スタイルを模倣しました。このアルバムでは自分のオリジナルをやっていますが、僕がここまで来るには徹底的にジャズのイディオムを勉強し、そのルーツを探ってきたという積み重ねがあります。自分のやってきたことに真摯に向かった演奏、自分の中にある伝統と革新を感じ取ってもらえたら嬉しいですね」
――最後に今後のご予定をお聞かせください。
「7月25日に渋谷JZ Bratで『Silent Jazz Case 3』リリース記念ライヴを行ないます。井上 銘くんも加わったクインテット編成です。“Silent”とは真逆の熱いライヴをお届けしますので、ぜひ聴きにきてください。そのほかにも、小山 豊くんとの〈島裕介〜和ジャズ〜ライヴツアー〉や、〈名曲を吹く〉、Shima&shikouDUOのツアーで日本各地に行く予定。お近くの方はぜひお越しください。