たまには母ちゃんにみたらし団子を買ってかったりしぃや!――SHINGO★西成が3年をかけて辿り着いた『ここから・・・いまから』

SHINGO★西成   2017/06/30掲載
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 SHINGO★西成のニュー・アルバム『ここから・・・いまから』がリリースされた。2013年12月の前作『おかげさまです』以降、般若ZORNコラボレーション昭和レコードとしてのツアーを展開、2015年には大阪市西成区釜ヶ崎を舞台とするドキュメンタリー映画『さとにきたらええやん』で楽曲が使用されたほか(劇中にも登場)、西成のウォール・アート・プロジェクト「西成ウォールアートニッポン」の総合プロデューサーも担当するなど、常に動き続けてきた彼だが、アルバム・リリースとなると実に3年半ぶり。子供から老人までの心を射抜くストレートな言葉と独特のユーモア、枠に囚われない音楽センスとヒップホップへの愛が詰まったその内容は、他に類を見ないラッパーであるSHINGO★西成ならでは。ラップ・ブームなどどこ吹く風、今も故郷・西成に軸足を置きながら、言葉とアクションによって人々を鼓舞し続ける彼にインタヴューを試みた。
――アルバムとしては3年半ぶりですよね。結構間が空いた感じがします。
 「このアルバムを作るのにはそれぐらいの時間が必要でしたね。前作が出たすぐ後からアルバムを作りたいという気持ちはあったんだけど、この言葉のチョイスに辿り着くまで、自分のポテンシャルでは3年半かかった。ギリギリまで言葉のチョイスを追い込んでいったら、これぐらいの時間がかかったんです」
――とはいえ、前作以降にはいろんな活動がありましたよね。般若さんとZORNさんとのコラボレーションもすごく印象深いですし。
 「3人でステージに上がるとヴァイブスというか、ちょうどいいパワーが出る。ライヴもめっちゃ盛り上がるんですよ。自分のライヴより全然盛り上がる(笑)。あと、2人からはすごくいい刺激をもらってますね。アーティストはちゃんと曲を作って、きちんとライヴをやる。そのうえで“遊びゴコロ”を忘れない。そこは昭和レコードメンバーだけじゃなくて、それこそTHA BLUE HERBKREVAもそうやし、他のジャンルからもええ刺激もらってます」
――「西成ウォールアートニッポン」の総合プロデューサーも務められましたね。
 「西成ウォールアートニッポン(愛称は西成WAN)の総合プロデューサーも、言い出しっぺすね(笑)。大阪市が小中一貫校をあいりん地区のど真ん中に作ったんですよ。あいりん地区以外の住民の皆さんからしてみると、そんな場所に子供を通わせたくない。そこにまちづくりを研究してる阪南大学の松村(嘉久)先生や地元の有志や堺市のカルマートのワッツくんをはじめ、たくさんのライターらがひとつになり、いろんな活動をしてるんですよ。そこで俺にも町の人から声がかかって。アルバムを作んなきゃいけないからバタバタしてたけど、せっかくのご指名なので、ヤルならとことんイテマエな精神で」
註: 西成ウォールアートニッポン / グラフィティ・アーティストたちと地元の子供たちが街にアートを描いていくことにより、街のイメージアップと来訪者を増やすことを目的にしたプロジェクト。2016年春に開校した大阪市立いまみや小中一貫校近くの壁面などをグラフィティ・アーティストたちの作品が飾った。主催は西成アート回廊プロジェクト実行委員会。
――なるほど。
 「もともと俺は90年代から会社の休みを使ってニューヨークによく行ってて、街中でグラフィティをよく目にしていたんです。そこで言葉だけでもなければ、音楽だけでもないライフスタイルそのものに触れたことがすごく大きかったし、それが西成のプロジェクトの始まりでもありますよね。ただ、自分では描けないから、アーティスト頼り。俺なんか雑用でしかないんです。西成のためだったら、SHINGOのためだったらと言ってくれるグラフィティ・アーティストたちが力を貸してくれた。子供たちに楽しんでもらうためにワークショップやったりね。西成も変わってきたと思いますよ。確実に町もきれいになってきたし。そもそも、曲作りもまちづくりも一緒だと思ってて」
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――たとえば、どういうところですか?
 「言うたら、何もないところから料理を作るみたいなもん。もしくは、あるもんから何かを作る。それを街のためにやるかどうか。やってみてわかったのは、まちづくりは人作りということなんですよ。街を構成するものはそこに住んでる人、訪れる人であって、彼らに納得してもらうためには何をすべきか考えなければいけない。完全に理解してもらわないまでも、どうやったら受け入れてもらえるか」
――まちづくりのプロジェクトをやるにしても、地元のじいちゃんばあちゃんたちに受け入れてもらえないとどうにもならない、と。
 「昔から特に、あいりん地区はどんな環境でも、どんなこと言われようと、赤ちゃんからじいちゃんばあちゃんまで安心して暮らせる街やから。ずっと住んでる人たちにとって変化は必要ないし、だからこそ時間が止まっている。どんどん労働者の町から生活保護の福祉の町になってますからね。町の活力も衰えてるんです。でも、おっちゃんたちは“変わらんでいい”と言う。そういう人たちを何年もかけて説得していったんです。一般の人たちを説得するときの言葉とラッパーの言葉は違うから、勉強にもなりましたよね」
――前のアルバムとの違いはそこだと思うんですよね。ヒップホップどころか、音楽の世界とはまったく縁のないような人とも繰り返し交流を重ねてきた影響がひとつひとつの言葉に反映されている。
 「まったくその通りすね。ヒップホップの世界の常識なんて通用しないすもん。『さとにきたらええやん』の影響もあるんでしょうね。あの映画を通して、俺のことなんかまったく知らない人も喜んでくれたり」
――西成の日常を淡々と綴った「KILL西成BLUES」は「ILL西成BLUES」(2007年の1stアルバム『SPROUT』に収録)のオマージュとしても受け止められると思うんですけど、10年前の「ILL西成BLUES」ではSHINGOさんがどこから来たのか淡々と綴っているのに対し、今回の「KILL西成BLUES」は“なりふりかまわず生きていこうリアル!”という一節が入ることによって、曲の景色が一気に変わるような感覚があったんですよ。
 「こんな時代だからこそ、西成の膿を出していこう、みんな知ってるのに黙ってるやん、悪いことしてる人もいっぱいいるやん。でも、それ以上のことはするなよ!――そういう部分も提示したかったんですよね。だから、西成の悪い部分も言う覚悟ができた。今回のアルバムは“覚悟”と“居場所”、それがテーマ。居場所のある人はまだ救われてると思うんです。自分の居場所がないと感じてる人にとって、このアルバムが居場所になったらいいな。また、聴いていて心地よくなったり背筋が伸びたりしたらいいなと思ってて」
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――SHINGOさんにとって西成は今も“居場所”ですか。
 「そうすね。西成にもいろんな問題があるけど、一方ではなんだかんだいってポテンシャルのあるところなんすよ。やっぱり、人間くさくて人情深い。人との出会いを求めてる人だったら、絶対におもしろいところだと思うし」
――そういうSHINGOさんならではのストーリーテリングが光る楽曲があれば、「ひらきなおる」や「Fuck You, Thank You ほな、さいなら」などにはSHINGOさんの怒りや葛藤も滲んでるように感じました。
 「そこは前から変わらないんですけどね。ただ、前のアルバム以降で出会いや別れがあって、いろいろ経験をしたからこそ、こういう葛藤もさらに出せるようになったとは思う。より鮮明になったというか……格好つけても仕方ないんですよ(笑)。好きなようにやらせてもらえてる現状には感謝してるし、だからこそやりたいようにやらせてもらいました。等身大、自然体で自由にやろうと」
――だからなのか、曲調の幅も広いですよね。
 「そうすね。……どの曲が一番好きでした?」
――僕は「あんた」ですね。SHINGOさんの言葉と声は、こういうメロウで泣ける曲調とすごくマッチしてると思うんですよ。それこそ上田正樹の「悲しい色やね」的世界観というか(笑)。
 「ホンマですか。この曲は夢を追いかけている男に惚れてしまった幸の薄い女をテーマにしてて、それこそ“テレサ・テンゴ西成”な(笑)。そういう世界の真似はできるけど、ただの真似だったら失礼になるし、この曲はなかなかできなかった。それで〈ひらきなおり〉という曲ができたんですけど(笑)」
――なるほどね(笑)。
 「なかなか言葉がチョイスできないんですよ。できた!と思っても次の日になると全然ダメで。そういう弱さ・不足を知ったことで自分にも喝を入れるし、悔しさも感じた。この年齢になったからこそ感じるようになったのかもしれないですけどね。ラップ始めたばかりの18のヤツが“ひらきなおり”なんてラップしても早いわ!って感じじゃないすか(笑)」
――ラストのタイトル曲「ここから・・・いまから」もSHINGOさんらしい優しさの滲む曲ですよね。“自分たちのまちは自分たちでつくる / まちをキレイに ココロをキレイに”というラインは西成ウォールアートニッポンで描かれた言葉でもあって。
 「本当は(西成ウォールアートニッポンの)お披露目のときに発表できたらよかったんですけどね。それができなくて、今回ようやくお披露目になった。待たせたみんなゴメンやでホンマ」
――この曲や「エエやん」のなかには“好きなことやっていいんだって”“やりたいようにやったらええやん”というリリックもありますが、このメッセージってかつてSHINGOさんが西成のおじちゃん・おばちゃんから学んだことでもあるわけですよね。
 「そうすね、自分の基礎はやっぱり近所のおじちゃん・おばちゃんが教えてくれたことですからね。おじちゃんたちが教えてくれた言葉を、子供たちに自然に伝えている。オレのガキの頃の口癖って“どうせオレなんか”だったんですよ。他の町に行ったら“西成は汚い”って言われて……だから、昔のオレみたいな子供の後押しをしたいんです。若い子にバイトを紹介したりね」
――そんなこともやってるんですか。
 「そいつがバイトを勝手に休んだら、オレのとこに電話かかってくるんですけどね(笑)」
――SHINGOさんはライヴなどで日本各地も回ってるわけですが、各地の現状を見て何か感じることってあります?
 「各地にいる本気で夢追っかけてる不器用なヒトに光が当たったりチャンスきたらエエなあ思います。そういう熱いヒトからパワーもらってオレの未熟さからのジェラシーな気持ちも出て、さらにやる気にしてくれる。あと自己表現がオレなみにヘタなヒトも多いというか。格好つけるときは思いっきり格好つけて楽しめ!中途半端はアカン。格好つけたあと、たまには母ちゃんにみたらし団子を買ってかったりしぃや!と」
――わはは、小さな親孝行(笑)。
 「そうそう、基本的にそんなレヴェルなんですよ、俺が言いたいのは。命令じゃなくて、生き方の提案というかね」
取材・文 / 大石 始(2017年4月)
写真 / 久保田千史
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