じつはこのコラムは12月25日発売の雑誌版『CDジャーナル2024冬号』用として執筆依頼されたものである。編集長から「『コワすぎ!』を紹介するコラムを書いてほしい、しめきりは明日で」とわけのわからない発注をされて、自分も好きなシリーズだったので、喜び勇んで書いたところ「すみません。内容はばっちりなんですが、ページの関係でコラムを掲載できなくなったので、Webに掲載させてください」という返事だった。なんなんだ、その雑な発注の仕方は。ふざけるなコラァー!(工藤)
というわけで、『CDジャーナル2024冬号』にシリーズ完結作『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』ソフト化記念として、白石晃士監督×大迫茂生さん×久保山智夏さんのインタビュー(聞き手は南波一海さん)が掲載されていますので、あわせて読んでいただけると幸いです。
『コワすぎ!』である。正式名は『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』。タイトルからわかるように、オカルトや都市伝説、妖怪などを主題にした本シリーズが、2023年9月に公開された映画『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』 で完結した。
本作は、視聴者から送られた不可思議なビデオ映像の謎を解明するべくディレクターの工藤仁(大迫茂生)、ADの市川実穂(久保山智夏)、カメラマンの田代正嗣(白石晃士)からなる取材スタッフが暴れまわる、フェイク・ドキュメンタリー・シリーズだ。
手持ちカメラでドキュメンタリー風に撮影されたリアルな演出。口裂け女やトイレの花子さん、コックリさんや蛇女といった伝統的なオカルトキャラに与えられた新解釈。登場するアイテムやキャラクターが互いに連関し、シリーズ終盤ですべての伏線が回収される壮大なストーリーが受けてじわじわと人気に火がついた。
シリーズ最大の魅力はディレクター工藤のキャラクターだ。短気で粗暴ですぐにキレるが怪異を目の当たりにすればビビり散らかしADに責任を押し付ける。取材対象者が口ごもれば怒鳴り散らし、同行者に妖怪が取り憑けば金属バットでぶちのめす。わざわざ協力をお願いして付いてきてもらった霊能者をちょっと信用できなくなったら罵倒し尽くすなど、なんともやりたい放題なキャラクターである。
正直、最初は面食らう。ところが、連作で構成される『コワすぎ!』サーガが進み、工藤の過去がわかってくるにつれ「工藤はこうでなくちゃ」と納得すること請け合いである。
張り巡らされた伏線がシリーズ終盤で一気に回収されるのもたまらない。特にシリーズも大詰めを迎える『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章』では、本シリーズとは無関係であるはずの白石晃士作品『オカルト』の主人公である江野祥平(宇野祥平)が重要な役割を果たす。あの日本の弱者男性のエキスをひとりに凝縮したようないでたちでありながら、志だけは無駄に高いあの江野くんである。彼が、窮地に陥った工藤、市川、田代の3人、ひいては全人類を救うことになる。『最終章』のクライマックスの別れのシーン、江野が田代に向かって放つセリフは白石作品ファンなら鳥肌モノだ。
脇を固める市川、田代両キャラクターも魅力的だ。暴力の権化のような工藤に対しても一歩も引かず渡り歩く女傑・市川。『最終章』で八面六臂の活躍を見せる田代も見逃せない。
オカルトファンも納得するガチのオカルトネタと過激な暴力、綿密に練られたストーリーと濃すぎるキャラクターたちが渾然一体となって生み出される笑い。 『コワすぎ!』シリーズを見ずに過ごしてしまうのは、あまりにももったいなさすぎ!である。
©2023「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」製作委員会
文/富岡蒼介
バナー写真/上西由華