ニュー・アルバム『テンポラリー・プレジャー』発売!ジェイムス・フォード インタビュー
シミアン・モバイル・ディスコ(Simian Mobile Disco/以下SMD)が堂々の帰還である。彼らが前作を発表した2007年当時、
ジャスティス、
デジタリズムらとともに牽引したクラブ・ミュージックとロックをまたにかけた次世代ダンス・ミュージックはシーンの新たなトレンドとなり、新時代的感性を持ったアーティストたちが次々と追随。新たな規範を作り上げてきた。あれから2年が経ち、SMDはよりディープなエレクトロニック・ミュージックを掘り下げつつ、ヴォーカル・ナンバーの魅力について研鑽を重ねていた。そして誕生したのが、この
『テンポラリー・プレジャー』である。そんな本作について、名プロデューサーとしても知られるジェイムス・フォードに話を聞いた。
――2007年にリリースされた前作『アタック・ディケイ・サステイン・リリース』は、当時クロスオーヴァーと呼ばれていたエクレクティックな音楽シーンにとって、重要な意味を持つ起爆剤的なアルバムだったかと思います。あらためて振り返って、あの当時に誕生したクロスオーバーな音楽が現在のポップ・ミュージックにもたらしたものは、何だったと述懐されていますか? ジェイムス・フォード(以下同) 「僕たちもそうだけど、クロスオーヴァーな感性を持った最近のバンドは、ひとつの音楽ジャンルには分けられないし、分けられたくもないという風に考えていたよね? そういう志向性が台頭してきたお陰で、今のリスナーはジャンルを意識しない存在になっていった。むやみに区別する意識が希薄化したことは、いいことだと思うよ」
――最新アルバム『テンポラリー・プレジャー』は、前作よりテクノやエレクトロの成分が濃くなり、よりディープになった印象を受けました。
「君の言うとおり、このアルバムの制作期間はかなりディープなテクノやエレクトロを聴いていたからね。その影響はけっこう出ているかもしれない。たとえば、“Boder Community”周辺の作品とか、コズミックなテイストのディスコ・ミュージックとかを聴いていたよ」
――今回のアルバムが前作と決定的に違うのは、豪華なヴォーカリストが大勢参加した歌モノのアルバムだという部分だと思います。ここまで歌にこだわった理由は何だったのでしょうか?
「僕たちは今エレクトロニック・ミュージックに傾倒しているから、サウンド的にトラック主体のものになりがちなんだ。だけど、そこにさまざまな歌の要素を入れることによって、分かりやすいポップ・ミュージックにすることができると考えたんだ」
「僕たちが決めたというより、インストのトラックができた段階で、その曲が求める歌の要素を自然と当てはめていったら、今回のような形になったんだ。もちろん、僕たちが知っている、もしくはフェスティバルで一緒だったり、僕たちが過去にプロデュースしたことがあるアーティストたちに限定されたわけだけどね。その中でも、実際に僕たちが曲を送って、その曲にヴォーカルを入れたデモを送り返してもらい、そのデモが良かった人に今回は集まってもらったんだよ」
――僕は中でも、ベス・ディットーの意外にもソウルフルな歌声と、ジェイミー・リデルの素晴らしいヴォーカリゼーションに感動したんです。
「今回はどのシンガーにも、普段なら決して歌わないようなナンバーに挑戦してもらっているんだよ。普段やっている音楽活動とは少し違う、休暇のような感じで取り組んでほしかったからね。ベスに関しても、意図的にソウルフルな歌声を引き出すような楽曲を渡していたんだ。ジェイミーに関しては、彼が昔
クリスチャン・ヴォーゲルとやっていた
スーパー・コライダーというユニットが僕は大好きだったから、逆に現在のソウルフルな歌い方ではなく、その当時にやっていたスタイルで歌ってほしい、というリクエストを出したんだよ」
――『テンポラリー・プレジャー』(一時的な快楽)というタイトルに込めた意味は?
「クラブ・カルチャーの快楽主義的な側面を意味したものさ。ネガティヴに捉えられそうだけど、それだけ早く進化しているということでもあると思う。それって、ポップ・ミュージックとしては健全なことだと思うんだ」
――あなたはクラクソンズやアークティック・モンキーズといったロック・バンドのプロデューサーも務めながら、自身のSMDとしての活動も活発に行なっていますが、両者の活動に明確な線引きはされているのでしょうか? 「もちろん、僕がプロデュースを手掛けるバンドとSMDでは、関わっているスタッフや制作環境まですべてが違うわけだから、別物であることは間違いないわけだけど、影響を与えあっていないかというと、嘘になるような気もする。いろいろなバンドやアーティストのプロデュースを手掛けていると、自分の中でもさまざまな発見があるんだよ。つまり音楽的に引き出しが増えたり、幅が広がるという意味だね。そういう部分は、きっとこのアルバムにも生かされている部分だね。そうやって得られた刺激をしっかりとアウトプットできるということは、音楽家としてすごく健康的だと思うよ(笑)」
取材・文/冨田明宏(2009年7月)
※8月19日発売
『テンポラリー・プレジャー』
(HSE-70063 税込2,490円)
[収録曲]
01. クリーム・ドリーム
(feat.グリフ・リース)
02.
オーダシティ・オブ・ヒュージ(feat.クリス・キーティング)
03.
10000 ホーセズ・キャント・ビー・ロング04. クルエル・インテンションズ
(feat.ベス・ディットー)
05. オフ・ザ・マップ
(feat.ジェイミー・リデル)
06.
シンセサイズ07. バッド・ブラッド
(feat.アレクシス・テイラー)
08. ターン・アップ・ザ・ダイアル
(feat.ヤング・ファザーズ)
09. アンビュランス
10. ピンボール
(feat.テレパシー)
11. フリー・イン・ユアー・イヤー
12. ババガヌージュ
13. ドゥ・ノット・エクシード・ステイテッド・ドーズ
14. シンセサイズ(ザ・ロウブロウズ・リミックス)
■Column
グリフ・リース、ベス・ディットーら豪華ゲスト・ヴォーカルと
その聴きどころをチェック!
文/冨田明宏
グリフ・リース(スーパー・ファーリー・アニマルズ)
01. 「クリーム・ドリーム」
ドリーミィでファンタジックな世界観を持つエレクトロ・ポップに、あのグリフ・リースがヴォーカルを乗せた注目曲。その歌声がどこかレトロ・フューチャーな魅力を楽曲に喚起し、シンプルな構成ながら懐かしさのある遊び心にあふれた一曲に。
Profile:英国ウェールズはカーディフ出身の5人組、スーパー・ファーリー・アニマルズのヴォーカル、ギターを担当。バンドは93年に結成、95年、アラン・マッギーに見出されクリエイションと契約。96年のデビュー・アルバム『ファジー・ロジック』がいきなり絶賛され、以降コンスタントにアルバムを発表。予測のつかないサウンド展開とビーチ・ボーイズとテクノが同居したようなねじれたポップ・センスを持った楽曲で、UK音楽シーンに確固たる地位を築いている。 最新作は、今年6月に発表されたアルバム『ダーク・デイズ/ライト・イヤーズ 』(写真)。
■WARNER MUSIC JAPAN公式サイト
http://www.wmg.jp/artist/superfurryanimals/ ベス・ディットー(ザ・ゴシップ)
04. 「クルエル・インテンションズ」
プリズムのようなビートがクールなディスコ・ポップ・サウンドに合わせてソウルフルなヴォーカルを聴かせるのは、あのザ・ゴシップのベス・ディットー! まるでR&Bディーバのごとくセクシーに歌い上げるそのスタイルは、驚嘆に値する素晴らしさだ。
Profile:99年、米アーカンソー州シアシーで結成された3人組、ザ・ゴシップのヴォーカリスト。2005年のアルバム『スタンディング・イン・ザ・ウェイ・オブ・コントロール』の大ヒットで世界的な人気に火が着く。ベスはレズビアン/フェミニストであることを公言、またヌードで英『NME』誌の表紙を飾ったりといった姿勢でシーンに一石を投じている。2007年、ソニーとの契約を発表、リック・ルービンのプロデュースによるライヴ・アルバム『LIVE IN LIVERPOOL』でメジャー・デビュー。2009年6月、最新スタジオ・アルバム『Music For Men』(写真)を発表した(日本発売未定)。
■Sony Music公式サイト
http://www.sonymusic.co.jp/Music/International/Arch/SR/thegossip/ ジェイミー・リデル
05. 「オフ・ザ・マップ」
今ではR&B〜ソウル・シンガーとしての新しいキャリアに注目が集まるジェイミーだが、この曲は彼がその昔、スーパーコライダーなどで志向していたミニマルなサウンドやヴォーカリゼイションを想起させるエレクトロ・ソウルに仕上がっている。
Profile:10年にわたる実験的活動によりアンダーグラウンド・テクノ界で話題を集めていたが、クリスチャン・ヴォーゲルとのユニット、スーパー・コライダーとして活動を開始すると、圧倒的なヴォーカルとソウル・ミュージックの才能を開花。2000年にソロ作『Mudlin' Gear』を発表、すべて声でトラックを作りソウルフルなボーカルを乗せるというスタイルで注目を浴びる。エルトン・ジョンがUSスタジアム・ツアーのオープニングに抜擢、BECKのレコーディングやワールド・ツアーに参加するなど、各方面で高い評価を獲得。最新作は、昨年発表されたR&B/ソウル/ファンク・アルバム『Jim』(写真)。
■BeatInk情報サイト
http://www.beatink.com/br/brc194/index.html アレクシス・テイラー(ホット・チップ)
07. 「バッド・ブラッド」
トライバルなエレクトロ・ビートとエキゾチックな音階が扇情的な色香を漂わせるこの楽曲には、アレクシス・テイラーが品のある繊細なヴォーカルをトッピング。ストリート感を漂わせるリズムながら、不思議と洗練された手触りに仕上がっている。
Profile:2001年にデビュー、英ロンドンを拠点に活動する5人組ダンス・ポップ・バンド、ホット・チップのヴォーカリスト。バンドはビーチ・ボーイズからクラフトワーク、エイフェックス・ツインなどに影響を受けたという、実験的かつ美しいメロディと奇抜で独特、ローファイな音作りが特徴。キーボード4台とドラム・マシンを駆使する独特の編成とライヴ・パフォーマンス、また先鋭的なサウンドと正反対のルックスも話題に。2ndアルバム『ザ・ワーニング』でマーキュリー・プライズにノミネート。最新作は、昨年発表された3rdアルバム『メイド・イン・ザ・ダーク』(写真)。
■EMI MUSIC JAPAN公式サイト
http://www.emimusic.jp/artist/hotchip/ テレパシー
10. 「ピンボール」
アグレッシヴで攻撃的なSMD流のジャングル〜ダブステップ・ナンバーに、NYシーン期待の新人テレパシーのアンニュイでパンクなヴォーカルの掛け合いをプラス。まるでアリ・アップを思わせるような、力強くフェミニンな歌声が最高にクールだ。
Profile:2004年、米ニューヨークはブルックリンにて結成された、メリッサ・リバウダス(ヴォーカル、キーボード、プログラミング)とビジー・ギャングニス(ヴォーカル、ドラム、キーボード)による女性デュオ。今年1月、TV オン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックのプロデュースによるアルバム『ダンス・マザー』(写真)でデビュー。独特なヴォーカルとメロディ、覚醒的なリズム、そして8ビット調シンセ・ビートを多用したエレクトロなスタイルを聴かせる。DIY精神に基づく彼女たちの音楽はある意味でパンクの進化形の一種類とも言われ注目を集めている。
■MySpace
http://www.myspace.com/telepathe クリス・キーティング(イェイセイヤー)
02.
「オーダシティ・オブ・ヒュージ」 超王道のニューウェイヴ・テクノ・ポップ、しかもシンセ使いやパーカッシヴなビート感がこれまた懐かしさをまとったナンバーだが、クリス・キーティングは鋭角的で艶のあるヴォーカルを重ね、歯応えのあるディスコ・ナンバーに昇華している。
Profile:2006年結成、米ニューヨークのブルックリンを拠点とするエクスペリメンタル・ロック・バンド、イェイセイヤーの中心人物。2007年のサウス・バイ・サウスウェストに出演、確かな技術と圧倒的センスを感じさせるパフォーマンスで話題を集める。トリップ感あふれる映像を駆使したステージや、中東の音楽を取り入れゆったりとトランス状態にさせるサウンドなど、サイケデリックな感覚も魅力。話題のコンピレーション『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』に収録された「Tightrope」が大ヒット。最新作は、2007年発表のデビュー・アルバム『All Hour Cymbals』(写真)。
■MySpace
http://www.yeasayer.net/ Young Fathers
08. 「ターン・アップ・ザ・ダイアル」
ゲットーベースを大胆にフィーチャーし、グライムにも近接するダーティなグルーヴ感が異彩を放つ楽曲に仕上がっている。ファンクなラップを聴かせるのはヤング・ファザーズで、破天荒でエネルギッシュなヴォーカルを全面的に押し出した。
Profile:英スコットランド・エディンバラ出身、全員20歳のAli、Graham、Kayusからなるヒップホップ・トリオ。2003年ごろ、エディンバラの〈アンダー18ヒップホップ・ナイト〉で出会いレコーディングを開始。2007年ごろ“Young Fathers”となる。現代的なミニマル・エレクトロ・サウンドとオールド・スクールなパーティ感をあわせ持つサウンドを聴かせ、英『NME』誌の“The Hottest New Bands Of 2009”に選ばれるなど、今最も注目を集めるヒップホップ・アクトの一つ。
■MySpace
http://www.myspace.com/youngfathers