やらなくていいんだったら、やりませんよ――相対性理論『天声ジングル』やくしまるえつこの見解

相対性理論   2016/07/27掲載
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真意。
文 / 松村正人
 ビート・ミュージックとはエレクトロニックなダンス・ミュージックをEDMと呼び習わすのと同じで、ビートがある音楽の総称だとするとなにもいっていないにひとしい。音楽にはビートがつきものだし、ビートは時間ではなく空間の分割なのだとしたら、空間があればそこにビートは存在し、空間がなければ音楽は鳴らないのだから、音楽にはすべからくビートの影がともない、沈黙の空間にさえも音楽が、いいかえれば、不在のビートが潜んでいる、とケージなら禅問答さながらの返答をしないともかぎらない。つまりビート・ミュージックは形式ではなく、リズム自体ないしリズムの差異が形式を異化する状態を指すのであり、フライング・ロータスであろうがマーク・ジュリアナであろうがジャンルは問わない、というよりむしろ、ビートの原理でつながる音楽のネットワークと見るべきではないか。
 相対性理論にとって見逃さない手はなかった。というと、あたかも彼らが機を見るに敏なはしっこいひとたちだといっているようだが、相対性理論にとって引用はひとつのマナーであり――とやくしまるえつこは以下のインタビューで語っている――、すべてがそこに集約されるのではない、とはいえ、またしても彼女の発言にならえば、プレイヤーの、まさに演奏者としての存在にフィルターをかけないことからくる身体の前景化が『天声ジングル』の強度を担っている。ベースとドラムはかつてないほど黒々とグルーヴし、各種打楽器はもとよりギターとビート・プログラミングまでががっちり噛み合っている。アンサンブルの密度の高まりに昔日の相対性理論の余白を懐かしむ向きには永井聖一のギター・ワークがその核心だったことを想起させるだろう。そのなかにあって、やくしまるえつこの浮動するシニフィアンとしての声 / 歌はビートににじりよる。音楽誌でこんなことを書くのもアホのようだが、洋楽的なのである。英詞のリフレインやスラングが耳に残る。私の知っている悪そなヤツならたいがい、ワックと謗られようものなら、やおら気色ばみビーフに突入するはずだが、やくしまるえつこに「正気じゃない / ワックだわ」(「FLASHBACK」)と歌われるとそうなるどころか胸がキュンと高鳴ったのは私がワックだからか。ツンデレのツンに条件反射したのか。そうかもしれないがそれだけではない。声と抑揚、それらを綜合した表現力が歌詞の描く世界におけるキャラクターを動かすことで、これまで相対性理論の音楽はある側面では消費され、またそれを促してもきた。本作ではそれがあきらかに音楽に従属している。いまの世の中でそのようなかまえをとるのはことのほかむずかしい。だれもが音楽などそっちのけだからだ。主体に剰余が勝り主従が顛倒する、相対性理論もまたそのような世界の産湯に浸かった方々だったが、その世界の内にありながらそれを外化しつづけてきたのは、このアルバムで極まったやくしまるえつこの言葉が雄弁に物語っている。というより、2年9ヵ月ぶりの5作目『天声ジングル』は相対性理論の真意を遡及的にあきらかにする、ファンならずとも天啓とすべき一枚である。
やくしまるえつこ インタビュー
 天啓を受けたとき、ひとはこんな顔をするのだろう。完パケた『天声ジングル』を手渡されたとき、思わずギョッとしたのは、まわりを縁どるマレーヴィチの正方形のような黒帯が中央の鉛筆画のはりつめた表情に視点を誘ったからだ。天と地に“NEW WORLD!”の文字。しかも『天声ジングル』のレコード盤には黒ガムテまで手貼りしてある。まるで南海ホークウインドなみの手のこみようではないか。いわれてみれば、ブックレットの3見開き目のイラストはほぶらきんを思わせる。以下のインタビューでやくしまるえつこにそれを質していないのは私が分別ある大人だからではなく、告白すると、大人のくせにいささかフワフワしていたのでした。彼女とは知遇を得て7年だが、音楽についてこのようなかたちで面と向かって話したのははじめてである。スペシャルであることにみなさん異論はあるまい。相対性理論の中心人物、やくしまるえつこのナマのことばをお届けしよう。
――『天声ジングル』の録音をはじめたのは昨年暮れでしたが、曲作りはいつはじめたんですか。
 「〈弁天様はスピリチュア〉が最初で2014年の6月あたり、いまが2016年ですよね」
――あの曲は閉館直前の吉祥寺のバウスシアターでもとになったヴァージョンを録ったのでしたね。そのときにはもうアルバム作りにはいるつもりだった。
 「そうですね。〈ウルトラソーダ〉も曲自体もっと前からありました。でも同じくらいにできたかもしれない」
――しだいに曲がたまっていったということですね。
 「曲作りはつねにやっています。〈ソーダ〉も〈夏至〉もライヴではすでにやっていましたが、ほかにもライヴでやっているのに今回のアルバムにはいっていない曲も少なくありません」
――必要に迫られて曲をつくりはじめるのではなく、習い性としてやっている?
 「楽曲提供とか、計画が先にあるパターンもあります。でも単純に“破片”を作ることはふだんからやります」
――断片。
 「そう。いきなり全部ズルッとできてしまうことも多いです」
――断片なり曲全体なりができる経緯を教えてください。
 「詞と曲はだいたいほとんど同じなので、思いついた時点で詞を書きさえすれば一曲になります。その時点で曲調はだいたい脳に定着されているので、どう曲ができるかといえば、詞を書き留めることにつきます。それを時間があるときにProToolsを使って人に聴かせられる状態にもっていきます。楽曲提供の仕事では歌詞や曲どちらかだけを書くこともありますが、制限があるのはそれはそれで違うゲームみたいで楽しいです」
――この取材に先立つ押切蓮介さんとの対談で、相対性理論もソロもほかのプロジェクトも、いうなればペン先が違うようなものだとおっしゃっていましたが、逆にいえば、創作の大元のかまえは変わらないということですか。
 「なにをもって大元かというのにもよりますが、どのペンを使って書こうかという前提も大元になりうるんです。これはどういうギターがほしいとか、こういうリズムパターンにしたいとか、誰にやらせたいとか。そういうのがある時点で、どのペン先を使うかと意識した時点でもしかしたら違うのかもしれない。そういう差異の集積で結果的に見え方が変わるっていうことなので、それが大きく違って見えるものに関しては名義を変えてあげている」
――楽曲の構想とプロデュース的な視点は厳密には違うと思うのですが、やくしまるさんの場合同じことなんですか。
 「違うという意識はあまりないですね。曲を作るときもアルバムを作るときも全体をみます。だからこそ、アルバム制作では既存の曲でもはいらない曲が結構できてきますが、昔のアルバムからそうですね」
――私は『天声ジングル』で相対性理論はけっこう変わったと思いました。
 「音はもちろん変わったと思います。でもやり方が変わったかといえばそれはどうかな。ただ、いわゆるバンド・アンサンブルを聴かせたいというのはありました。プレイヤーを見ていても、それができるタイミングだったし、それならやったほうがおいしいなと」
――現在のラインナップに固まって4年、経験を積み上げたということですね。
 「おのおのが自分が相対性理論のなかでなにをすべきか、わかってきたというのもあったし、それによってそういった音を出しやすくなったのだとも思います。なにをすべきかさえわかれば、出てくる音も的確になります」
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Drawing ©2016 Yakushimaru Etsuko
――とはいえ、アンサンブルの面でも今回は変わりましたよね。イトケンさんは今回ドラムをほとんど叩いていませんね。
 「パーツでパーカッションを録った曲はありますけど、セットで叩いた曲はないですね。わかりますか?」
――わかります。私はドラマーの山口(元輝)くんをこんなとき(といって、手で背の高さを説明する)から知っていますから。
 「ソワソワしちゃいました?」
――そうですね、録音済みの音源なのにね。たとえば、『TOWN AGE』だと「上海an」はイトケンさんだったと思うんですが。
 「そうです。あれはまさに“この曲はイトケンさんだね”ということでやってもらった曲です」
――つまり『天声ジングル』では「上海an」のようなリズムのタイトさよりグルーヴを重視したことになりますね。
 「山口さんは自分のなかから出てくるようなビートにはすごくノリを出してくれるんですが、それこそ〈上海an〉みたいな曲を叩いてといったときには、まずそれを自分の身体になじませなければならない。逆にいうとイトケンさんは譜面があれば、譜面のとおりに叩くけど、山口さんはグルーヴで叩くので譜面があればということではないんです。『天声ジングル』ではビートの時点からちゃんと話して、具体的なイメージを共有しつつ、全曲彼に叩いてもらいました」
――グルーヴ重視に舵を切ったのはどのような心境の変化ですか。
 「楽曲の強度というものが、いま必要なタイミングだなって」
――相対性理論はポップという意味ではこれまでも強度のある曲を出しつづけてきたと思いますが、今回はその意味での強度ではなかったということですか。
 「説得力ですね。たとえば、そのプレイヤーが発するその一音であるべきという意味を含めて、相対性理論はいってしまえば、これを伝えるのは難しいですが、音がありさえすれば基本的にだれでもいいと思っているんですけど、逆説的に、この音はもう絶対にこうしかありえないね、このひとが出すこの音だよね、というアルバムを一回出してもいいかなと思ったんです。音ありきというには音に説得力がなければと思うので」
――やくしまるさんはティカ・αとして全曲を作詞作曲していますが、今回はアテ書きみたいなものだったということですね。
 「ソロの場合のプレイヤーは、こういう音がほしいからあのひとだという書き方なんですが、今回はメンバーが先にいて、そのひとたち用にという前提は大きいです」
――全体的に打ち込みの比重が高まりましたね。
 「はい」
――編曲の方向性はどの時点で決めましたか。
 「曲を作る段階で構想はできていて、今回はだいたいの曲がデモからほとんど変えていません。アレンジにかんしては録音にはいるまえにつめてしまうので、レコーディング中に大きな方向性の変化が起きることはあまりないです。その段階でこの曲は打ち込みだろうなというのがあったら、そのことを改めていわずともバンドで音を出すさいには、ここは打ち込みのままだよね、と共有できていました」
――最後に仕上がったのはどの曲ですか。
 「〈FLASHBACK〉ですね。最後の曲。最後の曲はあえて前もってつくらないことがけっこう多いです。全体のできあがりを見て、それを異化するものを最後に作る、だからレコーディング中に作ることも多いです」
――『TOWN AGE』の「たまたまニュータウン」も。
 「そうやってつくりました」
――「FLASHBACK」には黒沢 清監督のMVがありますね。
 「すばらしかったです」
――あの曲もすばらしいですね。というか、全曲いいですけどね。
 「ホントですか?」
――私は常に本当のことしか言いません。それをどう捉えるかはやくしまるさんの問題ですよ。
 「いや、演出の問題ですよ」
――まさにニューワールド、掛け値なしにすばらしいと思います。曲順を決めたのもやくしまるさん?
 「そうです。もちろんみんなにも諮りますよ、こうしようと思っていますって」
――「弁天」の後奏にはいっているのはレコード盤のスクラッチ・ノイズですよね。
 「あれはそうですね」
――レコードを聴きながら、ああこれはレコードのノイズを模した音だと気づいたんですが、この曲は最初にアレンジも含めてできたんですよね。だとしたら、この曲をちょうど中盤にもっていく構想がごく初期に存在したことになりますね。アルバムの全体像はどの時点で存在したのか気になりました。
 「〈弁天様〉は基本的には終わりの曲ではなくて、あのノイズありきで次の曲がはじまるイメージだったんです。終わってもまたはじまってしまうという。レコードでわざとA面の最後に来るようにはしましたが、インタールードというか、幕間を感じさせたいという意図は最初からありました。わかりやすくインタールードにあたる曲は入れてないですけどね。それぞれの曲が全部“穴”で、ワームホールのようにいろんなところに繋がっているというか、通ってしまえば繋がってしまうけど、じっさいは穴を通っている、そういった意識はありました。わかりにくいですか?」
――めっそうもございません。アルバムの構造とは別に今回のアルバムには死生観、神や天といった大テーマが潜んでいると思いました。
 「神さまって見る人によって姿が違うじゃないですか」
――やくしまるさんは神さまはどのように見えていますか。
 「自分以外に思いつかないです」
――それはイエスと同じですね。彼は彼自身が神ではないですか。
 「神の子ですけどね、トリニティですね」
――神でありひとの子でもあるわけです。やくしまるさんはイエスをどう思われますか。
 「お話ししてみたいですね。たいへんな思いをされたでしょうから」
――そういうようなことを曲のモチーフにすることはありますよね、きっと。
 「ありますよ、聖書はおもしろいですもん」
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Drawing ©2016 Yakushimaru Etsuko
――今回のアルバムを作るにあたり、音楽にかぎらず参照されたものがあれば教えてください。
 「土佐(有明)さんにお寄せいただいたコメントにもありましたが、マーク・ジュリアナとかその手のビートものの音楽はもちろん……(といってしばし押し黙る)」
――好き?
 「好きって言葉にするのが恥ずかしいんです」
――みらいレコーズの守屋さんによれば、相対性理論のライヴ・シリーズに、以前やくしまるさんはカニエ(ウェスト)ケンドリック・ラマーを呼びたいとおっしゃったそうですね。
 「黒人音楽が好きなんです。なぜ、自分は黒人じゃないんだろうって思います」
――その理由はわかりませんが、ブラック・ミュージックに限定すると、やくしまるさんはどのような音楽が好きですか。
 「ヒップホップもサン・ラーも好きだし、ゴスペルも好き」
――ゴスペルのようなエモーショナルな音楽はやくしまるさんのイメージにそぐわない気がしますが。
 「そうでしょうね。だって、身体が違いすぎるからああいった鳴り方はしませんもの」
――ゴスペルはまだしも、ビート・ミュージックや黒人音楽の影響が『天声ジングル』では直截的にあらわれるに任せたというわけですか。
 「そういった引用めいたことは積極的にやってきましたからね。それはいままでと変わらないです。それにどうやったってマーク・ジュリアナのようには叩けませんから。プレイヤーは自分でもないし、マーク・ジュリアナでもない、ただそのとき発生するズレには興味ありますね。マーク・ジュリアナがいかに超絶的な機械的なことをやっていても機械にはなりえないわけで、なにが違うのか、その部分に惹かれることはあります」
――演奏者だけではなく、ご自分が歌う場合にもそれはあてはまりますか。
 「あてはまりますし、そのズレをよしとすることはあります。自分が思いもしないときにその場がザワつくことがあって、そういうこともあるのかと思って、そのテイクを採用することもありますね」
――とはいえ、レコーディングに即興的な要素が入り込む余地は相対性理論にはあまりなさそうですね。
 「相対性理論の場合、そもそも永井(聖一)くんとか吉田(匡)くんは考えて弾くタイプですからなかなか難しいですが、あえてレコーディング中に違うことをやってみて、と即興性をこちらから求めることはあります。デモの時点でこういう雰囲気というのは入れてはいますが、それは彼(ら)が演奏するとこういう雰囲気になるだろうという感覚でつくっていて、むしろそういった土台があればこそのびのびと演奏してもらえるタイプでもあると思いますので」
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Drawing ©2016 Yakushimaru Etsuko
――やくしまるさんは作曲と即興、どちらがお好きですか。
 「よく訊かれるんですけど、よくわからないんです、好きという感覚が。どちらが楽しいかといえば、気分によるし、いま即興のことを想像してワクワクしたけど、かといってふつうに曲を作ることを想像してもゾクゾクするし、どっちもダルいっちゃあダルい」
――レコーディングが終わったのは2月末でしたね。マスタリングが延びたとはうかがいましたが。マスタリングはテッド・ジェンセンですね。
 「『TOWN AGE』でも彼は候補のひとりだったのですが、スケジュールの都合で実現しなくて、ソロの〈X次元へようこそ〉で組むことができて、すごく相性がいいことがわかったんです。なので前々から相対性理論でもやってみたいと思っていて、今回のアルバムの構想が見えたときにやはりお願いしようと思いました。分離がすごくいいけど、きれいすぎないんです」
――ダイナミックレンジが広いですよね。
 「音量は詰め込まないんですが、ほかにない独特な音になるのがいいんです。歌心もあって。今回ミックスをやってもらったエンジニアの米津(裕二郎)がテッドに会う機会があって、使っている機材について訊いたら、ヤボだなおまえはって顔をされたといっていました。たしかに、これなにを使ってどうやっているのか、という音になるから、訊きたくなるのも仕方ないですけど、テッドや、あるいはジェフ(ミルズ)なんかも、素直な気持ちで音を動かすひとたちだから」
――ジェフと相対性理論はスプリット・シングル「スペクトル」(「ウルトラソーダ」収録)をつくりましたが、やくしまるさんはこれまで行なってきたコラボレーションは自らの音楽性に、どのようにフィードバックしていると思いますか。自己分析してみてください。
 「具体的にと言われると難しいですが」
――精神的にはどうですか。
 「姿勢は学ぶべきところばかりですよ。みなさんすごく自由で、自分に素直に音楽をやってるように思います。自分みたいにひとごとだと思ってやっているひとはそんなにいないですね」
――ひとごとというのは自意識の提示の仕方ということですよね。
 「そもそもなぜこのように提示するのかというのでは、卵が先か鶏が先かということでもあって、そのふたつは同時というか、あえて切り離そうと思っているわけではなくて、切り離されている状態が自然だという感覚です」
――それは音楽をはじめた当初から変わらない?
 「変わらないです」
――いまにいたって、やくしまるさんのなかで相対性理論が占める割合はほかと等価なのでしょうか。
 「等価ではありますが、ほかっていうのは?」
――ソロとか、ほかのユニットとか。
 「それでいうと、自分がやっているもののなかでもとくにずっと存在しているのが、相対性理論という人格なんです。ソロだとオーケストラ名義だったりソロ名義だったりエクスペリメント名義だったり、曲それぞれで人格を変えて、プロデュース・ワークだとひとそれぞれ。バラバラと点在しているんですね。でもこのひと(相対性理論)は継続的に存在している」
――そのあいだにも成長するわけですよね。
 「成長ね(同意とも不同意ともつかないぶっきらぼうな声音で)」
――そういうふうに運営していきたかった?
 「そうですね(この言葉に強制を置いて)。誰か代わりにやってくれないかなとも思いますけど」
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Drawing ©2016 Yakushimaru Etsuko
――とはいえ、キャラクターに同一性がないと人格が持続しているとはいいがたいですよね。
 「うーん、そうですね(不承不承)」
――人工知能が相対性理論の音楽を勝手に作るのだとしたら、やくしまるさんは願ったり叶ったりですね。
 「いいですね。でも人工知能に音楽をつくらせるのはけっこう難しいですよ。ぜんぜん歌心が出ないんです。節まわしもそうだし、作詞の能力にも難があります。けっこう難しいんですけど、それができるようになるんだったら、いちばんフラットに運営してくれそうな気はします」
――そうなったら身をひきますか?
 「(決然と)やらなくていいんだったら、やりませんよ」
――だとしても、やくしまるえつこがいない相対性理論は相対性理論ではないですよね。
 「そういいますよね(残念そう)。人工声帯という手もありますよ」
――ヴォーカリスト、といういい方が正しいかはわかりませんが、歌い手としても今回はいろんな試みをされていますよね。
 「(あっけらかんと)それはずっとやっていますけどね」
――そうなんですよ。私も旧作を聴き直して、いろんな歌い方をしてきたんだな、と感心しました。
 「ありがとうございます」
――いままではそれを隠し味的にやってきていたものが、今回はダイレクトになった、そういった側面はありませんか。
 「いろんな要因が考えられますね。昔からやってはいますが、当時はそういったところよりも、(相対性理論の)平坦なところに(リスナーの)耳がいきがちだったということもあると思います。『天声ジングル』の録音時には曲ごとにマイクとプリアンプとの組み合わせをいくつか試して本番で使用しました。ある曲にたいしてもっともよいであろうと考えられるマイクを選んでいることもあって、ヴォーカルが変化して聞こえるのもあると思います。組み合わせが何パターンかあって、同じ組み合わせはもちろんありますが、曲のタイプによって使いわけています。ヴォーカルがオケのなかにあるように聞こえるとか、ひとりでポンといるように聞こえるとか、冷たいとか温かいとか、マイクによってまったくちがってくるので」
――平坦な部分にたいする印象をもたれがちだったのを変えたかった?
 「変えたいというより、やっぱり楽曲の変化に対応したものなんです」
――となると話はふりだしに戻りますね。
 「そう。その意味では(相対性理論は)そもそもあまり変わっていないということになりますね」
取材・文 / 松村正人(2016年6月)
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KICM-1707 1,200円 + 税

[収録曲]
01. ニュームーンに恋して
02. Z女戦争
03. 革命はナイト&デイ
04. ニュームーンに恋して (off vocal ver.)
05. Z女戦争 (off vocal ver.)
06. 革命はナイト&デイ (off vocal ver.)

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