いまスパークスは最高にスパークしている。フジロックへの出演も記憶に新しいが、今年6月には21日間にわたって、過去のアルバムを作品ごとに毎晩ライヴで披露する無謀なコンサートを開催。その最終日に演奏されたのが新作『エキゾチック・クリーチャーズ・オブ・ザ・ディープ』だった。71年にデビューして以来、グラム〜パンク〜エレ・ポップ期などを経ながら、決してブレることのないポップ・センスを貫いてきたロンとラッセルのメール兄弟。今回の新作も最新モデルの新車みたいにピカピカ輝いてる。
「『リル・ベートーベン』から今回のアルバムまでの3作は、何の準備もしないでスタジオに入ったんだ。そうすることによって自分たちには予測ができない面白いサウンドが生まれるんじゃないかと思ってね。もちろん、試行錯誤の連続だけど、そのなかから予想外なものが生まれるスリルがほしくて、こういう方式をとったんだ」 (ロン)
そんな3作に共通するもののひとつが、兄ロンの手掛けた緻密なストリングス・アレンジ。それがアルバムにトリッキーなエレガントさを与えているが、さらに本作では、久し振りにファルセット・ボイスを復活させた弟ラッセルのコーラス・ワークも凝りに凝っている。
「1曲目の“Intro”では僕一人で50〜60トラックくらいコーラスを吹き込んだんだ。それはロンがキーボードでストリングスのパートを全部1人で重ねていく作業と似ていて、結果がどうなるかは終わるまでわからない。ただ、いい結果が出るように祈るだけさ。大人数のコーラス隊でパッとやれば、それですむことだけど、やっぱり自分たちだけでやるのが好きなんだよね」 (ラッセル)
インスピレーションに導かれながら、気が遠くなるような地道な作業に没頭する。そんな職人気質を悟られないように(?)、ウィットに富んだユニークな歌詞で装うのもスパークスの魅力だ。本作の収録曲にも、ガール・フレンドに妊娠させられた男や、“カット”と言わない監督など、ユニークなキャラクターが登場するが、なかには「マジになるなよ、モリッシー」なんてタイトルの曲も。
「あの曲は男と女の他愛のない話なんだけど、主人公の彼女はことあるごとに彼をモリッシーと比べるんだ。“モリッシーと比べたら、あんたなんかダメよ”みたいにね(笑)。実際モリッシーとは知り合いで、本人にも聴いてもらったんだけど、とても気に入ってくれたよ(笑)」 (ロン)
「僕らはロックやポップ・ミュージックが持つある種の限界みたいなものに苛立ちを覚えていて、あくまでもギター、ベース、ドラムっていうロックの基本のフォーマットは守りつつも、いろんな冒険を試みてきたんだ。その大きな理由は僕たちが飽きっぽいからかもね(笑)。それに常にファンの予想を裏切りたいと思ってる。ファンもそれを期待してるから、需要と供給のバランスが成り立っているんだよ」
そんなわけで、21作目にしてますますスパークスを極めた新作は、間違いなく彼らの新たな絶頂期を伝えるもの。ロック界の誇る“エキゾチック・クリーチャーズ”に寿命なんてないのだ。
取材・文/村尾泰郎(2008年7月)