ロック界の誇る“エキゾチック・クリーチャーズ”、スパークスが来日!

スパークス   2008/07/31掲載
はてなブックマークに追加
 キッチュでアーティスティック、ユニークでポップな独自のサウンドを披露してきた、兄のロン(key)と弟のラッセル(vo)、メール兄弟によるスパークス。「凄く特別な日になると思う」とラッセルが語っていた通り、まさしく伝説のライヴとなったフジロック'08出演のために再び来日。『ハロー・ヤング・ラヴァーズ』以来約2年ぶり、7月にリリースされた通算21枚目となるニュー・アルバム『エキゾチック・クリーチャーズ・オブ・ザ・ディープ』について語ってもらった。



 いまスパークスは最高にスパークしている。フジロックへの出演も記憶に新しいが、今年6月には21日間にわたって、過去のアルバムを作品ごとに毎晩ライヴで披露する無謀なコンサートを開催。その最終日に演奏されたのが新作『エキゾチック・クリーチャーズ・オブ・ザ・ディープ』だった。71年にデビューして以来、グラム〜パンク〜エレ・ポップ期などを経ながら、決してブレることのないポップ・センスを貫いてきたロンとラッセルのメール兄弟。今回の新作も最新モデルの新車みたいにピカピカ輝いてる。
 「『リル・ベートーベン』から今回のアルバムまでの3作は、何の準備もしないでスタジオに入ったんだ。そうすることによって自分たちには予測ができない面白いサウンドが生まれるんじゃないかと思ってね。もちろん、試行錯誤の連続だけど、そのなかから予想外なものが生まれるスリルがほしくて、こういう方式をとったんだ」 (ロン)


 そんな3作に共通するもののひとつが、兄ロンの手掛けた緻密なストリングス・アレンジ。それがアルバムにトリッキーなエレガントさを与えているが、さらに本作では、久し振りにファルセット・ボイスを復活させた弟ラッセルのコーラス・ワークも凝りに凝っている。
 「1曲目の“Intro”では僕一人で50〜60トラックくらいコーラスを吹き込んだんだ。それはロンがキーボードでストリングスのパートを全部1人で重ねていく作業と似ていて、結果がどうなるかは終わるまでわからない。ただ、いい結果が出るように祈るだけさ。大人数のコーラス隊でパッとやれば、それですむことだけど、やっぱり自分たちだけでやるのが好きなんだよね」 (ラッセル)

 インスピレーションに導かれながら、気が遠くなるような地道な作業に没頭する。そんな職人気質を悟られないように(?)、ウィットに富んだユニークな歌詞で装うのもスパークスの魅力だ。本作の収録曲にも、ガール・フレンドに妊娠させられた男や、“カット”と言わない監督など、ユニークなキャラクターが登場するが、なかには「マジになるなよ、モリッシー」なんてタイトルの曲も。
 「あの曲は男と女の他愛のない話なんだけど、主人公の彼女はことあるごとに彼をモリッシーと比べるんだ。“モリッシーと比べたら、あんたなんかダメよ”みたいにね(笑)。実際モリッシーとは知り合いで、本人にも聴いてもらったんだけど、とても気に入ってくれたよ(笑)」 (ロン)

 そりゃそうです。なんといっても、モリッシーはスパークスの熱烈なファン。彼の他にもソニック・ユースフランツ・フェルディナンドなど、スパークスを敬愛するバンドは後を絶たないが、その理由はロンのこんな言葉の中にあるのかもしれない。
 「僕らはロックやポップ・ミュージックが持つある種の限界みたいなものに苛立ちを覚えていて、あくまでもギター、ベース、ドラムっていうロックの基本のフォーマットは守りつつも、いろんな冒険を試みてきたんだ。その大きな理由は僕たちが飽きっぽいからかもね(笑)。それに常にファンの予想を裏切りたいと思ってる。ファンもそれを期待してるから、需要と供給のバランスが成り立っているんだよ」

 そんなわけで、21作目にしてますますスパークスを極めた新作は、間違いなく彼らの新たな絶頂期を伝えるもの。ロック界の誇る“エキゾチック・クリーチャーズ”に寿命なんてないのだ。



取材・文/村尾泰郎(2008年7月)
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015