「自分の物語をこれから作っていきたい」
新たな一歩を表現した1stアルバム『First Story』
デビュー以降も、表現者としての才能を磨き続けた
菅原紗由理。その最初の成果が、今年1月にリリースされた1stフル・アルバム
『First Story』だろう。このアルバムについて彼女自身は、「今までとは違った自分を表現したい」というテーマを掲げていたという。
「以前からひとつのジャンルにとらわれず幅広くいろんな表現をできるようになりたいと思っていたんですよね。それまでのシングルやミニ・アルバムでは、ミドル・テンポやバラード曲が多かったんですが、『First Story』では、それに加え、ハウスやジャズ、ロック調の楽曲にも初めて挑戦しました。なので、聴いてくれた方には、今までとは違った“菅原紗由理”を感じていただけたんじゃないかと思います。“First Story”というタイトルを付けたのは、歌で新しい自分のストーリー(物語)を、これから作っていきたい。伝えていきたい。と思ったことが理由。区切りというよりは、自分の新たな一歩だと感じています」
(菅原) フォーライフの後藤氏もまた、本作を「ここからが彼女のヴォーカリストとしての本当のスタート」と位置付けている。
「彼女の一番のウィーク・ポイントはアマチュア時代がないこと。1stアルバムでは、いろいろな楽曲にトライしながら彼女自身のスタンディング・ポジションを見つけていくことが重要でした。結果、アルバム一枚で多様なテイストを味わえる、バラエティに富んだアルバムに仕上がりましたね」(後藤氏)
もうひとつ強調しておきたいのは、彼女が作詞においても、10代特有の生き生きとした(同時に、ヒリヒリとした切実さを伴った)感性をじゅうぶんに発揮していること。別れと旅立ちが交差する季節を、力強さと叙情性を共存させた言葉で描き出した「桜のみち」、ブルージーな手触りをたたえたサウンドのなかで”恋の初期衝動”とでも呼ぶべき感情をまっすぐに歌上げた「恋」、“あなたはスーパースター☆”という愛らしいフレーズが印象的な「スーパースター☆」からは、彼女の作詞家としてのセンスが芽生えつつあることが伝わってくるはずだ。表現者としての成長ぶりは、プロデューサーのSinも次のように評価している。
「最近では、現場にもなれてきて、積極的に楽曲制作に参加するようになってきています。特に歌詞に関しては、明確に彼女の中で伝えたいことが見えてきたようです。この一年間で、表現力が比較にならないほど、ついてきてますね。“伝えよう”という気持ちが人一倍強い気がします」(Sin)
ニュー・シングル「素直になれなくて」で解かる
ヴォーカリゼイションのさらなる向上
アルバム・リリース後も彼女は、新しい進化を続けている。3月には
Miss Mondayのシングルにフィーチャリング・シンガーとして参加(
「さよなら feat.菅原紗由理」)。そして5月19日には待望のニュー・マキシシングル
「素直になれなくて」をリリース。作詞:中嶋ユキノ、作曲・アレンジ:Sinというデビュー以来、菅原紗由理のクリエイティヴを支えてきたソングライティング・チームによるこの曲は、J-POPとR&Bにおける絶妙のバランス感覚のうえに成り立ったミディアム・アップ・チューン。この曲の制作にあたって彼女は、まず“素直になる”ということについて深く考えてみたのだとか。
「スタッフのみなさんと“素直になる”ということについて話したんです。相手に対して何でも思ったことを口にする、ワガママになるってことが素直なのか、相手が言うことをなんでも聞き入れることが素直なのか。いろんな意見があったんですけど、結局、素直になることってことはひと言で表わすことが難しいんだなって思いましたね。私自身、“あなたは自分を素直だと思いますか?”と聞かれたら、全然素直じゃないと思うし、成長していくごとに素直になることの内容も変化していくんだと思うんですよね。また、家族に対してだったり、友人や恋人、仕事など、いろんな場面場面での素直もあると思う。今回の<素直になれなくて>は、特に“恋愛に対しての素直”ってことに挑戦してます。大好きな人に対して最初は“素直になれなくて”と歌っているんですが、このままじゃだめだ、と。素直になって好きな相手に自分の想いを伝えたい。そういう思いから、最終的には“素直になりたい”という、前向きな気持ちを歌で表わしています。なので、この曲を聴いてくれた方が少しでも、大切な人に対して素直になるってどうゆうことなんだろう?と、改めて考えるきっかけになってもらえたら嬉しいです」
(菅原) この発言からもわかるように、彼女の“歌”に対する解釈、そして、そこから引き出されるヴォーカリゼイションは(たとえばデビュー当初と比べて)明らかに向上している。豊かな声量、幅広い音域、一瞬で“切なさ”を響かせる声質といった素質だけではない。“聴いてくれる人に自分の歌をしっかり届けるには?”という、歌い手としてもっとも大切なテーマと常に向き合いながら、地道ともいえる努力を続ける姿勢もまた“シンガー・菅原紗由理”の武器であり、いまの彼女の充実ぶりを支えているのだと思う。
「彼女のすごさは説得力のあるヴォーカルですが、これにさらに磨きをかけてほしいと思いますし、パワーももっと付けてほしい。生まれ持った存在感をさらに増幅させて、ライヴ・パフォーマンスの中でも人の心に届く歌を歌えるようなシンガー、ミュージシャンになってほしいと思っています」(後藤氏)
「過去のFFのテーマ・ソングを歌っていただいた方々は、今や、みなさん日本の音楽シーンをリードする方々になられていますので、もちろん菅原さんもその一人のアーティストになってもらいたいです。その中で代表曲の話しになったときには、『FINAL FANTASY XIII』のテーマ・ソングである「君がいるから」と言ってもらえたら嬉しいですね」(今泉氏)
「無限大に広がりを見せるアーティストとして、常にパフォーマンスしていってほしいですね」(Sin)
と、これまで彼女と深く関わってきた3氏も、その将来性に大きな期待を寄せる。ジャンルの枠を超えながら、オーディエンスの心を捉え続ける普遍的な歌を生み出していってほしい――菅原紗由理に対しては、つい、そんな大きなことを求めてしまうのだ。
「幅広くいろんなジャンルの音楽を表現でき、自分の歌が何年経っても“あの時この場面で聴いた曲だ……”と、聴いてくれた人の心に残る曲を歌っていきたいですね。また、来てくれた皆が心から楽しめるライヴをたくさんできるようになりたいです。自分の内にある気持ちを歌に乗せて表現することで、自分自身もコントロールできている気がするんです。また、歌を歌うことで、人の心に伝えたいと思っているので、歌は私にとってかけがえのない存在。大切な存在です」(菅原)
文/森 朋之