砂原良徳   2011/04/14掲載
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 1991年夏にCMJK脱退後の電気グルーヴに加入したことで、多くのリスナーの知るところとなった砂原良徳シルヴェッティの「Spring Rain」をサンプリングし、グループ最大のヒット曲となった「Shangri-La」を含む97年のアルバム『A』を残し、99年に脱退した彼の個人活動は、後にDE DE MOUSEやCHERRY BOY FUNCTIONを世に送り出すレーベル、Transonic主宰の永田一直やDUB RESTAURANT主宰のムードマンらと親交を深めながら、電気グルーヴ在籍中から断続的に行なわれた。

 90年代は、過去の音楽カタログの本格的な発掘、再発が本格化し、過去の作品に表現の新しさを見出した時代であり、うち捨てられていたイージー・リスニングに内包されたモダニズムや未来志向、サイケデリック感覚をコンテンポラリーに解釈したモンド・ミュージックやラウンジ・ミュージックはその象徴であった。そんななか、アナログ・シンセを用いず、サンプリング主体で作られた砂原の95年作1stアルバム『CROSSOVER』テイ・トウワの94年作『Future Listening!』Gentle Peopleの96年作『Soundtrack For Living』と並ぶラウンジ・テクノ・アルバムだ。さらに98年には新宿に建設された架空の地下空港をテーマに制作されたシングル「TOKYO UNDERGROUND AIRPORT」をイントロとする2nd作『TAKE OFF AND LANDING』と1970年代を代表する航空会社パンナムへのオマージュが込められたミニ・アルバム『THE SOUND OF 70'S』を連続リリース。コンセプトやアートワーク、未来的なサウンドのデザイン性を徹底的に追求したこれら作品はドイツのラウンジ・ポップ・レーベル、Bunglawから海外リリースされ、ラウンジ・ミュージックの文脈において海外でも高く評価されている。

 その一方で、世界に類を見ない量の新旧レコードが飛び交い、音楽バブルに沸く当時の日本のカッティングエッジな音楽シーンにあっては、情報としての音楽を作品でどのように扱うかという実験も繰り広げられ、その過程では、英国のサンプリング&コラーズ・ユニット、ストック・ハウゼン&ウォークマンの96年作『Organ Transplants Vol.1』が日本でも局所的ヒットを記録。砂原もまたデザイナー/カメラマンの常磐響と組んだカットアップ&コラージュ・ユニット、Yoshinori Sunahara and Hibiki Tokiwa=MIDNIGHT BAWLERS名義の『Enjoy A Great New Taste』(もしくは『LIMITED EDITION NOT FOR SALE』)と呼ばれる1995年の非売品アルバムを完成させた。この作品はコーネリアスが1997年作『Fantasma』をレコーディングするにあたって、大きなヒントになったと言われているが、その後、コーネリアスこと小山田圭吾ほか、Buffalo Daughterのムーグ山本、EL-MALO柚木隆一郎二見裕志らとの交流は、砂原のアーティストとしての個性を研ぎ澄ませていった。

 そして、電気グルーヴ脱退後の99年、彼がプロデュースを手がけたACO「悦びに咲く花」が大ヒットを記録。音数をそぎ落としながら、トラックの艶やかさを磨き上げていった、その卓越したトラック・メイクは、さらにSUPERCARが放った2001年のヒット曲「Yumegiwa Last Boy」において、今度はバンド・サウンドとも融合し、彼のポップ・センス、その鋭い切れ味を証明してみせたが、2001年5月にリリースされた3rd作『LOVEBEAT』において、彼はそれ以前の音楽キャリアを総括。同年10月にリリースされたコーネリアス『POINT』と並び語られることが多いこのアルバムは、ミニマルな抽象性、そこから伸びていく想像力や覚醒感に、9.11同時多発テロに象徴される現代社会の病理に抗う意志が託された。そして、この作品リリースから10年。『LOVEBEAT』のその先を切り開くための気の遠くなるような試行錯誤を経て、2011年に誕生した4作目となる『liminal』を前にあなたは何を見、何を感じるだろう?潜在意識と顕在意識の狭間に現出する音空間は、砂原良徳が見出した新たなフロンティアである。
文/小野田雄
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