砂原良徳   2011/04/22掲載
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 2001年の傑作『LOVEBEAT』から10年の歳月を経て、ニュー・アルバム『liminal』においてエレクトロニック・ミュージックのフロンティアへと新たな一歩を踏み出した砂原良徳。音楽のルールやフォーマットを崩した先に活路を見出したこの作品のインタビューで、彼は今作っている音楽が言葉やヴィジュアル、映像に変換しにくくなってきていることを明らかにしている。では、この作品のアートワークを手がけた山本ムーグ氏、そして「subliminal」と「wavemotion」のミュージック・ビデオを制作した中野誠也氏は、何を思い、作業に臨んだのか。彼らのコメントから、ニュー・アルバム『liminal』を検証してみたい。


4月2日に行なわれた<SonarSound Tokyo>でのライヴ。
Photo:Yusuke Kitamura(aircord)
 「今回のアルバムは先行シングルの『subliminal』に近い雰囲気のものを想像していたのですが、さらに音が重く研ぎ澄まされたものに進化していることに驚きました。そして、音を聴かせてもらったのは東北の震災前だったのですが、後から思うと今回の震災や原発事故を予見しているような部分もあるような気がして少し怖くなりました。リアリズムを映したサウンドトラックが逆にリアルになってしまったというか」
(中野誠也)


 現在は、ミュージック・ビデオのほか、ライヴ時に使用する映像の制作を通じて、砂原良徳の音楽世界を補強している中野氏。自らメンテナンスを行なうほどのアナログ・シンセ・フリークだった彼は、共通の知人を介してシンセサイザーの修理に関する相談を受けたことをきっかけに砂原と知り合い、初のソロ・ライヴでありクラフトワークとの共演ということでも注目を集めた<Electraglide2002>で映像作家デビューを果たしたのだという。その共同作業を通じて生み出される映像は、戦争や環境問題、人口増大といった世界の諸問題を意識させるグラフィックやテキストが絶妙な間合いで挟まれるところに特筆すべきポイントのひとつがあるわけだが、そんな砂原のコンシャスな側面をよく知るからこそ、彼は作品と現実のリンクに対し、敏感に反応する。

 それに対して、90年代中期からCORNELIUSこと小山田圭吾やDJの二見裕志らとともに、公私に渡って親交を深めてきたデザイナーにして、バッファロー・ドーターやIKEBANAでの音楽活動でも知られる山本ムーグは、今回のアルバムの抽象性に感じるものがあったようだ。


 「シングル『subliminal』、アルバム『liminal』のタイトルから、“見えない力や理解できないけど、感じさせるもの”を連想したんですが、実際に作品を聴いてみたら、音楽を聴いた、というより、“体験”みたいなものを感じました。具体的なビジョンは見えませんでしたが、何かとてつもないものに出会ってしまった印象です」
(山本ムーグ)


 では、今回の新作からそんな印象を受けた彼らが、その音楽世界をヴィジュアルへとどのように変換していったのか。その作業は、音楽と分かちがたく結ばれていながらも、普段目にすることがない彼の別側面を浮き彫りにする。


 「砂原さんは趣味でも映像編集をやってたり膨大な映像のコレクターでもあるので、映像にはかなりこだわりがありますし、曲ごとに明確なビジュアルイメージを持っている場合が多いので、まず打ち合わせでイメージを伺いつつ具体化する方法を探っていきます。さらにいろいろ話しながらアイディアを膨らましていくという感じですかね。基本的には音と同様にリアリズムから来るものがテーマのベースになっていて、映像に対しても非常にストイックで余計な装飾は極力しない傾向が強いと思います。<subliminal>のPVに関しては、まず、すでにジャケットのラフがあってこの雰囲気のまま映像化したいというところからスタートしています。使う色やフォントをまずはじめに決めて、文字とシンプルな図形のみで構成するというルールを作りました。途中で出てくるスローガン的なテキストはすべて砂原さん自身が手がけています。そして、動きやシーンの構成等はそれらのイメージを発展させ、組み立てていきました。逆に<wavemotion>は私の方からの提案で音をストレートにビジュアライズして行く方向性で制作しました」
(中野誠也)


 ヴィジュアルに変換する難しさに直面しながらも、砂原自身が提示したアイディアを発端に、中野氏がそれを発展させていった映像に対して、本作のアートワークはどのような作業を通じて進められていったのか。


『liminal』
 「表一のデザインは砂原氏から提示されました。また、アートワークではなく、あくまでパッケージ・デザインを意識してほしい、という要望がありました。当初は表一のイメージに、付け足すことが自分の役割と認識しましたが、上がった音を聴いて、徹底的に引いてゆく寡黙なデザインを意識しました。

 『LOVEBEAT』はグリーンがシンボル・カラーでしたが、その後、色数が減って、最終的に、黒と白になりました。その分、黒の奥行き、を意識するようになりました。そして“CDというメディアは一体何だったんだろう?”とあらためて考えさせられました。だから、何十年後から振り返って、かつて、コンパクト・ディスクというメディアがあった。という視点からデザインに臨み、プラスティック・ケース/ディスク/4色印刷のブックレット、という、あくまでオーソドックスな仕様に徹しました。パッケージ自体は無彩色ですが、ディスクが光を反射すると、一瞬、虹色に輝きます。自分にとってCDのロマンティックな思いが、そこに集約されているように感じています」
(山本ムーグ)


 映像とアートワークから語られるニュー・アルバム『liminal』の大いなる謎。その担当クリエイターたちから投げかけられたヒントを前に今一度アルバムを聴き返すことで、砂原良徳の新たな試み、その端緒を掴むことができたら、これ幸いだ。
取材・文/小野田雄
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